真・恋姫†無双 裏√   作:桐生キラ

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反董卓連合編其三

 

 

 

 

 

 

「慌てずに、必要なものを持って避難してください!」

「押さないでください、走らないでください、静かに行動してください!」

洛陽に着いた私たちがまず目にしたものは、軍人による洛陽市民の避難誘導だった。辺りは混乱や不安、恐怖といった感情が渦巻いていた

「咲夜、君は月ちゃんの救出に行ってくれるかい?僕は詠ちゃんを探す」

「わかった」

「おっと、これを持って行け。使い方はわかるな?」

そういって渡されたのはヘッドセットのついた小型の通信機だ。こういう場面で、別行動の際には必ず渡される未来の便利からくり。これなら離れた所でも情報を交換できるという謎原理だ

「ああ、問題ない。じゃあ行くぞ」

「ああ、気を付けてね」

†††††

 

 

司馬懿サイド

私は零士と別れ、すぐに城に潜り込む。城内も慌ただしく、また警備もざるだった。潜入にはさほど苦労もしなかったな

「さて…入ったはいいが、これからどうするかな」

情報が少なすぎる。それにどいつが敵かもわからない。慎重に行動しなければ、見つかれば月の命も危ない

「チッ…とりあえず、その辺の奴ら捕まえて、聞き出すしかないか」

丁度いいところに、文官風の女が歩いてこちらにやってくる。まわりに人影はなし。あいつに聞いてみるか。

「フッ」

私は素早く相手の背後を取り、喉元にナイフあて、口を塞ぎ、そのまま物陰に連れ込む

「んー!!んー!!?」

「暴れるな。静かにしろ。妙な真似をしない限り、殺したりはしない。こちらの質問に答えてくれたら逃がしてやる」

女文官は暴れるのをやめ、大人しくなる。はぁ、仕方ないとは言え、女を怯えさすのは気が引けるな

「悪いな。まず、お前はどちらに与している?董卓か?張譲か?」

「ぷは!はぁ…はぁ…あ、あの、私、は、と、董卓様に、仕えています…」

「本当だな?」

私は喉元のナイフを少し当てる。それに女文官がびくってしたので、危うく刃が入ってしまうところだった

「ほ、本当です!あ、あの、覚えていませんか?司馬懿さん、ですよね?五年前、董卓様や賈詡さんと仲良くしていた」

「知っているのか」

そこで私はこの女文官を離してやる。女文官は数度せき込み、やがて落ちつきを取り戻す

「はい。私は李儒と申します。董卓様の下で、賈詡さんや、最近加入された陳宮さんと一緒に内政に携わってきました」

そこで思い出す。私は五年前、月の屋敷にいた頃、詠や他の文官と勉強していたことがあった。その時に確か李儒と名乗る子がいた

「う…すまない。手荒な真似をしてしまって」

もっとちゃんと見るべきだった。こんな可愛くて綺麗な子を怖がらせてしまうとは…

「い、いえ、それよりも、どうして此処へ?今の洛陽は大変危険な場所ですのに」

「ああ、月を助けに来た」

「え?」

私は今回の件について、私や零士が疑問を持ち、そして助けに来たことを説明した。李儒さんはそれを黙って聞き入れる。そして口を開いた

「はい。そちらの予想通り、今回の黒幕は張譲、段珪の仕業です。私たちは董卓様、劉協様を人質に獲られ、従わざるを得なかったのです…」

そういう李儒さんもまた、張済さんのように涙を流す。この人もまた悔しかったのだろう

「張譲と段珪はどこに?」

「段珪は王の間に。張譲は、この連合が組まれる少し前に姿を消しました」

「なるほど。ってことは、暴政云々のほら話を袁紹に吹き込んだのは張譲か」

段珪はすぐに殺しに行けるな。だがまずは月の安全確保だ

「李儒さん、月がどこに監禁されているかわかるか?」

「考えられる場所は二か所あります。一つはこの城の地下深くにある牢屋。もう一つは、ここから少し離れた別館の収容所です。どちらも警備が厳しかったので、確認はとれませんでしたが、いるとすればこの二か所のどちらかです」

「わかった!」

私は通信機を取り出し、零士に報告する

「零士、場所が判明した。二か所あるが…」

 

†††††

 

時は少し戻り   東零士サイド

 

咲夜と別れた後、僕はパニック状態にある街を見わたす。僕は張済さんと協力しつつ、詠ちゃんを探しはじめた

「高順!」

ほどなくして、張済さんがごつい男性に話しかける。僕も見覚えがあった。五年前、僕が訓練で倒した兵士の一人の高順さんだ

「張済!戻っていたか!こちらは見ての通り、避難活動中だ。お主の部隊にも手伝わせてくれ!…そちらの御仁は……あ、東殿!?どうしてこちらに?」

お!覚えていてくれたか。好都合だな

「久しぶりだね。再会を喜びたいところだが、そんな余裕はなさそうだ。高順さん、賈詡殿はどちらに?」

「賈詡殿ですか?賈詡殿なら、確か中央広場で部隊の指示にあたっていたはずですが。何か御用ですか?」

「ああ。君たちの主を助けに来た」

「なんと!貴方ほどの御仁が来てくだされば、百人、いや千人力ですな!そういうことであれば、ご案内します!張済!こちらを任しても良いだろうか?」

「任せろ!その方をしっかり案内しろ。俺たちの最後の希望かもしれん!」

「もちろんだ!さぁ、東殿!こちらへ」

希望か…そこまであの董卓が慕われているとは。歴史ってのはあてにならないものだな

人ごみを避け、僕は高順さんの誘導で広場にでる。そこには女の子が怒鳴りながら指示を渡している姿があった

「賈詡殿!少しよろしいか?」

「そっちの部隊!左翼がだいぶ混乱してるわ。早急に状況を鎮圧して!手荒に扱っちゃだめだからね!高順殿!なにしてんの!?民の誘導はまだ終わってないわよ!」

「は!承知していますが、どうしても会って頂きたい御仁がいまして」

「はぁ?誰よこのクソいっそがしい時に!」

「悪いね、詠ちゃん。だがこちらも急用だ。少し話せるかい?」

「あぁ?…な!あんた東じゃない?どうしてここに?」

「月ちゃんを助けに来た」

「!!咲夜はどうしたの?」

「あの子は先に城内に行かせたよ」

「そう。…高順殿!ここを任せてもいいかしら?」

「御意!…東殿、我らが主、董卓様を必ずお助けください!」

「ああ、任せてくれ」

「東、少し場所を移すわよ」

 

†††††

僕と詠ちゃんは人気のない民家に入る。そこには何もなく、慌てて貴重品だけを持ち去っていったあとがあった。

「はぁ、あんたと咲夜がいるってことは、今回の件についてはあらかた察しはついてるのでしょうね」

「ああ、暴政なんてなかったんだろ?」

「ええ。私たちは暴政どころか、税を減らし、治安改善に努めてきた。五年前あんたの言った通り、十常侍に気をつけていたはずだった。だけど…」

そう。僕は五年前、月ちゃんや詠ちゃんに会い、別れ際に忠告しておいた。今後、中央に呼び出されることがあったら、十常侍に気をつけろと。そして出来るだけ治政をさらに良いものにするようにと。だが結果は失敗に終わったようだ

「連中、最初からこの戦が望みだったのでしょうね。おかしいと思ったのよ!洛陽を住みやすい地にしてるって風潮が全然流れなかったのだもの。もっと早く気づいていれば」

やはり、この戦争は何かがおかしい。目的がはっきり見えてこない。月ちゃんを嵌めるにしても、最初からという事は恨みなんてないはずだ。理由がない。いったい…

「過ぎたことは仕方ない。連合は今どの辺にいるんだ?」

「今頃虎牢関よ。汜水関は半日で堕ちたわ。どうせあの馬華雄が暴走したんでしょうね」

な!?たった半日?思った以上に速いな

「連合の先陣は?」

「報告によれば、孫策、公孫賛、そして劉備ってとこの陣営らしいわ。劉備ってところは弱小だからって思ってたけど、甘く見てたわ」

公孫賛は会った事ないが、なるほど、雪蓮ちゃんが加担したのか。それにしても

 

「やるじゃないか一刀君…」

「え?…それより、月を助けに来てくれたのよね?正直、僕たちだけじゃ自由に動けなかったのよ。下手をすれば月の命が危ない。囚われている場所もまだ特定できてなくて………いや、二か所怪しいところがあるけど、なんとも言えないわ」

「その二か所って?」

「一つは、城の地下の牢屋。もう一つは城から少し離れた別館の収容所。どっちも警備が厳重だったわ。恐らくどっちかに月と劉協様がいるわ」

「わかった。じゃあ行くか。案内を頼めるかい?」

「任せて!」

「おっと、その前に、咲夜にも…」

ピピピッ

僕が通信機に手を伸ばそうとすると、通信が入る。

『零士、場所が判明した。二か所あるが』

「地下の牢と別館の収容所だね。さっき詠ちゃんに聞いた」

『話が早い。どっちに行く?』

「詠ちゃん、ここからだと、さっき言った二か所のどちらが先に着く?」

「え?別館の収容所だと思うけど…あんた何一人で喋ってるの?」

「ああ、この機械を使って、咲夜と話しているんだ。咲夜!僕らは別館の方へ行ってみる。そっちは地下に行ってくれるかい?」

『了解』

「はぁ~。いったいどういう原理よそれ」

「ふふ、細かい事は気にするもんじゃない。さぁ、僕らも行こうか。別館までの案内を頼む」

「わかったわ」

「おっと、そうだ。連合側で、月ちゃんや詠ちゃんの顔を知っているのは何人いる?」

「おそらく誰もいないわ。僕がひたむきに隠してきたから。月には、平和に静かに暮らして欲しかったから。こういう時の為に、月をすぐ逃がしてあげれるように、表舞台に立たないようにしてきたわ」

「そうか。それなら上手くいくかもしれないな」

僕は咲夜の策を思い出しながら、次なる一手を考え始めていた

 

 

 


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