真・恋姫†無双 裏√   作:桐生キラ

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日常編其二
月と詠と恋のいる風景


 

 

 

 

 

許昌 お食事処『晋』 お昼頃

 

 

 

「詠!五番の料理が出来た!」

「い、今行くわ!」

「悠里ちゃん、月ちゃん、これを六番と七番に!」

「了解でーす!」

「は、はい!」

「……すー…すー……」

月、詠、恋が来て一ヶ月が過ぎようとしていた。彼女達の加入後、彼女達目的に来る客も少なくなく、今まで以上に忙しくなった。店としては良い事なんだが、さすがに彼女達にはきつそうだ。

今だって…

「あれ?お水が人数分足りない?す、すいません!すぐご用意します!」

「しょ、少々お待ちくださいお客様。もうすぐお料理できますので」

「…んー…にゃぁ~…」

とまぁこんな風に、客の数を数え間違え焦る詠や、料理を急かされ謝る月など、てんてこ舞いな感じだ。恋に関しては店の入り口に設置したソファで呑気に眠っている。その恋の周りには、寝顔を見ようとする客で溢れかえっていた。そしてその客がさらに入店することで、店内の忙しさはさらに増す。まったく、素敵な仕組みだよ

ちなみにうちの番犬のセキトも、店の外に設置した犬小屋の中で寝ている。さすがにうちは飲食店だからな。清潔を保つ為にも外にいてもらっているんだが、番犬としての仕事はしてくれないようだ

「うがー!なんでこんなに忙しいのよ!」

詠があまりの忙しさにとうとう吠えたが、まぁこれも普段通りだ

†††††

 

昼の一番混む時間を乗り越え、店内はようやく静けさを取り戻す。この時間は主にお茶を飲みに来る客が来るだけで、大して忙しくはない。昼時とは打って変わって、ゆったりした時間が流れる

「ふぅ、やっと落ち着きましたねー」

「あぁ。月、詠、休憩入っていいぞ。って言うか大丈夫か?」

そう言って私は詠を見る。彼女は机に突っ伏して、脱力していた

「詠ちゃん大丈夫?」

「…大丈夫よー、少し休めば…月は大丈夫なの?」

「うん。大分慣れて来たし、この仕事も楽しいよ!」

詠より月の方が逞しかった

「釣銭確認終了っと。さて、月ちゃんと詠ちゃんは今から休憩かい?何か作るけど、食べたいものはあるかな?」

昼までの釣銭を確認し終えた零士は厨房に戻り、月と詠にまかないがいるかどうか聞いた

 

「うー、軽いもの」

「いつもすみません。私も軽いものでよろしいですか?」

二人とも、食べなきゃいけないとはわかっていても、疲れのせいか食欲はなさそうだった

「軽いものか……あーなら、サンドイッチにしようか」

「いいわね。具は任せるわ」

「私もそれでお願いします」

最近うちで出すようになった、女性間で人気のあるサンドイッチ。作るのに相当苦労したようだが、それ相応の味と売り上げを叩き出している。食べやすく、具も様々だ。丁度こういった時間帯に向いているな一品だな

「お待たせ。たまごサンドに野菜サンド、それと果物サンドだ。飲み物はコーヒーでいいかい?」

 

出されたサンドウィッチはとても美味しそうだった。いかん、腹減ってきたな

「お願いするわ」

「何から何まで、ありがとうございます」

月と詠は、零士からコーヒーを受け取ると食事を始める。すると外から恋が入ってきた

「………ご飯」

は?まだ食べるのか?恋はさっきからずっと客から飯をもらっていた。中には恋に料理を奢る者もいた。実はこれもまた、売り上げ上昇の理由の一つだったりする

「ふふ。もちろん恋ちゃんのもあるよ。恋ちゃんには特別にカツサンドも作ってある」

「♪」

そして恋もご機嫌になり、一緒に食べ始める。いつものように、頬をパンパンにして

「はぁ~…なんかもう、この瞬間だけで、一日の疲れとか吹き飛んじゃいそうです」

 

悠里がホクホクした表情で言った。それには全面同意だな

「まったくだな。恋には人を癒すなにかを発しているとしか思えない」

私と悠里が、三人の食べる姿を見て癒されていると、他のお客さんもそれを見て和んでいた。さすが恋だ。こんな場でも、飛将軍の名は伊達じゃないということだ

「ご馳走さま。それにしても、ホント美味しいわよね。見た事ない料理ばっかりだけど」

食事を終えた詠が、一息ついてそう呟いた。ちなみに月と恋はまだ食べている。月も体のわりによく食べるから驚きだ

「そう言ってくれると嬉しいよ。僕が出す料理は、基本的に僕の居た国の料理ばかりだからね。なんなら作り方を教えようか?」

「え?教えてくれるんですか?」

先に食いついたのは月だった

「もちろんだよ。もう少し仕事に慣れて、余裕が出来たら教えるよ」

「ありがとうございます!」

「詠ちゃんはどうする?」

 

零士が詠に聞く。当の詠本人は、少し迷っているようだった

「うーん…難しくないかしら?」

「そうだねー、このサンドイッチにしてもそうなんだけど、作るのは大して難しくないんだ。ただ材料を揃えるのが大変なだけで。料理に慣れていたらあっという間だよ」

「うっ、ならまずは、料理の基礎から教えてくれると嬉しいわ」

「ふふ。わかった」

月も詠も、案外乗り気だった。確かに飯を作れるようになると、動ける幅も増えるし、作る側の負担も減る。こちらとしても、喜ばしい事だ

†††††

 

 

それぞれが休憩を取り、時刻は夜。昼ほどではないが、この時間帯もそこそこ忙しい。開店当初は、もともとこの時間帯で営業していた。零士が、仕事終わりにふらっと立ち寄って、美味い飯と酒を喰らい、明日への活力にして欲しいという狙いのもとで立ち上げた。だが、今ならわかる。それは昼営業したくなかっただけの、単なる言い訳だと。正直二人じゃ絶対回らないからな

「ふふん!昼を乗り越えた僕に、この程度の忙しさ笑止!余裕だわ」

「ふふ、詠ちゃん元気だね」

詠は疲れてるのか?微妙にテンションがおかしな事になってるぞ

そう言えばここ最近、夜だと言うのに迷惑な客が減ってきた。減ってきただけで、いなくなったわけではないが、それでも頻度はかなり減った。というのも…

「おいこら!酒はまだか!」

「こ、困りますお客様…」

 

こういった迷惑な客が月などに絡む、すると…

「なんだお前!逆らう気オフッ!」

 

赤毛の女の子が、客の腹を思い切り殴り、外に連れ出して路地裏に捨ててきます

「…他の、お客様の、迷惑」

このように、恋の制裁が入る。その容赦のない制裁が、噂となって広がり、今では悪党の中で危険地帯認定にされたという話を聞いた。傷害罪になるんじゃないかって?営業妨害による正当防衛ですのでお咎めなしです。それに…

「ずっと気になっていたんだが、あれは呂布だよな?何故ここに?」

 

うちの常連には秋蘭という偉い人がいて、認知されている上で何も言われていないので大丈夫です。そんな秋蘭は、肉じゃがを頬張りつつ、恋の働きを眺めていた

「いろいろあってな。今じゃ家族の一員だ」

「そ、そうか。最強の武人が用心棒とは、いよいよもってこの店は手がつけられなくなるな」

「だが、一般の客からしたら、夜だっていうのに、最高の安心感を抱いて飯が食えるんだ。悪い話じゃないだろ?」

「まぁ、そう言われたらそうなんだが」

そう言う秋蘭の顔は何とも言えないと言った表情だった。言いたい事はわかる。最強の武と、それと正体はばれていないが賈詡の智謀がある。それを世の為に使わずに、この店で使っているんだ。秋蘭からしたら、微妙な気分にはなるだろうな

†††††

 

 

 

やがて客も帰って行き、今日の営業も無事に終える。月と詠と悠里は風呂へ、私と零士と恋は店で茶を飲んでいた

「あがりましたー」

「ふぅ、いいお湯だったわ。正直これがないと、明日まで疲れを引っ張るわね」

「いやぁ、あたしは月ちゃんと詠ちゃんの裸でゲフンゲフン」

悠里は風呂以外でも活力を得ていたようだった

「さて、今日は親愛なる君たちに渡す物があるんだ」

そう言って零士は四人分の封筒を持ってくる。そうか、今日はあの日か

「はい。これが悠里ちゃんの分。悠里ちゃんには犬猫の飼育費もあるから、少し多めにいれておいたよ」

「ありがとうございまーす!」

「そしてこれが、月ちゃんと詠ちゃんと恋ちゃんの分だ。大事に使ってくれ」

そういって零士は月と詠と恋に金の入った封筒を渡す。月と詠は少し戸惑っているようだった

 

「これ、もしかして給料?え?でもいいの?僕たちはここに住ませてもらってるのに…」

「そうです。さすがにちょっと、お世話になりすぎています…」

月と詠は渡された封筒を零士に返そうとする。だが、零士はそれを拒否するかのように手で抑えた

 

「労働に対する対価を支払うのは、上の責務さ。それに、君たちだって欲しい物の一つや二つあるだろ」

「……ありがとう」

「うん。恋ちゃんは素直でよろしい!さぁ、君たちも」

素直な恋を見て、月と詠は目を合わせ、やがて観念したかのように頷いた

 

「うぅ、なら有難く受け取るわ」

「本当にありがとうございます!」

「もうすぐ定休日だし、それで遊んで来るといいよ」

「えへへー。詠ちゃんどこ行こうか」

 

月は給料をもらったことが嬉しかったのか、少しだけ目を輝かせているように見えた

「そうね……って!貰い過ぎよ!なんで官で働いてた頃と同じくらいあるのよ!」

詠は封筒の中を確認して大声をあげる。あぁー、やっぱり多いんだ

「ほらぁ、やっぱり多いんですよ。あたしも最初貰った頃おかしいと思ったんですよ。ここの給料で、孤児院の維持費の半分以上まかなえるんですもん」

 

そういえば、悠里の初給料の時も、今の詠と同じような反応をしてくれたな

「あんた、こんなに渡して大丈夫なの?」

「うーん…うちって基本的に材料費くらいしかお金使わないからね。それに君たちが来てからさらに売り上げも伸びたからね。いろいろ差し引いてそれだけ渡しても、まだ少し余るんだよ」

 

私も零士も、たいして金を使う方じゃないからな

「さ、さすがにそれでも、貰い過ぎな気が…」

「いいんだよ。素直に受け取っとけ。遠慮は無しだ」

若干引き気味な月に、私は強引に金を受け取っとけと言い放った。それでも二人の顔はやはりすぐれていなかった

 

「ねぇ月。僕たちって、もしかしてとんでもないところで働いてるんじゃ…」

「へぅ、詠ちゃん、頑張ろうね」

「月、詠、頑張る」

今回のこの初給料で、月と詠は改めて頑張ろうと誓い合っていた。私としては、そんなに気にしなくてもいいと思うんだけどな

 




月ちゃんと詠ちゃんがメイド服で接客してくれます。恋ちゃんはマスコットです

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