真・恋姫†無双 裏√   作:桐生キラ

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零士さん視点です。某ドラマCDのパロディになります


激辛がめぐり合わせた出会い

 

 

 

 

 

今日は定休日。ということで、やることがない。咲ちゃんは月ちゃんと詠ちゃんと一緒にどこかへ。悠里ちゃんは恋ちゃんと一緒に犬猫の世話をしにいった

この世界に来て五年以上が経つ。最初こそ、物珍しいもので溢れていたが、慣れてしまえばなんてことない。ありふれた日常になる。特に娯楽が少ないので、休みになると何もする事がない

「仕方ない、散歩にでもいくか」

休日はこうして外に歩きに行く事が多い。外を歩くと、たまに思わぬ掘り出し物があったりするが…

「んー、香辛料の香りがするなぁ」

今回はなんとなく、飯店が多くある通りを歩いていた。昼時だし、かなり賑わっている。だいたい毎日、自分で作って食べることが多いが、たまにこうして他所で食べる事もある。そうすることで、料理に関する思わぬヒントを得る事があるからだ。決して、自分で用意するのが面倒だった、なんて訳じゃないからな?

 

 

 

†††††

 

 

「んん?こんなところに、飲食店なんてあったか?」

なになに?『泰山』?確かこの大陸のどこかにある地名だったよな?新しくできたのかな

「うん!新しい店を開拓するのも、悪くないかもしれないな」

そして僕は入店する。中はこじんまりとしているも、どこか温かみのある雰囲気。カウンター席をメインに、大人数用と思われるテーブル席が三つ。昼時ではあるものの、客は少ない。頼めばすぐ出てきそうだな

「らっしゃい!好きな席へどうぞ!」

店員に促されるまま、僕はカウンター席に座る。さて、何が美味しいのかな

「はい嬢ちゃん!麻婆豆腐お待ち!」

「ありがとうございます。いただきます…はふはふ、んく。もくもく」

すぐ近くに座っていた銀髪の少女が、一心不乱に麻婆豆腐をかき込んでいた。なるほど麻婆豆腐か。それもいいかもしれないな

「すいません。麻婆豆腐を一つ」

「あいよ!」

僕も麻婆豆腐を注文した。ふぅ、それにしても、凄い香辛料の匂いだな。もしかして、結構辛いんじゃないか?でも、あの銀髪の子は汗一つ流してる様には見えないし…

「店主!おかわりをお願いします」

「あいよ!」

おぉ!あの銀髪の子、麻婆豆腐をおかわりか。そんなに美味いのか。楽しみだな

「お待たせ!麻婆豆腐一つね」

お、きたきた。うん!いい匂いだ。思わず生唾を飲んでしまうな。どれ、じゃあさっそく

「ありがとう。いただきます。…はむ……ンッ!」

辛っ!うぅわっ辛っ!かっらー!なんだ、なんだよ、なんなんだこれ。想像以上に辛い!ウッ!…口にする度、手が震えて、汗が止まらない。なんて辛さだ。だが…

「はふはふ、はむっ」

辛い!だがイケる!この、脳を焼くような刺激が堪らなくいい!食べる手が止まらない!なんかこう、辛いものを食べられるって、大人って感じがしていいな!それにしても、あの銀髪の子、こんなに辛いのによく汗一つかかないで食べられるな

「店主!おかわりをお願いします」

さ、三皿目だと?凄いペースだ。しかしあの子、大丈夫なのか?だが、確かに僕も、もう一皿欲しくなってきたな

「店主、僕も麻婆豆腐のおかわりを頼む」

一皿目をさらえ、水を飲み一息つく。すると銀髪の子がこちらに近づいてきた。よく見るとこの子、相当鍛えているのがわかる。軍人かな?

「あの、辛いもの、お好きなんですか?」

銀髪ちゃんはキラッキラした瞳で僕を見つめて聞いてきた

 

「そうだね。僕はこれでも料理人だし、なんでも好んで食べる方かな。そういう君は、相当辛いもの好きだね」

「はい!最近許昌に来て、料理店を食べ歩いていたんですが、ここは当たりですね。ここ以上に辛さを追求した店はありません」

 

確かに、ここ許昌でここ以上に辛い店はないな。それをここ最近で調べまわるなんて…この子見た目に寄らず意外とグルメなのかもしれないな

「へへっ。うちはそういう店よ!なんでもかんでも辛いぜ!それでも嬢ちゃんには驚いたがな。なんたって、嬢ちゃん用に作った、通常の三倍の辛さの麻婆豆腐をぺろっと平らげちまうんだからよ!」

なん…だと…?あれの三倍?通常の辛さでこれなのに、これが三倍になると一体どうなるんだ

「お待ち!嬢ちゃんはこっち、兄ちゃんはこっちだ」

店主はおかわりの麻婆豆腐を二つ出す。だがその二つは、明らかに違った。主に色が。通常のものはかなり赤に近いオレンジといった色だが、三倍は、そう、正に真紅だ。鮮やかな赤だ。もはや芸術と言える域だろう

「もぐもぐもぐ…」

銀髪ちゃんは再び一心不乱に食べ始める。僕も麻婆豆腐を口にし始めるが、意識は銀髪ちゃんの麻婆豆腐に集中していた。気になる。こっちはこっちで十分辛いのに、そっちは一体どれだけ辛いのか。そんな僕の様子に気づいたのか、銀髪ちゃんは食べるのを止める

「あの、食べてみますか?」

「いいのかい?」

「はい。どうぞ」

そう言って銀髪ちゃんは、蓮華ですくった麻婆豆腐をこちらに差し出した。僕はそれを口に近づけ、やがて一口…

「あーんっ………ンッ!」

その瞬間、僕の中で何かが弾けた。それはまるで、対物ライフルで撃ち抜かれたかのような衝撃。もはや、辛さを超越している。辛いのか、美味いのか、痛いのか、なんだかよくわからなかった………ハッ!!危なかった。危うく意識を手放すところだった。気づけば、銀髪ちゃんはこちらの様子を心配そうに伺っているのが見えた

「あの、大丈夫ですか?」

「あ、あぁ。大丈夫だ。しかし、なんというか、凄まじいね」

 

店主はよくここまで辛いものを用意できたな。それを食べる銀髪ちゃんも相当なものだが

「さすがの兄ちゃんも、三倍はきつかったと見える」

店主の言うとおりだ。僕には恐らく、通常の辛さが限度だろう

†††††

 

やがてお互い麻婆豆腐を完食する。ふぅ、久々に有意義な食事だった気がするな。しかし、辛さを追求するか。うちにはない料理だな。今度僕も、何か辛い料理を作ってみようかな

「店主、お勘定だ。ごちそうさま」

「おう!また来てくれよ!」

 

僕は店主に勘定を渡す。結構値段も安めだな。また必ず来よう

「あぁ。銀髪ちゃんも、今度はうちにも来てくれ」

「ぎ、銀髪ちゃんですか?そう言えば名乗っていませんでしたね。私の名は楽『食い逃げだー!誰か捕まえてくれ!』…!!」

銀髪ちゃんが名乗ろうとした瞬間、外で大声した。食い逃げか。どれ、食後の運動だ。ちょっくら懲らしめてやるか

「店主!勘定置いときます!」

銀髪ちゃんはお金を置いて、凄い速さで店を出て行った。僕もその後をついて行くように店を出た

「ヒャッハー、捕まるかよ!」

食い逃げは思ったよりすばしこく、また身軽に動いていた。人と人との間をするする通り抜けたり、民家の屋根に登ったりと、結構やっかいな感じだった

「クソ!逃がさないぞ!」

銀髪ちゃんは走りながら拳に氣を溜めていた。へぇ、氣を扱えるのか。まぁ、この世界じゃ珍しくはないか

「はぁぁ…」

って、え?溜め過ぎだろ。そんなんじゃあ民家が吹き飛ぶぞ。それにあの方角には、『晋』もある。さすがに止めないとまずい

「ちょ、ちょっと待つんだ!それじゃあ一般人にも被害が出るぞ」

「な!あなたは先ほどの…何故止めるんですか!」

 

僕が彼女の腕をつかむと、彼女はこちらに対しても敵意を向けてきた

「君のやり方じゃ、食い逃げ犯がケチった金額より、被害額の方が高くなる」

「クッ、離してください!逃げられてしまいます!」

真面目なのはいいが、加減を知らないのだろう。この子に任せるのは少し怖いな

 

「あぁ。少し待っているといい。捕まえてきてあげるよ」

「え?」

そう言って僕は民家の屋根に飛び移った。食い逃げ犯はおよそ百メートルといったところだな。魔術は…やめておこう。一般人が多すぎる

「まぁ、関係ない、なっ!」

僕は一気に飛び、食い逃げ犯に肉薄する

「な、なんだおまグヘッ!」

接近した勢いのまま、ラリアットを敵の背中に命中させた。すると、食い逃げの背骨がメシメシっと折れたような音が鳴り、食い逃げ犯は縦に何回転して屋根から地上へ落下していった。……しまったな。強くやり過ぎてしまった。食い逃げ犯は白目を向いている。まぁいいや

「はぁはぁ、大丈夫ですか?」

 

僕が地上に降り、白目をむいている食い逃げ犯の首根っこを掴んだところで、銀髪ちゃんが走ってやってきた

「お疲れ様。見ての通り、捕まえておいたよ」

そう言って僕は食い逃げ犯を差し出す。食い逃げ犯はそのまま、兵士に連れて行かれた

「ご協力、感謝します。改めて、私は楽進。曹操様の下で、警邏隊の隊長を務めさせてもらっている者です」

銀髪ちゃん改め、楽進ちゃんがピシッと敬礼して挨拶する。なるほど、この子が楽進か。確か魏軍でも、かなりの勇将だったっていうイメージがあるな

「よろしくね楽進ちゃん。僕は東零士。『晋』という飲食店の料理人だ」

「東零士…『晋』…!!あなたがあの東零士さんですか?お話は伺っています。あの華琳様や秋蘭様が絶賛した料理人がいると」

へぇ、秋蘭ちゃんはともかく、あの華琳ちゃんが僕をねぇ。あの子、男には興味無さそうだったのに

「それは光栄な事だ。君も今度来るといいよ。と言っても『泰山』さんみたいな激辛料理は置いてないけどね」

「ぜひお邪魔させていただきます。それにしても、鮮やかな手並みでした。武術の心得が?」

 

やべっ、変なとこに食いついた…

「…こんなご時世だ。自分の身を守れるくらいの力はあった方がいいだろ?」

 

とりあえず、自然な理由を言ってみる。あながち間違ってないから嘘ではない

「確かにそうですね。あの、もしよろしければ、一度手合わせをお願いしてもよろしいでしょうか?」

しまったなぁ、やはりこの手のタイプか。強い力に興味があり、試してみたい。多くの武将がこれに該当するが、あまり派手にやるのはよくないな

「手合わせか…構わないけど、仕事はいいのかい?」

「うっ、そうでした。ではまた後日、お願いしてもよろしいでしょうか?」

「あぁ。構わないよ」

「ありがとうございます!それでは私はこれで」

僕は彼女を見届け、その場を後にした

 

参ったな、手合わせか。正直武将級の人間とはあまりやりたくないけど、あんな目をらんらんと輝かせていたら、断れないよなぁ。仕方ない。しばらくは、咲ちゃんの早朝訓練に付き合おうかな

 

 

 


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