真・恋姫†無双 裏√   作:桐生キラ

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戦闘描写に擬音が多いという指摘を受けたので、少し頑張ってみましたが、まだ少し描写不足かもしれません。文才のなさを痛感しました…


対決!魏軍!

 

 

 

 

 

今日は定休日。日頃の疲れを癒す為にも今日くらいはゆっくり昼寝だ。

なんて考えていたのに…

「なんで私まで…」

「あはは。まぁたまには、違う人と訓練するのも悪くないんじゃないかな」

「そーですよ!あたしもちょっと興味ありますし」

なんでも今日、楽進と言う奴が訓練に付き合って欲しいとの事らしい。どうりでここ最近、零士が早朝訓練に付き合ってくれたわけだ

もともと零士に依頼されていた話なのに、悠里がその話を聞き面白がり参加するといい、珍しく恋がその話に興味を持ちついて来て、月と詠は恋が行くからという理由で同行。残された私は一人ぬくぬくセキトでも抱いて寝ようと思っていたのに強制連行

「お弁当を用意しましたので、お昼になりましたら皆さんで食べましょう」

 

月は今日早起きして私たちに昼食を作ってくれていたようだ。正直、それくらいしか楽しみがない

「月の手作りよ。感謝して食べなさい!」

「ふふ。詠ちゃんも手伝ってくれたんです」

「ゆ、月!そういうのは言わなくていいの!」

相変わらず詠はツンデレだな

 

「あはは。まるでピクニックみたいだ」

「ぴくにっく?」

 

零士の発言に、悠里が疑問を口にした。ぴくにっく…私も初めて聞いたな

「うん。こうやってお弁当持って、皆で外に出かける事、でいいのかな。ちょうど今から行くところには、川とかもあるみたいだし」

「おー!ピクニックですね!」

今から訓練だというのに、なんともお気楽なものだ。絶対遊び気分だろ

「はぁ…セキトはいいな」

私はセキトに話しかける。セキトは「わぅ?」と言った感じで小首をかしげた。なんだ働かない番犬、可愛いじゃないか

 

 

†††††

 

 

 

「あ!東さん!こちらです」

森に入り、少し進んだ先に銀髪の子がいた。この子が楽進だな

「待たせたね。今日は皆も連れてきたから、君にとってもいい刺激になると思うよ」

まぁ、私は来るつもりなかったけどな

「皆さんもわざわざありがとうございます。私が今回依頼した楽進です。本日はよろしくお願いします。この先に開けた場所があるので、そこまで移動しましょう」

私たちは楽進の誘導でさらに奥へ進んでいく。その間私は楽進を観察していた。かなり鍛えられているのがわかる。またこの子は武器を携帯していないところを見ると、無手の使い手だろうと推測。今までに会った事のない手の者だな

「着きました。ここです」

やがて私たちは目的地に到着する。するとそこには、見慣れた人物が数人いた

「なんでお前達までいるんだよ。華琳、秋蘭、霞」

「あら?私が部下の訓練を見に来ちゃいけないのかしら?」

「ふむ、凪から話を聞いてな。私も混ぜてもらおうと思ったのだよ」

「咲夜とヤりたくて!」

おい霞。なにかお前だけ、邪な気配がしたぞ

「やぁ華琳ちゃん。今日はよろしくね。後ろの方達も、一緒に訓練を受けるって事でいいんだね?」

 

零士が華琳に挨拶すると、片目を蝶の眼帯で隠している黒髪の女性が零士の前に立ち、大剣を構えた

「おい貴様!男の分際で神聖な華琳様の真名を呼ぶとは何事だ!叩き切るぞ!」

って、聞いてるそばから零士に向かって思いっきり切りにいってるぞ。あれが噂の夏侯惇か

「はぁ…やめなさい春蘭。これはいいのよ。私が認めてる男の一人だから」

 

「か、華琳さまぁ~」

 

華琳が呆れた様子で夏候惇を止めると、夏候惇はしょんぼりした表情で華琳を見つめた

「部下が失礼をしたわ。この子が夏侯惇。これでも一応、うちの最強って事になってるの」

若干ため息混じりに説明する。対して夏侯惇はどこか誇らしげだった

「私が華琳様の第一の!臣下にして魏武の大剣、夏侯元譲だ!」

ずいぶん第一ってのを強調したな。………あぁなるほど。あいつ華琳を溺愛しているな。だから急に切りかかったのか

「そしてこの子達が私の親衛隊で許褚と典韋よ」

 

そう言って華琳が紹介したのは、二人の小さな少女だった

「許褚でーす。今日はよろしくね」

「典韋です。今日はお弁当も作って来たので、後で食べてください!」

あのちびっ子、許褚と典韋が親衛隊?見た目では想像できないな

「さて、まずは実力を見たい。組分けはどうしようか。僕は楽進ちゃんに頼まれて来たし、楽進ちゃんと組もうと思ってるけど…」

各々軽く自己紹介を済ませ、本題に入っていく。そう。私たちは今日訓練に来たのだ。忘れてはいけない。………忘れたかったな

「はいはーい!うち咲夜とヤりたい!」

霞が元気よく名乗り挙げた。霞か。五年前は勝てなかったが、今はどうだろう。少し興味あるな

「いいぜ。相手になってやる」

「ふむふむ、じゃああたしはお子様の相手をしようか」

そう言って悠里は許褚と典韋を見る。それに対し許褚は牙を向いた

「カチーン。ちょっと身長とおっぱいがあるからって、舐めて掛かると痛い目見るよ!」

「ふふん、そういうのはお姉さんに勝ってから言いなさい!」

「ムカッ!流琉!一緒にあのお姉さんをぶっ潰すよ!」

「ちょっと、季衣落ち着いて」

 

悠里の煽りに、怒りをあらわにする許褚と、それを頑張ってなだめようとする典韋の光景が、少しだけほほえましく見えた

「ふむ。私も咲夜と訓練したかったが、仕方ない。恋よ、相手をしてくれるか?」

「…ん」

 

秋蘭は恋とやるらしい。が、そこへおろおろしている女性が一人いた

「しゅ、しゅうらぁん。私は?私は誰とやればいい?」

一人残された夏侯惇が涙目になって秋蘭に駆け寄る。一瞬、秋蘭の表情が恍惚となっていたように見えたのは、私の気のせいであって欲しい

「うぅむ…どうしたものか」

「二人で来たらいい」

秋蘭が悩んでいると、珍しく恋から提案する。大丈夫か?いくら恋でも、二人がかりはキツくないか

「うむぅ…流石に二体一というのは」

これには流石の夏候惇も気が引けるらしい

 

「あぁ、私は待てるから、姉者の後でも良いのだぞ?」

「大丈夫」

だが、恋はそんな心配すら気にしてないかのような、余裕の表情だった

 

「じゃあ楽進ちゃん。予定通り、僕が相手を務めさせて貰うよ」

「はい!よろしくお願いします!」

組分けは決まった。零士と楽進。悠里と許褚・典韋。恋と夏侯姉妹。そして私は霞とだ。やるからには勝ちたいな

†††††

「さて、全力で来るといい」

「はい!」

まずは零士対楽進からだった。今日の主役は楽進だからな。まずは彼女からとの事だ。もはや訓練というより、試合だな

「ハァァーッ!」

先に仕掛けたのは楽進だった。彼女は零士に向かって直進し、一気に間合いを詰める。走った勢いを使い初手は飛び蹴りを繰り出した

「よっと」

零士はそれを難なく避ける。しかし…

「タァッ!」

そこから間髪入れず、無数の拳と蹴りの嵐を零士に浴びせる。なかなか速いな

「へぇ」

零士はこれを避け、時に防御しながら捌いていく。一撃一撃を全て見極め、分析しているようだった

「速い、けどそれだけだ、ねっ!」

零士は楽進の猛攻を打ち破るように、正拳突きを繰り出す。楽進は咄嗟に両腕で防御するも、衝撃から後ろに大きく吹き飛ばされた

「クッ、防御の上から…重い…」

「それで終わりかい?」

「まだまだ!」

その後も激しい攻防が繰り広げられた。楽進の鋭い体術の技に、零士は防戦を余儀なくされる。一見、楽進が押しているかのように見えるこの戦況。だが、先に息のあがり始めた楽進とは対象的に、零士の表情は余裕といった様子だった。現に、楽進の攻撃は一つも決定打にならない

「はぁはぁ…ハァァー!」

まともに攻撃の通らない楽進の表情には焦りの色が見え始める。すると楽進は一度距離を取り、息を整えたと思ったら、今度は足に氣を集中させていった。へぇ、氣を扱えたのか

「猛虎蹴撃!!」

楽進は巨大な氣の弾を零士に向けて撃った。かなりの速度で放たれた氣弾は、吸い寄せられるかのように零士に直撃した

そして、直撃するとドカンと大きな爆発が起き、周囲にも軽い衝撃波が来る。大した威力じゃないか。だがな…

「はぁはぁ…クッ!」

あいつはあの程度じゃやられない。砂煙で確認はとれないが、どうやら楽進も零士がまだ立っている事を悟ったようだ

「ふふ」

瞬間、一気に砂煙が晴れる。零士が吹き飛ばしたのだろう。その零士は、汚れてはいるものの、余裕といった表情だった

「チッ!」

楽進はもう一度氣を溜め始める。しかし、流石に二回目は無さそうだ。零士は一気に距離を詰め…

「フッ!」

楽進の腕を掴み、そして投げる。私もチンピラ相手によく使う、合気と呼ばれる関節技だ。投げた後も腕は離さず、そのまま楽進の背中に馬乗りになり、組み伏した。決まりだな

「ガハッ!」

「勝負有り、だね」

場は静まり返る。唯一、霞だけは「やっぱなぁ」などと呟いていた。それ以外は信じられないと言った表情だ

「あの男が強いのは知っていたけれど、あの凪を容易く制圧するなんて」

周りにいる誰もが抱いている感想を、華琳が代表するかのように呟いた

 

「あぁ、楽進は強い。だが、初見で零士とやる奴は、大抵あんな感じだ。なぁ、霞?」

 

私は霞に同意を求める。霞は腕を組み、思い出すかのように空を見上げた

「五年前、うちと咲夜を含めた董卓軍の武将、全員ボコボコにするような奴やでなぁ」

その話を聞いた華琳は苦笑いだった。見れば詠も苦笑いだ。きっと五年前の事を思い出したのだろう

「全体的な評価としてはまずまずだ。速さに関しては及第点だが、重さが足りない。僕の一撃はどうだった?」

零士が組手の感想を楽進に伝え始めた

 

「骨が折れるかと思いました…」

「だろう?今後は一撃一撃を常に必殺のものと意識するんだ。もう一つ、君は氣を扱えるのに、それを身体強化に回していないのか?」

「氣を身体強化に?可能なのですか?」

「あぁ。そうか知らなかったのか。なら頷けるな。これからは氣を身体強化に回せる訓練をしよう。それだけで戦略の幅は広がるからね」

「はい!お願いします!」

「最後に、あの氣弾の威力は見事だった。正直、あれを初見で防げたのは運が良かった。いいセンスだ」

「いい、せんす?」

「あぁ。僕のいた国で、兵士に送られる最高の褒め言葉と思っていい」

「あ、ありがとうございます!あの、今後は凪とお呼び下さい!」

「あぁ。よろしく凪ちゃん」

そして零士と楽進は固い握手を交わした。なんとなく、楽進の零士に向ける視線が熱っぽいものに見えた

†††††

 

「次はあたしです!かかって来いちびっ子ちゃん!」

「ムカーッ!行くよ流琉!」

「ちょっと季衣、あんな見え透いた挑発に乗らないでよ」

二戦目は悠里対許褚・典韋だ。悠里が鉄棍に対し、許褚と典韋はどこから出したんだと言うような巨大な武器を手にしていた

「うわぁ、それどこから出したの?」

「へへ、気をつけてねー。じゃないと文字通りぺちゃんこだよ」

「では、よろしくお願いします」

少し興奮気味な許賴に対し、典韋は冷静に悠里を観察していた。なるほど、あの典韋って子が抑え役なのだろう

「行くよー!どーりゃー!」

先に仕掛けたのは許褚だった。巨大な鉄球を振り回し、それを悠里に振り落とす。ドシンと腹に響く大きな地鳴りをたてた許褚の攻撃だったが、悠里には当たらなかった。直前で、紙一重で避けたようだ

「うっへぇ、流石にあれには当たりたくないなぁ」

「心配しなくても、次はちゃんと当てるよッ!」

許褚は立て続けに二撃、三撃と繰り出していく。それも悠里はひらりひらりと避け続けていった

「私もいますよ!」

次の瞬間、悠里が許褚の攻撃を避けた先に典韋の攻撃が迫っていた。流石の悠里も驚くも、これを冷静に対処。鉄棍を使って大きく飛び距離をとった。なかなかの連携だな

「い、今のは危なかった…よく避けれたなあたし」

 

悠里は典韋の攻撃で地面にできた大きな穴を見て、冷や汗を流しながら呟いていた。あれ、当たったら痛いじゃすまないよな?

「むしろ、今の当たらなかったのが、結構悔しいですよ」

意外と典韋も、好戦的な性格なのかもしれない。武器を手元に戻して、悠里をまっすぐ見つめていた。その目には、しっかり闘志が宿っている

 

「ふふん。さぁて、いっちょあたしも攻めてみますか!」

悠里はトントンと軽く飛び、直後にそこから高速で移動する。悠里の速さに慣れていない人には、目で追う事が辛い程の速さ。その予想以上だっただろう速さに、許褚と典韋は驚愕をあらわにした

「とった!」

悠里は許褚の背後を取り、鉄棍を振りかぶる。許褚はそれをなんとか反応するも、無理な体勢で防御したため、上手く受け身がとれなかったようだ

「ウッ!」

「季衣!ハァッ!」

典韋は咄嗟に許褚の援護をしようと武器を投げつけるも、それは空を切った

「え?」

先ほどまで目の前に居た悠里が、一瞬で移動し、典韋の背後を取った

「あまーい!」

鉄棍は完璧に典韋を捉え、悠里は典韋を綺麗に振り抜いた

「アウッ」

典韋はそのまま吹き飛ばされ、武器を手放した

「よくも流琉を!」

許褚は既に起き上がっており、悠里に直進していく。それに気づいた悠里は再び高速で移動し、許褚に近づいた

「二度も同じ手はもらわないよ!」

許褚は先ほどの攻撃と同じように、後ろから来ると判断したのだろう。悠里が移動すると同時に振り向き背後を見た

「残念、こっちが正解です!」

だが実際は許褚が振り向いた先の背後、つまりはあのまま直進していたら正面に立つように位置づいていた。そのまま悠里は許褚の背後を振り抜く

「アガッ」

その衝撃から、許褚も武器を手放し、吹き飛んだ

「そこまで!悠里ちゃんの勝ちだ」

そして、零士が割って入り、終了の合図を告げた

「いえーい!大勝利ー!」

悠里は結果に満足して飛び跳ねる。対して許褚と典韋は納得いっていないという表情だった

「ぼ、ぼくはまだやれるよ!まだまだこれからなのに、なんで止めるのさ!」

「そうです!納得いきません!」

「ここが仮に戦場だったとして、今の君たちはどんな状況かな?傷を負い、武器もない。それでもまだ、挑むのかい?」

 

零士の発言に、二人は言いよどむ。無手の使い手なら話は別だが、こいつらは違う

「それは…」

「むぅ、ならもっかい!次こそは勝つ!」

「順番は守ろうね?」

「ふふん。君たちの挑戦をいつでも受けるぞ!」

あーだこーだ言う許褚を零士はなだめている。そんな光景をみていると、霞が話しかけてきた

「悠里って結構やるやん。ちゅうかむちゃくちゃ速いな」

「あぁ。うちの面子で一番速いからな。私でもついていくのはしんどい」

「せやなぁ。ついていかれへん訳やないけど、季衣や流琉にはちとキツイ相手かもな。二人とも重量級で、どっちかってぇと対集団戦向きやでな。今回は相性も悪かったやろな」

悠里の最大の武器、それがあの俊敏性だ。以前、『晋』の面子で短距離走をしてみたところ、

悠里は私たちを大きく引き離し目標地点に到達した。本人曰く、余裕でウサギを追い抜けるとか。悠里も大概化け物だな

†††††

 

「たかが飲食店の奴らに遅れをとるとは、魏武の名折れだ。ここは私がお手本というものを見せてやろう」

「姉者、あまり余計な事は言わない方がいい。なにせこれから相手にするのは、世に名高い飛将軍だからな」

「…」

三戦目は恋対夏侯姉妹。この組み合わせは皆が注目する一戦になる。飛将軍と魏武が誇る最強の武人。辺りは静寂に包まれ、緊張感が走る

「霞はどうみる?」

私は霞に問いかける。霞は唯一、どちらの武にも相対している。だがその霞も、珍しく神妙な面持ちで見ていた

「正直、うちにもわからん。恋の武は確かに一級品や。いくら春蘭でも、一対一はきついやろな。せやけど、今回は秋蘭も一緒や。あの姉妹が組むとかなり強いで。お互いを熟知しとるさかい、なんも言わんでも連携組めるんや」

これは本当に、どうなるかわからないな

「行くぞ秋蘭!」

「援護は任せろ姉者」

「………来い」

「オォーー!」

夏侯惇は雄叫びをあげ恋に突っ込む。それに対し恋は武器を握りしめ、待ち構える。そして夏侯惇が大剣を振り下ろすと…

「!」

大剣が振り下ろされる直前に、恋目がけて鋭い矢が飛んでくる。恋はこれに反応し、最小限の動きで矢を弾き、そして間髪入れず大剣の一撃にも対応した

「ウラアァァァ!!」

夏侯惇の猛攻が恋を襲う。夏候惇の攻撃は大振りだが、一撃一撃がとても速くて鋭い。さらには、一瞬でも夏侯惇が隙を作っても、その隙を埋めるように秋蘭の矢が飛び、恋に攻撃させる暇を与えない

「はははー!どうした呂布!」

「…んっ」

押されているとはいえ、恋も恋でかなりやる。今でこそ、猛攻は許しているも、決して決定打になるものは与えていない。確実に剣と矢の攻撃を捌いて凌いでいっている。恐らく夏侯姉妹も、それに気づいているだろう

「さすがにやるな。…姉者!」

「おう!」

秋蘭の掛け声の直後、一度距離を取った夏侯惇が、助走をつけて突進する。一方の秋蘭は数本の矢で拡散させるように恋を射った。恋が軽くこれを弾き返すと…

「ハァーッ!」

夏侯惇は渾身の力で、恋が矢を防御した上から空へ打ち上げるように攻撃する。

すると恋はその衝撃から空中へ飛ばされた

「ハァッ!」

空中に打ち上げられた恋を、今度は秋蘭が矢で撃ち抜く。それも一本ずつではなく、複数本を連射で

「ん!」

空中では身動きが取れないながらも、恋は激しい雨のような矢の弾幕を全て叩き落とす。だが、夏候姉妹の攻撃はまだ終わらない

「そこだー!」

全ての矢を叩き落とすと同時に、夏侯惇が大きく飛び、恋の頭上に位置づいて大剣を振りかざす。流石の恋もこれには驚き、咄嗟に防御することに成功するも、そのまま地面に叩きつけられた。恋が地上に叩きつけられると、地鳴りと共に砂埃が辺りを覆った

「はぁはぁ…やったか?」

「やってもらわねば困る。今ので矢が尽きた」

これが魏最強の武…これが夏候姉妹…見事な連携だ。あの恋をここまで押すとは

「大剣による近距離攻撃と、矢による遠距離攻撃。単純だけど、この二つの組み合わせはなかなか強い。しかも二人の連携、お互いの役割を熟知して、ちゃんとお互いをカバーし合いながら動いている。これほど厄介な存在はないだろうな」

あの零士が感嘆の声を漏らす。だが次の瞬間、零士はクスッと笑った

「だが、相手が悪かったな。やはりあの子は龍の子、いや、龍そのものか」

零士のその視線の先には、砂埃が晴れ、静かに立ちあがる恋の姿があった

「あれを食らって立ち上がるのか!」

「クッ!姉者、援護はするが、期待はするなよ」

「…今のは悪くなかった。次は、恋の番」

恋は夏侯惇に突っ込み、猛攻を仕掛ける。先ほどまで押していた夏侯惇が、今度は防戦一方だった。それを助けるため秋蘭が弓で攻撃するも、遠距離が本職の秋蘭は軽くあしらわれる。その後も、激しい剣撃が繰り広げられ、戦いは熾烈を極めた

「これで、最後」

「グハッ!」

夏侯惇は恋の攻撃を防ぐも、衝撃に耐え切れず武器を吹き飛ばされる。そしてそのまま、恋は方天画戟を夏侯惇に向けた。勝負有りだな

「そこまで。恋ちゃんの勝利だ。三人ともよくやったね」

「クッ、まさか二人がかりで負けるとは…」

「あの時仕留め損ねた時点で、勝敗は見えていたのかもしれないな」

「まさか、あの子達が敗れるなんて…反董卓連合の時に欲張らなくて正解だったわ…」

「楽しかった。またやろう」

悠里が速さなら、恋は力だ。全てを砕く圧倒的な力と強靭な肉体。恋には決まった型がない。技術なんて関係なく、感覚で押し通す。まさに天賦の才能だろう

†††††

 

「来たで来たでこの時が!わざわざオオトリにしたんや。派手に行こうやないか!」

「ふん。五年前の借り、返させてもらうぞ」

最後に控えるは、私と霞の一騎打ち。実に五年振りとなる霞との打ち合いだ。あれからお互い成長したが、負ける気はない

「ほな行くで咲夜。がっかりさせんなや!」

霞は真っ直ぐこちらに突撃してくる。悠里ほどじゃないが速い!私はこれを迎撃する為にも前に出る。そして霞の偃月刀と私のナイフがぶつかり合い、火花を散らせた

 

「ふん!」

 

「はは!」

お互い一歩も譲らず、武器を押し付け合う。力は互角、いや少しこちらが押され気味か

「やるやん!」

「そっちも、なっ!」

私は押し返し、一旦下がった。すると霞は、自分の体を抱きしめ、恍惚とした表情でなにやら震えていた

「ええでぇ、ええでぇ、ゾクゾクしてきた!」

「はっ!なら冷ましてやるよ」

私は一気に駆け寄り、霞に肉薄する。そして縦横無尽と、ナイフで連撃を繰り出した

「ふっ、ふっ!」

流石に届かない。霞はこれを避け、時に防御し防いでいく

「チッ!流石にやるやん!完璧にあんたの間合いに入ってまってる!」

ナイフは短い。超近距離戦闘に特化したものだ。対して霞の偃月刀は、長い分余りに近すぎると対処が難しいはず。だからこそ、一気に叩く!霞の間合いに入ってしまったら、一気に不利になってしまう

「咲夜~。あんたがそないにうちとくっ付いていたいなんてなぁ」

「嬉しいだろ?なんならこのまま抱き締めてやろうか?」

「かぁー!魅力的な提案やけど、今は遠慮しとこか、なっ!」

突如霞が攻撃を仕掛けてくる。それに反応し、一瞬攻撃の手を緩めてしまった。結果、霞は後ろに後退した

「チッ。あのままいたら、抱いてやったのに」

「ハっ!ならうちが勝ったら、好きなだけ抱かせてもらうで!」

霞は一定の距離を保ち剣撃を放つ。しまったな。これは霞の間合いだ。近過ぎない、偃月刀を振るうにはちょうどいい距離。霞は猛攻撃に出た

「おらおら!それで本気か?」

「んなわけないだろ」

と言っても、今の状況はまずい。このままじゃジリ貧だ。だが、最初は気乗りではなかったが、今回は相手が相手だ。勝ちに行くぞ

「ふぅー…」

私は霞の攻撃を防ぎつつ集中し始める。氣による身体強化。ついでに零士にコツコツ習った魔力を使った武器の硬化だ。零士ほどじゃないにしろ、ちょっとは使えるんだぞ

「!!咲ちゃんめ、魔力まで使ったな…」

 

感覚が研ぎ澄まされ、体が軽くなっていくのを感じる

「さぁ、ここからが本番だ。行くぞ!」

 

私はナイフを強く握りしめ、霞の攻撃を弾いた同時に、思いっきり横にナイフを振った

「なんや?急に鋭く…」

 

横振りの攻撃は防がれ、霞はいったん距離を取った。だが、これで終わりじゃない

「五年の特訓の成果だ。しっかりその身に刻め」

私は一気に霞に接近し、腰を低くしてすくい上げるようにナイフを振っていく。それは防御されるも、霞の表情を歪ませた

「鋭なったと思たら、一撃一撃がめっちゃ重なってる!そないな技隠しとったんか!?」

「あんまり喋ると舌噛むぞ」

 

私はナイフで霞の偃月刀を傷つけていく。私は目を凝らし、しっかり見極めていく。狙い目は…あの柄部分の先端だな

「言うやんけ。ならうちも本気でいかせてもらうでぇ!」

お互いがお互い、攻防の一進一退。激しい剣撃が重なり合い、火花を散らせる。純粋な打ち合いは、何合を超えたのかわからなかった。だが…

「フンッ!」

氣と魔力を込めた私の渾身の一撃が、霞の偃月刀とぶつかる。その瞬間、私はニヤッとなってしまう

「…霞、私の勝ちだ」

「はぁ?何言うとんねん。まだ終わって…」

次の瞬間、霞の偃月刀の先端部分に切れ目が入り、偃月刀は綺麗に折れ、地面に落ちた。偃月刀を手にしていた霞は何が起こったのかわからず、偃月刀をぼんやり眺め、そして理解すると驚愕の表情をあらわにした

「って、えぇ!?う、うちの偃月刀が…咲夜、あんた最初からこれを…」

「まぁな。あれだけ打ち合えば、こうなるさ」

「う、嘘やろ…この飛龍偃月刀、どんだけ硬いと思てんねん」

ふぅ。久々に本気出した甲斐があったな。借りは返せたみたいだ

「二人ともお疲れ様。武器破壊は咲ちゃんの得意技だね。氣による身体強化及びに武器の硬化。そこに咲ちゃんの天性の戦闘技術。もう一つ付け加えるなら彼女の視力もそうだね。全ての攻撃を見切り、脆い部分を見抜き、そして破壊する。速さの悠里ちゃん、力の恋ちゃん、そして技の咲ちゃんって感じだ」

ま、あの偃月刀、かなりガタがきていたし、楽に壊すことができたってのもあるけどな

†††††

 

 

 

「まさかうちの子たちが全滅だなんて…本当に、何故飲食店にしたのよ。世に出れば、間違いなく名を残せたでしょうに」

試合が終わり、一息ついてると華琳が近づいてきた。華琳は呆れつつ、怒りつつ尋ねてきた。結果が結果だ。聞かれても当然だよな

「言いたい事はわかるが、私たちにも事情がある。それに興味もない。やる気のない人間がいても、返って邪魔だろ」

「事情ねぇ、あの男かしら?」

 

華琳は零士を見て聞いてくる。相変わらずこいつは、察しがよすぎるな

「さぁな」

 

私は努めて興味のなさそうな風を装って返すが、恐らく無駄だろう

「ふむ、零士。あなた、うちに来る気はないかしら?あなたのその力、我が覇道に役立ててみない?」

さっそく勧誘かよ

「残念だけど、僕はあの店と、僕の家族さえ守れればそれでいいんだ。覇道に興味はないな」

「小さいわね、男のくせに。この大陸全てを守るくらい言えないの?」

「はは。そういうのは僕の仕事じゃないな」

 

零士は飄々と笑って断った。華琳は少しムッとした表情になってしまった

「はぁ…なら張郃。あなたはどうかしら?あなたのその俊足、戦場で試してみない?必ず名を残せるわよ」

今度は悠里に目標を変えたか。おおかた、悠里を味方につけて、私を引っ張る気だろう

「あー、あたし孤児の面倒見なきゃいけないし、なにより『晋』で働くの好きなので、お断りさせていただきます!」

 

華琳は頭を抱えはじめてしまう。これ、ある意味華琳も初めての経験なんじゃないか?女性からあまり断れている印象ないし

「…なら呂布はどうかしら?」

そう言って恋をチラッと見ると、セキトを抱いて寝ていた

「…はぁ…初めてよ。この私が、ここまで振られるなんて」

「そりゃ残念だったな。これを機に諦めることだ」

その後は月と流琉が持ってきた弁当を分け合った。ちなみにこの時、みんな真名を預けあった。月や詠は、同じく料理人でもある流琉と仲良くなり、悠里に関しては先ほどまで弄っていた季衣と親睦を深めていた。春蘭は食事中の恋の仕草にきゅんきゅんしており、そんな光景を秋蘭が慈愛の目で見つめていた。零士は凪に戦闘技術を教えているが、そんな凪の目はやはり熱っぽい。そして私は…

「ねぇ咲夜、今夜私の閨に来なさいよ。いっぱい可愛がってあげるわ」

「明日仕事なんで遠慮する」

華琳に絡まれていた。恐らく、私を恋愛的な意味で籠絡しようとしているのだろう。その色っぽい仕草に内心、ちょっとだけ、ドキドキはしていたものの、なんとか耐える事ができた。おかしいな。私は至って普通の性癖のはずなんだが…

食後も訓練は続いた。今度は組み合わせを変えたり、二対二でやってみたりと、なかなか濃い時間を過ごした。今まで訓練は一人でやることが多かった分、こうして複数でやるのはなかなかいい刺激になった。まぁ、悪くない休日だったんじゃないかな

†††††

翌日

「いらっしゃい…」

「あら、元気ないわね。店員がそんな態度でいいのかしら?」

訓練の疲れを残したまま営業する羽目になった私は、休日はゆっくり寝ると堅く心に誓った

 




今回、『晋』のメンツが全勝しましたが、これは相性によるものが大きいです。例えば咲夜なら、1対1でなら強いですが、夏候姉妹と相手となると負けます。悠里も、夏候姉妹や霞には負けて、凪といい勝負ができるレベルです。零士に関しては、純粋な試合をさせたら恋に負けます。改めて戦闘描写は難しい。今後の課題です

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