真・恋姫†無双 裏√   作:桐生キラ

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お食事処『晋』

 

 

 

 

 

「いらっしゃいませ。お好きな席へどうぞ」

ここは御食事処『晋』。私の村が賊に襲われたときに助けてくれた東零士<あずま・れいじ>という男と、私司馬懿が3年ほど前から経営している、零士の故郷の料理を取り扱っている店だ。

「咲ちゃん、これ一番さんにお願い」

私の真名は咲夜<さくや>。こいつ、東零士は真名を預けたころからずっと咲ちゃんと呼んでくる。最近ではもう慣れたが、最初はなんだか嫌だったな。

「お待たせしました。こちら注文の品のハンバーグ定食になります」

零士の作る料理は見慣れない物ばかりだ。だから最初のお客さんの反応も微妙なものが多い。だがそれもすぐに笑顔に変わる。一口食べればその味に驚き、そして白米をかき込みたくなる。それがうちの料理だ。

「ふむ。今日ははんばーぐ定食にしようかな」

隣で品書きを見ていたお客さんがぼそりと言った。そこに座っていたのは青い髪のすらっとした女性。ここのお客さん第一号であり常連の夏侯淵さんだ

「決まったか?夏侯淵さん」

「ああ、今日ははんばーぐ定食にするよ」

夏侯淵さんは品書きを見ながら、お茶を含み、そして飲み干すと、注文を言ってくれた

 

「了解。零士、ハンバーグ定食一つだ」

私はすぐさま零士に注文を言う

 

「はーい」

零士は厨房から大きく返事を返し、そしてすぐさまハンバーグ定食作りに取り掛かったようだ。今は別段、やることはなさそうだし、このまま夏侯淵さんと少し話そうかな

 

「私が初めて来た当時に比べると、ずいぶん繁盛しているようだな」

 

夏侯淵さんは店内を見渡して言った。確かに、今晩はそれなりに賑わっている

「まぁな。ここの料理は他にはない独創的なものが多いし、金額設定も低めにしてある。一度来てもらえば夏侯淵さんのように常連も増えるし、上手くやらしてもらっているよ。ただ、悩みもあってな…」

「悩み?」

「ああ、それが「「おいこらネーチャン!酒持って来い言うたらさっさと持ってこんかい!

どつきまわすぞアホが!」」…ああいう手の者だ…」

噂をすれば、ってやつか?そこには数人の輩がうちの従業員に絡んでいる姿があった

「お客様困ります!周りのお客様にも迷惑です!」

「知るかドアホ!酒はまだなんか!?」

 

そんな光景を見て、私は思わずため息を吐いてしまう。もはや慣れつつある光景ではあるが…

「夜遅くまで営業しているが故なんだけどな。はぁ…」

「災難だな。手伝おうか?」

「こちらハンバーグ定食おまたせ。夏侯淵さんは座ってていいよ。僕と咲ちゃんがいれば十分だから」

 

夏侯淵さんが提案してくれたが、料理を持ってきた零士の言う通り、あんな連中、夏侯淵さんの手を借りなくても十分だ

「そういうことだ。ゆっくり食っててくれ」

そう言って、私は騒いでいる方へ向かう。その時に従業員は下がらせておいた。数は四人。全員が相当酔っているようだった

「申し訳ありません、お客様。ここにはあなた方のようなものに出す料理や酒はありません。周りのお客様の迷惑になりますのでご退場ください」

 

接客の基本その一!どんな時でも笑顔で対応

「あぁん?なんやワレ。文句あんのかいな?こちとら金払って飲んでる客やねんぞ。何様のつもりじゃ!」

 

おーおー、これまたずいぶんとわかりやすいチンピラ

「何様も何も、ここの店長様ですが」

 

零士が答える。するとチンピラの一人が零士の方を向き、すごみ始める

「お前が店長か。お前んとこのねーちゃんの教育どないなってんねん?酒持ってこんとか舐めとんのか?」

「失礼ですが、うちの従業員に非はありません。あるとすれば、あなた方のような素行の悪いものにあると思われますが。正直迷惑以外の何物でもない」

「なんやと?」

そこでチンピラ四人が立ち上がり、腰にぶら下げた短刀等を手にした

「分からなかったか?帰れと言っているんだよ」

私がそう答えると、チンピラ四人は青筋を立てたようだ

 

「あにきー、もうめんどいしやっちまいましょうぜ」

「そうっすよ。こいつら生意気っすし」

「どうせ金ねーんだ。どっちにしろやるんでしょ」

はぁ…これだからチンピラは…

 

「おやおや、まさか無銭飲食とは」

「ああ、ゆるせないな。表に出ろチンピラ風情が」

私と零士、そしてチンピラ四人が店外に出る。

辺りはすでに暗く、月明かりと店からこぼれる光のみが周辺を照らしていた。

「ハッ。俺ら黄巾党を敵に回したこと、後悔させたる!」

 

チンピラのまとめ役っぽい奴が剣を抜いて答える。へぇ、こいつもあれか

「黄巾党…賊か。零士、私に任してくれてもいいよな?」

「…いいけど、殺しちゃダメだからね」

「わかってる」

 

私はチンピラどもの前に立ちふさがる。こちらは無手。しかしまぁ、余裕だろう

「お前一人か?さっきからずいぶん舐めおって。てめえらやっちまえ!」

チンピラ三人がそれぞれ短刀、棍棒、長物をもって襲いかかる。まず最初に来たのは短刀の奴だった。思いっきり短刀を振り上げ私の頭めがけて振りかかる。

「軌道が見え見えだな」

私はそれを冷静に見極め、躱し、そして外して体勢を崩した相手の腕を掴み

「よっ!」

思いっきり投げ飛ばした。そのまま腕は離さず短刀を奪い取る。

「こいつは没収だな。……えいっ」

ボキッ

このまま腕を離してしまうのも勿体無いので、ついでに関節も外しておいた。チンピラは汚い悲鳴をあげ、痛みで気を失ったようだ。

「このアマ!」

一人がやられたところで、今度は二人がかりでくる。二人で私を挟むように位置取った。挟撃を仕掛ける気なのだろうが…

「「オラッ!」」

なんと二人同時に動いた。そんなんじゃダメだろ。二人がかりなのはいいが順番ずつやんないと

「フッ」

私は二人の攻撃を軽く避ける。どちらも頭狙いだったので避けるのが容易だった。そして

「ゴフッ」

避けられるなんて思わなかったんだろうな。だから二人同時で攻撃した。その結果、長物を持ったチンピラが振った棒が綺麗にもう一人のチンピラの顔面に入った。あれは痛い。思いっきり振りかぶっていたからな

「こいつよくも!」

 

仲間の顔面を思いっきり振り切った奴が私を見て吠える

「はぁ?お前らの自爆じゃないか」

 

こちらになすりつけられても…

「うるせぇ!」

チンピラは再び長い棒を振り回す。適当にがむしゃらに振り回しているだけでなんの脅威でもなかった

「ハッ」

気合一閃ってやつだな。私は手にしていた短刀を使い、チンピラが持っていた長い棒をバラバラに解体してやった

「は?嘘だろ?」

 

一瞬にして細切れになった棒を見つめ、チンピラは信じられないといった様子だった

「残念ながら事実…だっ!」

私は素早く相手の背後に移動し、そして手刀をお見舞いしてやった。チンピラは意識を失い、静かに倒れて行った

 

パシュンッ

 

直後、背後で妙な音が聞こえた。振り向くとそこには消音器付きの拳銃を握っている零士の姿があった。どうやら、先ほど仲間の攻撃で倒されたチンピラが起き上がろうとしたところを撃ったようだった

「お前、人に殺すなとか言っておいてその手の銃はなんだ?」

「はは、大丈夫大丈夫。ただの麻酔銃だから」

そう言いながら零士が持っていた銃は手から消える。零士お得意の魔術で出したものだったらしい。

「だいたい、人前で魔術や未来の物を出すのは不味いんじゃなかったのか?」

「それも大丈夫。みんな咲ちゃんの大立ち回りに釘付けだから」

「そーかい」

私達はそこで話を切り上げ、目の前に残ったまとめ役っぽいチンピラに意識を向ける。見るとそいつの顔は真っ青のようだった

「さて、お前一人になったが、まだやるのか?」

「ヒィッ!か、堪忍してくれ!金も払うさかい、見逃してくれ!」

さすがチンピラ。手のひら返すのが早い早い。だが…

 

「だってよ。ずいぶん勝手だな。荒らすだけ荒らしといて。零士どうするよ?」

 

「僕は見逃してあげてもいいと思うよ。金も払ってくれるみたいだし」

「ホンマか!?」

零士の発言を聞き、目の色を変えるチンピラ。その瞬間、零士がこっちを見てニヤッとするのが見えた

「あぁ。今度この店に来ないと約束するなら、僕は何もしないよ」

はぁ…そういうことか

「するする!金も払う。この店にも近寄らん。約束や!」

「ん、わかったよ。咲ちゃんもどうかな?」

チンピラが涙を溜めた目で見てくる。恐らく自分は助かったと安堵したのだろう。締まりのない顔をして……なので私は笑顔を作り

「許すわけないだろ」

容赦無く突き放してやった

「そ、そない殺生なぁ。な、店長さんからも何か言ってやってくれへんか」

「いやぁ、僕さっき何もしないって約束しちゃったし」

チンピラの顔にはさっきと打って変わって絶望の色が広がるのが見て取れた。

「頼むねーちゃん!見逃してくれ!」

とうとう土下座までして懇願してきた。無様だな

「どのみち黄巾党なんだろ。私は賊がこの世で一番嫌いなんだ。そんな奴を見逃すわけないだろ」

「クッ、この外道ー!!」

チンピラは叫びながらこちらに向かってくる。そして手にしていた剣で攻撃を仕掛けようとした。私はそれを短刀で受け止め、そのまま相手の剣を吹き飛ばす。その流れで相手を掴みそして投げ飛ばした。上手く頭から落ちたようだな。気絶している

「お疲れ咲ちゃん」

「相変わらず見事な手際だな。うちに来てくれると有難いんだが」

 

夏侯淵さんが店から出てきて言う。ずっと見ていたらしい

「悪いが遠慮しておくよ」

「残念だよ。さて、後はこちらで引き取ろう。

何人かこちらへ寄越すからそれまでこのもの達を見ていてくれないか。

それと、これは勘定だ。はんばーぐ、美味かったぞ」

 

「ありがとうございました」

「ではな」

夏侯淵さんはお代を渡して、急ぎ足で城へ戻って行った。しばらくすると軍人がのびているチンピラを連れて行ってくれた。

「最近増えてきたな。黄巾を名乗る奴ら」

 

今回のような奴らは初めてじゃない。というより、こういう輩は日常茶飯事に出てくる。そしてそのどいつもが、黄巾を名乗り始めていた

「そうだね。そろそろだよ咲ちゃん。大きく変わっていく。この大陸全土を巻き込んで」

「乱世…か…」

この大陸は荒れ果てていた

民草は飢えや病に苦しみ、上は賄賂や圧政・暴政が横行し、助けるべき民を助けず私腹を肥やしていた

人々は絶望し、憎み、やがて朝廷に対し反旗を翻す

蒼天すでに死す、黄天まさに立つべし

世に言う黄巾の乱の始まりだった

そしてそれと同時期に、とある噂が大陸に流れる。流星にまつわる、ある噂が…

 

 

 

 

 




咲夜さんのイメージは空の境界の両儀式さん。零士さんのイメージはfate/zeroの衛宮切嗣さんです

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