真・恋姫†無双 裏√   作:桐生キラ

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袁紹編其二

 

 

 

 

 

一年半前  許昌

「斗詩!ここからいい匂いがする!昼飯はここにしようぜ!」

「ちょっと文ちゃん!お嬢様の前ではしたないよぉ」

「フハハハ、文醜はいつも元気であるな!」

なんだ?ずいぶん外が騒がしいな

カランカラン

入って来たのは三人。バカっぽい元気な奴と、オカッパのおっとりした奴、それに桃色の髪をしたどこか上品な奴

「いらっしゃいませー!お好きな席へどうぞー!」

 

悠里が出迎え、三人組はテーブル席に着いた

「くぅー!腹減ったぜー!何にするかなー……ありゃ?なぁ斗詩、この生姜焼き?ってなんて食いもんだ?」

「はん…ばーぐ?とんかつ?なんだろう?お嬢様はわかります?」

「うぬぬ、我も聞いた事がないな」

零士の国の料理は、この大陸では知られていない。一見の奴らは皆決まって同じ反応をしてくれる

「お客様。お決まりにならないようなら、こちらでオススメを作りますが?」

私が言うと、三人は目を輝かせてこちらに振り向いた

 

「うむ!そうしてくれると助かる」

「あたい、いっぱいあるやつ!」

「すいません。文ちゃんはもうちょっと落ち着いて」

なんだか面白い奴らだな。私は零士に視線を向けると、零士はわかったと言ったように目で合図した。この辺り、さすがは零士ってところだ

「お待たせ。せっかく聞こえたから生姜焼き、とんかつ、ハンバーグ定食を作ってみたよ」

程なくして、零士が料理を持ってやって来て、三人の前に並べていく

 

「あたい、とんかつがいい!」

「我はこの、ハンバーグとやらに惹かれるな」

「じゃあ私は生姜焼き?だね」

三人がそれぞれ「いただきます」と言い食べ始める。すると元気な奴とお嬢様が揃って…

「「美味い!」」

と、一言大きく叫び、そのままかき込んでいった。オカッパはそれに対し苦笑しつつも、生姜焼きを美味しそうに食べていた

「食った食った!こんな美味いもん、初めて食ったかもしんねーや!」

「うむ。大変美味であった。満足したぞ!」

 

緑髪の奴がお腹をさすりながら言い、品の良さそうな桃色髪の女の子もそれに同意した

「いやー!お客様、いい食べっぷりでしたねー!」

「あぁ。あんなに美味しそうに食べてくれると、こっちも作った甲斐があったってもんだよ」

「食後の茶だ。ゆっくりしてってくれ」

私は三人分のお茶を用意すると、三人は怪訝な顔をしていた

 

「え?でも頼んでませんよ?」

「私からの気持ちだ。ふふ、今後もご贔屓にってな」

 

私は片目を瞑り、笑って見せる。すると三人もそれにつられて微笑んだ

「気に入ったぜ!あたいは文醜!真名は猪々子だ!」

オイオイ。そんな簡単に真名教えていいのかよ

「ちょ、ちょっと文ちゃん!なに真名まで教えてるのよ!」

「えー。だって気に入ったんだもーん」

「ふむ。我も名乗っておこう。桜だ。訳あって性と名は教えられんが、お主達なら真名を預けられる」

「お、お嬢様まで!?」

「なんとなくだが、こ奴らとは長い付き合いになりそうであるからな」

「むー。じゃあ私一人教えないのも悪いので…顔良といいます。真名は斗詩です」

これが、猪々子、斗詩、桜との出会いだった。会ったのはあれっきりだが、その時にずいぶん仲を深めた事を覚えている。猪々子も斗詩も桜も、私の大切な友人だ

†††††

 

現在  洛陽

「ほんっとーにすいませんでした!!」

私、零士、悠里、華佗の四人は、猪々子を連れ燃え上がる冀州から離脱。そのまま洛陽に連れ帰った。華佗が居たことが幸いした。猪々子は重傷だったが、華佗の治療で一命はとりとめた

「あまり気にしなくていいよ。それより、悠里ちゃんは本当に異常はないんだね?」

悠里はどうやら張譲に会っていたらしく、取り逃がしてしまったことを気に病んでいた

「あ、はい。何ともないです!」

 

悠里は張譲と交戦し、何かされたらしいが、外傷はなく、本人も異常を感じていないと言っていた。ホントに、なにもなかったのだろうか?

「文醜が目を覚ましたぞ!」

華佗からの報を聞き、私たちは部屋に駆けつける。中には猪々子が起き上がり、状況を確認するように辺りを見回していた

「え?さ、咲夜?悠里に零士、お嬢まで…いったいどうなってんだ?」

「どうやら無事みたいだな、猪々子」

「よかったぁ。猪々子ちゃん、凄い怪我だったんだよ」

「うむ。我も心配したぞ文醜」

「んー??あたい確か……!!斗詩!麗羽様!…ウッ!」

猪々子は何かを思い出したかのように表情を変え、慌てて起き上がろうとしたが、痛みに耐えられず、うずくまっていた

「猪々子、落ち着け。無理するな」

「落ち着いてられっかよ!斗詩が、麗羽様が!」

「二人なら恐らく無事だよ。冀州から離脱していったのを確認したからね」

 

零士が優しい声音で諭すように言うと、猪々子は少しずつ落ち着き始めた

「本当か?」

零士は一言「あぁ」と答えると、猪々子は安堵し脱力していた

「一つ気になる事があるんだが…君の主、袁紹についてだ。彼女のあの虚ろな目、何があったんだい?」

零士が聞くと、猪々子は表情を曇らせて、弱々しく話し始めた

「姫は…麗羽様は変わっちまった…昔は…あんな事しなかった…」

†††††

数ヶ月前

多分、姫が変わり始めたのは、数ヶ月前の反董卓連合の時だったと思う。あの連合を解散してから、突然野心剥き出しになったんだ。もともと、野心は強かったんだけどよ、あそこまで表立って出す人じゃなかったはずなんだ…

「文醜さん、顔良さん?軍備強化の調子はいかがですの?」

「あ、姫ー。ぼちぼちやってますよー」

「文醜さん?ぼちぼちではいけませんのよ?帝がその座を降りた以上、新しい指導者が必要ですわ。そしてそれはこの名門袁家の現当主、この私にこそ相応しいんですわ!」

「はぁ」

 

なんだか、ずいぶんやる気満々だなぁ姫

「軍備が整い次第、白蓮さんを攻めます。そのおつもりで」

「れ、麗羽様よろしいんですか?公孫賛さんはご友人ですよ?」

 

斗詩が慌てて言うと、姫は斗詩を睨らんだ

「あら顔良さん。私の決定に何かご不満が?」

「い、いえ…」

「よろしい。それでは」

「…なんか、凄い迫力だったな」

「うん。どうしちゃったんだろ」

それから軍備を整えて、公孫賛を攻め落としたんだけどよ、その時の戦い方も、なんか姫らしくないっていうか……前はもっと、力で押し切るような、そんな単純な策ばっかだったんだけど、公孫賛の時はやたらと頭を使う感じでさ。極めつけは…

「顔良さん?民衆の支持はどうなっていますか?」

「はい。公孫賛さんの民のほとんどが、麗羽様を支持しています。しかし、少数は反抗的で、今だ信用されていません」

「そう。ではその少数は切り捨てなさい」

「な!麗羽様?」

「ひ、姫。さすがに殺すことは…」

「おやりなさい」

姫のその冷ややかな声は、あたいと斗詩を黙らせた。この時の姫の、あの感情のない瞳は今でも鮮明に覚えている。あんな姫、初めて見た…

「はぁ…もうよいですわ。私自ら指示します」

そう言った麗羽様は、民衆を煽動してその少数を殺したんだ。昔の麗羽様なら、そんな事は絶対にしなかった。どんなに野心が強くても、それは民により良い生活を与えたいが為だった。その麗羽様が、民を殺すなんて、信じられなかった…

それからしばらく各地の弱小勢力を潰し回ってたんだけどよ、なんかやっぱ違和感があったんだ。いくらなんでも、民がほいほいついてきすぎだったし、軍も疲弊してきたってのに、麗羽様は容赦なく軍事活動を強要してくるしでさ。そんな状態で、あの曹操との一戦だ。最初は野戦で挑んだんだけどよ、さすがに疲れ切ってたうちの軍が曹操軍に勝てるわけなくてよ。そしたらさ…

「旗色が悪いですわね…ここは冀州に引き、籠城戦を構えますわよ」

「麗羽様!あそこはまだ民の避難が…」

「だまらっしゃい!民にも戦わせたらいいんです。一国の危機なのですから」

「しかし!」

「顔良さん?あなたいつから私に意見を聞けるようになりまして?…さぁ、退却しますわよ!」

あたいらは、やむなく退却したんだ。このまま野戦で挑んでも、勝ち目はなかったし。退却してすぐ民を避難させたらいいって思ってた。でも…

「ふむ、やはりこの程度でしたか。馬鹿は扱いやすいが、所詮馬鹿。無能ではさすがに天下はとれませんね」

城に着いたあたいらを待ってたのは、うちにちょくちょく顔を出してた張譲だった

「なんのようだ張譲!」

 

あたいが張譲を睨みつけると、張譲はあたいの方を見ることもなく、ただ姫を見ていた

「貴女の役目は既に終えました。欲を言えばもう少し蓄えておきたかったんですがね。追い込まれてしまっては意味がない。貴女を解放しますよ?袁紹」

 

張譲はそう言って指を鳴らした。すると…

「…は!私は一体………あ…あぁ……」

張譲が指を鳴らすと、麗羽様の様子が変わって、すぐさま膝をついたんだ

「麗羽様!」

「あ、あぁ…斗詩…猪々子…私は…私はなんて……」

「てめぇ!麗羽様に何をした!?」

「言ったじゃないですか?解放してさしあげたと。今までよく働いてくれましたからね。ご褒美と言っては何ですが、彼女がこれまで行ってきた全ての記憶は、そのまま彼女に残しておきました」

「あ…あ……ああああぁぁぁぁ!!!」

「うーん、素晴らしい絶望の色ですね……おや?曹操軍がやってきたようですね。さすがに速い………では、少しお助けしましょう。これは働いてくれたお礼ですよ。それではご機嫌よう」

張譲が再び指を鳴らすと、今度はそこらかしこから火の手が上がった。そして気づけば、張譲は既に消えていた

「麗羽様!麗羽様!!」

斗詩は麗羽様を抱えて、一生懸命呼びかけたけど、麗羽様はブツブツ言いながら涙を流していた

あたいは、どうしたらいいかわかんなくなってた。曹操軍はすぐそこまで迫ってきている。事情を話せばわかってくれるかもしれない。でもわかってくれなかったら?そう思った瞬間、あたいは斗詩と麗羽様だけでも逃がさなきゃって思って、外に馬用意して、それで夏侯惇と対峙して…

†††††

 

現在

「それで気づいたら、ここにいたってわけだ」

猪々子が話してくれた事は、やはり私たちの予想通り、太平要術が使用されたであろうものだった。袁紹を操り、無理な従軍を強要し、負の感情を蓄えていた。そして最後は、散々利用してきた袁紹を切り捨て、袁紹自身を絶望に陥れた

「とんだ外道だな」

「さすがにこれは、酷いですね」

「すまなかった文醜。我がもっと早く気づいていれば…」

「いやいや、お嬢のせいじゃないですよ。気づけなかったあたいの責任でもあるし」

「そうだね。元凶は太平要術…張譲だ」

張三姉妹、董卓軍に続き、袁紹軍までをたった一人の男によって踊らされた。いや、もしかしたら私たちはみんな既に張譲の手の上にいるのかもしれない。張譲、そして太平要術の書、この二つを早急に処理しないと、いつかこの大陸全てを巻き込む何かをしでかしそうでならなかった

 

 

 

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