真・恋姫†無双 裏√   作:桐生キラ

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せっかくの加筆修正版なので、孫堅さんの真名を公式の方に合わせてみました。
TINAMIさん版:蓮鏡→ハーメルンさん版:炎蓮


孫呉編
孫呉編其一


 

 

 

 

 

僕は現在、華佗、華雄ちゃん、貂蝉、卑弥呼と一緒に呉を目指している。移動手段は馬車。のんびりしていていいね。その道中、僕は先刻手に入れた龍の素材の解析に勤しんでいた。魔術に組み込むためだ

「そう言えば、零士は孫家と知り合いだったな?いつ頃に知り合ったのだ?」

 

そんな道中、華雄ちゃんが孫呉との関係について聞いてきた。どうせ暇だし、話してもいいだろう

「んー?そうだね、あれは僕と咲ちゃんが旅をして一年半くらいだったから、かれこれ四年以上前だね」

 

†††††

四年前

「しかし、長江ってのは広いな」

「そうだね。それにさすが呉の地だ。そこらかしこに漁師がいるね。水産業に関しては間違いなく大陸一だろう」

僕と咲夜は、江東の虎と称される孫堅に会いに行くべく呉の地を訪れていた

この世界に来て一年半くらいが経過した。そろそろ旅も終わりが見えてきたし、居住地を考えなきゃいけないな

「あぁ?なんだあの船。こっちに向かってくるぞ」

咲夜が指さした船の乗員は、明らかに武装しており、殺気をガンガン飛ばしていた

「あー、あれは江賊かな?それもあの旗、この辺りじゃ結構有名な賊だね」

 

旗印は『甘』。恐らくはあの猛将だろう

「…賊?」

賊という単語が出た途端、咲夜は殺気を剥き出しにしていた

「咲夜、賊と言っても、この辺では悪党のみを狙う義賊らしい。君が考えているような獣ではない」

「ハッ!どうだかな。どっちにしろ、やらなきゃやられるんじゃないか?」

それはそうかもしれないが……チッ、悪党のみを狙うって事は、この船には悪党が居るって事か。正直助ける義理もないんだが…

「なかなか威勢がいい少女だな」

「あぁ?」

声のする方を見ると、そこにはピンクの長髪に、褐色の肌をした綺麗な女性がいた。そしてその後ろには、彼女に似た風貌の子が一人、そして弓を担いだこれまた綺麗な女性が一人いた

「堅殿、あれが我らの目標ですかな?」

「ふーん、結構な数ね。まぁ、母様と祭が居れば余裕そうね」

「祭、雪蓮!なるべく殺すなよ。出来る限り生け捕りにしろ」

「!?来るぞ!」

咲夜の一声と共に江賊がなだれ込んでくる。数は…200はいるな

「そこの少女と青年!私は孫堅という。見れば相当の使い手と判断するが、少しばかり手伝ってくれないか?賊を制圧するのは容易いが、他の乗客を守るのは面倒でな」

「!貴女が孫堅さんか。わかった。そちらは頼みます。咲夜!聞いての通りだ。防衛にまわろう!」

「あぁ?お前一人で十分だろ!」

あーあー、咲夜もう暴れちゃってるよ。仕方ない。一人で守るか

「悪餓鬼には仕置きだな。ふんっ!」

おぉう。あれは痛そうだ。孫堅さんは拳の一撃で江賊の一人を叩き潰し、そいつは船にめり込んだ。腰に差した剣はいらないんじゃないか?

「鬱陶しい!」

「ぐへっ」

 

咲夜は咲夜で、賊を相手に舞うように攻撃を避け、鋭いナイフの一撃で賊の切り刻んでいった

「へぇ、あなた結構やるわね。私は孫策。あなたは?」

 

そんな姿に感心したのか、孫策と名乗った少女が賊を制圧しつつ咲夜に話しかけていた

「司馬懿だ!お前、孫堅の妹か?」

「あっははは!まっさかー。あの人は私の母様よ」

「え?孫堅ってずいぶん若く見えるな」

そう思うのも無理はない。それくらい孫堅さんは若く見える。僕も正史の知識が無ければ間違えていただろうな

ヒュンッ

「ぐあっ」

僕が船員を護りつつ、敵を制圧していると、鋭い矢の一撃が江賊達の背から心臓を次々と撃ち抜いていった。素晴らしい手際だ

「お見事」

 

僕は弓を担いだ女性に声をかける。その姿からは、歴戦の猛者の威風を纏わせていた

「主もかなりやるようじゃの。わしは黄蓋。こんな事に巻き込まれて、ツイておらんだな」

この方が黄蓋。呉の宿将か

 

「あはは。もう慣れましたよ。それにある意味ツイてる。僕は東零士。孫堅さんを訪ねにきたんだ」

「堅殿に?ふむ、ではこの後ついて来るといい。わしから堅殿に伝えておこう」

それはありがたい

 

「ところで、こいつらって悪党のみを狙う江賊なんですよね?貴女達が悪党には見えないんですが…」

「はっはっは!我らは雇われただけだよ。ちなみに、その雇ったやつが俗にいう悪党で、既に仕置き済みじゃ」

チリーン

「!?」

鈴の音が聞こえた瞬間、孫策がその音に反応し、背後まで接近していた女性の攻撃を振り向いて剣でガードした

「ほぅ、今のを止めるか」

「止められたくなかったら、その鈴は外すことね。あなたが甘寧ね?」

 

甘寧は一度距離を取り、再び武器を構えなおした

「かの孫策に名を覚えてもらっているとは。光栄と言うべきなのか?」

「あら?あなたは結構有名よ?義賊の、鈴の甘寧さん?」

「ふん。鈴の音は、黄泉路へ誘う道標と心得よ。いく…!?」

甘寧が孫策に攻撃を仕掛けようとすると、甘寧の背後から咲夜がナイフで攻撃した。甘寧は寸でのところで攻撃を防いだ

「へぇ、あれを止めるのか。大した反応速度だ」

「殺気を剥き出しにしていれば、嫌でもわかるさ」

 

だめだなー咲ちゃん。奇襲する時はどんな気配も完全に消すように言ったのに。それでも、あれを止めた甘寧も十分凄いけどね

「ちょっと司馬懿ー。あなた武人としての誇りとかないの?あんな不意打ちみたいな真似」

「は!誰かさんの影響で、そういったものは持ち合わせていないんだ。それに私は武人じゃないぞ」

 

いったいだれのえいきょうかなー

「あら。あなたの腕なら歓迎したのに。うちに来ない?」

「考えといてやるよ」

「ふふ。まずは甘寧を迎えなきゃね。甘寧、うちに来なさい。私たちはあなたと、あなたの仲間の力を評価している。ここに来たのだって、あなたを加えるため」

孫策は咲夜との会話を打ち止め、再び甘寧に向き直った。その瞬間、彼女の纏う雰囲気が一変した。本気になったな

 

「ふん。賊である我らを欲するか。流石は虎だな。だが、我らは力無き者には従わんぞ」

「えぇ。だからこうして叩きのめしているのよ……ふふ。さすが母様。もう終わっちゃったみたい」

孫策が言うと、全員が孫堅の方を見た。そこには…

「ふぅ。こんなものか。他愛ないな」

孫堅さんの周りには、多数の江賊が転がっていた。見たところ、全員気絶させられていたようだ。全員拳で黙らしたらしい

「…チッ!まだ私がいる!」

甘寧は孫策を惑わすように、ククリ刀を縦横無尽に振るい、軌道を読ませようとしない。そして一撃が振り下ろされた

 

「フッ!」

しかし孫策はそれを容易く跳ね返し、甘寧の武器を吹き飛ばした

「蓮華よりは強いけど、それでもまだまだね。さぁ、力を示したわよ。甘寧!うちに来い!」

「……クッ」

甘寧は諦めたかのように地に膝をつける。決着はついたようだ

「咲ちゃんお疲れ。見てたけど、だいぶ動けるようになってきたね」

「ふん。今回はあまり、何かしたわけじゃないがな」

江賊達はみな一箇所に集められ、甘寧は孫堅、孫策、黄蓋と話している。その輪には僕と咲ちゃんも一緒にいた

「なるほどな。理由はわかった」

僕達は甘寧の話を聞いていた。彼女とその仲間達が賊に堕ちた理由……ある町の役人が暴走し、彼女達は民を守るためにその暴君を倒した。だが、彼女達は救世主ではなくただの犯罪者として追われ、居場所を失い、賊に堕ちるしかなかった。しかし、彼女達の正義感から、善良な市民を襲うような真似はせず、悪党や悪政を敷く者のみを狙い、また奪ったものは飢えている者達に分け与えていたとのことだ

「どうだい咲ちゃん。これでもまだ、彼女達を獣と罵るかい?」

「……興味ないな」

この子も素直じゃないな

 

 

「改めて礼を言うぞ、東零士殿。なんでも、私に用があるみたいだが?」

 

話が終わると、孫堅さんがこちらに話しかけてくれた

「あぁいや、用と言うほどの事でもないですよ。ただ、かの江東の虎がどのような人物か、一目見ておこうと思いまして」

そして、いずれ小覇王と謳われる孫策にもね

「そうか。なら協力してくれた礼だ。そちらがよければ、飯くらい食ってってもらいたいのだが」

「それはありがたい。では、ご好意に甘えさせて頂きます」

†††††

 

 

現在

「それから僕達は、孫堅さんの城がある建業に滞在する事になったんだ。初日にずいぶん気に入られてね。しばらく世話になったな。その間にもいろいろあったよ。呉の訓練に付き合ったり、釣りに出掛けたり。そうそう、呉で料理を作った時に凄く美味いって褒められてさ。『晋』をやるきっかけの一つだったんだよな」

四年以上も前の事だが、今でも昨日の事のように思い出せる。あの凛々しく、クールで、それでいて彼女の真名を表すかのように、内には炎を宿している。みんなの母親のような王。もし僕に制約がなくて、天下に興味があったら、間違いなく彼女についていただろう

「そう言えば、孫堅とは試合したのか?」

そう言えば、華雄ちゃんは孫堅と戦った事があるんだったな。かなり興味津々のようだ

「炎蓮さん…孫堅さんとは互角だったよ。彼女は本当に強かった。お互い武器なしの素手で戦ったんだけどさ、凄まじかったね。決着がつかなかったのが悔やまれるよ」

 

彼女との一騎打ちは、僕の人生の中でも屈指の激戦だっただろう。なにせ、朝から晩まで、ずっと打ち合うことになったからな

「零士、華雄、もうすぐ着くぞ」

華佗が僕達に呼びかける。気づかないうちに建業に着いていたようだ。ずいぶん話し込んでしまったな

 

†††††

 

 

城に入り、蓮華ちゃんの部屋へ目指す。ここには久しぶりに来たが、あまり変わってないみたいだ

「失礼するぞ」

 

華佗が一室の戸を開ける。中には二人の女性が居た

「華佗!ようやく来たか」

「ようやくね……あら?あ、東?何故ここに?」

「やぁ、蓮華ちゃんに思春ちゃん。久しぶりだね。今回、僕は華佗に頼まれて素材集めに協力していたんだ」

 

本当に久しぶりだ。彼女たちも、すっかり大人っぽくなってきちゃって

「そう。わざわざすまない。ん?咲夜は一緒じゃないの?」

「咲ちゃんなら『晋』だよ。今は僕がいなくても十分回せるようになったからね」

「そうか。久しぶりに会いたかったのだがな」

蓮華ちゃんは少し残念そうにしていた。そう言えば、蓮華ちゃんは咲ちゃんと仲良くしていたからな。歳も近かったし、気が合ったのだろう

「それよりも、蓮華様の薬は大丈夫なのか?かなり時間がかかったようだが」

 

思春ちゃんが華佗に問いかけ、話を戻した

「すまないな。少し手間取ってしまった。そっちは、言っておいた材料は集まったか?」

「問題ない」

 

思春ちゃんがなにやらよくわからない素材を見せてくれた。なんだろうこれ?なにかの尻尾にも見えるような…

「よし。さっそく調合しよう。貂蝉、卑弥呼、手伝ってくれ!」

「うむ。だぁりんの頼みなら仕方がないな」

「私達が、愛を込めて調合しちゃうわぁ」

華佗と貂蝉と卑弥呼は部屋を出て行った。そう言えば…

「ところで、一体蓮華ちゃんはなんの病に?僕は材料を詳しく知らないんだけれど」

「そ、それは…」

あれ?蓮華ちゃんが微妙な顔してる。そんなに深刻なのか?

「華雄ちゃんは、何か知ってるのかい?」

「ん?あぁ、確か生…」

「わーっ!わーっ!わーっ!」

「!?」

び、びっくりした。どうしたんだ突然。顔を赤くして、恥ずかしい病気なのだろうか

「すまないな東。蓮華様の為にも、聞いてやらないでくれ」

 

思春ちゃんが目を合わせないで言ってきた。触れちゃいけないようだ

「あ、うん。わかったよ……ところで、華雄ちゃん普通にいるけど、孫呉の方達には恨みがあったんじゃ」

話をそらす意味でも、すっごい今さらな質問をしてみた。じゃなきゃ空気が変な感じになりそうだったし

 

「あれは私の勝手な逆恨みだ。素直に自らの非を認め、謝ったさ」

おぉ!華雄ちゃんやっぱり成長したな。前までなら絶対認めていなかっただろうからな

ガチャン

「やっほー、華佗達が戻って来たんですってね!調子はどう……かしら」

「やぁ、雪蓮ちゃん。久しぶりだね。君にお土産として酒を持ってきたよ」

勢いよく扉が開かれ、雪蓮ちゃんが入ってきた。だが雪蓮ちゃんは僕を見るなりどういう訳か固まってしまった

「あれ?雪蓮ちゃん?」

「姉様?」

「………き」

き?

「きゃーーーーーー!!!」

ガチャ バタン!!バタバタバタバタ!!

「「「えー」」」

「なんだあいつ?」

雪蓮ちゃんは突然悲鳴を上げて、バタバタと走り去ってしまった。僕と蓮華ちゃんと思春ちゃんは信じられない光景を目にし揃って同じ反応を、華雄ちゃんだけが冷静に状況を見ていた

………あれ?僕、なにかしたっけ?

 

 

 


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