真・恋姫†無双 裏√   作:桐生キラ

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日常編其四
『晋』の恋愛事情


 

 

 

 

 

零士が龍退治に行って数日、今日も『晋』は通常通り営業している。お昼の一番混む時間を乗り越え、ようやく一息つく頃…

「んー…」

途中売り上げを確認していた詠が唸り声をあげていた

「どうしたの詠ちゃん?」

「ん?あぁいや、なんかここ最近、売り上げが落ちてる気がしてさ。確認してたんだけど、やっぱり落ちてるみたい」

 

売り上げが落ちている?

「そう言えば、いつも来てくれる常連さんの何人か、最近見てないね」

「確かに、最近料理の作り甲斐がない気はしていたが、そんなに落ちているのか?」

 

私は月の発言に同意し、詠に再度確認してもらう

「がた落ち、って訳じゃないけど、落ちているのは間違いないわ」

「へぅ…まずいよ詠ちゃん。東さんが居ない間に売り上げが落ちてるなんて…」

確かにこれは問題だ。過去最高の売り上げなんて言っていたのに、逆に落ちているなんて。これでは顔向けできない。これは真面目に、対策を考えないとまずいか

「んー…あぁやっぱり。わかりましたよ」

何かを確認するように帳簿を見ていた悠里は、何かに気づいたようだった

「何がわかったんだ?」

「売り上げが落ちた理由ですよ。この帳簿見る限り、売り上げが落ち始めたのはほんの数日前、つまり東さんが出てって二日後からなんですよ」

 

悠里は帳簿を片手に、なんてことない様子で答えた

「まさか、零士が居ないから来ないって、私の料理じゃダメだってことなのか…?」

自分で言ってて、少し悲しくなった。私はまだあいつの味を再現できてないんだな…

「いえいえ、味の問題じゃないと思いますよ。咲夜姉さんの料理、物によっては東おじさんのを越えてると思いますもん」

「ほ、本当か?」

「確かに。煮物とかは、咲夜の方が美味しいわ」

「私も、咲夜さんの肉じゃが、とっても大好きです」

う、やばい。ちょっと泣きそう。美味いって言ってもらえるのが、こんなに嬉しいって思った事ない…

「なら、何が問題なんだ?」

 

私は涙が出そうになるのを堪え、悠里に聞いてみた。なら、なにが原因なのだろう

「問題は、東おじさんが居ない事ですね。知ってました?東おじさんって、結構モテるんですよ」

はい?

 

「つまりあれか?あいつ目的で来てる客が居ないから、売り上げ落ちてるってのか?」

「確かに、見なくなった常連さんって、ほとんどが女性の方です」

「あー、納得だわ。確かに最近、女性受けする料理売れてないわ」

言われて気づく。確かに最近、豆腐ハンバーグやサンドイッチなど、いわゆる軽食や健康にいい料理を多く作っていな………ちょっと待て

「え?え?あいつって、女性に人気あるのか?」

ちょっと想像できなかったせいか、私はかなり動揺して聞いてしまった

悠里「結構いますねー。顔は渋くてかっこいい方だし、物腰は柔らかいし、話は聞いてくれますし。なんていうか、理想の大人の男って感じではあるんですよね」

嘘だろ?

 

「東さん、素敵ですよね…」

「月!?」

そんな私の感想とは真逆に、月がぼそりと呟いた。その月の発言に、詠は声を上げて驚いていた

 

「ゆ、月!考え直せ!零士だぞ?あいつはあれだ、鬼畜だぞ?人を貶めることに全力を掛けて愉悦を感じるような人間だぞ?それでもいいのか?」

私は反論する。こんな可愛い子が、あんな外道と一緒にいていいわけはない

 

「でも、私たちには優しいですよ?」

「そ、そうかもしれないが…」

確かにあいつは、身内には甘いが…

 

「月?さすがに東は…そ、そうよ。歳が離れすぎてると思うわ!(零士27歳)」

詠も反論してくれた。かなり苦しい言い訳だが

 

「そんな事ないと思うけど…それに詠ちゃんだって、この前東さんに買ってもらった髪留め、嬉しそうに眺めてたよね」

「ゆ、月!なんでそれを!?」

「ほっほーう?これは深く聞かなきゃいけないかなー?」

悠里は悪い顔して詠に詰め寄った。本来なら止めていたかもしれない。だが、私も少し、ほんっとうに少しだけ、興味があった

「べっ、別に大した事じゃないわよ!ただちょっと、この前買い出しについてった時に…」

†††††

 

 

「結構買ったわねぇ。これが全部無くなるって言うんだから、驚きよねー」

「それだけお客さんが来てくれるって事だね。ありがたい事だよ」

「そうねー。………あ」

「ん?あの雑貨屋さんが気になるかい?荷物は持っててあげるから、見ておいで」

「え?い、いいわよ!別に………」

「…ふむふむ。…店主、そこの髪留めをくれるかい?」

「へいまいど!こちらのお嬢さんにでいいのかい?」

「頼むよ」

「ちょ!なんで僕がそれ欲しいって…じゃなくて!なんで東が買ってんのよ!ホントいいわよ!」

「うーん…じゃあ、これはいつも頑張ってくれている詠ちゃんに、僕から感謝の気持ちとして、贈らせてくれないかな?」

「な!?…う、ど、どうしてもって言うんなら、貰ってあげないこともないわ!」

「ふふ。どうしても」

「あぅ……あ、ありがと…」

†††††

 

 

「かぁーっ!キザったらしいなぁ東おじさん!」

「その日以来、一日一回は、その髪留めを見てるんですよ」

「へ、へぇー」

なんだよ。ずいぶん優しいじゃないか零士のやつ。私には最近、そう言ったものは買ってくれないくせに

「月ちゃんは、東おじさんのどんなところにドキッとした?」

「へぅ、ど、ドキっですか…」

 

悠里は調子に乗って月にも聞いた。こいつ、楽しんでやがるな

「ほれほれー、いっちゃいなよー!!」

「あ、あの…」

†††††

 

 

「あ、東さん。おはようございます。朝ご飯もうすぐできますよ」

「おはよう月ちゃん。いつもありがとうね。手伝おうか?」

「大丈夫ですよ。もうできますので」

「そっか。うん。美味しそうだね。ありがとう。いただきます。……うーん、このお味噌汁、美味しいなぁ」

「本当ですか?」

「あぁ。僕なんかのより全然美味しいよ。うん!この魚も、程よい塩加減で美味しい」

「ありがとうございます」

「ほんと、月ちゃんのお味噌汁は毎朝食べたいなぁ。あ、なんか今の結婚の申し出みたいだね」

「け、結婚!?」

「うん。僕の国では、ベタな文句でさ。毎朝お前の味噌汁が食いたい、結婚してくれ!ってね。まぁ、実際そう言って結婚の申し出する人は見たことないけど……ってあれ?大丈夫月ちゃん?」

「へぅ……」

†††††

 

「結婚…だと…?」

 

あいつは犯罪者になりたいのか?

「へぅ…」

「あたしも毎朝月ちゃんのお味噌汁食べたいなぁ」

悠里の言動は放っておくとして、月がそんなにも零士と親しげにしていたとは思わなかった。確かに、月が料理をするようになってからは、一緒にいた時間が増えたようだったが。時間が増えたといえば…

「れーん!」

「…よんだ?」

私が恋を呼ぶと、恋は店の入り口からひょこっと顔を出し、こちらに近づいてきた

「恋、お前は零士の事どう思っている?」

そう。恋は何気に零士といる時間が多い。気づけば零士が恋をおんぶしているなんて光景、当たり前になりつつある

「……??」

「あー、恋ちゃん、東おじさんの事は好き?」

「………ん」

悠里が聞き直すと、少しの間をおいてから恋はコクリと頷いた。なんだか、判断しづらいな。この好きは、一体どういう意味の好きなのだろう

「うーん…恋さんにとって、東さんはどういう人ですか?」

「………………お父さん?」

なるほど。恋にとって零士は父親か。そうかそうか。なら背負われているのも頷けるな

「お父さんかぁ。そんな気はしてましたけど、面白味がないですねー」

 

やはり悠里は楽しんでいたのか

「そういう悠里さんは、東さんの事どう思っているんですか?」

「そうね。一人だけ言わないのは、公平じゃないわよね?」

「悠里、言え」

私は月と詠に便乗して迫った。こいつは一番の古株だが、私とべったりしているせいで、そういう話にはなった事がない。私がいじられる、なんてことはあるが

「あたしですか?もちろん好きですよ」

「…」

ずいぶんハッキリすんなり言われたせいで、私も月も詠も一瞬思考が停止してしまった。恋が私の裾を掴み「ご飯」と言ってくれなかったら、固まったままだったかもしれない

「あ、でも、みんなみたいに異性としてのそれかは、わかんないんですよねぇ」

 

悠里は付け足すように言った

「なによそれ。ハッキリしないわね」

「あくまで家族、そういう事ですか?」

「まぁ、もしかしたらそうかもしれません」

「は!お前だって面白味がないじゃないか」

なんだよ、結局は恋と一緒ってことか

 

「あはは!でも油断して、ダラダラしてたら、私があっという間にかっさらっちゃいますよ?俊足は、恋愛でも速いんです!」

 

え?

「へぅ、負けません!」

月まで何言ってるんだ?

 

「か、勝手にしたらいいんじゃない」

じゃあなんでそんなに顔が真っ赤なんだよ、詠

 

 

 

†††††

 

 

カランカラン

「やぁ、お邪魔するぞ」

「失礼します!」

「おっと!いらっしゃい」

入り口の鈴が鳴り、二人入ってきた。秋蘭と凪だ。珍しい時間に、珍しい組み合わせだな。いつもは二人とも、夜に来るのに

「あれ?珍しいですね。お二人がご一緒で、しかもこんな時間に来るなんて」

「私も凪も、先程まで仕事で昼食を逃してしまったからな」

「はい。私も秋蘭様も、今日は午後からの仕事はありませんので、一日ゆっくり『晋』で過ごせたらと思ったのですが、よろしいですか?」

 

なるほど。ま、今からの時間は暇だし、問題はないな

「あぁ、構わないぜ。飯はどうする?」

「夜も頂きたいからな、なにか軽めのものを頼む」

「私は……あれ?東さんはいらっしゃらないのですか?」

なに?まさかこいつ…

「お前、零士目当てか?」

「っ!」

「ちょ!咲夜姉さん雰囲気がヤバイですよ!なんかただの人殺しみたいな雰囲気出してますって!」

「む、悪かった」

「い、いえ。大丈夫です」

 

悠里に指摘され、私は感情を抑える。見れば凪、少し冷や汗を流していた。悪い事したな

「ちなみに東さんでしたら、華佗さんのお願いで龍退治に出かけました」

「龍か。それはなんとも、でかい仕事だな」

私と月は秋蘭たちにフレンチトーストを作ってあげた。サンドイッチか迷ったが、時間が時間だけにこういったお菓子のような食べ物にしておいた

「たまには…甘いものもいいですね」

「これは珈琲とよく合うな」

「これもまた、零士がこだわり抜いて作った品だからな」

 

どうやら好評のようだった

「あ!お二人は東おじさんの事どう思います?凪さんはわかりますが」

 

悠里が店内のテーブルを拭きながら聞いた。すると凪は顔を赤く染めていた

「ど、どうって……って!わかりますってどういうことですか!?」

「いやぁ、あれだけの熱視線で東おじさんの事見てたら…」

「あぁ。誰でもわかると思うぞ」

「あ、あわあわ…」

や、やっぱりそうなのか?あの熱っぽい目はやはり好意を抱いていたのか?

「……咲夜、あんたまさか、今気づいたんじゃ…」

詠の声にドキリとしてしまう

 

「な!?そんなわけないだろ!知っていたさもちろん」

おい。なんだお前らのその生暖かい視線は。そんな春蘭を見るような目で見るんじゃない!

「あ、あはは。あ、あの、ではまず凪さんから東さんのお話を聞きませんか?」

 

今日の月はずいぶん積極的だな

「い、いや、あの…」

「凪、別に無理にとは言わんさ。ただ、もし話してくれたら、力になれるかもしれないだろ?」

「あぅ…」

聞いていて、上手い事言ったなと思った。秋蘭の奴、実は悠里なみに楽しんでいないか?

「あの、東さんとお会いしたのはとある飲食店でして。多分初めて出会った頃から意識はしてたんだと思います。私の趣味を否定しませんでしたから…それで一緒に訓練をした日に、あの方の強さを知って。そしてその日褒めて下さった事がとても嬉しくて、それで…」

それからは、多分私達も知っている。よくうちにきては、零士と話していたからな。凪の趣味ってのは、恐らく激辛好きの事だろう。あれについていけるやつなんて、零士くらいしかいないからな

そして当の凪は顔を真っ赤にしていた。これ以上聞くと凪が壊れそうな気がした

「うわぁ、知ってたけど凪さんおっとめー!」

「悠里、あんまりいじってあげない。そろそろ爆発しちゃうわよ」

 

きっと、こういうのに慣れていないのだろう。凪は少しぐるぐると目を回しているようだった

「秋蘭さんはどうですか?」

そんな凪を休ませるかのように、月が話題を切り替え、秋蘭に問いかけた

 

「む、私か?そうだな…良い男だと思うぞ?気が利いて、包容力もある。華琳様と姉者程ではないにしろ、男の中では間違いなく一番じゃないかな」

少し楽しそうに言っているあたり、半分くらいは冗談かもしれないな。だがそれでも秋蘭が評価していることはわかった

そして包容力、という単語で、一人の姫君が零士にベタ惚れだったことを思い出す。雪蓮は確か、孫堅さんが亡くなった時に、零士に慰められ惚れた、なんて言っていたな。普段の雪蓮からは想像ができないが、零士を見ると恥ずかしくて上手く話せないくらい惚れていたはずだ

「へぅ、改めて、東さんって人気ありますね」

「これでも一角ですからねー。街を歩けば、もっと出てきそうなもんですよね」

「「はぁ…」」

月は感心したように、詠と凪は重いため息をつき、そして悠里と秋蘭はその光景を楽しそうに見ていた

恋が羨ましいな。私も、あいつを父親って見れたらよかったのかもしれないが…

「まぁでも」

すると悠里がこちらを見てニコッと笑った

「咲夜姉さんには敵わないんですよねぇ」

「ふふ。そうですね」

「そうね。勝てる気がしないわ」

「ずるいです…」

 

悠里の言葉に、月と詠が同意し、凪は少し恨めしい目でこっちを見てきた

「え?ど、どういうことだ?」

私は聞いてみた。すると秋蘭がため息交じりに口を開いた

 

「私もお前達とは長い付き合いだが、私の目から見ても、最初は…いや今でも夫婦かと思ったぞ」

「ふ、夫婦!?」

「…ん。咲夜は、お母さん」

な、ななな、何を言っているんだこいつらは

「あんた達、息ピッタリ過ぎるのよね」

「お料理の時でも、何も話していないのに、必要な時に調味料とか取って渡していたりしますしね」

「戦闘訓練でも、二人が組んだら敵無しなんじゃないですか?一度お二人と戦った時、攻める隙がありませんでしたもん。さらに思考まで似てるから容赦がない!」

「ま、まさか…もう既に結婚を…?」

「いや、確かまだのはずだ。咲夜がなかなか素直になれないからな」

「そ、そうですか…はぁ…」

 

私を置いてきぼりに、みんなが好き勝手話始めた。やばい、かなり熱くなってきた…

「そういえば、ちゃんと聞いた事ありませんでしたね。咲夜姉さん、東おじさんの事は好きですか?」

悠里の発言と共に、みんなが私に注目した。い、言えるかそんなこと!

私は無言を貫き通した。すると悠里がため息をつき一言

「はぁ、わかりました。では咲夜姉さん、私は東おじさんを籠絡しようと思います」

 

は?

「あ、わ、私も頑張っちゃいます」

月も!?

 

「一番の好敵手がこれなら、私にもまだ付け入る隙があるようですし、手は抜きません」

 

好敵手ってなんだよ、凪!

「ふむ、では私も、暇があれば東と時を過ごそうかな」

秋蘭まで何言ってんだよ!?

 

「…」

皆が皆、零士に詰め寄ると言った。詠は一人何も言わなかったが、目を逸らしたあたり、あいつもやる気だろう

 

く、どうしてこうなった!あぁーもう!

「あ、あいつは私の物だ!お前らの好きにはさせない!」

私は言ってやった。すると周りは一間置き…

『どうぞどうぞ』

全員が全員、手を差しだし、同じ言葉を発した

「お、お前ら…」

私はナイフを取り出した。こいつらおちょくりやがって。切り刻んでやろうか?

「あはは!まぁでも、冗談抜きで油断してたらかっさらうんで、そのおつもりで!」

「ふふ。気をつけてくださいね」

「ふ、ふん!」

「東さん…いつ帰ってくるかな」

「…おかわり」

「さてさて、どうなることやら。月よ、私は茶のおかわりを頼めるかな?」

な、なんなんだよ!本気なのか?みんな本気で零士を?わからん…て言うか、零士め。こんなにも女性に好かれやがって。帰ったら少しだけ優し………脅してやる!

ちなみに、売り上げは更新できなかった

あの後、一応話し合ったんだが、関心は既に恋愛方面に移っており、まともな会話にならなかった

ほんと、どうしてこうなった…

 




感想に咲夜についての意見があったので、少しだけ言い訳させてください!(笑)

TINAMIさんで上げてた時も指摘があったのですが、咲夜の設定については偶然なんです。この作品を書いていた当時、東方を知らなく、後でそういった指摘を受けて調べたら、咲夜って名前のナイフ使いが居ることにかなり驚きました。なので、特別意味があるわけじゃないんですよ。もし、不快に思われた人がいるなら、この場で謝罪します。申し訳ありませんでした。
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