この二年間の旅は、私に様々な出会いをもたらした。天水の月達や、呉の蓮華達、その他にも紹介し切れないほどの英傑達と出会った。そこで様々な事を学び、力を付け、いつしか人を護れる立場に立つことが出来た。しかし、私の中で賊に対する憎しみが消えることはなかった
そんなある日…
「!!零士!少し行った先の村が賊に襲われている!」
「よく見えたね…っておい!咲夜!チッ!」
数里先で燃えている家屋が見えると、私は既に走り始めていた。助けなければ…あんな思いをするのはダメだ。賊は絶対に殺す
「咲夜!乗れ!」
零士はバイクに乗り、追いかけてきた。魔術か。本当に便利な技だ。だがありがたい
私が零士の後ろに飛び乗ると、零士は全速力でバイクを走らせた。そして村に近づき、状況を確認した
よかった。まだ被害は少なそうだ。村人達がよく耐えてくれている…
「行くぞ咲夜。あまり無茶するなよ」
「わかってる!」
私は賊の群れに突っ込み、村人達を助ける
「なんだきさグァッ!」
「あ、あなたは…」
「大丈夫か!助けに来たぞ!」
賊が振り向いた瞬間、私は賊の首を切り裂き、襲われそうになっていた村人を助けた。その様子に気づいた賊どもが私に対し殺気をむき出しにする
「この数相手に、たった一人か?笑わせるぜ!」
「は!ひん剥いてヤッちまおうぜ!」
「下衆が…」
私は村人達を守りつつ、賊を次々と切り刻んでいった。数はいたが、一人一人は大した事はないし、既に零士が過半数を潰していた
「ふむ、これで終わりか?」
零士が感情のない冷たい眼差しで賊を睨んだ
「ヒィッ!ば、バケモノー!!」
賊の一人が逃げ出すと、残りも次々と逃げ出していった。チッ!逃がすか!
「待て咲夜」
「あぁ?なんで止めるんだ?」
私は零士に止められてしまった。クソッ!逃げられた。逃げ足の速い…
「おい、賊を放っておけば、後々面倒になるぞ」
「あぁ。だが、その前に怪我人の手当てが先だろ?手伝うんだ」
私は村を見渡す。村人の多くが傷を負っていたが、死人はいないようだ。上々の結果だな
私は零士が魔術で出した包帯を配っていく。零士曰く、薬も出せない事はないらしいが、成分が細かいので疲れやすいらしい。だが今回は、そんな疲れる思いはしなくて済みそうだった
「な!おい君!大丈夫か!?」
赤毛の、零士と同じくらいの年齢の男がやってきた
「いてぇよぉ…血が、止まんねぁ…」
「待ってろ!今助けてやる。ハァァァッ!見えた!元気になぁぁれぇぇぇ!!」
男は突然叫び声をあげ、鍼を村人に刺した。あいつは、一体何をしているんだ?
すると突然、まばゆい光が辺りを照らした
「治療、完了!」
「え?す、すげぇ!痛みがない!血も止まった!」
村人は、先ほどまで苦しんでいたのが嘘だったかのように飛び跳ねた。あいつは一体何者だ?
「俺は華佗!五斗米道の医者だ!重傷者から見ていくから並んで待っててくれ!」
それから、華佗と名乗った男は次々に村人を治していった
「御三方!この度は助けていただき、誠に感謝します。私はこの村の村長、村を代表して、お礼をさせてください!」
村長が私たちにお礼言いに来た。私も零士も華佗と呼ばれた男も、そろって首を横に振った
「礼はいい。当然の事をしたまでだ!」
「彼の言うとおりです。それに、たまたま運が良かっただけです。そんなに気にしないで下さい」
「しかし…」
「いいんだよ。それより、華佗って言ったか?お前、何者だ?」
私は話しを逸らすつもりもかねて、華佗に話しかけた
「俺か?俺は五斗米道という宗派で、医術を学んでいる者だ。現在は修行中で、大陸を渡り歩いている。いつかこの大陸に巣食う病魔を全て取り除くのが、俺の目標だ!」
な、なんていうか、熱い男だな…それに、あの五斗米道か。結構昔から聞く医療を生業としている連中だな
「そ、そうか。私は司馬懿。私も大陸を旅している。そしてこいつが…」
「東零士。同じく大陸を渡り歩いているものだ。よろしくな」
軽い自己紹介を済ませ、零士と華佗は村長と何やら話し始めた。私は大して興味もなかったので、外で待っている事にした
村人達は怪我を負いつつも、皆が協力して村の復興に当たっていた。私は、ここの人達を守れた。その事実に確かな充足感を感じていた。それと同時に、もし、あの日私の村の人間も皆無事だったら…などとも考えてしまった。過去を悔いても、仕方ないのにな…
「はぁ…はぁ…」
私がもの思いにふけっていると、一人の女性が何やら慌てて何かを探しているようだった
「どうかしたのか?」
私は特にやる事もなかったので話しかけてみた。すると女性は涙を溜めて私にしがみついてきた
「はぁはぁ…い、いないんです!私の、子どもが…他の方の子も…」
「なに!?」
まさか、賊に連れて行かれたのか?
「おい!本当にいないのか?」
「はい…みんなで探しているんですが…どこにも…」
チッ!最悪だな
「待ってろ!私が探してやる!」
逃げ込んだ場所はだいたいわかる。あの程度なら、私一人でも…
†††††
「この辺りに……見つけた。あれか」
私は賊が逃げ込んだ森の中に入っていった。零士に学んだサバイバル術のおかげで、賊の足跡を辿る事も成功した。そしてしばらく進むと、洞窟を発見する。間違いない。あそこだ
「さて…人質の確保が先か、それとも…」
殲滅が先か。内部の構造を把握していない分、慎重に動かなければならない。見つかるのはマズイ。人質の命に関わってくるからな
「となると、まずは人質を見つけるか」
私は地形を記憶しつつ、洞窟内を探索し始める。なかなか入り組んではいたが、迷うほどじゃないな…おっと!
「ふぁぁ…ねみぃ。ったく!巡回なんて必要かね」
賊の一人がダラダラとこちらに向かっている。好都合だ。奴に聞くか
「布団にくるまりムグッ!」
私は賊の口を塞ぎ、喉にナイフを当て、物陰に引き込んだ。チッ、暴れやがる
「大人しくしろ。刃が食い込むぞ」
私は強めにナイフを押し当てた。賊の喉からツーッと血が流れる
「………」
すると賊は大人しくなった
「利口だな。さっそくだが、お前達が連れて行った子ども達はどこだ。必要の無い事以外は言うな。言ったら殺す」
私はナイフを押し当てたまま、賊の口を解放した。賊は数度咳き込み、そして弱々しく答えた
「この先を、少し行って、左に、牢がある…」
私は再び賊の口を塞いだ
「本当だな?」
賊は頷く。場所は割れた。救出前に退路の確保をしなければな
「おっと。御苦労だったな。もう逝っていいぞ」
「こかぁっ……」
私は賊の喉を切り裂いた。賊は少しのたうちまわり、やがて倒れ、血だまりを作った
「きったね」
さぁ、この辺一帯の消毒が終わったら、牢を覗いてみるか
私は牢屋に訪れる前に、この洞窟内の地形を全て記憶した。宝物庫、食料庫、寝室、そして大広間。出口は二つあったな。その後は賊が教えてくれた場所に進み、牢屋を視認する。ここからなら、二つ目の出口が近いな。救出後はそこに行こう
「警備は…二人か。しかも寝ている。やる気あるのか?」
私はナイフを握りしめる。静かに…静かに近寄り…さぁ、永眠のじか…
「あ、あなたは?」
私が寝ている賊の一人を殺そうとすると、牢に入っている一人の女と目が合ってしまった
な!この桃色!喋んなよ!
「おっあっぐっ!」
私が一人の首を刺し殺す頃、人質の一人が喋り出した。そしてその声で、もう一人が起きてしまった
「な、なんだ貴様!」
「チッ!死ね」
私はナイフで賊を切り刻んだ。ちくしょう、ヒヤヒヤしたな
「はぁ…おい。助けにきたぞ」
人質は、この桃色を含めて5人か
「!あ、ありがとうございます!みんな!助かるよ!」
「ほ、ほんと?」
「おうち、帰れる?」
「うん!みんなで帰ろう!」
チッ!このバカ女、声がでけぇ
「おい、もう少し静かにしろ。見つかりたいのか?」
「あぅ。ごめんなさい…」
桃色バカ女はシュンとした。こいつより、子ども達の方が利口だな
「はぁ…これで全員か?」
「はい。あの、本当に助かりました!」
この桃色、年は私と同じくらいか。その割りには、ずいぶん発育がいいな。私もそこそこあると、思っていたんだがな
私は警備から鍵を奪い、牢屋を開けて行く。さて、ここからが本番だな。この頭のユルそうなバカ女が騒ぐ前に脱出できれば上々だ
「みんな、シーっだよ!」
お前が一番黙れ
「あの、ところであなたは?」
もうすぐ出口、というところで、桃色が話しかけてきた。ここまでは順調だな
「あぁ?お前らの村を襲った賊を追い払ったしがない旅人だよ」
私は警戒しつつ、話に付き合ってやることにした
「ほぇー、凄いんですね。羨ましいなぁ」
バカ女は能天気に答えた。いちいち腹立つな
「なにがだ?」
「私も、みんなを守りたいんですけど、闘うとか苦手で。いつも、みんなの邪魔ばっかりしちゃうんですよね」
見ればわかる。じゃなきゃこんな所にいないだろう
「だろうな」
「あぅ、そんな正直に答えられると、さすがに傷つきます…」
「知るかよ。…お前、そうやって誰かを助けたいって思って、実際何かしたか?」
「どういう事ですか?」
「例えば、私は二年前に賊に家族を奪われた。その時に、自分の無力さを呪ったよ。以来、私は鍛錬を怠っていない。その結果、今はこうして、お前達を守れる立場にいる。お前はどうだ?」
私は、何を話しているんだろうな。なんでこんな話、こんなバカ女に…
「私は、その、痛いのとかはちょっと…」
「それで、なんの努力もしてこなかったのか?苦手だと、切り捨てて」
「…」
甘ったれるなよ
「いいかバカ女。力が無きゃ、なにも救えない。だから力を付けろ。本気で誰かを助けたいならな」
私は自分の声に怒気が混じっているのに気付いた。きっと、過去を思い出してしまったのだろう
「力だけじゃ…平和になりません…」
「あぁ?」
「私は、あなたとは違います。私はもっと、別の方法で、みんなを助けたい!」
バカ女の声に熱が入る
「綺麗事だな。結局は力に頼るぞ」
それとは対照的に、私の声は冷めている
「そんな事ありません!」
「なら、今のこの状況、武力以外で切り抜けられるのか?」
「それは…」
バカ女は黙った。こいつは、今の状況も含めて、現実を理解していない
「もっと現実を見ろ。今のままじゃ、ただの夢想家だ。理想だけじゃ人は救えない。話し合いで世界が平和になるほど、この世は甘くない。守るための力を、身につけるんだ」
「守るための、力…」
「あぁ。よし、出口が見えた。帰れるぞ」
私は出口を確認する。出口から光が漏れている
「あの、私にも、誰かを守れるかな?」
バカ女はうつむいたまま聞いてきた
「さぁな。お前の頑張り次第じゃないか?バカ女」
「もう!さっきからバカバカ言わないでくださいよ!私には劉…」
「待て!来やがったぜ」
出口に出たところで、洞窟内から複数の賊が押し寄せてきた
「さっさと行け!」
出口の外には橋か…使えるな
「あなたは!」
「いいから行け!時間を稼いでやる!」
「でも!」
「バカ女!守りたいんだろ?最初の仕事だ。その子ども達を無事に村まで連れて行け。わかったな!」
「!!…わかりました。死なないでください。助けを呼んできますから!」
あのバカ女は、子ども達を連れて橋を渡り切ったな。さてと…
ザシュ ガシャーン
私は橋を切り落とした。これで、賊共は追えないはずだ。まぁ、私も帰れなくなったがな
「ハッ!関係ないか。さぁ賊共、お前らに明日はないぞ!」
そして私は、賊の群れに突っ込んで行った
†††††
ピンク髪の女の子視点
「はぁ…はぁ…もうすぐだよ!みんな頑張ろ!」
私は洞窟を抜けた後、一目散に村を目指した。私たちが橋を渡ってしばらくすると、何かが崩れる音が聞こえたけど、あの人は大丈夫かな?………あ!
「名前、聞いてなかったな。あれ?私も名前言ったっきゃうっ!」
痛!つ、つまずいちゃった…
「劉備おねえちゃん大丈夫?」
「え、えへへー、大丈夫だよー!」
子どもに心配されちゃうなんて…うぅ。恥ずかしいなぁ…あ、村が見えてきた!
「うわぁーん!かあさまー!」
「あぁ、よかった…本当によかった…劉備ちゃん、本当にありがとうね」
「い、いえいえ!私はなにも…あ!村長ー!」
子ども達が親のもとへ帰るのを確認してから、私は村長のもとへ駈け出した。あの人を、あの人を助けなきゃ!
「おぉ劉備!無事じゃったか!」
「村長!今すぐみんなで洞窟に!私を助けてくれた人がまだ!」
「心配せずともよい。先ほどとんでもなく強い御仁が向かった。会わんだか?」
もう向かった?あの人の仲間かな?
「い、いえ。でも、それならよかったぁ…」
私はここで緊張の糸が切れ、脱力し、気を失ってしまった
守るための力、かぁ…
私でも、誰かを助けられるのかな…
んーん、助けるんだ
私一人じゃダメかもしれないけど
いろんな人と協力して
いつか、みんなが笑って暮らせる世界を………