「ぎゃーー!!」
「はぁ…はぁ…」
一体、どれほどの賊を殺したのだろう
「てんめぇ、よくも!ゴァッ!」
斬っても斬っても、切りが無い
「女一人に何やってやがる!全員で一斉にかかれ!」
「ハァァァァッ!」
襲ってくる賊を全て返り討ちにしていくうちに
私の周りは屍で溢れ、体は返り血で染まっていた
「な、なんなんだよこいつ!」
「怯むな!奴も人間だ!必ず殺せる!」
「はぁはぁ…その前に、私が殺してやるがな」
終わりが見えないな。殺した数も、百を越えた辺りから、数える事をやめた
「チッ!どんだけいやがる!」
見誤ってしまったな。まさか、これ程とは…だが
「舐めるなよ!」
私はそれからも、次々と賊を殺していった。同士討ちを誘ったり、ナイフで切り裂いたり、奪った槍で突き刺したり、剣で首を刎ねたり…そろそろ千人斬り達成するんじゃないか?
「ヒィッ!化け物!」
はっ!とうとう、私も化け物判定か。悪くないな…
「うっ!」
足場がどんどん屍で埋まっていったせいか、私はその一つに躓いてしまった。しまった!態勢が…
「今だ!やっちまグハッ!」
私はすんでのところで、槍を突き出し、賊の一人を殺す事が出来た。だが、私は完全に態勢を崩してしまい、倒れてしまった。そして容赦無く、賊が押し寄せてくる
そんな…
こんなところで終わるのか?
力を付けたのに、私はまた負けるのか?
クソ!クソ!クソ!
こんなはずじゃない!
まだいけるだろ!
動け!
動けよぉぉぉぉっ!!
ダダダダァン!!
「!!」
雷鳴のような音が洞窟内に響き渡る。これは…銃声?
「今のは危なかった。無事か咲夜?」
気付くと、私に向かっていた賊達は皆蜂の巣になっていた。その奥には、零士が銃を構えて立っていた
「わ、悪い…」
また、こいつに守られてしまったな。一人で飛び出したくせに、格好悪い…
「休んでいなよ。だいぶ派手にやったみたいだしね」
それからの行動は早かった。零士は瞬く間に賊を殲滅。逃げて行く奴らも容赦無く殺していった。洞窟内は死臭と屍で満ちていた
「はぁ…咲夜、何故一人で出た?」
賊の掃討が終わると、零士は私に近づき、語りかけてきた
「早く助けなきゃマズイって思って」
半分は本当だが、もう半分は私一人で賊を全滅できると思ったからだ。結果、零士に助けられたがな。私もまだまだだ…
「とりあえず、ここを出よう。話はそれからだ。さぁ、掴まれ」
零士は私に手を差し伸べる。私はそれに捕まろうと手を伸ばすが…
「今だ!やっちまえー!」
数多の屍に紛れ、賊の生き残りが一斉に襲い掛かってきた
マズイ!対処しきれない!
ザシュグサッブシャッ
刃物が肉に突き刺さる嫌な音が聞こえた
「…?」
私は咄嗟に防御しようと構えた。だがおかしなことが起きた。攻撃がこない?私はこの時、目をつむってしまっていたため、状況を理解できていなかった。そして目を開けると…
「……あ、あぁ…零士!!」
零士が私を庇って、攻撃を防いでくれていた。剣や槍が刺さり、体は切り傷でいっぱいで、瞳からも血を流していた
「……っ!」
零士は咄嗟に長刀を出現させ、残りの賊共を真っ二つにした。そして膝をついた
「零士!おい零士!大丈夫か!?」
私のせいだ…私が一人で来たから…
「はは…ドラマや映画でよくある、誰かを庇って傷つくなんて…バカのする事だと思ったけど…なるほど、こんな気持ちなのか…」
零士の体はいたるところから出血していた。声も心なしか、少し弱々しい
「零士ごめん!…私が、私がもっと考えて行動してたら…」
「ふふ…学んでくれてよかったよ…もう、こんな無茶、しないって約束してくれるかい?」
「あぁする!だからもう喋るな!出血が酷い…このままじゃ…」
私は零士を抱え、出口を目指す。地面は賊の死体で埋め尽くされていて歩きにくい。クソ!急いでるってのに!
「咲夜…この二年間、君といられて楽しかったよ…」
「おいやめろ!そんな事言うな!まだ死ぬ訳じゃねーだろ!」
自然と、涙が零れた
「あはは…悪くない最期だ…」
涙を止めることができなかった
「ダメだ!零士逝くな!逝かないでくれ!私を…私をまた一人にしないでくれ…」
村の皆を失って、家族を失って、今度は零士まで、私のそばから離れようとしている。私は、私はまた失うのか?また、あんな悲しい思いをしなきゃいけないのか?せっかく助けてもらったのに…せっかく心の底から楽しいって思えたのに…せっかく好きになれたのに…こんな事って…
「この辺りはひど…!零士!どうした!?」
「お前…華佗か…?」
私が零士を抱え泣いていると、華佗が奥からやって来た
「酷い傷だ。出血も激しい。とりあえずここで応急処置をする。幸いな事に、五斗米道の支部がこの近くにある。応急処置が済んだら、そこへ向かおう!」
「零士…助かるのか…?」
私は涙声で華佗に問いかけた。すると華佗は満面の笑みで答えてくれた
「あぁ!必ず助けてみせる!」
それから華佗は鍼治療を施す。ただ物資が足りないのか、止血と軽い切り傷を癒す程度しかできなかった。さらに…
「まずい!眼球をやられている!このままじゃ視力を失うぞ!」
「な!…早く!その支部があるところに行くぞ!」
最悪だ…本当にまずい!
†††††
私と華佗は零士を抱え走り出した。そして村とは反対方向にある道を駆け、森に囲まれた民家に辿り着いた。そこには、華佗の同業者らしき者がいた
「すまない!急患だ!手伝ってくれ!」
「華佗?…なんと!?酷い傷だ。すぐ手術の準備を始める!」
「あ、あの!絶対、絶対に助けてくれ!そいつは私の…」
「任せろ!俺の患者は、誰一人死なせない!」
それからの数刻、私は扉の前でひたすら待ち続けた。中から聞こえる激しい声に、一抹の不安を抱きながら。そして…
「ふぅ」
体中汗まみれの医者が部屋から出てきた
「おい!零士は無事なのか?」
私は医者に詰め寄った。すると医者は笑顔でこう答えた
「華佗の応急処置が幸いしたな。あれがなければ、今頃出血死していただろう。それを抜きにしても、あの男の生命力には驚いたがな。あれだけの傷を受けて生きている者など、今まで見たことがない」
「それじゃあ…」
「あぁ。手術は成功。あの男は生きている」
「そうか…」
私は脱力し、膝をついた。そして、また涙が零れ始めた
「ありがとう!…本当にありがとう!」
「礼なら華佗に言うといい。この手術も、実質あいつの力だ。まぁ、力を、使い果たした分、今は寝てしまっているがな」
「それでも、救ってくれて、感謝する…」
「医者として、当然の事をしたまでだ。さぁ、お嬢さんも休みなさい。疲れただろう」
それから医者は、私に布団と果物を用意し、部屋に帰っていった。私は、零士が寝ているとされる部屋に入り、零士のそばにいた。零士は、左眼の部分に布を巻かれていた
「……なんで、私を庇ったんだよ…」
私は零士に問いかける。あの時の私に、救われる資格なんてなかったはずだ
「お前は…なんで怒ってくれないんだよ…」
それでもこいつは私を助けた。愚かにも私怨に囚われ、一人で突っ込み、人質を助けた事でいい気になっていた
「なんとか、言えよ…」
こいつは、以前からずっと忠告してくれていた。冷静になれと。だけど私は無視ししていた。力を手にし、思い上がっていた
「私は、お前が好きなんだ…二年前、救われた時からずっと…だから、ずっとそばにいてくれよ…」
こいつにはずっと支え続けられてきた。この二年の旅は、本当に楽しかった。これからもずっと続くと思っていた
「もう…絶対に一人で突っ走ったりしない…忘れる事はできなくても、冷静でいるように努める…だから…」
一人にしないでくれ…
「………約束、守れるかい?」
「!!零士!」
零士の右眼が開き、こちらを覗いてきた。よかった…生きてた…
「はは、心配かけたかな?」
声は少し弱弱しいが、余裕はありそうだ。峠は越えたみたいだな
「当たり前だろ…ばか…」
「咲夜、君の気持ちは理解しているが、僕は復讐の為に力を与えたわけじゃない。力を得ることで、できることは確かに増える。だが同時に、力を手にしたその時から、君はもう奪う側の人間でもある。そしてその力の使い方を間違えたら、それは賊と変わらない。力の使い道を私欲に使ってしまったら、それはただの獣なんだ。それだけは、忘れちゃいけない。もし忘れたら、君は君の大切なものを失ってしまう。咲夜のその力は守るための力だ。殺すためじゃない。わかったかい?」
「わかった…」
「もう、間違えないと、約束できるかい?」
零士は真っ直ぐ私を見つめて言った。答えは決まっている。私はもう、二度と違えない。私にはもう、失いたくない大切な人がいる
「あぁ。約束する…」
そして私は口付けをした。全ての想いをのせて…
†††††
「華佗。世話になったね」
二日後には、零士は完治していた。五斗米道の力が凄いのか、こいつの回復力が半端ないのか、判断しづらいところだった
「あぁ、だがすまん。お前の左眼は…」
あの時受けた傷のせいで、左眼だけは完治できなかった。傷は消せても、視力だけは回復しなかったようだ
「大丈夫だよ。まだ微妙に見えるし。それに今後は…」
零士は突然、私にもたれかかってきた
「お、おい!」
「咲ちゃんに支えてもらうから、なんともないよ。いいよね?咲ちゃん」
「お前…」
本当に勝手だ。だけど、嫌な気分ではない
「旅は続けるのか?」
「いや、もうだいたい会いたい人には会ったし、どこかに定住しようと思っているよ」
「な!いいのか?まだ曹操と劉備だったか?には会ってないぞ」
こいつの旅の目的である、後の英雄に会いに行くといもので、孫堅、孫策には会えたが、曹操と劉備はまだのはずだ
「大丈夫。会える目処はたってる。咲ちゃん、許昌に行くよ」
「許昌か。ここからなら近いな。だが、あそこには何もないぞ?」
華佗が言った。確かにあそこは、特になにと聞かないな
「ふふ。今はね。だがすぐに発展するさ。いずれ曹操とも、そこで会えるはずだ」
「未来の知識、ってやつか?」
私が聞くと、零士はニコッと笑った
「そういう事だ。じゃあ華佗、そろそろ行くよ。助けてくれて、ありがとう。許昌では飲食店をやるつもりだから、いつでも来てくれ」
飲食店?こいつは本当に、相談無しで決めていくな
「わかった!道中気をつけてくれ!」
「華佗、世話になった。ありがとう。今後は咲夜と呼んでくれ」
「いいのか?俺は五斗米道の教えで、真名を教える事はできないんだが…」
華佗が少し申し訳なさそうな表情で言った。そんなことは気にしなくていいのに。こいつには大恩があるのだから
「いいんだ。受け取ってくれ」
「…わかった。咲夜も気をつけてくれよ!」
そして私たちは、許昌を目指す最後の旅をした。その旅が、どことなく寂しく感じられた。
やがて、私たちは許昌に辿り着く。許昌の街は、広い割りには活気がなく、どこかさみし気だった
「よし、許可は取ってあるし、ここに店を構えよう」
私と零士は許昌の角にやってきた。人通りは多くはない。静かな場所だ
「金はあるのか?」
「ん?」
「…」
私が聞くと同時に零士が指を鳴らすと、立派な建物が現れた。魔術がいちいち反則過ぎる
「なかなかの外装だな。中も悪くない」
私は建物を確認していく。木造建築でとても落ち着いた雰囲気。厨房は見たこともない機材でいっぱいだった。恐らく未来の便利品だろう
「さて、僕はここで飲食店をするつもりだよ。許昌の物流は悪くないし、僕の世界の料理なら絶対に受けるみたいだしね。咲夜、君はどうする?」
「は?何言ってんだ?私もやるに決まってるだろ」
こいつは何を今さら…
「…いいのかい?君程の力があれば、多くの人を助けられるんだぞ?」
そうかもしれないし、ついこの間まではどこかに仕官も考えていた。私の力が誰かを救うかもしれないから。だが…
「だとしても、私はお前と一緒に生きていくと決めたんだ。それが飲食店をやることでも、関係ない。私は、私の大切な人を守れたら、それでいい」
もう私は、こいつ意外に興味はない。傷を負わせた償い、と言うわけではないが、私はこいつと共に生きたい
「そっか…なら、今後とも、よろしく頼むよ。咲夜」
それからも、様々な出会いがあり、大切な人が増えていき、そして…
†††††
現在
これが、私と零士の今がある道程。こいつの左眼は、私の責任だ。許されるはずがないんだ
「咲夜、そんなに気を遣わなくていい。僕は今までも上手くやってこれたし、これからもやっていける。だから、大丈夫だよ」
「上手くいってないから、死にかけたんだろ?」
私がそういうと、零士は微妙な笑顔を見せた
「あー、はは。油断してたらね。ずいぶんと衰えたもんだよ」
「なんでお前は…そうやって笑っていられるんだよ…」
こいつはいつだってそうだ。何があっても、笑って受け流す
「それでも僕は生きているからかな。生きている限り、笑ってなきゃ勿体無いだろ?」
だからって…
「私はお前が心配だ…いつか、いなくなってしまいそうで…」
私は知っている。こいつは冷静だが、その癖に無茶をしたがる。私に約束させといて、自分の事は棚に上げる。本当に勝手だ…
「………そういえば咲夜、四年前の答え、聞かせて欲しいな」
四年前の、答え?
「僕は咲夜を支える。だから、咲夜は僕を支えてほしい」
言われて気づく。確かに、私はあの時、ちゃんと答えを言っていなかったな
「当たり前だ。私はお前を支える。お前は、私の大切な相棒だから…」
そして私は、零士を手放さないかのように、二度目の口付けを交わした