真・恋姫†無双 裏√   作:桐生キラ

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魏の大食漢とその保護者達

 

 

 

 

 

うちの店『晋』は、美味い、安い、量が多い、さらには美女揃いということで、かなりの集客率を上げてきた。そして基本は来る者拒まずの精神で、明らかに柄の悪い輩でも、一旦は店に入れてあげる。その後、もし店で暴れたら、恋による制裁が入るがな

そんな『晋』でも、出入り禁止制度は実装されていたりする。だが完全な出入り禁、というわけではない。月に一度だけ、入店は許可している

 

 

そして今日は、その入店許可日だ

「邪魔するぞー!」

「はー、一ヶ月長かったなー」

ぞろぞろと入ってくるのは、うちの店の要注意人物でも上位にのぼる二人、春蘭と季衣だ

「は!き、来ました。みなさん戦闘態勢です!」

「今日は体力をばっちり残してあるから負けないわよ!」

月と詠の言動、決して大袈裟ではない。春蘭と季衣は本当によく食う。それこそ、恋並に食っていく。おかげで、こいつらが来ると在庫が空になりかねない

「すまんな、咲夜。迷惑をかける」

「東さんも、本当にすいません」

春蘭、季衣の後から秋蘭、流琉が申し訳なさそうに現れる。この二人は、それぞれの保護者的立場にある良識人だ

「気にするな。きちんと金は払ってくれてるんだ。問題は…ない事はないがまぁいいさ」

そう。うちは料金設定を安めにしているため、在庫を空にされるほど食われると、微妙に赤字になってしまうことが稀にある。それ故に、こいつらは月一の入店と制約を設けた

「そういう事。さぁ、二人も食べてってくれ」

そして四人が円卓席についていく

「へっへー!食らいつくしてやる!」

「はっはっはーっ!行くぞ『晋』よ!食料の貯蔵は十分か!?」

試合開始だな

†††††

 

 

「姉さん!揚げ物、全滅します!補充急いでください!」

「なに!ちょっと待ってろ!」

「丼物ももうすぐやられるわ!あいつら、どんな胃袋してんのよ!」

「へぅ~目が回りますぅ~」

「まずいな、手が足りない」

 

私たちは凄い勢いで料理を作っていった。たった四人しかいないのに、一度に作る量は10人前を越える程だ。それでも間に合っていないらしい。えぇい!あいつらの胃は化け物か!

「そんなものか『晋』!」

「姉者…もう少し落ち着いて食えんのか」

「一ヶ月我慢した分、ここで晴らしてもらうよ!」

「季衣もはしたないよぉ。…あのぉ、お手伝いしましょうか?」

流琉が申し訳なさそうに言ってくれた。魅力的な提案だが、客に手伝ってもらうのは…

 

「マジで!?うんうん!ちょっと手伝って流琉ちゃん!」

「おいこら悠里。何勝手に決めてやがる」

 

私は悠里の首根っこを掴む。こいつはまったく…

「あぁいや、大丈夫です!それに、『晋』さんの調理に携われるなんて光栄です!」

「ここってそんなに有名なの?」

 

詠が聞いた。聞きたくなる気持ちはわかる。光栄だなんて言い過ぎだろ

「多分、料理人で知らない人はいないくらいではないでしょうか?あの華琳様が絶賛された店ですから!」

へぇ、あの華琳がねぇ。そりゃ納得だわな

「それは僕も初耳だね。はい!焼きそばとお好み焼き、それぞれ20人前お待ち!」

「うわぁ、凄い…」

零士はとんでもない量の焼きそばと、とてつもなくデカイお好み焼き二枚を一気に持ってきた。お好み焼き、よくあの大きさで作れたな

「さぁ流琉ちゃん、お言葉に甘えて、少し手伝ってもらおうかな」

「はい!」

零士が流琉の入店を許可すると、流琉は目を輝かせて喜んだ

 

†††††

 

 

 

「す、凄い…お城にもないような調味料がいっぱいある」

流琉は早速厨房に入り、材料を見ていく。うちには各所から取り寄せた様々な調味料に加え、零士が独自で研究、開発した調味料がある。料理人でもある流琉からしたら、なかなか興味深いところだったらしい

「ふふ。後でいくらでも見せてあげるから、今は少し手伝ってくれるかな?お客様がお待ちのようだ」

「は、はい!」

「じゃあ流琉、ここの野菜を一口大に切っといてくれ。それが終わったら野菜を鍋にぶち込んで、この調味料と一緒に炒めといてくれ」

「はい!」

その後、流琉の協力もあり、なんとかさばいて行く。流石に、華琳が認めただけはあるな。動きに無駄がない。流琉のあの技量、うちに欲しいくらいだ

「クッ!そろそろ限界か…」

「かなり食べたけど…まだ…」

あの大食らい共も、そろそろ満腹らしいな

「零士、あれやるのか?」

「せっかく準備したんだ。やらなきゃ損じゃないかな」

 

私が聞くと、零士は料理を作りながら笑顔で言った

「りょーかい、準備する。流琉、助かったよ。後はこっちでやるよ」

「もういいのですか?」

「あぁ。今からちょっとした芸を見せてやるよ」

「芸?」

困惑する流琉をよそに、零士は巨大な鉄板を芸人用に作った小さな舞台に持って行く。そしてそこで火を付け、鉄板を温めていった

「零士、ほら、材料持ってきたぞ」

私はバターを筆頭とした様々な調味料に米、ニンニク、ネギ、玉ねぎ、卵、さらにかなり大きめの肉の塊を持ってきた

「さて、では始めますか」

零士は大きめの包丁を出し、豪快に調理を始めた

「ほぅ。調理するところを見せてくれるのか」

「あぁ、零士式鉄板焼きだ。まぁ見てな」

「ではでは皆さん、しばしお付き合い下さい」

零士はまず、玉ねぎやニンニクを細切れに刻み、そして鉄板で炒めていく。すると、なかなか香ばしい香りが漂ってくる

「ほぉ、これは」

「いい匂ーい!」

春蘭や季衣だけじゃなく、この時に来ていた他の客も、視線を零士に向け、生唾を飲んでいた

「よっ!」

次に零士は、巨大な肉の塊を空中に投げ、それを包丁で一瞬で一口大に刻んでいく。それを見たお客から、歓声の声が上がる

「そしてちょっとだけ、派手にいこう!」

零士は肉を炒めつつ、少量の酒をまいていく。すると大きく火の手が上がった

「だ、大丈夫なのか?」

 

春蘭がおろおろと心配していた。零士がそんなヘマするわけないだろ

「ちゃんと調整はしてますよっと!」

ある程度肉を焼いていったら、今度はご飯を投入する。それを先ほどまで炒めたものと混ぜていき、そしてといでおいた卵をかけていく。ジューっという良い音が、さらに客の腹の虫を刺激したのか、待ちきれないといった様子だ

「最後に調味料で調整して……はい!お待たせしました。本日限定、特製肉炒飯です!」

「食べたい人は、こちらからお渡しします!」

「並んで待ってください!」

月は出来た物を皿に移していき、詠が列の整理をしている。店にいた客の大半が並んだ。こうして実際調理しているところを見せ、食欲を刺激するのがこの芸の狙いだ。今回は試験的にやってみたが、結構受けたし、今後もちょくちょくやってみるか

「む、季衣!急ぐぞ!なくなってしまう!」

「当然ですよ!」

春蘭と季衣も列に並ぶ。あいつらの事だから、一般客を押し退けるかと思ったが、そんな事はなかったようだ。意外と律儀だった

「「♪」」

おかしいなぁ、うちの従業員である悠里と恋も並んでいるように見える…

「おー、派手にやるもんだね。もう完売したよ」

一応大量に用意したんだが、あっという間になくなってしまった。そこそこ良い肉やらを使ったし、こりゃ今日は赤字かもしれないな

「美味い!」

「凄いこれ!なんかもう、全ての食材が絶妙にお互いを引き立ててる!このタレの味付けに程よいニンニクの香り、そしてお肉の柔らかさ!最高だよ!」

見れば、春蘭と季衣だけでなく、他の客も美味い美味いと連呼し、勢いよくがっついていた

赤字かもしれないが、あの笑顔を見れただけで、十分なのかもしれないな

†††††

 

 

 

「今日はありがとう。美味かったよ」

大食漢二人があの炒飯を平らげると、ようやく食事が終わった。その後は閉店間際まで茶を飲んでいた。その間、流琉だけは厨房でうちの仕事振りを観察していた

「あの、また来てもいいですか?」

 

流琉がおそるおそる聞いてきた。なぜ聞く必要があるんだ?

「ん?流琉は別にいつでもいいんだぞ。お前はうちの制限受けていないし」

「あぁいえ、私の手が空いた時に、こちらの店で働きたいなぁって」

 

おいおい

「は?城の仕事はいいのか?」

いくら若いからって…ていうか、流琉は幼いのに仕事熱心だな

 

「もちろん、お城のお仕事優先になりますが、休日とかにここで働きたいなって」

「来てくれるのはありがたいけど、休日潰しちゃってまで来て大丈夫なの?」

 

悠里が聞いた。私も同意見だ。根を詰めるのはよくない

「あ!それは全然構いませんし、きつい日はしっかり休みます。だからかなり不定期になるんですけど…」

「理由を聞いてもいいかな?」

 

零士は思案しつつ考えていた。あの表情、入れてもいいと考えているな

「『晋』の皆さんの働きぶり、一人一人が一流の動きでした。東さんと咲夜さんのあの調理の連携、悠里さんの状況把握能力と速さ、月さんと詠さんの接客と気遣い、見えない所で頑張る恋さんの警護、全てが一級品です!私もここで働いて、技術を学びたいんです!」

流琉は真っ直ぐこちらを見つめそう言った。それに対し、うちの従業員が皆照れてしまう。こんなに真っ直ぐ褒められる事も珍しいからな

「へぅ、なんだか…」

「こそばゆいわね…」

「あ、あははー、いいんじゃないですかね?流琉ちゃんの熱意凄く伝わってきますし」

「零士、お前が責任者だ。お前が決めてくれ」

 

みんなが微妙に顔を赤らめ、全てを零士にゆだねた

「うーん…僕は構わないけど、華琳ちゃん次第かな。だから華琳ちゃんとしっかり話して、それからまた来るといいよ」

「は、はい!」

 

まぁそうなるだろう。零士の一存だけじゃ、決められない。しっかり華琳とも相談しないとな

「ふむ、そういう事であれば、私からも話をしておこう」

「流琉の為なら、僕も華琳様にお願いしてみるよ!」

「もちろん、私からも華琳様にお願いしてみるぞ!」

はは、なかなか愛されているな流琉

「まぁ、だからって、お前達二人は向こう一ヶ月出入り禁止だけどな」

「な、何故だ!?」

「そんなぁ、流琉ばっかりずるいよー」

 

春蘭と季衣はぶーぶーと不満を垂れているが、当然だろう

「何故も何も、あんなバカみたいに食われると仕入れが間に合わないんだよ。お前らが食う量減らすってんなら考えてやってもいいが」

「無理だ!」

「うん、無理!」

「なら、しばらくのお別れだな」

「そんなぁ!」

季衣、春蘭はこの後も駄々をこねるが、しばらくすると秋蘭が割って入りなだめてくれた。まったく、季衣はまだわかるにしても、春蘭は本当に姉か?秋蘭の方がずっと姉らしい

 

ちなみに後日、華琳が直々にうちに来て、流琉の仕事の打ち合わせをしていった。どうやら華琳も、うちの仕事、いや料理か、に興味があったらしく、ここで学ばせる事自体には反対はなかったらしい。ただ流石に、城の仕事をしつつはキツイと判断したので、零士と華琳で無理のない出勤表を作っていった

「時々ですが、これからよろしくお願いします!」

「おう。こっちもよろしく頼む」

即戦力の確保だな。今後はもう少し、楽になりそうだ

 

 

 


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