真・恋姫†無双 裏√   作:桐生キラ

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黄巾編其二

 

 

 

 

 

華佗からの依頼を受け数日が経った。この数日の間に、いたる所で発生していた黄巾党の連中も、名のある諸侯が次々と打ち破っていった。中でも頭角を現したのは陳留の曹操、呉の孫策、そして義勇軍として活動している劉備の勢力だった。先の二人は元々名のある方だったが劉備は聞かない名だった。その劉備がどうして頭角を現して来たのか調べたところ、理由は二つあった。一つ目は、弱小ではあるもののどうやら戦を選び、勝てる戦を確実に勝ち、着々と成果を挙げていること。そしてもう一つ、これはまだ不確定事項だが、どうやら劉備には天が味方したらしい。これを知った零士は「一刀君は劉備についたか」などと漏らしていた。

そして今日

「さてみんな、準備はいいかい?」

 

数を減らされ、勢いを削がれた黄巾党本隊がようやくその姿を見せた。

「おう」 「おー!」 「オォッ!」

 

零士の号令に対し左から私、悠里、華佗と答える。どんどん熱くなってくのは仕様である

「じゃあ行こう!」

私達は街を出てしばらく歩き、ひと気のないところまで移動する。そしてついたところで、零士は魔術を使う。こいつの魔術、物の構造を理解していればそれを自在に出現させる事ができる、零士曰く想造〈クリエイト〉と呼ばれる技らしい。

ガシャン

作ったのは二台の二輪車。バイクと呼ばれるものだ。

「かー!相変わらず摩訶不思議ですねー」

 

悠里が目を輝かせて言った。確かに、物珍しいものだからな

「はは。まぁ人前じゃ絶対見せれないよね」

私と零士がそれぞれバイクに跨り起動させる。ブウゥンと言う音を立ててバイクは目覚めた。

「あたし咲夜姉さんのうっしろー!」

そう言った悠里は後ろに飛び乗り抱きついてきた。仕方ないとは言え、こう密着しているとドキドキするのは何故だろう

「振り落とされるなよ」

 

私はくっついてくる悠里に対して言ってみる。これだけ抱き着いていれば、振り落とされることもないだろう

「では、俺は零士の後ろだな」

そういい華佗は零士の後ろに乗った。仕方ないとは言え、男二人があんな密着するのはいかがなものなんだろう。

「じゃあ行くよ。かなり長い距離になる。予定通り途中何度か止まって休憩を挟もう。疲れたら言ってくれ」

私達はバイクを走らせ黄巾党本隊へ向かう。作戦内容としてはこんな感じだ。まずバイクで本隊まで接近する。次に、本隊が見えたらバイクから降り、思いっきり突っ込む。この時、曹操軍らが本隊と当たる情報を事前に耳にしていたので、その混乱に乗じ太平要術の書を探す。一定時間が経過しても見つからなかった場合、最悪火を付けて離脱する。目的はあくまで書の確保または処分だ。火を付ける事に関しては既に華佗から了承済みだ。

バイクに乗り、しばらく走っていると

 

「いやっほぉーい!!あたしは風になっているー!!」

悠里の士気は最高潮に達していた。零士の国の言葉を使うのであれば、テンション振り切っているってやつだ。とても今から戦地に行くものとは思えない様子だった

「相変わらず便利だよな。このばいくとやらは」

「今さらだけど、みんなもうバイクについては驚かないんだね。いやそりゃ、今回が初めてじゃないけどさ…」

なんてことを、零士は苦笑いで呟いていた。それも仕方ない。それほどまでに、華佗と悠里との付き合いは長い。逆に言えば、魔術を大っぴらに人前で使うのも、この二人以外にはそうそういない

 

†††††

 

途中何度か休憩を挟みつつ、バイクを走らせること数刻、数里先で砂塵が上がっているのを確認する

「零士!」

 

私が知らせようとすると、零士はただ頷いてくれた。あいつも確認したようだ

「あぁ!黄巾党を捉えた!もう少し接近した後、バイクから降りて突入する!ここは戦地だ、あちこちで戦闘が行われているし襲われる事もあるはずだ。それを返り討ちにしてもいいが、なるべく殺してはいけない。これは華佗からのお願いだ」

「俺は医者だ。さすがに目の前で人を殺されるのはあまり見たくない。だから可能な限り頼む!」

「ということだ。わかったね?」

「りょーかいしましたー!」

 

不殺か。なかなかきついな。まぁ、やれないことはないがな

「わかった。零士、もうすぐだぞ!」

「よし!10秒後、バイクから降りて突撃する。総員戦闘準備!10、9…」

秒読みが開始される。悠里は愛用の長い鉄の棍を取り出す。普段からは想像できないが、こいつはこいつでなかなかの手練れだ

「4、3…」

私も片手でナイフを握る。零士の訓練である程度なんでも使えるようになったが、中でもナイフは一番の得意武器だ

「1、0!行動開始!」

私達は一斉にバイクから飛び降りる。またその際、バイクは消えていた。

「はぁぁーっ!」

悠里の鉄棍での薙ぎ払いを皮切りに、私達はその勢いで周りの黄巾党を蹴散らした。

「とうっ!絶好調!!」

悠里は鉄棍を振り回し突撃していった。悠里の最大の武器は速さだ。足の速さはさることながら、一つ一つの攻撃がとても速い。そこらの三下ではまず捉えられないだろう

「全力全開!」

華佗も、医者のくせしてかなりの手練れだ。拳や蹴りを使って吹き飛ばしたり、鍼で相手のツボを突き動けなくしたりしている

「余所見とはいい度胸だな!」

黄巾の一人が私に襲い掛かってくる。まったく、来なければ助かっただろうに。私は敵の攻撃が来る前に、相手の懐に入り、そして目の前の男を刻んでやった。刻むといっても、切れてはいない。華佗から殺すなと言われていたんだ。ナイフも鍛錬用の切れない奴にしてある。傷もせいぜい濃い痣ができるくらいだろう

それにしても…本当に数は減ってきていたのか?かなり多いぞ

「目的はあくまで書だ。不要な戦闘は避けるんだ!」

零士は今回、悠里に習ってか槍を二本使っている。その二本の槍を使い、周りを吹き飛ばして私たちに呼びかけていた

零士の言うとおりだ。いちいち相手にしていたら、こっちの体力が持たない。

私たちは黄巾の連中をある程度蹴散らしつつ、黄巾党の中枢に進んでいく。曹操軍がいい感じに働いているおかげで、奥に行くほど手薄になって行く。そしてしばらく進むと野営があったであろう場所に着く。

「あるとしたらこの辺か?」

「恐らくね。しかし…」

思っていた以上に広かった。これは骨が折れるぞ

「あーくそっ!とにかく探すぞ!」

私達はしらみつぶしに探し始める。手薄とはいえ、黄巾の連中も相手にしつつなのでかなりしんどい

「ここにもない。そっちはどうだ?」

「ダメだ。ここにはない」

「張三姉妹の姿も見当たらないね」

「うーん…こりゃ本当に火を付ける結果になりそうですねー」

悠里の言うとおりだ。このままじゃ私達がジリ貧だ。そろそろ退き際を…

「そうか火か!野郎ども火をつけろ!その隙に逃げるぞ!」

なに!?

「兄貴!それじゃあせっかくの食料が!」

「馬鹿野郎!命あっての食料だろうが!さっさと火つけてずらかるぞ!」

そして黄巾の一味は瞬く間に火をつけ撤退し始める。辺りは火の海になりつつあった

「えーっと…これ、あたしのせいですかね?」

「いや、どっちにしろあのままじゃ火をつけてたよ」

「クソ!まだ見つかっていないというのに…」

「はぁ。とりあえず私達も撤退だ。早くしないと火に巻き込まれるぞ」

 

 

†††††

 

 

 

そして私達は火の手のあがっている戦地を離脱。近くに丘があったのでそこまで避難する。高地の丘なので、さっきまで戦場だった地が見渡せた。しばらくすると、華佗が口を開く

「すまないみんな。結局無駄足になってしまった」

華佗の表情には、わかりやすいほどの罪悪感の色が広がっていた。そりゃあそうだろう。ここまで来て書は回収出来なかったからな。まぁでも

「確かに回収は出来なかったけど、あの火の勢いじゃ恐らく燃えたよ。だから気にしなくていい」

「そうだぞ華佗。それに書を回収出来なかったのは、どこぞの馬鹿のせいだしな」

私は悠里に視線を向けてわざとらしく言ってみる

「ちょ!馬鹿は酷くないですか!?」

小さいながらも、笑い声が起こる。華佗の表情も少し柔らかくなったようだ

「はは。…本当にありがとうみんな。このお礼は必ずするよ!」

「気にしなくていい。それに…」

しばらく戦場周辺を見ていた私は、ある姿を確認する。少し離れたところで、女の子三人が青い髪の女性に連れられていく姿を。距離があるせいで、流石に顔までは見えず確証はないが、確信はあった

「よかった。ちゃんと保護されたみたいだな。夏侯淵さんには感謝しないとな」

私はボソリと、誰にも聞こえないくらい小さな声で呟いた

「ん?どうかしたかい、咲ちゃん」

華佗、悠里と話していた零士が私に尋ねてきた。聞こえいてたのかな

「いや、なんでもない」

まぁいい。少なくとも、私の目的は達成した。それで十分だ

 

 

 


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