真・恋姫†無双 裏√   作:桐生キラ

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旅行編其二

 

 

 

 

 

私達『晋』の従業員は現在、五斗米道の施設の一つである温泉地に来ている。初日は皆が風呂に入った後、なかなか豪勢な飯を食らい、そのまま部屋でダラダラと過ごした。その際、零士が様々な娯楽品を出し、月が眠くなるまで遊んでいた。人生ゲームと言ったか?なかなか白熱したな

そして二日目。私たちは施設の近くにある川にやって来ていた。まだまだ桜の時期には早いとは言え、徐々に暖かくなってきてはいるが、流石に川に入るには寒かった。そこで私たちは釣りをする事にした

「あ!せっかくですから、勝負しませんか?」

「勝負?」

また悠里が妙な事を言い始めたぞ

「簡単に、より多く釣った人が勝ちってのはどうです?」

「勝負と聞いては、受けない訳にはいかないな!」

あーあー、華雄はすっかり乗り気みたいだ

「面白そうね。やってやろうじゃない!」

忘れていたが、詠も結構、勝負事が好きだったな

「私も釣りは得意です!」

あれ?月も乗り気なのか?

「恋も、いっぱい捕ってくる」

恋、釣ってくるじゃないのか?

「ずいぶん楽しそうだな!」

「ふふ、若いっていいね。僕はここでのんびり釣りをしてるよ」

 

零士と華佗は傍観の姿勢を決め込むようだ。あの二人は気楽だよな

「卑弥呼~。ここらでいっちょ、川の主釣り対決でもどうかしら?」

「ほぅ?このわしに挑むか貂蝉!恵比寿に仕込まれたわしの釣り技術、うぬに見せてくれよう!」

あっちはあっちで、別の勝負が始まろうとしているな

「姉さんはどうします?まさか、逃げませんよね?」

あぁ?

「おい悠里。あまり舐めない方がいいぞ?かつて二年間の旅で鍛えた釣り術を見せてやる」

 

その気になれば、川の主だろうと釣ってやるよ

「竿は置いておくから、適当に使っていいよ」

零士が魔術で数本の竿を用意してくれた

 

「あらぁ?零士ちゃんの竿はどこか…」

「さぁさっさと始めようぜ!!」

†††††

 

私たちはそれぞれ場所を移動し、好きなように釣りを始めた。みんな割と距離は離れていないが、唯一恋の姿だけは見当たらなかった

「釣れましたー!」

開始早々、意外にも最初の当たりは月だった

「なに!月ちゃんやるなぁ!っと!私もきたー!」

月に続くように、今度は悠里が引き当てた。流石に速いな

「詠、月って本当に釣り得意なんだな」

「そうねー。実は月って意外と万能なのよ。何やらしても、呑み込みが早くて何でも出来ちゃうのよね」

「唯一武芸だけは、体が付いて来れず苦手としていたがな」

「へぇ」

確かに、『晋』の仕事も、あっという間に吸収して、今では厨房に立つこともある。さらに言えば、今じゃ月は銃の扱いは一流で見習い魔術師でもある。そう考えると、月って実はかなり凄いやつなんじゃないか?

「えぇーい!!」

「とぉーう!!」

「て言うかお前ら釣り過ぎだろ!こっちに魚来ねぇじゃねぇか!」

 

ちょっと目を離した隙に、月と悠里はとんでもない量の魚を釣っていた

「姉さんの腕の問題なんじゃないですかぁ?」

「これでもまだ本気じゃありませんよ?」

「な、なんだと?」

「「あははは!」」

二人は笑いながらも、容赦無く釣り続けた。こりゃ、負けるな

「クスッ。月、本当に楽しそうだなぁ」

「まったくだ」

「ん?どうしたんだ詠」

詠と華雄は慈愛の目で月を見つめ、ボソッと呟いていた

「月が天水に居た頃はさ、微笑むことはあっても、ああやって心の底から笑うような事は少なかったわ。先代の董君雅様が亡くなって、幼くして天水という責任を背負う事になったんだもの。きっと凄い重圧を感じていたわ」

「我らもそれについては気にかけていたんだが、月様はいささか、一人で抱え込んでしまうところがあってな。我らの前では気丈に振るっていたよ。月様が我らの為に涙を流す事はあっても、月様自身の事で涙を流したところは見たことがない。そんな月様だからこそ、我らは彼女に仕え、彼女を守りたかった」

「そっか」

それはきっと、劉協こと桜もそうなのだろう。幼い身でありながら、民の生活を、命を預かるような仕事。私にはその重圧はわからないが、きっととても重く、とても辛い事なのだろう。私が彼女らと同じ年の頃、こんなにもしっかりしていただろうか

「だから、今の生活は月にとって本当に良いものだと思う。責任から解放されて、毎日を楽しく過ごせるようになった。笑ってくれるようになった。僕や華雄だけじゃない、月に付いて行った皆が目指した理想の生活を送ることができた。改めて、礼を言わせてもらうわ。月を助けてくれて、一緒に住まわせてもらって、本当にありがとう。咲夜達に会えてよかったわ」

「我らが主、月様を救っていただき、本当に感謝する!」

「あぁ…」

時々、思うことがあった。本当は、月と詠と恋は、天水に帰りたいと思っていないだろうかと。助けた事に対して恩を感じ、縛っているんじゃないかと。もしそうだとしたら、私達は悪いことしているんじゃないかと思っていた。だがそれも、詠と華雄の話を聞き、それが私の勝手な妄想だとわかった。私は今後も、月達の面倒を見ることが出来る。そう思うと、私の中で暖かな何かを感じた

「詠ちゃーん!咲夜さーん!見てください!こんなにも釣れましたよー!」

この子の笑顔は私が守り続ける。私はそう強く思った

†††††

「皆いっぱい釣ってきたね。お昼には十分な量だ」

私達はそれぞれ釣ってきた魚を並べていく。結局釣り対決には負けた。と言うか、悠里と月が川の魚を釣り切ってしまうんじゃないかという程釣ってきた。勝てるわけがない

「ん?恋はどこだ?」

いつも飯の時間には律儀な恋の姿がなかった。そう言えば、釣りを始める頃に既に姿を消していたな

「…お待たせ」

どしーん どしーん

振り向くと、恋は巨大なクマに乗って帰ってきた。両手には大きな魚が握られている

「恋ちゃんすげぇ…」

「あわわわ…」

「はわわわ…」

「ん、ありがと。帰っていいよ」

 

どしーん どしーん

 

恋が促すと、クマはゆっくりと森へ帰っていった

「ははは、凄いね恋ちゃん。クマさんとお友達になったんだね」

「…ん」

少し前

「……大きいお魚、どこかな」

「(・ω・^)がぅ」

シュパーン!

「(`・ω・´)がぅっ!」←鮭ゲット

「!!……恋も」

シュパーン!

「♪」←鮭ゲット

「がぅがぅ!」

「…がぅ?」

「がぅ♪」

現在

「ごめん恋。よくわかんない」

恐らくはクマと意思疎通に成功したんだろうが。流石は飛将軍というところなのか

「おぉ!ずいぶん脂の乗った鮭だ。これは美味いぞ」

「…楽しみ」

「恋ちゃーん!こっちもいっぱい魚あるからねー!」

「あ、東さん、私も手伝います!」

「僕も手伝うわ。皆でやった方が早いでしょ」

「それもそうだな」

お食事処『晋』、出張青空食堂だな

「おぉー!美味しそー!」

「ふむ、良い香りだ」

「貂蝉!これを食ったら勝負の続きじゃ!必ず大物を釣ってくれる!!」

「あらぁ望むとこよ卑弥呼ぉ!!私が勝っちゃうんだから!!」

「すまんな。招待したのは俺だったのに」

「はは、いいっていいって。さぁ、みんな揃ったね。じゃあ、頂きます」

「いただきまーす!!」

その後、私たちは思う存分魚料理を楽しんだ

†††††

食後も、皆が好きなように川で遊び始めた。悠里は「今日こそイケるかも!」なんて言って水上を沈まずに走ろうとしていたり、月と詠と恋は疲れたのか昼寝を始め、零士は何やら思い出したかのように魔術で何かを作り始めた。私はやる事もなく、ただぼんやりと空を見上げていた

「こんなにも穏やかな時間が流れるのも、久しぶりだな」

休みがないわけじゃない。ただ、街にいると遊びに出ることが多いため、このように何もせず、ダラダラと過ごすことはなかった

「私も、少し寝るかな…」

そう思うや否や、直後に強烈な睡魔が襲ってきた。ポカポカの陽気に気持ちいい風が吹いているなぁ

「おや、寝るのかい?」

零士が私を見て問いかける。だが私は、もうほとんど意識を手放そうとしていた

「あぁ…おやすみ…零士…」

「ふふ、おやすみ」

零士が頭を撫でた気がしたが、私はそれを確認することもなく、意識を手放した

目が覚めると、辺りは暗くなろうとしていた。ずいぶん寝てしまったようだな。そろそろ起きなきゃまずいか

「く、ふぁ~…」

 

私は伸びをし、思わずあくびをしてしまう

「大きなあくびだね。おはよう咲ちゃん。よく寝ていたね」

 

「…あぁ、零士、おはよう。お前、ずっと待っていたのか?」

気付けば、零士が隣にいた。何をするでもなく、座って待っていたようだ

 

「まぁ、君だけじゃないけどね」

そう言って零士は私の後ろに視線を向ける。そこには悠里、月、詠、恋が寝ていた

「なんだ、みんな寝たのか」

「気持ちいい気候だったからね」

「そうだな。だがまぁ、そろそろ起こさないと、冷えてきたな」

 

風邪をひかれても面倒だしな

「そうだね。さっき華佗も、夕食の用意が出来たからいつでも来いって言っていたしね」

遊んで、食って、寝て、また食って、なかなか贅沢な過ごし方だな

「おい。悠里、月、詠、恋。そろそろ起きろ。風邪ひくぞ」

 

私はみんなを起こしていく。ほんと、よく寝ているな

「うへへー…姉さんのおっぱい…凄くやわら…」

パシーン!

「痛ぁ!な、なんですか!?」

「うみゅ~、どうかしましたかぁ…?」

「んー!なんかよく寝たわ」

悠里をはたき起こすと、月と詠がその音で目を覚ました。恋だけは今だ寝ていた

「恋ちゃーん、もうすぐご飯だよー」

「…お腹、減った」

食欲に忠実な恋らしい、素敵な理由で目を覚ました

「あれ、もう陽が沈みかかってる。あちゃー、寝過ぎちゃいましたね」

 

悠里が自分の頬を撫でながら言うと、詠や月もそれに同意するように笑った

「本当ね。まぁ、たまにはいいんじゃないかしら」

「そうですね。素敵な時間だったと思います」

「ふふ、なら夕食後にもっと素敵な物を見せてあげるよ」

「あぁ?」

素敵な物?一体なんだろう

†††††

夕食後、私たちは再び外に出ていた。なんでも、零士が見せたいものがあるとの事だ

「なんですかねー見せたいものって」

「さぁな。私も知らされていない」

「あれ?咲夜は知ってると思ったのに」

「ふふ、なんだか楽しみですね」

それにしても、ここは星空が綺麗に見えるな。なんというか、凄く近く感じる

ドンッ ひゅーーー ドーンッ!

「!!」

私がぼんやり空を眺めていると、直後に凄い音が響き、空に色鮮やかな光を灯した

「おぉー!きれーい!!」

「凄いです!」

「まさか、これ零士が?」

「その通りです!」

すると、森の茂みから零士が現れた。一体どこに居たんだこいつ

「あれは花火っていってね。皆が寝ている間に川辺に仕込んでおいたんだ」

そう言えば、魔術で何かを作っていたな。あいつ、最初からこのつもりだったのか

「花火!凄いですよ東おじさん!」

「はい!とても綺麗です!」

「まぁ、なかなかいいんじゃないかしら」

「…きれい」

「ふふ、まだまだいくから、最後まで楽しんでね」

ドーンッ! ドーンッ! ドーンッ!

「すげー!!」

「わぁぁ!!」

「言葉が出ないって、まさにこの事ね」

色鮮やか火の花が夜空に咲いていく。この世のものとは思えない幻想的な風景に、皆が目を奪われていた

「どうだい咲ちゃん。気に入ったかい?」

「あぁ、悪くないな」

その景色は、忘れる事が不可能なほど、とてもとても、綺麗だった

†††††

とある陣営

「おぉー!見よ紫苑よ!なんと鮮やかな火の光だ!」

「えぇ、とっても綺麗ね。でも、一体誰の仕業なのかしら?朱里ちゃんわかる?」

「はわわー…あ、はい!あの、私もあの光は流石に…ご主人様ならわかるかもしれませんが…」

「わぁ!凄い凄い!!見て見て猪々子ちゃん!」

「見てるって!落ち着け桃香!……朱里、あの光に心当たりがあるんだが、ちょっと偵察に行ってきていいか?」

「猪々子さんがですか?」

「あぁ、もしかしたら、あたいの家族が来てんのかもしんねぇんだ」

†††††

 

もう一方の陣営

「わぁ、綺麗です!なんでしょうあの光?」

「わからんな。だが、心当たりが無い事もない。あいつらが来ているのなら、恐らくはあいつらの仕業なのだろう」

「『晋』の皆さんですね。でも、なんでこんな山奥にいるんでしょう?」

「それがわからん。流琉、共に来い。確認しに行くぞ。張済はここで部隊を休ませておいてくれ。だが念の為、いつでも動けるようにしておけよ」

「「御意!」」

「さて、何がでるか…」

†††††

 

ところ戻って、温泉

「ふぅ…」

あの花火を見終わった後、私は一人温泉に浸かっていた。他の皆は、零士が出した卓球と呼ばれるもので遊んでいる

「一人では、さすがに広いな」

だが、ゆっくり浸かれる。悪くないな

がらがら

「ん?」

男湯の方で、戸が開く音が聞こえる。誰か入ってきたのだろう

「ふぅ…」

この声、零士か?

「零士、いるのか?」

「あれ、咲ちゃん居たんだ」

 

やはり零士のようだ。こいつも一人か

「私一人だけだがな。他は卓球に熱中している」

「そっか」

そこで会話が途切れる。なんか、壁越しで見えない筈なのに、一緒に入っているみたいで少し緊張する

「壁越しで見えないのに、一緒に入ってるみたいだね」

「え?」

「ん?今のこの状況さ。こうして風呂場で話すなんてなかっただろ?なんか新鮮だよね」

び、びっくりした。心を読まれたかと思った

「そうだな。なんだ、ドキドキしているのか?」

私はちょっと冗談混じりで言ってみた

「んー?流石に見えていないから、ドキドキはしないかな」

チッ!こいつ、本当に男か?女にちゃんと欲情するんだろうな?

「なら、今から私がそっちに行ったら、少しは緊張…」

ガサガサ

「「!!」」

塀の外から、草木をかき分ける物音が聞こえた。なんだ?野生の動物か、それとも覗きか?覗きなら切り裂いてやる

「…」

壁越しに、ナイフが飛んでくる。私はそれを受け取り、鞘から引き抜く。どうやら零士も聞こえていたようだ

ガサガサ

音が近くなる。さぁ、何がでるか…

「とぅ!このくらいの塀、どうって事ないぜ!」

「………」

野生の動物ではなく、野生の猪々子が現れた

「おー!やっぱ咲夜じゃん!こんなとこで何してんだ?」

「それは私が聞きたい…」

「………」

「………」

「あわわわわ」

「まぁ、その、なんだ…わざとじゃないんだ」

「あぁ、うん、それはわかってるよ」

「その、すまんな」

「あぁいえ、こちらこそこんな感じで、本当にごめんなさい。ところで、何故ここに?」

「あぁ、それはだな…」

「普通に会話を続けないで下さい!」

 

 

 

 


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