真・恋姫†無双 裏√   作:桐生キラ

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旅行編其三

 

 

 

零士視点

「なるほど、偵察にねぇ」

温泉に浸かっていると、茂みから物音が聞こえ、警戒していると秋蘭ちゃんと流琉ちゃんが現れた。彼女達はここに偵察に来たのだと言う。流琉ちゃんが遠征地を言わなかったのは、皆を驚かす為だったらしい

「ていうか!東さん何か着て下さい!」

「あれ、タオル一枚巻いてるだけじゃだめ?」

「私は問題ないと思うのだがな」

「問題しかないですよ!」

年頃の女の子というやつなのかな?流琉ちゃん、顔真っ赤だなぁ

「おっと、咲ちゃーん、そっちは大丈夫かい?」

確か向こうの方でも物音が聞こえたはずだが…

「あぁ、野生の猪々子がいただけだ」

猪々子ちゃん?………!!

「咲夜、エマージェンシー。こっちにはブルー。ツインズの下の方がいた」

「!!わかった」

これはまずいぞ。完全に油断していた。定軍山の戦いは確か赤壁の戦い後のはずだと思っていた。だが猪々子ちゃんがいるということは、恐らく蜀軍が来ている。秋蘭…夏侯淵にとっては最悪の状況だ

「咲夜、僕は先に上がるよ。咲夜は猪々子ちゃんと話してるといい」

「あぁ。零士、悪いが頼まれてくれていいか」

「もちろんだ」

僕が湯から立ち上がると、流琉ちゃんが悲鳴をあげていた。おっと、丸出しは流石にマズイな。ちゃんとタオルを巻いておこう

「咲夜がいるのか?それにしても、お前達はたまによくわからない言葉を使うな」

「秋蘭様は平気なんですか!?丸見えでしたよ!」

流琉ちゃんが何やら喚いているが、構ってあげる余裕はないな

「そうだな…その理由を教えてあげるから、今からちょっと付いてきてくれるかい?」

「ん?構わんが…」

ならさっそく…

「!!?ゴホッゴホッ!」

「お、おい!大丈夫か?」

な、なんだこれは?急に体に力が入らなく………

「ゴホッゴホッ…あぁ、大丈夫だ…急ごう…」

まさか、一刀君の邪魔をする事になるからか?

†††††

 

咲夜視点

「なぁ咲夜。えまー…なんたらってなんだ?」

エマージェンシー、つまりは緊急事態。ブルーは魏を表す言葉で、そのツインズは夏侯姉妹、その下って事は秋蘭が来ている。さらにここに猪々子がいると言う事は、恐らく蜀軍が来ているんだろう。以前零士から聞いた話が事実なら、秋蘭はここで死ぬらしい

「なんでもないさ。ところで猪々子はどうしてここに?」

せっかくの旅行で、ドンパチに出くわすなんてごめんだ。それに秋蘭には黄巾の借りがあるし、なにより大切な友人だ。殺される訳にはいかない。恐らく零士が上手く動いてくれるだろう。私はとりあえず、猪々子の足止めだな

「きゃー!」

「!」

私がとりあえず猪々子と話そうとすると、塀の上から女が落ちてきた。頭から落ちたが大丈夫か?

「おいおい桃香大丈夫か?」

「酷いよ猪々子ちゃん!先に行っちゃうなんて!」

「あはは、悪りぃ悪りぃ」

桃香と呼ばれた女はぷんぷんと怒りをあらわにしている。あれ、こいつどこかで…

「もう……あれ?あなたどこかで………って、あぁー!!」

なんだこの頭の緩そうなバカ女は。急に人を指さして喚きやがって。………あぁ?バカ女だと?

「お前、あの時のバカ女か?」

「ちょ!相変わらずバカ女呼ばわりですか!私には劉備っていう名前があるんです!」

「お前が、劉備?」

このバカ女がか?

「ん?なんだ知り合いか?」

 

猪々子が尋ねてきた。知り合いと言えば知り合いなのだろうが…

「あぁ。昔ちょっとな」

「て言うか、生きてるならなんであの後村に戻って来なかったんですか?」

なんで戻ってこなかったのか、か。私としては、あまり思い出したくないことだな

「まぁ、こっちにも事情があったんだ。それより、あのお前が蜀の王?武力を否定していたお前が?」

私は話しを逸らす意味でも、そしてこいつらの足止めをする意味でも、話題を変えてみた。それに私自身、あの甘いバカ女が国を背負う立場にいることに興味が湧いたしな

「……私は、今でも武力だけで平和になるとは思っていません。でも、あの頃の私と違って、今は現実を見ているつもりです。少なくとも、力を否定はしていません」

ほぅ…

「助けられたあの日の後、私はあなたを探しつつ、助けられる人を助ける為に旅に出ました。でも、あなたの言う通り、力が無ければ救えない人がたくさんいました。何も出来ない癖にしゃしゃり出るなとさえ言われた事もあります。あなたが指摘したように、あの頃の私は現実を見ていませんでした。いえ、見ていても、認めようとしていませんでした。でも、それは甘えだったんです。だから私も、力が欲しいと思いました。それから、かつて黒髪の山賊狩りとして有名だった愛紗ちゃん、それに鈴々ちゃんっていう凄く強い子達と出会って、旅をする中でたくさんの人達を助ける事ができました」

黒髪の山賊狩りは私も聞いたことあるな。確か、関羽だったよな

「お前自身は何かしたのか?その流れだと、さっき言った二人に任せっきりな気がするんだが」

「私も、それは悩んでいましたし、今でも気にする事があります。でも愛紗ちゃんが『姉上には我らにはない魅力と暖かさがあります。それに、民を笑顔にする事は我らにはできない。それは、姉上の力だと私は思います』って言ってくれて。それで時折悩む事はあっても、気は楽になりました。私には、私の役割があるんだったて」

一瞬、甘やかしていないか?とも思ったが、そういう訳ではなさそうだ。それは彼女の目の下のクマや、手にできている筆タコが証明している。さらには肉体も割と締まっていることから、苦手と言っていた武術訓練もしているのだろう。彼女は彼女なりに、自分の出来る事をわきまえ、行動しているんだな

「力の形は様々です。だから、私は受け入れています。それを否定する事は、私を信じて付いてきてくれた皆を、私自身を否定する事になりますから」

 

ふーん…あのバカ女も、数年で成長したもんだな

「なら劉備、お前は何を目指す?」

「皆が助け合い、安心して暮らせる世界。それを妨げるものは、力を示し防ぎます」

「なら、魏の曹操や呉の孫策と戦争をする覚悟があるんだな?」

「呉は既に同盟を結んでくれました。後は魏だけです。曹操さんにも、同盟を持ち掛けたんですが蹴られまして。だから宣戦布告しました。私が勝ったら同盟を結んで下さいって」

ある日を境に、華琳がずいぶんご機嫌だったことを思い出す。確か「ようやく龍が目覚めたわ」なんて言っていたな。もしかして、これが原因か?

「同盟?侵略じゃないのか?」

「私は皆と協力しないと、この大陸は平和にならないと思います。雪蓮さんじゃないけど、勘で、そんな気がするんです」

その勘はあながち間違いじゃない気がする。今でこそ三国が覇を競い合っているが、隣国には五胡がいる。いつかやつらも攻めてくる日が来るはずだから、戦力は多いに越したことはない。まぁ、それを勘で感じ取るのではなく、ちゃんとした根拠を持って言えてれば、もう少し良かったな

 

「なるほどな。それで、これは軍事活動の一環か?」

「はい。来るべき決戦に向けて、戦力を少しでも削ぐ為の。朱里ちゃん、諸葛亮の策ですが、決定は私が下しました」

「はぁ…」

ドヤ顔で言う劉備に、私は思わずため息を漏らしてしまった。途中まで、まだまだ甘いがまぁ及第点かなって思っていたのに、最後の最後で台無しにしたな。ペロッと作戦バラしたぞ

「なぁ桃香、いくら咲夜が相手とはいえ、それ言ってよかったのか?」

「え?…あ!」

 

猪々子の指摘に、劉備はまずいといった表情になった

「クッ!猪々子に指摘されちゃ、まだまだ合格点はあげられないな」

「それなんか酷くね?」

「あ、えっと、今のなしです!」

劉備はアタフタと顔を赤くしながら、意味のない事を言った

「はっ!そもそも、王がホイホイこんな所に来る時点で、もうダメなんだよ。もっと王としての自覚を持て」

「うっ…それは皆にも怒られました…だってぇ、猪々子ちゃんの家族に会いたかったし」

劉備がシュンとしながら言った。そんな理由で王に来られても、こっちも困るし、部下も可哀想なんだが…

 

「だからお前はバカ女なんだよ」

「もー!いつになったら名前で呼んでくれるんですか!」

 

劉備はキーッといった感じで怒鳴った。いつになったらか…

「そうだな、お前が華琳を倒したら、名前で呼んでやるよ。まぁ、立場上応援はできないがな」

「え?どうしてですか?」

 

華琳って真名で呼んでんだから、気づけよ

「華琳は友人なんだよ。まぁ、雪蓮とも友人だから、どっちも応援できないがな」

「えー!?せっかくあなたを見つけたら仲間になってくれないか誘うつもりだったのに!」

えー…華琳のもとならともかく、バカ女の下で?いや、華琳の下もいろいろ怖いから嫌だけど。てかまぁ、誰かの下で働く気なんてさらさらないけど

 

「悪いな。私は天下に興味がないんだ。それはお前らの仕事だ。私は私の家族を守れりゃ、それでいいんだ。だから巻き込むな」

「むー!あ、あの!お名前、何て言うんですか?あの時、聞きそびれたので」

そう言えば、名乗っていなかったな

「司馬懿、字は仲達だ。お前が目指す世界、せいぜい頑張ることだな、バカ女」

「むー!絶対司馬懿さんに名前で呼ばせてやるんだから!」

結構時間は稼いだか?一応、中立って立場だし、公平にしてやらないとな

「はっ!なら残念なお知らせをしてやるよ」

「残念なお知らせ?」

「あぁ。ここに、魏軍は来ない。お前らがどういう手を使って、魏軍をおびき出すか知らないが、もしくるとしたら、かなりの大群でくるだろうよ」

「え?どうしてそんなことがわかるんですか?」

「私は魏に借りがあってな。それを返すために、天の力ってやつを使わせてもらったよ。まぁそれでなくとも、こんなところでドンパチなんてされちゃ、迷惑だからな」

「えぇ!?でもここでずっと話して…え?え?天の力って?」

「ちぇー。あたいも咲夜達には借りがあるから、なんもできねぇな」

 

今日の猪々子は察しがいいな。知力でも上がったか?

「悪いな猪々子。次来てくれた時は、うんと美味いものをご馳走するよ」

「いぇい!なら許す!」

さて、零士。私は十分時間を稼いだと思うぞ。秋蘭と私達の安寧な旅行の為にも、しっかり動いてくれよ

†††††

 

 

零士視点

「ゴホッゴホッ!みんな、大丈夫か?」

「私達は無事だが、お前こそ本当に大丈夫なのか?凄い汗だぞ」

「あぁ、問題ないよ」

こりゃ、本格的にマズイかもしれないな………

 

 

 

 


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