真・恋姫†無双 裏√   作:桐生キラ

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旅行編其四

 

 

 

 

 

時は少し戻り 零士視点

「部隊は何人いる?」

僕は風呂から上がり、服を着替え、秋蘭達の部隊がいるところに向かっていた。いまだに体は重く感じるが、動けない程じゃないのが幸いだった

「私、流琉を含めて百だ。私達以外の兵は分隊長の張済に任せてきた」

張済さんも来ているのか。弓のエキスパートが二人に制圧系の流琉ちゃん……ダメだ。蜀軍の規模はわからないが、恐らく勝ち目はない。圧倒的に数が足りない。まぁ、ただの偵察だから仕方ないかもしれないが…

「そろそろ、話してくれてもいいんじゃないか?東はいったい、なにを焦っている?」

秋蘭が尋ねてきた。声には少し苛立ちも感じられる。何も知らせずに連れまわしているのだ、そろそろ彼女達にも話さなければ…

「ウッ!!ゴホッゴホッ!」

な!?まただ。伝えようとすると、突然体調がおかしくなる。だが…

「いいかい二人とも。これから言う事は、決して信じられるような内容じゃない。だが僕は二人を信用している。だから、君たちも信じて欲しいんだ」

 

僕はまっすぐ秋蘭と流琉ちゃんの目を見て言った。堪えろ。気をしっかり持てば、問題はないはずだ

「…わかった。話してもらえるか?」

秋蘭は怪訝な目をしながらも、しっかりと頷いてくれた。そして僕は定軍山と夏侯淵にまつわる話をする。この先に蜀軍が待ち構えていること。そして夏侯淵が黄忠に討ち取られること

「秋蘭様が、死ぬ?」

子どもは素直だ。こんな話を信じるなんて。流石に秋蘭は半信半疑ってところだな

「……何故、そんな事がわかる?」

「僕が、あの北郷一刀君と同じように、天から来たと言えば、わかってもらえるかい?」

「!」

珍しいものが見れた。いつも表情が読み取りにくい秋蘭が、明らさまに驚いた表情を見せてくれた

「君たちが天と認識している世界は、今から1800年後の世界なんだ。そして、その世界において三国志、今のこの時代の話は、本になるほど有名でね。そこに、君がここで死ぬということが書いてあるんだ」

「そう、なのか…」

 

突然死ぬと言われれば誰だって困惑するだろうに、さすがに秋蘭は冷静だな。少なくとも、動揺を見せていない

「信じられないよね。だが、今は従ってほしい。僕は君を助けたい」

「何故だ?」

「君は僕にとっても、咲夜にとっても、あの街で出来た最初の大切な友人だからね。友を助けるのに、理由がいるかい?」

 

僕がそういうと、秋蘭は少し思案し、やがて頷いてくれた

「そう、か。わかった。なら今は従おう」

「ありがとう」

程なくして、張済さん率いる偵察部隊と合流した。この数なら、強行軍でも明け方には安全圏に辿り着くだろう

「まさかこんな所に東殿がおられるとは」

「あぁ。僕もびっくりだよ」

僕らは警戒しつつ移動する。ここは既に、危険地帯だ。いつ攻撃されるかわからない

「………」

魔術と氣が問題なく使える事から、今は無理やりそれで体調を補っている。だが、正直長くは持たないな。上手く集中できない。力を身体能力に当てている分、この辺一帯の索敵もできない。参ったな

「東、お前は天から来た身であり、なによりあれ程の力がありながら、なぜ天下に名乗りあげなかったのだ?」

 

体を動かすことに集中していると、秋蘭が突然訪ねてきた。ホントに、この問いは何度目になるのだろう

「はは、いろんな人に突っ込まれるよ。前にも言ったが、僕は僕の家族さえ守れたら、それでいいんだ。僕は幼い頃に家族を事故で亡くしてね。それ以来、家族に対して憧れがあったんだ。さらに僕はね、あの世界で十分過ぎる程人を殺してきたんだ。それこそ、世界から忌み嫌われるほど。だからね、今の生活は僕にとって夢のような時間なんだ。やっと手にした、普通の人生って気がしてね」

まぁ、この状況さえなければ、もっと良かったんだけどなぁ。このトラブルに巻き込まれる体質、華佗に言えば治るかな…

「そうか。悪い事を聞いたな…」

秋蘭にしては珍しく、シュンとしている。今日は彼女の普段とは違った表情が見れて何かいいな

 

「そんなに気にしなくていい。もう過去の事だからね」

「だが本当によかったのか?今のこの状況、お前のいう普通の人生からは、逸脱している気がするが」

ほんと、その通りだけど

「さっきも言っただろ?秋蘭も流琉ちゃんも、僕や咲夜にとって大切な人なんだ。だから、僕の手が届く範囲なら、僕は必ず君達を守る。僕の目の前で、大切な人を殺させはしない」

「そ、そうか…」

「あぅ…」

ん?二人とも顔をそらしているけど、どうかしたのだろうか

「なるほど。確かに東殿は、悪い男のようだ」

張済さんが微笑みながら言ってきた

 

「え?張済さんどういう意味ですか」

「はは、いやなに。天然でやる辺り……!!」

「「!!」」

「!!来たか」

後方にかなりの数が来ているな。正確な距離はわからないが、恐らく1キロもないな

「張済さん、見えますか?」

張済さんは暗闇での戦闘が得意だったはずだ。この状況でも、冷静に辺りを見回し確認している

「まだ目視できる範囲では無いですが、確実にこっちに来ていますね」

「了解。殿は僕が務める。後ろは任せて移動速度を上げるんだ」

「了解」

「おっと、僕が指揮しちゃいけないね。秋蘭、君の意見は?」

「いや、何も問題はない。東の方針で行こう。殿には私も務める。流琉は先導してくれるか」

「わかりました」

さすが、精強な魏軍だけはあるな。不測の事態でも、一糸乱れぬ統一性は感嘆に値するな

「…チッ!」

思わず舌打ちをしてしまう。謎の体調不良に加え、片目がほとんど見えない事が影響し、今だに蜀軍を目視できない。後少し時間があれば、この片目の状況にも馴れるはずだが…

ヒュンッ

「ッ!」

僕が暗闇を注視していると、突然一本の矢が僕を襲ってきた。僕は寸でのところでナイフを出現させ、飛んできた矢を弾いた。あ、危なかった。向こうはもう撃ってこられるのか?弓って事は、恐らく黄忠か?流石に弓兵だけあって、目の良さはピカイチだな

「大丈夫か?」

 

秋蘭が弓を構えてやって来てくれた

「あぁ。それより見えたか?」

「あぁ。今しがた確認した。確かに、東の言う通り敵将は黄忠だ。とりあえず…フッ!」

秋蘭が暗闇に向けて矢を放つ。そしてしばらくすると、矢を弾いたと思われる金属音が聞こえた

「威嚇射撃だ。当たれば儲け物だったが、そう上手くはいかないな」

定軍山で夏侯淵と黄忠か。相性は最悪だな。なんとしても、遠ざけなければ

 

「秋蘭、矢はこちらで補充する。だから思う存分射ってくれ」

僕は魔術で数本の矢を出して見せる。それに対し秋蘭が驚愕の表情をあらわにした

「お前はいったい…」

「説明は許昌に着いて…!!」

突如、矢の乱れ撃ちが来た。僕はこれを弾く事に成功したが、なんて精度だ。正確にこっちを狙ってきたぞ。それにこの乱れ撃ち、おそらく弓兵は一人じゃない。最低でももう一人、それこそ祭さん級の武将がいる。片目にもだいぶ馴れてきたが、あれが続くと流石に…

「ゴホッゴホッ!!クッ…すぅ…はぁ…みんな、大丈夫か?」

まただ。また体が重く…

「私達は無事だが、お前こそ本当に大丈夫なのか?凄い汗だぞ」

「あぁ、問題ないよ」

こりゃ、本格的にマズイかもしれないな………

「だが、なんとしても安全圏まで送ってみせる」

こんなところで死んでたまるか

その後、僕らは定軍山の入り口付近まで辿り着く事ができた。途中、矢の乱れ討ちで穴だらけになりそうだったり、滝から落ちたりと、なんども危ない目にあったが、全員生きている。上々の結果だ

「はぁはぁ…ふ、振り切りましたかね?」

「そう、思いたいな…はぁはぁ…」

 

みんな息が切れ切れだが、よく頑張ったな。だが、このままここにいるのは危ない

「さぁ、はぁ、はぁ…みんな、このまま許昌を目指すんだ」

 

「東はどうする気だ?」

 

僕が促すと、秋蘭が心配した様子で言ってくれた

「ふふ…忘れたかい秋蘭…はぁはぁ…僕らは旅行に来ているんだよ。だから、施設に戻るだけさ…」

 

まったく、旅行の間くらいは、ゆっくりしたかった…

「そ、そうだったな。本当に大丈夫なのか?」

「あぁ…問題ない…流琉ちゃん、お土産、持って帰ってくるよ」

「えぇ!?いいですよ!こんな事に巻き込んでしまったんですから」

「いいんだよ。君だけ除け者になってしまったんだ。君も従業員の一人なんだから、素直に受け取るんだよ」

「は、はい。ありがとうございます」

 

はは、流琉ちゃんはホントに、いい子だよなぁ。将来はきっといいお嫁さんになるだろう

「さぁ、行った行った。早くしないと、大軍が押し寄せてくるぞ」

「あぁ。必ず、また許昌で会おう。ありがとう東」

そう言い、秋蘭達は許昌を目指し帰って行った。僕はそれを確認すると、その場で倒れてしまった

†††††

 

 

「ゴホッ!こりゃ、こたえるなぁ」

だが、どういう訳か、体がだんだん楽になりつつあった。恐らく、後少しこのまま休めば、調子も戻るだろう

「はぁ…まったく、一体なんだったんだ?教えてくれよ。いるんだろ貂蝉」

「あらぁ?完全に気配を消していたはずなのに、なぁんでわかっちゃったのかしらぁ」

 

茂みから筋骨隆々の人間が現れた。あのガタイで、よく気配を殺せるな

「僕はこれでもプロだからね」

 

まぁ、僕にはわかるがな

「あら素敵!そんな貴方に痺れちゃうぅ!私の熱いチッスをプレゼントしちゃうわぁ!」

「よ!悪いが遠慮するよ」

僕は迫り来る貂蝉の唇を華麗に避け、立ち上がった。どうやら完全に元に戻ったらしい

「あらぁ?もう動けるようになったの?」

「ふむ、よもや矯正力に抗うとは…やはりうぬは何か特別なのだな」

貂蝉の近くには卑弥呼も立っていた。相変わらず、不思議なファッションの二人だ

「お前達、この不調の原因を知っているんだな」

「そうねぇい。とりあえず、場所を移しましょう。ここだと人が来るかもしれないわぁ」

そう言って貂蝉と卑弥呼ふ大ジャンプした。僕もそれを追いかけるように、大きく飛び後を追った

「ここでいいかしら」

着いた先は、昼間遊んだ川の上流の、湖がある所にやってきた。ちょうどいい、少し水を飲んでおこう。ほとんど無傷だが、さすがに疲れた

「んくんく…はぁ…生き返るなぁ」

「かなり、体が重かったのではないか?」

 

僕が水を飲み干すと、卑弥呼が声をかけた。ずいぶん面白い目をしているな。僕に対しての心配と警戒、そして好奇心が入り混じっている

「……あぁ。猛毒に侵されている気分だったよ。あれは何だったんだ?」

「私と貴方が初めて出会った時、ご主人様の邪魔だけはしないでって言ったのは覚えているかしら」

「あぁ。やはりそれで、あんなにも影響が出たのか」

 

貂蝉の言葉に、僕は頷きつつ反応する。6年前のあの日、貂蝉は一刀君の邪魔はするなと言った。イレギュラーである僕が介入することで、この世界に不和をもたらす可能性があったからだ

「本来は、それだけではないはずなんだがな」

「どういう事だ?」

貂蝉の言葉に、僕は疑問を持った。まだ何か制約があるのか?

 

「うぬは、辿るべき歴史を変えてしまったのだよ。夏侯淵はここで死ぬ予定だった人物であるからな」

「外史には、ある程度決まった未来、特に人物の死が定められてある。その定められた事象を変えてしまうと、矯正力が働いて、変えてしまった人物を排除しにかかるのよぉ」

定められた事象…この定軍山もその一つか。ん?もしかして、あの時も…

「まさか、呉の孫策暗殺事件も辿るべき歴史とやらだったのか?確か正史世界の孫策の最期は暗殺だったはずだ。正史からかなり逸れている歴史を辿っている外史が、あんな正史通りの事件を歩むとは思えないんだが」

 

それに貂蝉と卑弥呼は、暗殺があったこと自体には大して驚いていなかった。むしろ、僕が阻止してしまった事に、驚きを見せていたような…

 

「えぇ。残念だけど孫策ちゃんはぁ、この外史において、あの日に死ぬ予定だったからねぇい」

 

やはり…しかしそれだと…

 

「だが、暗殺を阻止した時、僕はなんの影響も受けなかったぞ」

そう。あの時は片目が見えず、毒に侵されただけで、今回のように体が重くなるといった事にはならなかった。もし歴史を変える事で影響を受けるのなら、あの時も感じていなければいけない

「そこなのよねぇ。私たちもぉ、どうして貴方があの時矯正力を受けなかったのか疑問だったのよぉ。あそこで孫策ちゃんを助けっちゃったら、あなたは間違いなくなんらかの影響は受けていたはずなのに」

 

だからあの時、雪蓮ちゃんを助けた時、貂蝉は僕の体調を尋ねたのか

「イレギュラー、か」

 

あの時貂蝉が呟いていた、イレギュラーという言葉を僕も呟いた。すると貂蝉も卑弥呼も、それに同意するように頷いた

「まさにその通りなのだよ。歴史の矯正力は受けない。だが、創造主である北郷一刀を妨げる行為においては影響を受ける」

「だけどそれもぉ、本来ならば確実に意識を失うはずなんだけどぉ、貴方は最後まで意識を繋ぎとめ、あろうことか夏侯淵ちゃんを守り抜いた。そして事が終われば、即座に回復。あり得ない事ばかりなのよぉ」

本当に僕は、この世界において不確定要素なのだろうか?貂蝉ら管理者の話通りなら、僕は既に消えていなきゃいけない。だが、今もこうして、なんの問題もなくこの世界にいる。ということは、この世界に来たのは偶然でも事故でもなく、作為的なもの?矯正力を無視してまで、やるべきことがあるから、この世界にいるのか?

「わからないな」

情報が足りないし、恐らくは知ることはできないだろう。もし、僕を呼んだ人物が居たとして、その人物が僕に話しに来ない限り

「この外史は本当に異例なのよねぇい。貴方以外にも、イレギュラーが存在するから」

「そうなのか?」

 

貂蝉の言葉に、僕は少し驚いて見せる。僕以外にも、この世界にきた人物がいるという事なのだろうか

「うぬらが追っている、張譲もその一人なのだよ」

「あいつが、イレギュラー?」

 

そんな僕の予想に反して、思ってもみない名が出た。張譲は、この世界の住人だよな

「張譲は貴方と違って、もともとこの外史の住人なんだけどぉ、あいつも本来なら、連合辺りで死んでなきゃおかしい人間なのよぉ。でも、何故かまだ生きている。それもどんどん凶悪になって」

「我々管理者も、奴を危険視しておるんだが、どういう訳か奴の所在を特定することができんのだよ」

なんだと?

「私もご主人様の所に行かずぅ、こうして華佗ちゃんと行動してるのはぁ、張譲を探す為でもあるのよぉ。でもダメ。全然見つかんない!」

「そうなのか…」

もしかしたら、僕がこの世界に来た理由は、張譲にあるのかもしれないな。だが、管理者にも居場所がわからないとなると、見つけるのは容易ではない。なら、次に事を起こした時に、確実に仕留めなくてはならない。奴が、なにかデカイことをしでかす前に…

 

 

 

 


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