真・恋姫†無双 裏√   作:桐生キラ

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旅行編終幕

猪々子、バカ女との会話の後、私は一人零士の帰りを待っていた。あいつは無事だろうか

「よっと、到着」

そんな私の心配をよそに、零士は至極軽い感じで帰ってきた。どうやら、なんの問題もなかったようだ

「おかえり零士。首尾は」

「やぁ咲ちゃん。途中妨害もあったが、なんとか離脱させる事ができたよ。これで、黄巾の借りは返せたんじゃないかな」

よかった。秋蘭は無事みたいだな

「そっちは変わったことは?」

「そうだな。以前話していたバカ女っていただろ?あれな、劉備だった」

「バカ女?確か、君が一人で賊の隠れ家に乗り込んで助けた子だったかい?」

「あぁ…」

私自身は、あの時の事はあまり良い思い出ではないがな

「へぇ、咲ちゃんは既に劉備に会っていたのか。ホント僕らは、いろんな人と妙な縁があるな」

「まったくだな」

魏の曹操、呉の孫策、そして蜀の劉備。現在、覇を競っている三人の王と知り合いというのも、なかなかない事だよな

†††††

 

翌朝、私は寝るのが遅かったため、目覚めたのは昼前だった。そしてどういう訳か、私の隣には悠里が寝ていた

「おい、悠里。お前なに抱きついて寝てやがる」

「ありゃ、起きちゃったんですか?ちぇー、もう少し姉さんの温もりを感じていたかったのにー」

お前も起きていたのかよ

「珍しいですねー。咲夜姉さんがこんな時間まで寝てるなんて」

「まぁ、いろいろあって、寝るのが遅かったんだ」

「そう言えば、昨晩途中でいませんでしたね。東おじさんも見当たらなかったし…まさか!」

ぺしっ

「あう」

なにかよからぬ妄想をしていそうだったので、私は悠里にデコピンをお見舞いしておいた

「別になんでもないさ。ただ風呂入って、ぶらぶらしていただけだよ」

魏軍と蜀軍が居たことは、まぁ言わなくていいだろう。せっかくの旅行なんだ。楽しい思い出で終わらせたい

「面白くないなぁ。あ!姉さん、出かけましょうよ!恋ちゃんが子グマ連れてたんですよ!」

「子グマ?それはちょっと見てみたいな」

「ならさっそく行きましょう!」

私は悠里に引っ張られるように部屋を出た。そんなに急がなくても、いいと思うんだがな

†††††

 

 

 

「やぁ咲ちゃん。君も子グマを見に来たのかい?」

行った先には、零士が子グマを抱きしめ、それを月、詠、恋が羨ましそうに見ている姿があった

「なんだお前、子グマ好きなのか?」

「うん。だって可愛いし」

「プッ!」

私と悠里と詠は思わず吹き出してしまった

「えぇ?その反応は酷くないかい?」

「いや、だってねぇ…クッ…」

「あぁ。いい歳したオッさんが、可愛いって…ククッ」

「あははは!全然似合わなーい!!」

「えー。ショックだなぁ」

零士は心外だ、と言わんばかりの態度だった。長い間連れ添ってきたが、さすがにこればっかりは違和感しかない

「そういえば、今日帰るんでしたよね?いつ頃に帰りますか?」

月が零士から子グマを受け取り、抱きしめながら尋ねる。やはりこういう小動物は、月みたいな可愛い子といるのが一番だ

「お昼食べてからかな。皆ももう少し遊びたいだろ?」

「おー!さすが東おじさん!」

「なら、もう少しこの大自然でのんびりしようかしら」

「恋は、クマと、遊ぶ」

「私もクマさんと遊びたいです!」

「ふふ、めいいっぱい、満喫しておいで」

「はーい!」

そして四人は好きなように遊び始めた。と言っても、主に恋が連れてきたクマと一緒にいるがな

「咲ちゃんは、あれに混ざらなくていいのかい?」

 

零士と私は、そんな四人の光景を眺めながら、お茶を啜っていた。いかん、まだ少し眠い

「あぁ。見てるだけで十分だ」

私はクマに乗っている皆を見ながら答える。とても、平和な光景だ

「まさか軍が近くにいるなんて、思わないだろうな」

「あぁ。彼女達は知らなくていいだろう。念のため、五斗米道の皆さんには、伝えておいたけどね」

 

相変わらず、手回しの良い

「戦場になると思うか?」

「それは華琳ちゃん次第だけど、恐らくは」

あの華琳の事だ。売られたケンカは絶対買うだろう。この自然豊かな土地が戦場か。血やらなんやらで荒れてしまうと思うと、少し気が引けるな

「まぁなんにしろ、旅行中に戦場になることはないな。どんなに早くても明日からだろう」

「そうだね」

 

そう言って、同時にお茶を口に含んだ。なんとも呑気なものだ。だが…

「咲夜さーん!東さーん!見てください!凄く高いです!」

「わわ!だ、大丈夫かしらこれ」

月と詠が、クマの肩に乗りやってきた。あれは本当にクマか?中に人間が入ってるんじゃないだろうな。それでも、二人とも楽しそうだ

「おい二人とも、落ちたりするんじゃないぞ」

こんな平和な光景を見せつけられたんじゃ、呑気にもなるな

 

†††††

 

 

 

それからしばらくして、私達は昼食を済ませ、帰る支度を始めた

「うーん…もう少し遊びたかったですねー」

「そう?結構のんびり休めたと思うけど」

「また来たいですね!」

「そうだな」

何事もなく、この施設が残ってりゃな

「……」

「ん?恋、どうした?」

恋が何か思いつめたように外を眺めていた。クマが恋しいのか?

「…咲夜、ここ、大丈夫?」

「!!」

気づいたか?

「恋、きっと大丈夫だ。華佗や華雄、あと化物二匹がいるんだ。あいつらが守ってくれるよ」

私は恋にのみ聞こえるように囁いた。すると恋はコクリと頷き、荷物を持って外に出て行った。やはり、恋程になると気配を感じるのだろう

†††††

 

 

 

「みんな、忘れ物はないかい?」

今回も再びバスで帰る事になった。事前に準備していたんだろう。今回はぶっ倒れていなかった

「みんな!気をつけて帰ってくれ。ここにはまた来てくれて構わないからな!」

「はい!絶対来ます!」

「月様、お身体にお気をつけて。詠も達者でな。恋、二人を守ってくれよ」

「はい。華雄さんもお元気で」

「零士ちゃーん!最後にチューしましょうか!」

「む、それならわしも…」

「なんか、デジャヴを感じるな。それじゃあ、何かあればまた店に来てくれ」

「世話になったな。じゃあな華佗」

そして零士はバスを発進させ、『晋』を目指す。帰り道は、私と零士を除いた皆が眠り込んでいた。遊び疲れたのだろう。グッスリだった

†††††

 

許昌に着いたのは夜だった。私達はそれぞれ荷物を持ち、許昌の正門をくぐった

「いやー、帰って来ましたねー」

「あっという間だったわね」

「でも、凄く楽しかったです」

「…セキト、元気かな」

「今日はもう遅いし、セキトは明日悠里ちゃんの家から引き取ろうか」

「そうするか。もう眠い」

 

てか、寝不足で目の前がぼやぼやする

「了解でーす!ではまた明日!おやすみなさーい!」

「おう、おやすみ」

私達は悠里と別れ、『晋』に向かった。たった三日空けただけだが、なんとなく久しぶりに帰って来たという気分だ

「ふぅ、やっぱり我が家が一番だな」

「ふふ、そうですね」

「今、お風呂沸かすね。その間に何か飲むかい?」

 

零士がお湯を沸かしながら聞いてきた。相変わらず、気の利くやつだ

「僕、あったかいお茶ー」

「…ほっとみるく」

「珈琲」

「すいません、私も温かいお茶を」

詠も恋も私も遠慮なく言う中で、月は申し訳なさそうに言った。月は優しいなぁ。頭を撫でてやろう

 

「はいはーい。あ、咲ちゃん僕も月ちゃんの頭撫でさせて」

 

「へぅ!?いったい2人してどうしたんですか!?」

その後、それぞれ一服し、風呂に入り眠っていった。さすがにデカイ温泉の後だと、そこそこ広いうちの風呂が小さく感じたな

†††††

 

 

それから数日後。私達は通常通り営業を再開し、あるべき日常に戻っていった。嬉しかったのは、うちの飯を心待ちにしている人間が増えた事だ。営業を再開した日は、行列が出来るほど繁盛し、一日の最高売り上げを塗り替える程だった。本当に、幸せな事だ

そして定軍山での戦闘について。

結論から言ってしまえば、戦闘らしい戦闘は無かったとの事だ。両軍がほぼ無傷。蜀は大部隊での戦闘を想定していなかったようで、華琳が軍を率いてやって来る頃にはほとんど撤退していたらしい。恐らく、あのバカ女が私の話を聞いてまずいと思ったのだろう。賢明な判断だ。格好は悪いが、無闇に兵を失うよりかはマシだ。まぁ、華琳は随分と、ご機嫌斜めになっちまったがな

「あの子、勝てないと判断してすぐ撤退よ!私の兵を襲ったくせに!」

華琳はキンキンと起こりつつも、料理を食べる手は止めなかった

 

「まぁ、兵法的には理にかなっちゃいるがな」

「それでもよ!王としては、まだまだ甘いわね」

「それが奴の王道なんだよ。いかに皆を傷つけずに勝つか。恐らく同盟を持ちかけたのも、その考えがあっての事なんじゃないか?」

「ふん!まぁいいわ。それより、あなた達には世話になったわね。特に零士。秋蘭を助けてくれて感謝するわ」

華琳は一通り愚痴るとスッキリしたのか、話題を変え、零士にお礼を言った

 

「私からも、もう一度礼を。撤退支援感謝する。あのまま進んでいたらと思うと、正直今こうして話せる事も叶わなかっただろう」

 

同席していた秋蘭も礼を言う。対する零士は、なんてことはない様子で、洗い物を吹き上げながら口を開いた

「あー、いいよいいよ。秋蘭ちゃんには黄巾の借りがあるし。ね、咲ちゃん」

「あぁ。秋蘭が無事で何よりだ」

「すまんな二人とも」

 

秋蘭も流琉も無事、旅行も特に何事もなく終了。上々の結果だろう

「ところで、あなた天の世界の住人らしいじゃない。何故黙っていたの?」

華琳はなんとも怖い笑顔で言ってきた。零士風に言うのであれば、サディスティックな笑み?

 

「あー、ごめんね。もともと言うつもりだったんだけど、思ったよりも時期が早かったんだよね」

「どういう事かしら?」

「華琳ちゃん、君達、そのうち赤壁辺りで決戦するだろ?」

「!……それも、天の知識とやらかしら?」

華琳にしては、驚いた表情を見せた。確かあのバカ女も、来たる決戦に向けてとか言っていたな

 

「そうだね。問題はその後の戦なんだけど、定軍山で戦闘が起こるんだ」

「それが、先日の…」

「あぁ。定軍山の戦い。黄忠が夏侯淵を討ち取る戦いだ。僕と咲夜は君に借りがあるし、その戦が起こるだろう時に話すつもりだったんだ」

「まぁ、どういう訳かそれが早まって、赤壁の戦い前に起こっちまったがな」

 

あまり未来の知識とやらも、あてにはならないらしい

「そうか…重ね重ね、感謝する」

 

秋蘭は深々と頭を下げた。私たちとしては、大切な友人を護っただけのことなのだがな

「ふーん。まぁわかったわ。それより零士」

「赤壁での決戦、どちらが勝つかについては言わないよ。君、そういうの嫌いでしょ」

 

零士は華琳が全てを言いきる前に言った。それに対し、華琳は満足げな笑みを見せる

「あら、わかってるじゃない。ならいいわ。まぁ、私が勝ってみせるけどね」

「はは、頼もしい限りだ」

 

未来の知識が真実なら、華琳は赤壁で敗れるらしいが、とてもあのバカ女が華琳に勝つとは思えない

「では、私はもう行くわね。行くわよ秋蘭」

「は!ではな二人とも。……おっとそうだ。咲夜」

「ん?」

華琳と秋蘭が立ち上がり、店を出ようとするところで、私は秋蘭に呼ばれ、誰にも聞こえないように耳打ちされる

「残念だが、もう咲夜を応援してあげれんよ。だから気をつけろよ。東の隣、私が奪ってしまうやもしれんぞ」

「な!?」

「ふふ、ではな二人とも」

そう言い残し、華琳と秋蘭は去って行った

「ん?咲ちゃんどうかしたかい?」

「………」

こいつは…

「えーっと…あれー?どうしてナイフなんか抜いてるのかな?」

「お前、秋蘭に何をしたー!?」

秋蘭を助けられたのはよかったが、まさかこうなるとは…

よし、零士は一回切っておこう

 

 

 




ということで、今回は旅行編と言う名の定軍山編をお送りしました

実はこの旅行編、様々な条件のもとで構成されています

まず、定軍山の戦いの発生条件として、劉備が咲夜に助けられていること

そして秋蘭が生存する条件として…
1.零士と咲夜が『晋』を設立 
2.秋蘭との好感度が高い 
3.『晋』のメンツが秋蘭に対し借りがある 
4.猪々子と『晋』の間に絆がある 
5.流琉が『晋』のアルバイトとして雇われている

2と3の理由により、零士と咲夜が秋蘭を助ける理由を持ちます

そして4と5の理由によって、花火が零士の仕業である事を見抜き、秋蘭と猪々子が二人に会いに来ます

といった感じで、今までの事はある意味、この事件を発生させる為の事でもあったわけなんですよね

そして、零士が受けた矯正力について。
あれは一刀君に敵対してしまう行動を取ったが為のペナルティです。この裏√の外史においても、「主役」はあくまで北郷一刀だからです。

まぁ、一刀君は名前だけで、出す気はありませんけどね(笑)


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