真・恋姫†無双 裏√   作:桐生キラ

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悠里編開始。
悠里編は中二設定満載なオリジナルストーリーです(笑)


悠里編
悠里編其一


 

 

 

幼い頃の夢を見た

村を、家族を、たった一人の男によって奪われたあの日の

当時のあたしはたったの五歳

でも、あの光景は今でも鮮明に覚えている

悲鳴と共に降る血の雨

一方的な虐殺だった

みんなが殺された

ただ、あたしを残して

やがて男はあたしに近づき、血で濡れた手であたしの頭を撫でる

「怖いか?憎いか?許せないなら、いつか俺を殺しに来い。待ってるぜ」

そして男は去って行く、大きな肉切包丁を担いで

「おとう?おかあ?」

当時のあたしは、自分の両親が死んだことも理解しておらず、ただひたすらに、両親に語りかけていた。やがて私は力尽き、両親のそばで眠り落ちた。そして今のお父さん、大河さんに保護された

悠里「はぁ…」

やがてあたしは夢から覚める

忘れたくても、忘れられない過去

忘れちゃいけない、血で濡れた記憶

今日のあたしは、調子悪いみたいだ

†††††

 

 

 

四年前

「邪魔するぜぇ!」

お食事処『晋』が開店して数ヶ月が経とうとする頃、あるお客さんが来店した。一人はかなりガタイのいい屈強な男。もう一人は私と同い年くらいの黒髪の少女。そしてその後ろには、数人の柄の悪い男達がいた

「あぁ?お前、昨日私がボコった奴じゃないか」

数人の男の中に一人だけ見覚えのある顔があった。昨日、酔って店の中で暴れていたので軽く制圧しといた奴だ。なるほど、今日は人数を呼んで復讐ってか?

「親父!こいつでさぁ、昨日俺をぶん投げた女は!」

「ほぅ。この子が?」

親父と呼ばれた屈強な男が私の前に立つ。相対して気づく、この男の実力。並の使い手でない事がわかる。へぇ、凄い威圧感だ

「うちのもんが、世話になったみたいだな」

零士の方を見ると、あいつも警戒しているようだった。やがて男はゆっくりと動き、そして…

「本当にすまなかった!」

頭を下げた。

は?なんだおい、喧嘩しに来たんじゃないのか?

見れば零士も驚いている。明らかに、謝るような空気じゃなかっただろ

「俺は大河って言って、この町で護衛業をやってるもんなんだが、うちの組織のもんがここで暴れたと聞いてな。堅気に手を出すなんざ、俺の名が廃るってんで、今日はこうして謝りに来たんだ。本当、うちのわけェ奴が迷惑かけちまった。すまねぇ!」

私と零士は戸惑いつつも、状況を把握した。そして私と零士は目を合わせ、微笑を漏らす。

「あぁー、いやいいよ。うちはそういうの、日常茶飯事だし。な?零士」

「あぁ。うちは大丈夫なので、大河さんも頭を上げて下さい」

「しかし…」

「そうだな。悪いって思ってんなら、うちで食って売り上げに貢献してくれ。それで十分だ」

「わかった!おいお前ら、全員二品以上頼め!わかったな!」

「「「はい!」」」

それから私と零士は複数人の料理を提供した。開店史上最高の売り上げを記録した日だった。

大河さんは、この町で知らない人がいないくらいの有名人だった。人当たりはよくて情に熱い、外見からは想像もできないくらい出来た人間だ。そんな大河さんは護衛業を営んでおり、主に商人や貴族の護衛を生業にしているとの事だ。そしてその傍ら、仕事中見つけた孤児を引き取り育てる、孤児院をやっているとも言っていた。その孤児院の一人目が、張郃こと悠里だった

「口にあったか?」

私は男の中で一人、黙々と食べている張郃に話しかけてみた。すると張郃はご飯粒を口元に付け、満面の笑みでこちらを見た

「はい!見たこと無い料理ですけど、とっても美味しいです!」

「そりゃよかった。それとお前」

私は張郃の口元についていたご飯粒をとってあげ、それを食べた

「あむ。…ご飯粒ついてたぞ。美味いって言ってくれるのは嬉しいが、もっとゆっくり食え」

すると張郃は顔を真っ赤にして俯いてしまった。あれ?どうしたんだろう

「あ、あの、あたしの事は悠里って呼んで下さい!」

「ん?真名か?いいのか今日初めて会ったばかりの奴に許して」

「はい!構いません!」

「そうか。なら私の事も咲夜と呼んでくれ。じゃなきゃ不公平だろ?よろしくな、悠里」

「はい!よろしくお願いします!咲夜姉さん!」

ん?あれ?私今、何かおかしな旗を立ててしまったか?

†††††

 

現在

「とまぁ、こんな感じが、私達と悠里の出会いだな。あの日の翌日に、悠里がうちで働きたいって言って、今に至るって感じだな」

「あの時以来、咲夜姉さんに惚れちゃってねー。同じ女の子なのに、凄いドキドキしてさ。少しでも長く一緒に居たかったんだよね!」

「咲夜、あんた自覚無かったでしょ」

「当たり前だろ。まさかご飯粒取っただけで惚れられるなんて思うか?」

「あたしの中の乙女心に火がついた瞬間だったぜ!」

「ふふ、お二人ってとっても仲良しなんですね」

店内の客が帰って行き、やることがなくなった私は、月と詠に悠里との出会いを話していた。四年前の事なのに、昨日の事のように思い出せる。それだけ印象に残っているんだろうな

「思い出話してるとこ悪いんだが、誰かお使い頼まれてくれるかい?一人でも行けると思うけど、少し量があるから二人で行って構わない」

 

零士が店の奥からサイフとメモを持ってやって来た。私はメモを受け取り、内容を確認していく

「リストは…確かに中途半端な量だな」

 

一人で行けなくはないが、一人だとちょっと多いって感じだ

「あたし行ってきますよ!」

悠里がメモを確認すると、手を挙げて言ってくれた

 

「お、じゃあ頼まれてくれるかい?もう一人は…」

「あー、これくらいならあたし一人で大丈夫ですよ!」

ん?なにか違和感が…

「そうかい?じゃあよろしく頼むよ」

「はいはーい!行ってきまーす!」

悠里はそそくさと買い出しに行ってしまった。

気にしすぎか?どこか…

「悠里ちゃん、何かあったのかな?あの量なら絶対咲ちゃん誘うと思ったんだけど」

「!!零士もか。あいつ、無理してる感じがするな」

†††††

 

 

悠里視点

買い出しに出たあたしは、真っ直ぐ目的地を目指す。空は曇天で、今にも雨が降りそうだった。早く帰んなきゃ、こりゃ濡れちゃうな

しばらく歩いていると、凪さんが深刻な面持ちで兵士さん達に指示を出していた。なにかあったのかな

「凪さーん。どうかしたんですか?」

「あ、悠里さん。買い出しですか?こちらは今捜査中でして」

「捜査?なにか事件ですか?」

「はい。なんでも、洛陽で剣の盗難があったみたいで。それでその剣を持った男を許昌で見たと報告が入ったので、こうして捜索中なんですが」

 

ほえー、洛陽でそんなことが。そういえば、お客さんの中にそんな話をしている人がいたな

「なるほど。でもたかが剣で少し大袈裟じゃないですか?」

「眉唾な話ですが、どうもそれ、昔暴れまわった殺人鬼が持っていたとされる妖刀らしくて。大事をとって、確実に見つけ出せと命令がありました」

「殺人鬼の妖刀かぁ。それってどんなのなんですか?」

「かなり大きめの肉切り包丁のようなものらしいです」

かなり大きめの肉切り包丁………殺人鬼…まさかね

「わかりました。こっちでも見つけたら教えますね」

「ありがとうございます!それではこれで!」

あたしは凪さんと別れた後、一人あり得ない想像を働かせていた。もし、それがあたしの予想通りなら。もし、その殺人鬼が生きていたら…

「あ、あり得ないあり得ない!さ、さっさと買い物済ませちゃおう!」

きっと今日見た夢のせいだろう。そんな想像をしちゃうのは。あたしの両親を殺した仇は、既にこの世にいないはずだ

†††††

 

 

咲夜視点

悠里が買い出しに出てしばらくすると、一人の男が来店した。だが、そいつの雰囲気は明らかにおかしい。存在そのものが深い闇のような、他者に純粋な恐怖を植え付けるような、そう、まさに殺人鬼と呼ぶに相応しい気配だった

「………」

普段寝ている恋が、珍しく起きており、男を見張っている。それほど異形なのだろう

「うまかったぜ。金、置いとくぞ」

「あぁ」

幸いな事に、男以外に客はいない。あんなもの、普通に街中にいていい奴じゃないぞ

「なんなのよ、あいつ…」

「へぅ…詠ちゃん…」

月と詠は奥で震えている。あの子達でもわかるほど、気配がおかしかったのだ

男が店を出る直前に、扉が開かれる。悠里が帰ってきたみたいだ

「ただいま戻りましたー。いやぁ、さすがに一人は……!!」

「あばよ」

男と悠里はすれ違い、そして男は出て行った。対して悠里は汗をかき、震えていた

「あ…あ…な、なんで…なんで、あいつが…」

「悠里!」

悠里は突然膝から崩れ落ち、なにかブツブツ言っている。その表情は絶望と恐怖で満ちていた

「悠里!おい悠里!大丈夫か?」

「悠里!」

「悠里さん!」

みんなが一斉に駆け寄る。一体どうしたって言うんだ。あいつがなにか…

「クッ…」

すると悠里が突然立ち上がり、鉄棍を持って店を飛び出して行った

「悠里!」

私は直ぐに追いかけるも、既に悠里は消えていた

†††††

零士視点

「悠里さん…一体どうしちゃったんでしょう…」

「わからないけど、ただ事じゃないわね」

悠里ちゃんが突然膝から崩れたと思ったら、今度は店を飛び出して行った。咲夜がそれを追いかけて行ったが…一体どうしたんだ

「邪魔するぜぇ。…あぁ?悠里いねーじゃねぇか。あいつどこ行ったんだ?」

しばらくすると、大河さんが来店してきた。どうやら悠里ちゃん目当てみたいだったようだ

「いらっしゃい。悠里ちゃんなら…」

僕は先ほどまでの事を説明した。すると大河さんは、深妙な面持ちでなにかを考えているようだった

「おい東。その男ってのは、どんな見た目だ?」

「身長は僕くらいで、全身傷だらけ。特に顔の、目から頬にかけての傷が印象的な、髭面の30代後半くらいの男だ」

「そいつの雰囲気、殺人鬼みたいだったか?」

「あぁ。知っているんですか?」

「実はさっき、警邏隊の奴らと話しててよ。洛陽で妖刀が盗まれたみたいなんだ。その妖刀を持った奴がこの街にいるみたいでな。今捜索中らしい」

「その話なら、さっきも客の一人が話していたな。確か、巨大な肉切り包丁だったかな?だが、それがどうしたんですか?」

「…あれは十三年前だ。俺がまだ軍に居た頃、大量殺人鬼が世間を賑わせていてな。たった一人で村一個潰すような、そんな化け物みたいな奴がいたんだ。ある日、俺がそいつの捜索である村を訪れたんだが…」

†††††

 

 

十三年前

「こいつぁ、ひでぇ…」

俺の部隊が到着した頃には、辺り一面血の海と化していやがった。家にも、大地にも、血が飛び散っていてよ。さらに言や、そこにあるはずの、村人の死体が見当たらなかった。いや、正確にはあったんだが、人の形をしちゃいなかった。ああいうのを、肉塊って言うんだろうな。さすがに吐き気がしたぜ。うちの隊員は何人か吐いていたな

「うっぷ…そ、曹仁隊長。いかがなさいましょう」

「あんまり期待は出来ねぇが、辺りを調査しろ。もしかしたら生き残りがいるかもしれねぇ」

「は!」

我ながら、無駄な事してんじゃねぇかって思ったぜ。だがな、しばらくして見つかったんだよ。生き残りがよ

「すー…すー…」

ちっせぇ女の子が、その子の両親らしき奴らに抱かれるように眠っていやがったんだ。まぁ、その死体にゃあ手足なんざなかったけどな

「チッ…」

見てらんなかったぜ。俺ぁそれまで、数多の戦場を渡り歩いて、似たような光景を見てきた。だがな、こいつは別だった。わかんねぇが、なにかこみ上げて来るものがあったんだ

「隊長、この子…」

「わかっている。この子、俺が面倒見る」

それが、俺と悠里の出会いだった

 

俺と女房は子に恵まれなくてよ。こいつはちょうどいいってんで、女房も預かる事に賛成してくれたんだ。だがまぁ、保護した後も大変だったんだぜ?親がいないってわかったら、泣くは喚くはでよ。散々騒いだ後は、一転して明るさを無くしちまったんだ。そんな日々が続いたある日…

「行ってくる。椎名、留守は任せたぞ」

「はい。この子と一緒に、あなたの帰りを待っています」

俺を含めた精鋭百人による、殺人鬼の討伐が決まったんだ。たった一人に百人だぜ?馬鹿げてると思った。だがな、やらなきゃいけなかった

「行ってくるな、悠里」

「あ、あの、はい。がんばって、ください…」

俺は悠里の頭を撫でてやった。幼いくせに、子どもらしくない。笑わない、そのくせこっちの顔色ばかり伺ってよ。悠里にあるのは闇だけだった。俺は許せなかった。この子から光を奪った奴を。必ず殺してやるって誓ったさ

殺人鬼は程なくして見つかったよ。なんたって、どでけぇ肉切り包丁担いでんだからよ。ありゃ目立つぜ

「よぉ、軍の犬ども。たった一人にずいぶんな数じゃねぇか。えぇ?ビビってんのか?」

初めて見た時の印象は、危険、だった。こいつが生きてる限り、平和はこねぇとさえ思ったね。こいつは闇そのものだった。

†††††

 

現在

「結果、どうなったと思う?」

「は?大河さんが生きてるんだから、討伐に成功したんでしょ」

 

大河さんの問いに、詠ちゃんは疑問を抱きつつも答える

「あぁ。討伐には成功したさ。俺以外は全滅だったがな」

「な!?」

「そんな…」

 

大河さん以外全滅…その言葉を聞いた詠ちゃんは信じられないといった表情に、月ちゃんは恐怖を抱いたようだった

「正直、今でも勝てたのが信じられねぇ。それくらい、あいつの強さは異常だった。きっと俺を駆り立てていたのは、悠里の存在だったろうな。あの子の為に、勝てたんだ」

「そう…」

 

あの大河さん…曹仁がそこまで言うほどの殺人鬼なのか

「その後、俺は悠里と女房との時間を増やす為に退役。それで今の護衛業を始めたんだ。それから悠里は徐々に明るさを取り戻していったよ。俺と女房の事をお父さん、お母さんって呼んでくれた時は泣いたっけな。そんで四年前、あんたらに会って、あの子は完全に治ったと思ったよ。今の悠里は、人生で一番楽しんでそうだからな」

「あの、いつも明るい悠里さんに、そんな過去があったなんて…」

僕自身も、あの子にそんな過去があったなんて知らなかった。あの子の笑顔の裏に、そんな秘密があるとは

「それで、その殺人鬼がどういう訳か生き返っているか。信じられない話だな」

だが、もしそれが本当なら、放っておくわけにはいかないな

「少し出かけてくる。恋ちゃん、月ちゃんと詠ちゃんを見ててくれるかい?」

「…ん」

 

僕が言うと、恋ちゃんは方天画戟をそばに置き、頷いてくれた。僕はそれを確認し、付けていたエプロンを脱ぐ

「ちょ、あんた行く気!?」

「へぅ、危ないですよ~」

 

詠ちゃんと月ちゃんには止められてしまった。あんな話を聞いたんだ、仕方ないだろう

「悠里ちゃんと咲夜を探しに行くだけだよ。ちゃんと帰ってくるから、いい子で留守番しててくれるかい」

 

だけど、僕は行かなきゃいけない。咲夜も悠里ちゃんも、僕の大切な人なんだから

「俺も探すぜ。あいつは俺の子だ。それに、もしあの殺人鬼が生きてるんなら、もう一度殺してやる」

そして僕と大河さんは、外に飛び出した。外は雨が降っており、少し肌寒いかった

それにしても、殺した人間が蘇るか…ずいぶんと、めちゃくちゃだな

 

 

 


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