真・恋姫†無双 裏√   作:桐生キラ

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悠里編終幕

悠里視点

「ここは…」

目が覚めると、あたしは寝台の上に横たわっていた。見覚えのある部屋だが、あたしの部屋じゃない。ここは…

「やぁ、おはよう悠里ちゃん」

「東おじさん?」

扉が開き、東おじさんが現れる。そうか、ここは『晋』の、咲夜姉さんの家か

「調子はどうだい?」

「はい、もうなんとも。あの、姉さんは?」

あたしは少しずつ覚醒していく頭で、気を失う前の事を思い出していく。確か、姉さんがあの男をバラバラにして、武器を壊して、それで安心して、二人して倒れた気が…

「咲ちゃんなら大丈夫だよ。少し前に目覚めて、朝食も取り終えた。君も、何か食べるかい?」

東おじさんは「咲ちゃん」と言った。なら大丈夫なのだろう。もう脅威は去った。あいつはもういない。そう思うと、安心したのか、急激に空腹感に襲われる

「はい、お願いします」

あたしがお願いすると、東おじさんはニコッと笑い、部屋を出て行った。残されたあたしは、水を飲みつつ、待つことにした

「悪い予感が、悪い現実を引き起こしちゃったのかな…」

あたしは昨日の出来事を思い出す。おとうとおかあを殺した、あたしの仇。一度目は大河さんが、二度目は咲夜姉さんが殺した怪物。結局あたしは、また守られたのかな

「お待たせー。ん?どうかしたかい?ずいぶん暗いようだが」

 

東おじさんは料理を乗せたおぼんを持ってやって来た。そして私の様子に気づき、心配した様子で話しかけてきた

「東おじさん…これって、あたしのせいなのかな」

「どういう事だい?」

「猪々子ちゃんの事件の時、あたしが張譲に会ったのはいいましたよね?その時に、張譲になにかされたんですよ。体の調子が悪くなった感じがなかったから、大丈夫だと思ったんですけど、違いました。あの人は、私の心を覗いたんだと思います。だから私が一番怖いって思うあの殺人鬼が蘇った。そして、あたしは何もしないまま、みんなに迷惑かけて、守られた」

自分の力で解決しなきゃいけなかったはずなのに…

「……それのどこが、君のせいなんだい?」

「…え?」

東おじさんは、よくわからないといった表情で聞いてきた。あれ?

「いやだって、あたしみんなに迷惑かけて…」

「別に、咲ちゃんも僕も、もちろん大河さんだって、そんな事迷惑だなんて思ってないよ」

「でも!」

「あの殺人鬼を君が蘇らせたっていうなら、確かに君のせいだけど、違うだろ?あれは張譲の仕業だ。君はどこも悪くない」

「それでも、張譲にきっかけを作ったのはあたしです。だから…」

「…はぁ、確かに、大河さんの言ったとおりだな」

「え?」

お父さんの言う通り?

 

「子どもらしくないんだよ。子どもってのは、家族に守られて当たり前なんだ」

「でもあたしは…」

「血の繋がりがないから家族じゃないとか思ってるのかい?」

「…」

言い当てられ、黙ってしまう。所詮、あたしはよその子だ。それは、今になっても心の片隅にあった

「血の繋がりだけが、家族の証かい?僕はそうは思わないな」

「…え?」

「家族の定義なんて、人それぞれさ。世の中には、盃で交わす家族もいれば、『晋』みたいに絆で結ばれた家族もいる。自分が家族と思えば、それはもう家族だ」

「………」

東おじさんの言葉が胸に突き刺さり、不思議と涙が零れる

「悠里ちゃん、君の家族はここにいる。大河さん達や僕らが、君の家族なんだ。そして僕らは、家族の君を助けたい。それを迷惑だなんて、思ったりしない。だから、もっと僕らを頼って欲しいんだ」

そう言って、東さんはあたしの頭を撫でた。それは、ずっと望んでいた言葉なのかもしれない。心の何処かで、この世界にあたしの居場所はないと思っていたから。迷惑をかけちゃいけないと思っていたから。でも違った。ここが、あたしの居場所なんだ。頼っていいんだ…

「ありがとう…ございます…」

あたしは静かに涙を流す。それが止まるまで、東さんは頭を撫でてくれた

「すいません。急に、泣いちゃったりして」

 

しばらくして、私はようやく涙を止めることができた。その間、東さんはずっとそばにいてくれた

「はは、いいよいいよ。気にしないで。それより、ご飯、冷めちゃったかな」

「あ…」

忘れてた。悪い事しちゃったな

「温めてくるよ」

東さんが料理を取ろうとしたところで、あたしはそれを阻止し、取り上げた

「大丈夫です!東さんの料理は冷めてても美味しいですから!」

あたしはそのまま料理をがっついた。あ、ホントに冷めてても美味しい

「あはは、ありがとうね悠里ちゃん。でも…」

「ごくん…ん?」

東さんが私の顔に手を伸ばし、ご飯粒を取ってくれる。そして…

「あ…」

「あむ、もう少しゆっくり食べなよ。喉に詰まらせちゃうよ」

そのご飯粒を食べた。四年前、咲夜姉さんがやったように

「……」

「ん?顔が赤いね。どうかしたかい?」

「い、いえ!なんでもないです!」

「んー?」

あー、姉さんごめんなさい。こりゃ、惚れちゃったかもしれないです

†††††

 

 

零士視点

悠里ちゃんがご飯食べ終えると、僕は食器を片付けに部屋を出る。そして、もう一人の部屋にもお邪魔した

コンコン

「咲ちゃん、入るよ」

「あぁ」

僕は扉をノックし咲夜の部屋に入る。彼女は既に食事を取り終え、本を読んでいた

「悠里の様子はどうだ?」

「あぁ。もう大丈夫だよ」

「そうか、ならよかった」

咲夜はそう一言告げ、意識を再び本に向けた。だが、僕はまだ、咲夜に聞かなきゃいけない事がある

「咲夜、いつからあの眼を?」

「ん?割と最近だな。魔術訓練してる時にふとできたんだ」

そんな簡単に出来る代物ではないと思うが

「あの眼を使う時、頭が痛くなったりしたか?」

「まぁ、そうだな。脳を酷使してるんだ。痛いし疲れるし、しかも使うのに時間もかかるから、乱用はできないな」

そうか。それならいい

「わかってると思うが、それはあまり乱用してはならない。それは”直死の魔眼”と呼ばれるものに酷似している。”直死の魔眼”は、モノの死が視えるようになる代わりに、常に死を見なきゃいけなくなる。そんな世界は常人には耐えられない。よほどの者でない限り、廃人になる」

「ん?常に?私は集中しないと視えないぞ?」

「あぁ。だから厳密には”直死の魔眼”ではないんだろう。だが、大事を取ってそれの使用はなるべく避けてくれ」

「……わかった。気をつけるよ」

「あぁ。それじゃあ、僕はそろそろ行くよ。食器、片付けておくね」

「おー、すまんな。……あぁ、それと零士」

「ん?」

「朝飯は月のが美味いな」

な、なん…だと…

†††††

 

 

咲夜視点

あの事件から、三日が経った。街はあんなバケモノみたいな殺人鬼が居たことすら知らず、変わらない日常を過ごす。それは『晋』も例外ではなく、いつも通りの何てことない日常を送っていた

「では、私はこれで。咲夜さん、この度はありがとうございました」

「いいって。桜によろしく伝えておいてくれ。じゃあ、気をつけて帰ってくれな」

李儒さんこと京は、今回の事件の報告を持ち、洛陽に帰っていった

「まさかそんな事になっていたなんてね」

報告の際には、華琳もそばに居た。そういえば…

「お前、あんな事件があったってのに、警邏隊の連中は何してたんだよ」

許昌の外とは言え、あんな派手に戦ってたってのに、軍は救援に来なかった。何かあったのだろうか

「あら、聞いてないのかしら?大河さんの部隊に介入を止められていたのよ。危険過ぎる、がむしゃらに犠牲者を増やさないためにって」

そう言えば大河さんは、かつてあの殺人鬼に100人で立ち向かって、全員を殺されたと言っていたな。確かにその経験からなら、その判断もわからなくもない

「だが、お前がそう簡単に引くとは思えないな」

華琳の性格上、こういう事件には突っ込みたがるはずだ。それが自分の領土内の事件ならなおさら

「あら、私だって、叔父の忠告くらいは聞くわよ。それに、あなた達なら、バケモノ程度なんてことはないでしょう?」

「おいおい、そりゃどういう意味だ?」

「ふふ、そのままの意味よ」

チッ、私らもバケモノってか?否定はできないな

「それより、あれは放っておいて良いのかしら?」

そう言って華琳は零士達に視線を向けた。そこには…

「東さーん!今度の休日、あたしと出かけましょうよ!そうしましょう!」

「あ!ズルイです!東さん、私とお出かけしましょう!」

「あ、東さん、私とも、その、辛いものを…」

「東よ、今度そこの甘味なんてどうだ?」

「あ、あんた達!今、仕事中よ!」

「あ、あはは、参ったなー」

零士が悠里、月、凪、秋蘭、そしてこっそり詠にも囲まれていた。あの事件以来、悠里が零士に対して積極的になったのだ。それに触発されてか、月、凪、秋蘭までもが積極的になっていた

「あの男、着々と築いているわね」

「ははは、そのうち刺されるんじゃないか?」

「そうなったら、真っ先に咲夜を疑うわよ。まぁ、別に捕まえはしないけど」

もうこれは、諦めるべきなんだろうな…

あーでも、もう一回詠の不幸の日にあってくれるといいのになー

 

 

 






今回は張郃こと悠里がメインの回でした。今回登場した殺人鬼は、特に元ネタになる武将等はいません。ただ純粋なサイコパスってのを書きたいが為のキャラクターでした。

バラバラになっても生きている。それは殺人鬼自体が実体ではないから。すべては武器に宿った魂が具現化したもの、だから武器を壊せば死ぬって設定です。中二くさいでしょ(笑)

もう一つ中二くさい事柄は、咲夜の能力についてです。ずっとやりたかったネタだったんですよねー、直死の魔眼。せっかくインスパイア元が両儀式なので、知っている人は知っている有名なセリフもパクリました。ファンの方はごめんなさい

この作品も次回がいよいよ最終章です。最後までお付き合いしてくださると、幸いです

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