とあるゴロツキの挑戦
「へっへっへ、今日からこの許昌の裏は俺が占めてやるぜ!」
「さすがアニキっす!どこまでも付いて行くっす!」
「そこに痺れる、憧れるんだな」
俺様は、ちょっとしたワルってやつだ。小せぇ村にゃあ収まらねぇ程の器だったんで、村を飛び出して許昌にやって来た。今日から俺様の伝説が始まるんだ!
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ラウンド1
「アニキー、腹減ったんだな。あそこの饅頭屋に行きたいんだな」
許昌に入って早々、一緒にこの街へとやって来たデクが文句を垂れてきた。だが確かに、こいつの言う通り腹は減ってやがる
「仕方ねぇなぁ。金はねぇが、んなもんワルにゃあ関係ねぇか。じゃあ行くぞテメェら!」
俺らはすぐそばにあった饅頭屋に入っていく。そこにゃあ冴えないオッさんと、べらぼうな巨乳美人がいた
「いらっしゃい、何にしますか?」
店内に入ると、店主と思しき冴えないオッサンが話しかけてきた
「とりあえずオススメを一人二個ずつくれ!」
「まいど!」
店主が注文を取ると、程なくしていい匂いの饅頭がきた。だが俺様は饅頭よりも、饅頭を持ってきた女の二つの超特大饅頭に釘付けだった
「あいよ!饅頭六個お待ちね!ゆっくり食べてってちょうだい!」
でけぇ!
「綾乃さーん、いつものー!」
「あら咲夜ちゃんいらっしゃい!ちょいと待ってな!」
巨乳美人は他の客に呼ばれさっさと行ってしまった。今入ってきた女もかなりべっぴんだな。さすが都、ヤベェぜ
「これ、美味いんだな」
デクは色気より食い気かよ
「アニキ!女将さん、マジいい女っすね!口説きやすか?」
さすがチビ、こいつはわかってんな!
「ったりめぇだろ!あの巨乳を弄びたいぜ!」
俺様は意を決し、奥さんに話しかける事にした。奥さんはさっき入ってきた女と話していた
「おい、奥さん!俺様の女になれ!」
「お?綾乃さん、ナンパされてるじゃないか」
「おやおや?私もまだまだ捨てたもんじゃないねぇ」
そう言って奥さんは豪快に笑った。そして笑顔のまま立ち上がり…
「気持ちは嬉しいがねぇ、これでも人妻なんだよ。それにねぇ、私ゃ私より強い男じゃないとなびかないのさ!わかったら饅頭食ってとっとと帰りな小僧!」
「んだとぉ?」
このアマ、こっちがせっかく声かけたってのに
「チビ、デク、こい!やっちまうぞ!」
「喧嘩だ喧嘩だ!」
「食後の運動なんだな」
俺様達三人は奥さんを囲んだ
「あむあむ…ごくん。手伝おうか?」
「はっはっは!こんなガキンチョにやられるわけないじゃないか!咲夜ちゃんは大人しく饅頭食ってな!」
大の男三人で囲んでるっていうのに、この女はそんな事些細な事だと言わんばかりの態度だった。すぐそこで饅頭食ってた見慣れない服着た女も、でけぇ態度だな。後でシメテやる
「舐めやがって…死ねー!」
「やれやれ」
気がついたら、俺様達は地面に寝転がり、空を見上げていた。いったい、何が起こったんだ?
「おや?気がついたかい?」
目を覚ますと、饅頭屋の店主がこちらの顔を覗きこんでいた。気がついただと?俺様は気を失ってたってのか!?
「チッ、あのアマ…」
俺様が立ち上がろうとすると、店主が近づいてきた。そして底冷えするような声で耳打ちしてきた
「俺の女房を、あんな汚い目で見るなよ。皮、剥ぐぞ」
「ヒィッ!」
「じゃ、気をつけてお帰りください。お代は結構ですので」
そう言って店主は帰って行った。な、なんなんだよアイツのあの気配!普通じゃねぇ!
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ラウンド2
「俺たちに足りねぇのは兵隊だ!まずは仲間集めるぞ!」
「うっす!」
「わかったんだな」
そして俺様は裏路地に入っていく。そこには俺様と何ら変わりないゴロツキがうじゃうじゃいた。そして声をかえ、叩きのめして行き、服従させる事に成功する
「いい感じに増えてきたな。おっ!」
前方に女二人発見!黒髪で活発そうな子と、その母親らしき女。どっちも美人だ!
「そこの奥さん!」
俺様は声をかける。狙いはもちろん奥さんの方だ!
「およ?お母さん、ナンパされてるよ?」
「あらあら、私もまだ捨てたものではありませんね」
なんかさっきも聞いた台詞だな
「じょ、徐晃さん!」
奥さんの顔を見るや否や、先ほどかき集めたゴロツキが頭を下げ始めた
「あらあら、皆さんお集まりで」
「いえ!俺たちはこれで!悪いなあんた!俺らは帰らせてもらうぜ!」
そう言って、せっかく集めた兵隊は一目散に逃げて行った
「お、おい!」
なんだあいつら?全員が全員、同じ台詞言いやがって
「それで、あなたはどちら様ですか?」
「おっと、俺様はちょっとしたワルよ!お前、俺様の女になれ!」
「あらあら、困りましたわね。私には夫が…」
「へ!そんな男より俺のほうが…」
がしっ
「誰だ?俺の女に手を出そうとする、クソ野郎は」
気づけば、俺様は頭を鷲掴みにされ、持ち上げられた。そして、世界が反転した
「あらあら、大河さん。別に良かったですのに」
「何言ってやがる。女房を助けちゃいけなかったのか?」
「大河さん…」
「あつ!なんか急に気温が…でも、お母さんも元軍人であたしより強いんだから、別にあれくらい大丈夫だと思うけどなぁ。あ!あたしそろそろ『晋』に戻らなきゃ!それじゃあねお父さん、お母さん!」
それが、俺様が聞いた最後の言葉だった…
†††††
ラウンド3
「って!まだ死んでねぇ!」
「だ、大丈夫ですかアニキ?」
「おかしくなったんだな」
気がつけば、もう夜だった
「アニキー、腹減ったんだな」
「またかよお前は」
「いやいや、アニキは気ぃ失ってたからじゃないすか」
「だーもーわかったわかった。じゃあ飯にするか」
俺様達はしばらく歩く。もうかなり遅い時間だからだろう、どこもやっていなかった。だが、しばらく歩くと一店舗だけ明かりが点いていた。ん?なんだあれ?お食事処『晋』?しゃあねぇ、ここにするか
「邪魔すんぜぇ」
店に入ると、可愛い女の子がやってきた。中はかなり賑わっている。きっと美味いのだろう。楽しみだ。だけど…
「おや?どこかで見た顔だね」
饅頭屋の巨乳奥さん…
「いやいや、綾乃さんが叩きのめした奴ですよ」
饅頭屋にいた美人の客…
「あら、綾乃さんもですか?」
路地裏で口説こうとした女…
「というと、そちらも?」
やばい雰囲気の饅頭屋の店主…
「あぁ。俺の女房に手ぇ出そうとしたんで、頭から叩きつけたんだ」
路地裏で俺の頭を掴んで地面に叩きつけた男…
「今さらだけど、あれ死んでもおかしくない一撃だよね」
あー、やばい、帰りたい…なんで今日会った人たちが勢ぞろいなんでしょう…
「あの、お客様、どうかなさいましたか?」
目の前には小さな女の子。く、クソッ!
「お前ら動くなー!この子がどうなってもいいのかー!」
俺は少女を人質にとり、逃げようとした
「あ、あの…離してくれた方が…」
少女が心配しているような様子で言ってくれた。そんな言葉に、俺は少し罪悪感を抱いてしまった
「許せ嬢ちゃん…大人しくしてりゃ、無事に帰してやるから…」
この場から離脱出来たら、ちゃんと安全無事に返してあげよう。なんなら迷惑料も払ってあげよう
「アニキ、突然どうしたんですか?」
「やっぱりおかしくなったんだな」
「うるせぇ!テメェら!ずらかる
ヒュッ ストーン
「……え?」
俺が扉を出ようと振り返ったところ、俺の目の前を短刀が横切った…
「おい、月を離せ。そしたら命まではとらん。約束しよう。私は何もしない」
昼間饅頭屋にいた女がもう一本短刀をちらつかせて言ってきた。
何もしない?何もしないだと!?テメェらさんざん痛めつけてくれたじゃねぇか!
「な、何言ってやがる!これが
ヒュッ ストーン
俺が人質を見せつけようとすると、今度は短刀が俺の頬を掠めて壁に刺さった。掠った頬からはツーっと血が流れてくる…
「次はないぞ?」
「ヒィッ!」
女の鋭く冷たい視線に耐えきれず、俺はたまらず少女を離す。すると少女は小走りで奥に行ってしまった
「おーよしよし、怖かったねー月」
「詠ちゃん、あの人大丈夫かな?」
「………無理なんじゃない?」
俺は少女が奥で保護されたことを確認し、短刀を投げてくる女を睨みつける
「おい、本当に見逃してくれるんだろうな?」
「…私は何もしないさ」
女は短刀を置いて頷いた。どうやら本当に何もしないらしい
「よ、よし!テメェら!帰るぞ!」
俺様は店を出た。するとそこには、赤毛の女の子がいた
「あぁ?なんだテメぶへらっ!」
女の子は一瞬で視界から消え、そして俺は空を見上げていた。空を見上げて改めて気づいた。少女は俺の顎を思い切り殴り飛ばしたんだ。うん、超いてぇ…
「月をいじめたやつ、許さない」
あぁ、都怖ぇなぁ。おら、小さな村くらいの器なんだなー
凪「お疲れ様です、恋さん!」
恋「…ん」
咲夜「バカな奴だよな。気が動転して、人質取るなんて。何もしなきゃ普通に帰したのに」
零士「はは、よっぽど酷い目にあったんだろうねー」
秋蘭「いったい、何がしたかったんだろうな」
華琳「おおかた、田舎から出てきて、のし上がろうとして失敗したんじゃない?運が悪かったのよ、こいつらは。まさか自分達が、許昌の三大勢力に喧嘩売っていたなんて、知らなかったでしょうし」
これもまた『晋』の、許昌の平和な日常の一幕…