真・恋姫†無双 裏√   作:桐生キラ

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今回が最後の日常編になります


『晋』

 

 

 

「こんにちはなのー!」

「ん?沙和か」

勢いよく入ってきたのは、凪の親友の沙和だ。そしてその後ろにはばっちり凪もいる。それに…

「おい、お前の入店はまだ先のはずだぞ真桜」

ブラックリストの一人、李典こと真桜もいた。こいつはうちに食いに来ると言うより、うちの設備に興味があるらしく、飯そっちのけで観察している。それじゃあただの迷惑なので、こいつにも春蘭や季衣と同じように月一と制約を設けておいた

「ちょ、そんないけず言わんといてぇなぁ。今日はただの付き添いですわ」

「そうなのか凪?」

 

私は凪に確認を取る。すると凪は笑顔でうなずいた

「はい。今日は沙和の用事でやって来ました」

まぁ、凪が言うならそうなんだろうな

「とりあえず、お座りください。お飲み物をお持ちしますね」

「お構いなくなのー!」

 

そう言いつつ、凪も沙和も真桜も席について月にお茶をもらっていた。くつろぐ気満々らしい

「それで、用事ってのはなんだ?」

 

私もお茶菓子を用意し、沙和の話を聞くことにした。幸い、今は客も少ないし、休憩も兼ねるか

「実はー、『晋』を取材させて欲しいのー!」

「取材?」

私が疑問に思っていると、沙和が一冊の雑誌を取り出した。これって…

「え!もしかして、阿蘇阿蘇の取材ですか!?」

いの一番に食いついたのは悠里だった。だが、確かにこれは驚きだ。まさかあの阿蘇阿蘇から取材が来るとは

「あのー、阿蘇阿蘇ってなにかな?」

 

厨房で食器を拭いていた零士が聞いてきた

「え?東さん知らないんですか?」

まぁ、そうだろうな。こいつ、こういうのに疎そうだし

「阿蘇阿蘇というのは、都での流行やオシャレ、人気のお店などが載っている、女性向けの雑誌です」

 

月が阿蘇阿蘇を零士に見せつつ説明してくれた。その説明を聞いて、零士も理解できたようだ

「へぇ、そんなのがあるんだぁ。あぁ、いわゆる、ana…」

「おっと零士、それ以上はダメだぜ」

「え?あ、はい。ところで、咲ちゃんもこういうのに興味あるの?」

零士は阿蘇阿蘇を流し読みしながら問いかけてきた

「なんだ、あっちゃいけないのか?」

「いや、そうじゃないけど…」

「きっと似合わないからで…」

バシッ

「それで、なんで沙和が阿蘇阿蘇の取材なんか任されてるんだ?」

「最近、姉さんからのツッコミが容赦ないぜ…」

「あー、それはねー、この前阿蘇阿蘇買いに行った時に、偶然編集者さんと会ってー。それで沙和が『晋』の皆と仲良しーって言ったら、取材をお願いされちゃったのー」

一体どういう流れで、うちと仲良しだなんて話になるんだよ

「ふーん、経緯はどうあれ、受けてもいいんじゃないかしら。店の宣伝にもなるし」

「詠ちゃんの意見に賛成。みんなも構わないかい?」

『はーい』

『晋』の従業員全員が答えた。こっちとしても、タダで宣伝ができるなら願ってもない事だ

 

「よかったのー!それじゃあ、詳しい予定を話し合いたいの!」

それから、沙和達と飯を食いつつ、取材の細かい予定を組み立てていく。取材当日は沙和のみが来るそうだ。凪と真桜は軍備を整えなきゃいけないらしい。こんな平穏としている中でも、大陸を統一する決戦はすぐそこまで迫って来ているようだ

†††††

 

 

取材当日

「眠いの~。いつもこんなに早起きなの?」

『晋』の厨房には私、零士、月、そして沙和が集まっていた。沙和は仕込みから取材に参加するとの事なので、開店前からやって来ていた。だが、この時間は沙和には酷だったようだ。目がほとんど開いていない

「うちの店はいろいろな料理を出しているからね。この時間からやっていかないと、お昼時に回らなくなるんだ」

「うっへぇ、大変なの~。そう言えば、てんちょーさんはなんで料理店開こうと思ったの?」

 

「そうだねー。僕の作る料理って、結構好評みたいでさ。いろんな人に振舞っては、美味しいって言ってもらえたんだ。それがとても嬉しくってね。だから、もし店を開くなら料理しかないって思ってたんだ。最初は、遅くまで頑張って働いてくれている人が、何気無く寄ってくれて、美味しい料理とお酒を飲んで、明日への活力にしてほしい、って理由で夜間営業をしていたんだ。それが徐々に人が増えて、今では皆のおかげでお昼に開店してもまかなえるくらいにまでなったよ」

 

朝の仕込みをしつつ語る零士の話を、沙和は眠そうながらもしっかり聞いている。今までこういう話にならなかったのもあり、沙和だけでなく月も真剣に聞いていた

「確かに、てんちょーさんの料理を食べると、明日も頑張れそうな気がするの!」

「はは、そう言ってもらえると、こちらとしても頑張った甲斐があったよ」

零士は仕込みをしつつ、嬉しそうに頬をかいていた。やはりこいつでも、褒められる事は嬉しいらしい

「でも、お店を開くって大変だよねー。経営とかー、宣伝とかー」

「まぁ、もともとあまりお金儲けが目的で始めた訳じゃないからねー。当初はお客さんもなかなか来なかったよ」

「まぁ、救世主はすぐ来たがな」

「救世主?」

私の言葉に、沙和は疑問を抱いたようだ。そうか、結構有名な話だと思っていたが、沙和は知らなかったのか

 

「あぁ、うちのお客様第一号は、あの秋蘭なんだ」

「え!?秋蘭様だったの?」

沙和はとても驚いていた

 

「華琳がまだ陳留に居た頃、秋蘭がちょくちょく許昌に来ては、この街の治政に携わっていたんだ。その時に、偶然この店に来てくれてな。以来、秋蘭が許昌にいる間はほとんどうちに来てくれてたよ。時々、文官何人かと一緒に来て、仕事しつつ食ってったなんてこともあったな」

「そうそう。その時に咲ちゃんが彼らの仕事に口出してさ、咲ちゃんの意見に感心した彼らが咲ちゃんを引き抜こうとしてたんだよね」

 

そう言えば、そんなこともあったなぁ。確か当時の文官みんなから引き抜かれそうになったんだよな

「咲夜さん、頭良いもんねー」

「まぁ、私にそんな気はなかったから断ったがな」

実力行使で

 

「な、なんだか、断っている姿が容易に想像できますね」

おいおい月さん、そんな笑顔引きつってどんな想像してるんだ?

 

†††††

 

 

 

「おはようございまーす!」

しばらく話していると、悠里が勢い良くやってきた。後ろには詠と恋もいる

「おはよー。あれ、沙和もう来てたんだ」

「……おはよう。セキトの散歩、いってきます」

「おはよう三人とも。恋ちゃんはいってらっしゃい。気をつけてねー」

そう言って恋はセキトと散歩へ行ってしまった。後の二人は制服に着替えて、掃除を始めていた

「いつも思ってたんだけど、ここの制服可愛いよねー。てんちょーさんが作ったの?」

 

沙和はとても羨ましそうな目で制服を眺めていた

「そうだよー。僕と咲ちゃん、それにたまに恋ちゃんが着ているのがバーテンダー服と呼ばれるもの。悠里ちゃん、月ちゃん、詠ちゃんが着ているのがメイド服だ」

「へぇ、沙和も着てみたいのー!」

「おっと、この制服着たいなら、ここで働かないとね!」

悠里が沙和の要望に反対すると、沙和は頬を膨らませていた

 

「えー、予備くらい着させてくれてもいいじゃーん」

「悪いな沙和。お前の我儘を許すと、とんでもない数の女性客の我儘も聞かなきゃいけなくなるんだよ」

「この服、結構評判良いからね。あんたみたいに、着たいって女性多いのよ」

私と詠で説明すると、沙和はがっくりとうなだれてしまった

 

「みんな考えることは一緒かー」

「そういうこと。一時期は、服飾事業もやってみないかって案もあったんだけど、良い職人さんが見つからなくてね」

「え?じゃあ、その服どうやって作ったの?」

「特殊な技術(魔術)です」

「特殊な?」

「技術(魔術)」

 

沙和の疑問に月と詠が答える。知る人ぞ知る特殊な技術(魔術)です

 

「まぁ、流石に反則臭いから、それは没になったんだよ」

そう。服飾に手を出すということは、零士の魔術で作った物を出す事になる。流石にそれは、他の頑張っている職人さんを泣かしてしまう事になるので没になった。人間、楽して稼ぐなんて真似したら、堕落してしまうからな

「なんかよくわかんないけど、残念なのー」

「なら、平和になったら軍辞めてうちで働いたらどうだ?歓迎するぜ」

「むむ、それはとっても悩むの…」

事実、最近雪蓮と猪々子から届いた手紙によると、大陸統一後はうちで働く気満々でいるらしい。まだ戦ってもいないのにな

「悠里ちゃんと詠ちゃんは、仕込みじゃなくてお掃除なの?」

 

沙和が聞くと、悠里も詠も笑顔で仕事をしながら話始めた

「そそ。あたしも料理は作れない訳じゃないけど、あたしの戦場はここだからね。その戦場を綺麗にしときたいんだ」

「悠里の言う通りね。飲食店が汚いって、やっぱちょっと嫌じゃない。少しでもやれる事やって、気持ち良く食べてってくれると嬉しいわ」

「何気無い気遣いだけど、こういう事をコツコツしっかりやる事に、お客さんが来る秘訣があるのかなー」

「私はそう思います。何事も、日々の積み重ねです。仕込みもお掃除も、手を抜かずより良いものに仕上げていく。それでお客様が笑顔になってくれるのなら、苦ではありません」

 

最後に月が付け足した。みんな、もう一人前の飲食店の従業員だな

「ほぇー、なんかかっこいいのー」

沙和は嘘をつける人間じゃない。おそらく本心から言っているのだろう。だからか、その本心からくる賛辞の言葉に、私達は少しだけ頬を染めていた

 

†††††

 

 

「ただいま。札、変えてきた」

「よし、じゃあみんな!今日もよろしくお願いします!」

『お願いします!!』

恋が散歩から帰ってくると、いよいよ『晋』は開店だ。それぞれが持ち場について行き、お客様を待つことになる

「…咲夜、着せて」

「ん?珍しいな恋。今日は制服着るのか?」

「…ん」

基本、用心棒の恋は、制服を着ることなんて滅多にないが、時々こうして気まぐれに着ることもある。今日はその日のようだ

「おー!恋ちゃん、ピシッとしててカッコイイの!」

「…ありがと」

恋のバーテン服姿は本当によく似合っている。これは今日、恋は大忙しだな

「お邪魔するのですぞー!おぉ恋どのー!今日は制服なのですねー!」

「あれー?ねねちゃんだ」

今日の最初のお客さんは陳宮こと音々音だ。こいつは割と毎朝来てくれる。なんでも、一日の最初に恋に会って元気をもらっているんだとか

「む、沙和ではないですか。そう言えば華琳が、沙和は別件でいないと言っていましたが、ここにいたのですね」

「そうだよー。阿蘇阿蘇からのお仕事で、『晋』に一日密着取材!」

「なんと!ねねもそちらに加わりたいのです!」

「でもねねちゃん、今忙しいもんねー」

「そうなのか?」

 

確かに、ちょっと疲れているように見えるが

「はい。呉および蜀の連合軍との決戦が近いので、最近はそのための調整が大変なのです」

そうか、もうすぐあの決戦なのか

 

「あのねねが、そんな大一番の軍師の一人にねぇ」

 

詠がしみじみと言った。付き合いが長い分、いろいろと思うところもあるのだろう

「むむ、ねねも日々進化しているのですぞ?今なら詠にだって勝てるのです!」

「言ったわねぇ?今度僕が直々に見てあげるわよ」

「ぎゃふんと言わせてやるのです!」

「…ねね、はい、いつもの」

 

詠とねねが睨み合っているところで、恋が食事を持ってきた。するとねねは即座に恋に向き直り、食事を受け取った

「ありがとうございます恋殿!」

ねねのいつもの、珈琲牛乳とフレンチトーストのセットだ。ねねが朝来る時は、だいたいこのセットで、恋に運ばせている

「おはよーさーん。月ちゃん、いつものお願ーい」

「おはようございます。少々お待ちください」

ねねが食べ始めると、常連客がちらほら入り始めた。皆、この街でなんらかの仕事をしている人で、仕事が本格化する前にここで軽く食って行く人達だ。以前は明日への活力だったが、今では今日一日の活力って感じだな

「すごーい。開店してすぐお客さんがいっぱい」

 

沙和は口を開けて感心していた

「これでもまだマシな方よ。一番混むのはお昼時だから」

「並んでたりするもんねー」

「恋が居なきゃ、今頃うちの前は大混雑だったな」

そう。お昼時の一番忙しい時間になると、恋が起き、列を整理してくれるように教え込ませた。覚えてくれるのにかなり時間はかかったが、やったかいあって順番待ちが円滑になった

†††††

 

 

「一番から三番!料理できたよ!月ちゃん、詠ちゃんお願い!」

「「はい!」」

「悠里!四番・五番だ!悠里頼むぜ!」

「りょーかーい!」

「…次の、お客様は、こっち」

昼食時になると、忙しさは極限になる。速い、美味い、安いを信条に、皆が迅速に行動していく。その光景を見た沙和は一人圧倒されているようだった

「す、すごい…」

「はは!どうだ沙和!まだうちで働いてみたいか?」

「うぅ~、まさか本当に戦場みたいだなんて…」

「そうね。今では慣れたけど、前は結構しんどかったわ」

「これでも、月ちゃんと詠ちゃんと恋ちゃんが入ってからは、だいぶ楽になったんだけどねー。はい、六番さんの冷やし中華お待たせ。」

「はいはーい!あたし行くねー!」

 

悠里が凄い速さで料理を持って行った。まるで瞬間移動でもしているかのようだ

「悠里ちゃん速いの~」

「瞬神悠里の名は伊達じゃないってな」

 

流石うちの店の最古参ってところだな

「接客は基本的に悠里さんと詠ちゃんが担当して、私が遊撃、盛り付けやお皿洗いと色々しています」

「何気に、月が一番凄いのかもな。うちの店の仕事、全部できる訳だから。よっし、かつ丼できたぜ。詠、頼むぞ!」

「任せて!」

「ほえー。一人一人も凄いけど、皆の連携はもっと凄いの」

「戦闘も料理も、そういう意味では大差ないかもね。上手く連携を取っていけば、どんな状況も打破できるものだよ」

「中でも、咲夜さんと東さんの連携は凄いですけどね」

「そうなの!てんちょーと咲夜さん、さっきから凄いの!目を合わせてもないのに連携とったりして、とってもすたいりっしゅなの!」

「私と零士は付き合いが一番長いからな。こいつの考えていることはだいたいわかる」

「なんだかんだ、一番信頼しているしねー」

「お二人の絆はとっても固いの!」

†††††

 

 

「みんなお疲れ様なのー!」

「お!差し入れか?気が利いてるな」

昼時の混む時間を乗り越えると、沙和が甘味や飲み物を持ってやってきた

「わざわざすいません。先ほどまであまり話すことができませんでしたけど」

「いやぁ、あれは仕方ないの。それに、あんなに頑張ってる姿見てると、沙和もなにかしたかったの」

「ふふ、なら凪に怒られる前に仕事をやるようにしなさいよ」

「あ、あははー、手厳しいの」

詠の指摘に皆が笑うが、沙和だけは苦笑いだった

 

「よし、釣銭も大丈夫だね。咲ちゃん、月ちゃん、詠ちゃん、休憩入っていいよ」

零士が金の管理を終えて発言すると、私も詠も月も伸びをして楽にし始めた。そんな中で、悠里は用具室から掃除道具一式を持ってきた

 

「さぁて、みんなが休んでる間に、ちゃちゃっとお店の掃除しちゃうか」

「え?また掃除するの?」

「そうだよー。どうしても汚れちゃうからねー。ここでもう一度綺麗にしておけば、見栄えも良くなるってもんだよ!」

「沙和にはそこまで気が回りそうにないの」

「まぁ、この時間からしばらく暇になるからねー。掃除くらいしかやることないってのも言えるんだよねー」

 

零士も掃除をしつつ答えていた。さて、軽く食って出かけるか

「買い出しに行ってくるが、ついでに何か欲しい物はあるか?」

「あ、じゃあ注文しておいた肉が多分入荷してると思うから、ついでに取ってきてくれるかい?」

 

零士が言ってきた。注文するほどってことは、あそこの肉屋か

「うーい」

 

なら市場の後に肉屋に寄らないとな

「え?休憩なのに買い出しに行くの?」

 

沙和は驚いていた。まぁ、普通なら休もうと思うからな。私はじっとしているのが性に合わないから出て行くだけなんだけどな

「まぁ、行けるときに行きたいからな。お前もついてくるか?」

「それがいいかもね。しばらく仕事らしい仕事はないし」

「なら、ご一緒するのー!」

 

†††††

 

 

「それとそれ、あとそれも頼む」

「あいよ、いつもありがとうね!」

「はー、咲夜さん、顔ひっろーい」

私が野菜等を買っていると、沙和がまたまた感心しているようだった。そんなに不思議な事なのだろうか

「まぁ、職業上な。それでなくても、市場の人間はうちにもよく来てくれるし、いい関係は築けてると思うぜ」

「もう咲夜さんを知らない人っていないんじゃないかな」

「さすがの私も、そこまで有名じゃないだろ」

おっと、肉屋にも寄って行かなきゃな

「え?このお肉屋さんって…」

 

私は早速馴染みの肉屋へとやってくる。外装は普通だが、取り扱っているものはどれも一級で、いい感じに脂ののったものが吊るされている

「おっちゃーん、注文しといたやつ、用意できてるか?」

 

私が肉屋の主人を呼ぶと、肉屋の主人が肉を持ってやって来た

「おう司馬懿さん!ほらよ!いつもありがとうな!」

「おう!これ金な。また食いに来てくれよ!……どうした沙和?」

私が肉屋で用事を済ませると、沙和は信じられないものを見たといった表情だった

「い、いやいや!ここ!沙和でも知ってるくらい有名なお肉屋さんだよ!めちゃくちゃ良いお肉だけど、めちゃくちゃ高いって。しかも咲夜さん、あんな大金ぽんと出すなんて、どうかしてるの!」

「あー、まぁ確かにあそこの肉は高いが、それだけ信頼もおけるんだよ。さっきも言ったが、本来金儲けで始めた訳じゃないから、時々赤字になっちまうがな。それでも、客に安くて美味いもん食ってって欲しいんだ」

「うわぁ~、それでも成功してる『晋』さんて、もしかしてとんでもないとこなんじゃ…」

†††††

 

 

時刻は夜。今日の営業ももうすぐ終わりに近づくと、店の中にはほぼ身内のみになってくる。沙和は今日あった事を華琳、秋蘭、凪に報告していた

「沙和、今日一日『晋』に居てどうだったかしら?」

「『晋』さん凄いの。ちょっと店の裏側見ただけだけど、凄い大変ってわかったの」

「だろうな。ここの仕事は決してバカにはできん。一人一人の能力の高さ、気遣いの細かさ、経営法など、我々にも見習う点は多いだろう」

「うん。みんなの頑張ってる姿見て、沙和も頑張んなきゃって思ったの」

「その発言、しっかり覚えておくからな」

 

凪の発言に若干ビクッとなるものの、沙和はしっかり頷いていた

「ふふ、なかなか良い刺激になったみたいね」

華琳もご満悦のようだ

 

「いいなぁ、私も早くここで働きたいなぁ」

「そうですね、私も、早く流琉さんとお仕事したいです」

「なら、さっさと大陸を統一してみせるわ。そしたら流琉も、思う存分ここで働きなさい」

「はい!」

流琉は元気よく答えてくれた。これで未来の『晋』の従業員がまた増えたな

「おらぁ!!てめぇらこのヤロー!この俺と戦いやがれー!」

「…よかったな沙和、今日はアタリだ」

扉が勢いよく開かれ、チンピラが複数入ってくる。なかなかの取材日和じゃないか。『晋』って店がどういうところなのか、わかってもらえるな

「あわわ、大丈夫なのかな」

「なんの問題もないさ。なぁ、東」

「そうだよー。うちには最強の用心棒がいるんだから。はい、天ぷら定食お待たせ」

 

相変わらず、秋蘭と零士は平常運転だな

「へっへっへ!『晋』を倒しゃ、一気に名が上がるってもんよ!」

「表出ろやコラッ!!」

「……」

複数のチンピラがすごむと、バーテン服姿の恋が静かに立ち上がる。その姿に、何人かの女性客が見惚れていた。それほど、今の恋は凛々しく見えたのだろう

「れーん、一人で十分かぁ?」

「問題ない」

そういって恋は外へ出て行った。その姿を見ようと沙和も含め何人かが外に注目する

「いくぞテメェら!今日こそ『晋』を落とすぞ!」

そして喧嘩…というよりは、恋による一方的な殲滅が始まった。その光景を見て、女性から歓声が上がる。沙和は呆然としていた

「今日は割と多目ね。30人くらいかしら」

「それでも、足りませんがな」

「こ、これも日常なの?」

「あぁ、もはやあのチンピラ共も常連だな」

しばらくして、恋が全員を叩きのめし、こちらにやってきた

「おなか、へった」

「はいはい。おう!チンピラどもは何食いてぇ?」

 

私が聞くと、さっきまでぶっ倒れていたチンピラどもが凄い勢いで起き上った

「あ、俺カレーライス!」

「俺はハンバーグ定食!ご飯大盛りで!」

「えぇ!?さっきまで喧嘩してたよね?」

「こいつらは、ただ力試ししてぇだけなんだよ。こうして暴れるだけ暴れた後は、うちの飯を食っていく。ここまでが一連の流れだな」

「なんていうか、器がおっきいの…」

「ふふ、ここでは誰であろうと、等しく僕らのお客様だからね」

†††††

 

 

「今日はありがとうなの!おかげでいい記事が作れそうなの!」

「とうとう阿蘇阿蘇に載っちゃうのかー。なんかわくわくしちゃうなぁ」

今日の営業も終わり、私たちは店を片づけていく。沙和も掃除を手伝ってくれ、思ったよりも早く片付いた。

「あ!最後に、みんなに聞きたいんだけど…」

「ん?なんだ?」

「みんなにとって、『晋』ってなんなのかな?」

最後らしい質問を問いかけられる。これにはみんなが目を合わせ、微笑み、そして…

数日後、新刊の阿蘇阿蘇を買いにみんなで本屋へ出かけた。その表紙には、流行の服飾やら、女性必見モテるコツなど書いてある中、私たち『晋』の名前もあった

「独占!『晋』を大特集!!ですって。ちょっと派手すぎない?」

「へぅ、なんか照れちゃいますね」

「見てください!あたしたちがしっかり載ってます!」

「へぇ、よくできてるね。はは、こうして記事になると、こそばゆいな」

「…セキトも、ちゃんといる」

「なかなか悪くないじゃないか沙和」

冊子をめくっていくと、私たちそれぞれの事、『晋』のメニュー、理念、そして…

「記者が感銘を受けたのは最後の質問。彼らにとって『晋』とは何なのか。彼らは皆が揃ってこう答えてくれた。『晋』にとって、従業員は仲間ではなく家族、そして店は彼ら家族にとっての家。そのまっすぐな言葉に記者は彼らの強い絆を感じ、そしてそれは何者においても断ち切れることはないだろうと確信した。それこそが『晋』の強さであり、温かさであり、魅力なのだ」

 

 

 


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