悠里サイド
「絶好調!」
あたしは皆と別れた後、一目散に北の祭壇を目指した。途中の人形兵はほとんど無視だ。全力で駆け抜け、時折人形の頭を踏みつけたりしながら進んで行った
「とぅ!到着!」
祭壇に着くと、そこには何とも言えない色気を醸し出している女性がいた
「なるほど、あなたが虞美人さんですね!わかります!」
「違うわよ!あたしをあんなオバサンと一緒にしないでちょうだい!あたしは季布!項羽様に仕える将の一人よ!」
「ちぇー」
なんだー、虞美人さんじゃないのかー。ていうか虞美人さん、オバサンなんだー。なんかがっかり
「あなた、なかなか舐めた態度ね。でも、あたし好みの可愛らしい女の子だわ」
「いやぁ、照れちゃうなぁ。お姉さんもなかなかの美人ですよ」
「嬉しい事言ってくれるわね。食べちゃいたい…」
「え?」
うわぁやっべー、華琳さん系の人だ。舌だしてペロッと唇舐めちゃってるよー
「あぁ、あなたが這いつくばってるところを想像するだけで、なんだか濡れてきちゃうわ」
しかも痴女だ!
「あ、あのぉ、お姉さんは確かに綺麗だし、あたし自身もそっちの気が無い事も無いんですが…」
「ふふ、恥ずかしがらなくてもいいのよ。すぐに天国を見せてあげるから…」
そう言って季布さんは、何か太い小型の棒のようなものを取り出した。なんというか、形が卑猥な気が…
「あのぉ、それをどうするおつもりで?」
やべ、聞いちゃいけない事を聞いた気が…
「これをあなたのあそこに突き刺すのよ。安心なさい。あなた処女でしょ?初めてなら優しく、ちゃんと濡らしてからするわ」
「あ、あたしの貞操の危機ー!?」
このお姉さんガチだ!これは、大陸云々の危機の前に、あたしの身が危ない!あたしの初めては、咲夜姉さんか東さんにしかあげないんだから!
「残念ですが、お断りします!」
あたしは鉄棍を構え答える。すると季布さんはどういう訳か、恍惚とした表情になった
「ふふふ、いいわぁあなた!その強気な姿勢!キッとした眼差し!濡れちゃうわぁ。もうグジュグジュよ。触ってみる?」
ダメだこの人…
「でもあたし、いたぶられる趣味はないの。その代わり、いたぶるのは大好き!」
季布さんはあたしと同じ鉄棍を取り出した。季布さんはそれを胸に挟み、脚で絡ませ、あたしを誘うように手招きした
「かかってらっしゃい。見せてあげるわ、あたしの棒術…」
「え、えぇーい!先手必勝!」
あたしは若干気後れするものの、全速力で駆け抜け、季布さんに接近する。すると季布さんは驚愕の表情を見せた。あたしはそれを確認して、一瞬で季布さんの後ろを取り、鉄棍を振り抜く…
ブォン! ガキィン!
「な!?」
「あなたやるわねぇ。お姉さん、びっくりしちゃった」
季布さんはあたしの攻撃を受け止め、そして押し退けた
「まさか…あたしの速さについてくるなんて…」
この人、ただの痴女じゃないんだね。て言うか、前回といい今回といい、最近よく受け止められるなぁ。あたし、結構速いはずなんだけど…
「あなたは強いわ。でもね…」
「!?」
季布さんは一瞬で移動し、あたしの背後をとった。なんて速さ!
「あたしも速さには自信があるのよ」
ブォン! ガキィン!
「あ、危ねー!」
あたしは何とか季布さんの攻撃に反応し、防御することができた。この人強い。ただ速いだけじゃなくて、あたしの攻撃には無い重さもある。この人は、あたしより強い…
「でも、負けるわけにはいかない!」
世界の為にも、なにより家族の為にも
「ふふ、あなた本当に良い子ね。強い信念を感じるわ」
「当たり前です!季布さんを倒して、ここの祭壇を壊して、それでみんなでまた笑うんです!」
「…羨ましいわ。それにとても眩しい。あなたの様な子は好きよ。張譲なんていう男より、あなたを応援したいくらい」
この人、悪い人ではない?
「なら!」
「でも、あたし達は張譲に恩がある。再びこの世界に戻され、皆と再会する事ができた。項羽様に、また仕える事ができた。その恩は、しっかり返しておきたいの」
季布さんは武器を構え、あたしを見つめる。そこには、先ほどまでのような変態的な雰囲気はなく、一人の武人としての姿があった
「あたしは季布。この命、今度こそ項羽様の為に。あなたの名は?」
この人に意見するのなら、やっぱり倒さないといけないのか。できれば、無用な争いは避けたかったんだけど…
「あたしは張郃!お食事処『晋』の接客担当!あたしはあたしの家族の為、あなたを倒します!」
覚悟を決めよう。必ず、勝ってみせる!
「ふふ、では張郃!見事あたしを倒し、越えて行きなさい!」
あたしは再び武器を構えなおす。すると、あたしの気持ちに反応したかのように、武器が輝きだした
「行きます!ハァァァー!」
私と季布さんは高速で移動し、お互いの武器を振りぬく。鉄棍が重なり合うと同時に内に引き、再び振り抜く。ぶつかるたびに散らす火花。お互いの限界ギリギリまで引き出される速さから繰り広げられる、瞬きすら許されない程の高速の打ち合い
「ヤァァァ!」
「タァァァ!」
神経が磨り減る。少しでも気を抜けば一気に追い込まれてしまう!
「甘いわよ張郃!その程度ではあたしを倒すなんてできない!」
「クッ…」
まずい。あたしは持久戦には向いていない。長く持ち込めば持ち込むほど不利になる
「ハァァ!」
「うっ!」
季布さんの攻撃は確実にあたしの急所を狙いに来ていた。あたしはこれを寸でのところで躱すことができたが…
「っ!」
先ほどの攻撃の風圧で頬にうっすら傷ができ、血が流れていた
「さすがに、強いですね…」
速さも、力も、技術も、全てがあたしより格上の存在だ。唯一、速さだけは、勝てるかもしれない程度。なら…
「あなたもね。私の速度に付いてこられたのはあなたで二人目よ」
一人目は恐らく項羽さんだろうな
「それは、光栄です」
この人に勝つには、この人より速く動くこと
「はぁ…はぁ…」
それはつまり、自分の限界を超えること
「ですが…勝つのはあたしです!」
今の自分になら、それができるはずだ!
「………」
あたしは息を整え、静かに力を溜める
「想いを力に………フッ!!」
あたしは再び全力で移動した
「なに!?今までよりも速い!!」
風を切りながら、季布さんに間合いを詰める。あたしは鉄棍を強く握り、最速の一撃を放つ
ガキィン!
その一撃は受け止められるものの、あたしはそれにひるまず、間髪入れず二撃、三撃と打ち込んでいく。息をするのも、瞬きさえも忘れていくほど集中している。今の自分は、風と一体になっている
「っ!!速い!!対処しきれない!」
「これでどうだぁぁぁ!!」
あたしは全力で攻撃を重ね、季布さんが一瞬ひるんだところで決め手を打ち込む
ガキィン!!
その一撃は、季布さんが持っていた鉄棍を上空に吹き飛ばした
「はぁ…はぁ…あたしの、勝ちですね!」
あたしは空に上がった季布さんの武器を手に取り、それを季布さんに突き付けた。すると季布さんは驚いた表情の後、微笑んだ
「あーあ、ざーんねん。あなたともっと遊びたかったなぁ。でも、あたなの勝ちね」
季布さんはそう言って、とても満足げに倒れこんだ
はぁ…はぁ…つ、疲れた…けど、あたし、勝ちましたよ!明日は筋肉痛確定ですけどね!
†††††
華雄サイド
「ふむ、ここが祭壇で、貴様は何者だ?」
私は一目散に東の祭壇を目指した。途中の人形兵はある程度潰してきた。まぁ、まだまだ数は減らないがな
祭壇には、一人の女がいた。そいつは大剣を担ぎ、私をじっと見つめている
「我が名は龍且。項羽殿に仕える武人なり」
「龍且…か。その武は項羽に匹敵すると聞くが、相違ないか?」
「項羽殿が山を抜くのであれば、私は海を割ろう」
「ほぅ。その意気、相手にとって不足なし!我が名は華雄!月様を護る守護神なり!」
お互い武器を振り上げ、氣を溜め、それを相手に向けて放つ
ドゴーン!
巨大な氣の塊はぶつかり合い、相殺され、砂埃を巻き上げた
「フッ!」
「!?」
ガキィン!
その砂埃から、龍且が現れ突撃をしかけてくる。私はこれに驚くも、受け止めることができた
打ち合いは数合続いた。防御しては攻撃し、攻撃しては防御し、まさに一進一退だった。なるほど、確かに強い…
「ハァァァー!」
私は気合いを込め直し、武器に氣を纏わせ、そのままの状態で斧を振り下ろした
バキィン
「っ!?」
攻撃は受け止められるも、龍且の顔を歪ませるくらいにはなった
「どうした?まだまだ行くぞ!」
私は龍且に攻撃の隙を作らないかのように猛攻をしかける。だが、さすがに龍且だ。決定打にはならず、上手く防がれる
「さすがに…一筋縄ではいかんか…」
「強い…だが、私はもう負けはしない!負けるわけにはいかない!」
奴が攻撃を防ぎ、一旦距離をとると、奴からとんでもなく重い氣が発せられる。その後ろには、氣でできた巨人の姿も確認された。その姿は、まさに阿修羅だった
「行くぞ華雄!我が一撃、とくと味わえ!」
龍且の攻撃と同時に、氣でできた魔人も攻撃をしてきた
バァァン!
「クッ!!」
なんて重さだ!なんとか受け切ることはできたが、かなり吹き飛ばされてしまった
「だが面白い!私も本気を出そう!」
私は氣を全開にする。以前、龍退治に使った時と同じ様に、奴と同じ様に、氣で魔人を出現させる
「ふふふ、今日の私は、ちと負ける理由がなくてな。この一戦、月様の為にも勝たせてもらう!」
私の氣の攻撃と、龍且の氣の攻撃がぶつかり合い、衝撃波を生んだ
「ハァァァー!!」
「ヌゥゥゥー!!」
攻撃する度、地面が抉れて行く。私が一旦大きく空に飛び上がると、龍且が追撃をしかけてくる
「堕ちろ!」
龍且は大剣であるにも関わらず、とても滑らかな、それでいて鋭い連撃を放つ
「ぬぅ…防ぎきれんか!」
なんとか防ぎ応戦するも、最後の最後で腹に一撃もらってしまった。幸い、傷は浅いか…
「チッ、これほどとは…」
私は着地し、腹にもらった傷を確認した。傷口は熱く、血が流れている。浅いはずなのに、出血量が多いな
「やはり強い…以前の、死ぬ前の私ならば、とうにやられていただろう」
そういう龍且の腕にも、痣ができていた。先ほどの攻防で、何とか一撃入れたものだ
「ほぅ、古の英傑にそうまで言われるとは、なかなかに栄誉な事だ」
「ふふ、死ぬ前の私は、いささか猪突猛進な所があってな。戦場に出ては熱くなり、周りが見えなくなって、よく部下を死なせてしまったよ。それが原因で負けることもしばしばだ」
それは、かつての私にも言えることだった。己の力を過信し、無謀な勝負に出ることが多かった。それが原因で、連合との戦に敗北した…
「なるほど、私とお前は、似た者同士なのかもしれないな」
お互い目を合わせ、少し笑みを漏らす。それだけで、心を交わすには十分だった。私たちは似ている。過去の経験から学び、真の強さを学んだ。私の相手として、この者以上にふさわしい者はいないだろう
「死してなお、お主のような武人に会えたことを誇りに思う。だが、今は戦場。そしてお主は敵。我が主、項羽殿に仕える身として、ここは退きさがれぬ。だからせめて、言葉ではなく、我が全身全霊を掛けた一撃で、お主に報いるとしよう」
「ククッ、確かに、言葉は不要か。我らは武人。なれば、力を示すのみ。語らうべくは、魂を込めた必殺の一撃のみ!」
再び、武器を構えなおす。すると、戦場であるにも関わらず、その場は静寂に包まれたかのように静かに感じた
静止し、お互いを見つめる
神経が研ぎ澄まされていくのがわかる
対峙する武人はまさに一流
お互いの実力は拮抗している
だが、私は龍且を超えてみせる
月様が平穏に暮らしてもらえる為にも、負けるわけにはいかない
どれほどの時が流れたのかはわからない
お互い、十分に力を溜め、そして…
「参る」
「行くぞ」
お互いの剣閃が交差した
「ふふ、誇ってくれ…それが手向けだ……」
龍且の武器は破壊され、鮮血を撒き散らせながら、静かに倒れた
「貴殿のような強者と戦えたことに、感謝する」
私は最後の一閃によって腕に受けた傷を確認し、龍且に一礼した