真・恋姫†無双 裏√   作:桐生キラ

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運命編其四

 

 

 

咲夜サイド

 

私は途中の人形兵をある程度潰しつつ、奴らが使っている武器を奪いながら進んでいた。人形兵は死なないだけで、大して強くはなく、また動きもとろいので、容易に奪う事ができた。槍に剣、そして弓。これだけあれば、何かと役に立つだろう

「ここが祭壇か」

私は祭壇の階段を駆け上がる。するとそこには、妙齢の女性がいた

「よぅ、あんたは誰だ?」

「私は虞美人。項羽様を心から愛している者です」

「あんたが?」

悠里が絶世の美女とか言うから、どんな奴か期待していたのに…

「思ったよりも普通?」

「な!?なんですか普通って!」

 

虞美人の見た目は、なんというか、確かに綺麗だとは思うのだが、それは平均的な話ってだけで、普段から美少女達を見ている私からしたら、なんとも普通の容姿をしていた

「いや、ちょっと期待外れっていうか…まぁ、性別が女ってだけマシか。自称絶世の美女っていう、性別が筋肉の塊だっているくらいだしな」

「ど、どんな想像してるんですか!ちょっと失礼ですよ!」

「それにしても、期待外れであるにも関わらず、思ったより歳が…」

「うっ…じょ、女性に歳の事を言うなんて酷いです!」

「まったく、少しは歳考えろよ。あんたなんて格好してんだ。なんだそのフリフリ、可愛いとか思ってんのか?」

虞美人の服装は、うちのメイド服よりフリフリしていて可愛らしいものだ。だが着ている人がちょっとなぁ…

「わ、私はまだ、じゅ、17歳だもん…」

「おいおい、そりゃ嘘だろ。明らかに四十手前じゃねぇか」

「そんなこと…ないもん…」

「いやあるぜ。もうあんた残念だわ。えーっと、確かこういう時は……そうだそうだ、チェンジで」

「う…ぐす…」

やべ、とうとう泣かしちまった

「あー!虞美人さんを泣かしたー!」

「悪いんだー!」

人形兵喋れんのかよ!?

「あー、その、なんだ…確かにあんた、綺麗だと思うぞ、うん」

「ほ、ほんと?」

虞美人は涙目で問いかける。この人、単純だなー

「あ、あぁ。なぁ人形ども!」

「そうっすよー!虞美人さん、超可愛い!」

「虞美人さんは世界一可愛い!」

「可愛い!可愛い!可愛い!虞美人!虞美人!虞美人!」

ふぅ、とりあえずこれで虞美人の機嫌も…

「あぅあぅ…」

顔真っ赤かよ!なんだこいつ!超面倒くせェ!なんでどう転んでも涙目なんだよ!精神面弱すぎにも程があるだろ!

「おいあんた、悪いがそこどいてくれないか?私はこれでも忙しい身なんでな」

さっさと祭壇壊して、あいつんとこに助太刀に行きたいとこだな

「だ、ダメです!ここを護るのが、私のお仕事ですから!」

「つっても、あんた戦闘とかできんのか?今なら大人しく…!?」

バシュッバシュッ!!

私が彼女に近付こうとすると、突如地面から槍が飛び出す。私はこれに寸でのところで気付き、避ける事ができた。もし、あのまま進んでいたら串刺しだったな

「……なかなか、怖い事するな」

私は虞美人を睨みつける。彼女は目を拭い、落ち着きを取り戻していく

「あれに気付きますか。初見ではだいたいの人があれで串刺しですのに」

「残念だったな。私はそういうのに敏感でな。ちょっとした地面の違和感も、私は見抜く力がある」

 

目が良くて本当に良かった…

 

「これは、私も本気を出さなければいけませんね」

虞美人の両手から突然細剣が現れた。まるで、零士の魔術のように…

「ずいぶん珍しい技を使うな」

「不思議でしょう?私はこうして、いろいろな物を出すことが出来る。そして私は、それらを使って罠を張るのが得意なんですよ。こういう風に…」

「!?」

ヒュンヒュンヒュン

今度は柱から無数の矢が飛んできた。チッ、面倒だ。一旦下がって…

カチッ

「カチ?って、うぉ!」

下がった所にあった奇妙な出っ張りを踏むと、もう少し後ろの地点で今度は剣山が現れた。私はなんとか踏みとどまり、飛んで回避する

「え、えげつない真似するな。さっきまで恥ずかしがっていたのは演技か?」

「そ、そうですよ!あなたを油断させるためです!」

あれは素か。耳まで真っ赤じゃあ、説得力ないな

「まぁいい。あんたが意外とできる奴ってのがわかったんだ。こっちも遠慮はしない」

私は弓を構え、狙いを定める。女性をやるのは気が引けるが、仕方ない

ヒュンヒュン

私は連続で矢を放つ。秋蘭程ではないが、これくらいの連射なら、私にもできる

虞美人はこれを軽く弾く。慣れてないとはいえ、割と真面目に射ったつもりだったんだが、あぁも簡単に弾かれるとちょっと傷つくな

「ふふ、拠点防衛は私の専売特許。単身で落せる程、甘くはありませんよ」

ヒュンヒュンヒュン!

今度は鉄線が展開されたか。恐らく動きを制限する為のものだろう。本当にいろいろと出てくるな

「だが鉄線ごとき、私にはなんてことない」

私は鉄線をナイフで切り刻む。すると…

ガァン!

タライが頭に直撃した

「ふふふ、その鉄線を切ると、タライが落ちてくるよう細工してあります!」

虞美人はドヤ顔で答えているが、一つ疑問がある

「なんでタライ?」

「精神攻撃の一つです。地味に痛いし、なんだかマヌケみたいですし」

バカだこいつ。こんだけ罠張れるのに、精神年齢が子どもだ…

「………もっかい泣かす!」

私は弓で罠がありそうな所を狙撃しながら前進する。罠は何かしらの引き金が必要だ。それらを潰して行くと、落とし穴や剣山、槍に矢と、いろいろな物が飛び出した

「散々見たんだ。もう見切ったぜ」

私は弓を投げ捨て、事前に拾った剣を虞美人に投げつける。そして間髪入れずにナイフを構え…

キィン! ガキィン!

投げ付けた剣を弾かれたかと思えば、私の攻撃も防がれた。こいつ…

「なんだあんた、接近戦は苦手かと思っていたが、やるじゃないか」

「項羽様について行くには、これくらいの力が無ければいけませんので!」

虞美人は両手の細剣を縦横無尽に振るってくる。マズイな、手数が違いすぎる。かと言って、もう一本のナイフを取り出す暇は…

「ハァッ!」

ブシュッ

「ッ!!」

クソッ、腕にかすったか。舐めていたな。だが…

「フッ!」

私はなんとか立て直し、攻撃を弾きつつ、腹に蹴りを入れてやった。虞美人は堪らず後退し、私も一旦距離をとった

「チッ…ちょっと油断したか…」

私は腕から流れる血を見ながら答える。こいつの細剣、思った以上に厄介だ。速いし、軌道が読みづらい

「ふふふ…はぁ…はぁ…ど、どうですか?私は、つよ、強いんです!」

「………」

息上がってんじゃねぇか

「お前、罠張るために、魔力使い過ぎたんじゃないか?」

「ぎくっ…」

図星かよ

零士の魔術、想造の弱点、それは膨大な魔力を消費すること。そして魔力を使い続けると、体力が思った以上に食われる。ただ、あいつが特殊な点は、一度出してしまえば、それは独立したものとして捉えられ、現出している間の魔力消費はゼロであるとの事。あいつが任意で消すか、死なない限りなくならない

だがそれは、あくまで零士個人の能力。他の魔術師にはできない芸当であり、物を出している間も、魔力は消費されるらしい。そして目の前のこいつは…

「はぁ…はぁ…おぇ…」

残念な事に魔力を盛大に使ったらしく、足にキテいるようだった

「はぁ…大丈夫か、お前?」

「し、心配せずとも…あ、ちょっと待って…」

虞美人さん真っ青な顔で指を鳴らすと、先ほどまであった罠の数々が全て消えた

「ふぅ、これでちょっと回復。仕切り直しです!」

虞美人はキリッとした顔で答える。ただ顔面は汗まみれで残念なことになっていた

「お前、なんでそんなに頑張るんだ?そんなに大陸を手中に収めたいのか?」

 

私は少し気になった。どうして生き返って早々、こんな無茶をしているのか。私の推測だが、こいつはこんな汗まみれになるような人間には見えない。もっとこう、冷静に、相手を高い所から見下すような人間に見えるのに、どうしてこうも必死なのだろうか

「ふっふっふ、聞いてくれますか?」

あぁもう、なんか一瞬で聴きたくなくなった…

「私、この戦いが終わったら、項羽様と結婚するんです!女性同士ですが、項羽様は笑顔で了承してくれました。だから、負けられないんです!」

「あぁ…そう…」

結婚とか、心底興味ない…

「私は私の夢の為、あなたを倒します!」

「そうかい。なら私も…」

私はもう一本のナイフを取り出す。一本は、今まで私が愛用し続けた、私の相棒と言ってもいいナイフ。もう一本は、龍の素材で出来た不思議なナイフ。両方を逆手に持ち、虞美人に対峙する

「家族の為に、お前を倒す。お食事処『晋』副店長、司馬懿仲達、行くぜ!」

私達は同時に動き出し、両手に持った武器を振るう。神速の攻撃が重なり、激しい剣撃が鳴り響き、火花を散らつかせる。縦へ横へ、流れるように展開される虞美人の細剣。それに合わせて防ぐ私のナイフ。手数も力もほぼ互角だが…

「ッ!?だんだん、押されていく!」

ようやく眼が慣れ、あいつの攻撃の軌道が視えてきた。視えさえすれば、技術力は私の方が上だ

「でも、負けない!」

だがあいつも強い。これだけ押してもまだ崩れない。それだけ、虞美人は項羽を想っているということだろうか

「だが、想いの強さなら、負ける気はない!」

こいつが項羽を想うように、私は『晋』を、零士を愛している。その想いは、砕けはしない!

「……ッ!!」

シュン!

「……虞美人、私の勝ちだ」

私は一気に押し返し、その隙を突いて虞美人に一閃を決めた

ハラリ

「な!?」

私は虞美人の服を細切れにし、ひん剥いてやった。武器破壊してしまうと、消えてしまうかもしれないからな

「キャーー!!あ、あなた!鬼ですか!?」

虞美人は自分が下着姿であることを認識すると、縮こまってしまった

「いやなに、せっかく蘇ったんだ。もう少し居たいだろうと思って、せめてもの情けに武器は破壊しないでおいたんだが。ダメだったか?」

「ならそのニヤニヤ顏はおかしいですよ!」

さて、さっさと祭壇壊して、零士のとこに行くか

†††††

 

 

恋サイド

「来たか…名を聞こう、赤毛の少女よ」

「呂布…奉先…」

並び立つは二人の女性。一人は赤い癖毛が印象的な、方天画戟を担いだ少女。その彼女の後ろには、先ほどまで動いていた人形が、文字通り粉々にされていた

「そうか…俺の名は項羽。西楚の覇王だ」

もう一人の女性は、長身でありながら細身で、整った顔立ち。そして、彼女の両手には、その容姿には似合わない二振りの巨大な剣が握られていた

「……よろしく」

戦場には似合わない、なんとも軽い挨拶をした恋だが、その言葉と共に殺気を剥き出しにする。その気に触発された項羽は満面の笑みを見せた

「クックック、いいなお前!俺の前に立つに相応しい気だ!」

項羽は笑いながらも、恋と同じように殺気を剥き出しにした。その氣を感じた恋は直感する。こいつは、強いと

「行くぞ呂布!お前の力を見せてみろ!」

「……こい」

両者、一斉に走り出し、武器を振るう。方天画戟と項羽の双剣がぶつかり合った

バァァン!

すると、彼らを中心とし、広範囲で衝撃波を生んだ。その衝撃波は、先ほどまであった人形の残骸をことごとく消し飛ばした

だが、そんな衝撃波でも、彼らは止まらない。項羽は右手の剣で方天画戟を抑えつつ、左手の剣で恋の横腹を狙う

「!」

恋はこれに気付き、右手の剣を押し退け、最少の動きで防御を取る。そして左手の剣をも弾き、今度は恋が力任せに武器を振り下ろした

ドゴーン!

その一撃は避けられるものの、地面を割り、大きく陥没させた

項羽は再び笑みを見せる。そして一旦下がり、助走を付けて恋に突撃した

「ハァァ!」

ガキィン!!

双剣での、下からすくい上げるような一撃。恋は防御するも耐え切れず、空に打ち上げられてしまう

「そらそらそらそら!!」

項羽は攻撃の手を緩めない。空中に打ち上がった恋目掛けて、氣の斬撃を飛ばした

「!!」

ザシュッ

恋は咄嗟に氣の斬撃を打ち消す。だが、その数の多さに対処できず、一つを直撃してしまった

それでも恋は怯まず、氣を溜め、空中状態から回転し、勢いを付け、そして溜まった氣の塊を項羽に向けて放つ

「素晴らしい!」

ドカーン!

項羽はあえて避ける事はせず、これを迎え討つ。項羽が氣の塊を双剣で受け止めると、大爆発が発生した

「………強い」

恋は腕から流れ出る血を気にもせず、爆発し砂煙が舞うポイントを睨み続ける。恋は確信していた。項羽はまだ立っていると。そしてそれは確証される。項羽は双剣を使い、強引に砂煙を晴らした

「フッ、お前もな。蘇って早々、本気の勝負が愉しめそうだ!」

項羽は恋目掛けて氣弾を飛ばしつつ突進する。恋は氣弾を軽くいなし、目の前の敵に備える

ガキィン!!!

一撃必殺。まさにそう呼ぶに相応しい威力を項羽は繰り出す。そしてその一撃必殺の攻撃が、二合、三合と続く

「ウッ……」

恋は防御しているにも拘らず、痛みを覚える。ガードを無視するほど、攻撃が重いのだ。項羽に決まった技はない。だが、彼女の一撃一撃が、既に奥義の域に達しているのだ

「ふっ!!」

バキィン!!

だがそれは、項羽だけではない。恋の攻撃もまた、一つ一つが奥義級の一撃必殺。

恋は隙を見て方天画戟を振るい、攻撃していく

「クッ……」

項羽は上手く双剣で防御していくも、次第に崩れ始める。そして項羽は堪らず後ろに下がり始める

「ふん!」

項羽は何とか隙を見て一度押し返し、後退する事に成功した。項羽が後退すると、お互い持っていた武器を握り直し、息を整える。二人は息を切らし、血を流しながらも、笑っていた

「こんなに強い奴は、零士以来…」

「ほう!まだ強い奴がいるのか?それは会ってみたいな!」

「項羽も、きっと気に入る。零士はご飯も、美味しい」

「はっはっは!そうかそうか!それは是非とも闘って、その零士とやらの飯を食らってみたいものだ!」

恋は思う。どうして、こんな良い人そうな人が、大陸を奪う戦に関わっているのだろうかと

「項羽は、なんで闘う?」

「ん?俺の闘う理由か?」

「ん。項羽は良い人。だから、わからない」

「……俺は、お前が思う程良い奴ではないさ。部下を信じきれず、愛する者すら守れなかったのだからな」

「………」

「王とは、部下を、仲間を信じ、そして守ってやる立場の者だ。全てを受け入れてこその覇王。だから俺は負けたのだ。受け入れられなかったからな」

「……そう」

恋は項羽の言っている事を全て理解はできなかった。だが、恋は一つだけ気付く。項羽の、悲しそうな瞳に。この人は後悔している。仲間を守れなかった事を悔いている。そう思えた

「俺が闘う理由、それは蘇った皆を信じ、守り、生きていく為だ。その為に、俺は張譲なんていう怪しい奴に与している。これも全て、俺の仲間を守る為の闘いなのだと言い聞かせてな」

「……そう」

「呂布よ、お前はなぜ闘う?お前のその戟は、何のためにある?」

「恋の役目は、『晋』を、お家を、家族を守ること。だから恋は闘う」

項羽は思わず微笑んだ。短い回答ではあるものの、その言葉には想いが、瞳には確固たる意志が見て取れたからだ

「まことに、良き将だ。もう少し早く会えていればな」

「今からでも、遅くはない」

「ふっ、はっはっは!!既に死んでしまった身だが、確かにそう思ってしまうな!だが呂布よ、我々は今だ敵同士なのだ。なんらかの決着をつけなければならない。お前にもお前の守るべき者がいるように、俺にも守るべき者がいるのだ。お互い、引き下がれぬのさ。だらか呂布よ、全力で来い!!全力でやりあい、自らの意志を貫くのだ!!」

「………わかった」

項羽と恋はお互い笑みを漏らしながら武器を構え、氣を発し、突撃していく

それはまさに、ノーガードの殴り合いのようなものだった。お互いがお互い、防御を忘れたかのように攻撃しあっている。そこに一切の手加減はなく、一撃一撃が全力で殺しにかかっている

激しい剣撃は何度も響きわたり、その一つ一つが地を割り、空すらも割り、次第に足場を無くし、空中での切り合いに発展していく

「呂布よ!!お前との勝負は心躍るな!!」

「恋も、項羽は、楽しい」

お互い、傷だらけになりながらも、倒れることはなかった。彼女らの武人としての矜持が、想いが、彼女らを奮い立たせていたからだ

だがやがて限界が見え始め、ふらふらになってしまう。もうあまり余力は残されていない。感じ取った両者は、最後の一撃を仕掛ける為に力を込める

「呂布――!!!」

「項羽!!」

ズバァン!

最後の一撃は、両者ともども受け、そして倒れた

先ほどまで爆撃を受けていたかのような地鳴りがなくなり、辺りは静寂に包まれる

その中で聞こえるのは、二人の息遣い

そして微かな笑い声

「ふふ、呂布よ。なかなかに、良き闘争だったぞ」

「…また、闘おう」

立ち上がったのは恋

そして恋は、倒れている項羽に手を差し伸べた

 

 

 


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