真・恋姫†無双 裏√   作:桐生キラ

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エピローグになります。もう少しだけ続きます


エピローグ
変わるもの、変わらないもの


 

 

 

三国が五胡を撃退して、つまりは張譲を倒して、あれから一年の月日が流れた。あの日の私たちの決戦は、記録には記されていない。外史の管理者が、全ての記録を持ち帰ってしまったからだ。あの事件は、言ってしまえば管理者側の問題だからな。残すわけにはいかなかったのだろう

だがそれでも、一部の人間の記憶には残るものになるだろう。三国に平和をもたらしたのは北郷一刀だ。そして、その裏であったもう一つの決戦は、北郷一刀を、実質的に三国を護る為の戦いだった。奴が表の英雄ならば、私たちはその表の英雄を救った裏の英雄なのだろう

 

 

実はあの決戦の後日、北郷一刀が直々に礼を言いに来たのだ

「今回は、危ない所を救って頂き、誠にありがとうございました」

 

北郷一刀は深々と頭を下げていた。国のトップがこんな飲食店の店員に頭を下げるとはこれいかに

「はは、いいっていいって。僕らにも僕らの戦う理由があったからさ」

零士もなんてことない様子で言っていた。その言葉に、従業員全員が頷く

 

「しかし、貂蝉から話を聞いたところ、今回の件はある意味俺が理由で起こったもの。どう責任を取れば良いのか…」

 

ほう、貂蝉に聞いたのか。こいつよく無事だったな

「ふん、別にどうって事ないさ。そうやって悔いてる暇があるなら、死ぬ気で働いて、大陸をもっと住みやすい地にしてくれ。それで十分だ」

「しかし…」

「あんまりうるさいと、お前の大事な愚息とお別れする事になるぞ」

私はナイフをチラつかせて言う。すると北郷一刀はヒィっと、股間を抑えて青ざめた

「あ、ありがとうございます!」

「あぁ、それでいい。せいぜい頑張れよ、種馬野郎」

今回の件で、私たち『晋』は、三国に対し恩を売る事になった。その事に対し…

「これって、三国に対しデカイ借りを作った事になるのよね?もしかして、私たちがその気になれば、三国を乗っ取ることも可能なんじゃ…」

と、詠は呟いていた。まぁ、そんな気はさらさら無いがな。だが、意外にも華琳が…

「ふむ、もしそうなったとしても、私達は文句を言えないのよね。案外北郷一刀なんかより、いい国が作れたりしてね」

なんて、冗談半分で言っていた

「そう言えば、まさか華琳が負けるとは思わなかったな」

「明確に決着がついたわけではないけれど、あのままやり合っても、勝てたとは思っていないわ。だから、負けを認めて同盟を受け入れたのよ」

となると、やはり赤壁でだいぶやられたんだろう。そこは零士の言うとおりになったな

「たくっ、華琳が負けたせいで、私はあのバカ女を名前で呼ばなくちゃいけなくなったんだぞ」

「あー!またバカ女って言ったー!」

噂をすればってやつか?店にあのバカ女が入ってきた

「ふふ、なるほど、確かにバカ女ね」

「ちょ!華琳さんも酷いですよ~」

「はっはっは!お前、よくそんなんで華琳に勝てたな」

「うぅ…みんなで協力して掴み取った勝利だもん…さぁ、司馬懿さん!私を名前で呼んで下さい!なんなら桃香と、真名でもいいですよ!」

「ふむ、バカ桃香…略してバカでいいか?」

「ひ、ひどーい!!」

「はは、冗談だよ。よく頑張ったな桃香」

「!!?」

私は桃香の頭を撫でながら答える。すると桃香は顔を真っ赤に染めていた

「あなた、本当に天然のタラシね」

「え?」

この一年間で、『晋』もだいぶ変化を見せた。それが顕著なのは…

「ほいっと!海老フライ定食お待ち!!」

「詠ちゃん、猪々子さん、次はこれをお願いします」

「りょーかい!」

「へぇ!お客さん、登山家なんだ!いいわねー、山登りもにも行ってみたいわねー」

「ちょっと雪蓮さん!お客様と話してないで料理持ってって下さいよ!」

このように、『晋』の従業員が増えたのだ。新しく入った猪々子と雪蓮を接客担当に当て、臨時従業員だった流琉は正社員にし厨房を担当してもらうことにした

猪々子の評価はまずまずだ。動きも機敏だし、しっかりと業務もこなしてくれる。これで後は、妙に間の抜けた小さい失敗が無くなれば、言う事はなしだった

雪蓮は、なんとも難しい評価だ。彼女は気分に左右されやすく、機嫌のいい時は最高の動きを見せてくれるのだが、悪い時はグダグダで全然働いてくれない。ただ、悠里と同じくらい客と仲良くなるのが得意なので、彼女目当てに来る客も少なくない事は事実だった

流琉に関しては言う事なしだった。元々高かった調理能力は、最近更に磨かれていき、とても品質の高い料理を作ってくれるようになった。最近では、厨房を月と流琉の二人に任せても問題なく店が回るようになった

三人の加入は、従業員の、定休日以外の休みを作るきっかけにもなった。基本は五人、多くても七人いたら十二分に回せるので、二人は非番にできる。だいたい、厨房から一人、接客から一人を非番にする事ができた

 

 

三国同盟がきっかけで、うちの常連客もだいぶ変化を見せた

 

 

「ふむ、やはりここは楽しそうだな。できることなら、私もここで働いてみたいものだよ」

「同感ですね。ただ、我々にも立場がありますので…」

「その立場をガン無視している雪蓮は、やはり自由過ぎるのです」

「うちはこうして酒さえ飲めりゃ、十分やけどなぁ」

 

今までの常連である秋蘭、凪、ねね、霞はいつも通り店に出入りしていた。最近、秋蘭と凪の零士に対する距離がだいぶ近づいた気がするのは、気のせいであって欲しい

「同感ですな。ここの酒とメンマはまさに至高!これだけでも、三国同盟を結んだ甲斐があったというもの」

 

そして星。こいつは許昌にいる間は基本的にうちにいる。メンマ好きは相変わらずのようだ

「ところでお前らはこんな昼間っから酒飲んでて大丈夫なのか?」

「……だめ?」

っと、霞、星、紫苑、桔梗、祭という酒好きが入り浸るようになった。三国の重役のたまり場になりつつあった

そして今日、三国同盟の締結一周年を迎えるこの日、私達『晋』にある仕事が依頼される。内容は、立食パーティー用の料理を作ってくれとの事だった

「さぁ皆!今日は忙しいぞ!なんたって、三国の首脳陣相手に大量の料理を作らなきゃならない。それはつまり、春蘭ちゃんや季衣ちゃんだけじゃなく、鈴々ちゃんや翠ちゃんと言った大食漢の分も作らねばならない」

という零士の言葉に、ここに居る誰もがげんなりしていた

 

「うっへぇ、想像しただけでもしんどいですね」

「一年前の決戦の方が、遥かに楽でしょうね」

「恋も、運ぶの手伝う」

 

悠里と詠が遠い目をし、恋がその様子を見て手伝うと言ってくれた。悠里と詠って、うちでも割と普通の部類に入るよな。なんというか、ぶっとんでないよな

「ごめんなさい皆…今日は私もあっち側に出ないといけなくて…」

「大丈夫ですよ。というより、雪蓮さんがここで働いてる事自体が、おかしい事なんですから」

「でもそれを言ってしまえば、月も当てはまるじゃない」

「あ、わ、私はいいんですよ。ここの副料理長なんですから!」

「私だって、ここの従業員よ?んーわかったわ、隙を見て抜け出して、ここを手伝いに来るわ!」

 

雪蓮の発言を聞き、月は苦笑いといった様子だった。仮にも元王が給仕とは、贅沢と言うかなんというか

「あ、あはは。あ、お料理はお任せ下さい!腕によりをかけて作りますから」

「だな。今回は食料支給されてるんだ。全部使い切るつもりで作ってやるよ」

 

私と流琉はやる気に満ちていた。城の厨房を借りれるんだ。なかなか楽しみではあった

「うーん…でもいいのか咲夜?お前激しく動いて大丈夫なのか?」

「そうですよ。咲夜さんは、無理しなくても…」

猪々子と月が私のお腹を見て心配した様子で言ってきた。まったく、まだそんなに目立ってないはずなんだがな

 

「心配し過ぎだ。妊娠五ヶ月。まだ腹も少しポッコリしてきたくらいだ。料理くらいなんの問題もねぇよ」

「ほ、本当に大丈夫かい?きつくなったらすぐ言うんだよ?椅子でもベッドでもすぐに出してあげるからね」

「過保護か!」

まったく、零士も心配してくれるのは嬉しいが、さすがにやりすぎだな

「咲夜が楽できるためにも、頑張んないとね」

「だな。今日のあたいは一味違うぜ!」

「ふふーん!ならあたしも、大陸最速であるが所以を証明してあげます!」

「今回ばかりは、譲る気にはなれないわね!」

「あはは、みなさん一体何を競ってるんですか?」

「やる気十分、というのを伝えたいんでしょうね」

「そんなところだな。ということで、私も出るからな、旦那様」

私は零士に向って言い放つ。すると零士は顔を赤く染め、やれやれといった表情になった

「はは、わかったわかった。じゃあよろしくねみんな!行こう!僕らの戦場へ!お食事処『晋』出陣だ!」

「オォー!!!」

7年前のあの日

東零士との出会いにより、私、司馬懿・仲達の運命は変わった

ようやく掴んだ、平穏な生活

隣には、家族と言う名の、かけがえのない存在

そこに溢れるは、絶える事のない笑顔

決して手放すことはないだろう

私はこの大切な日々と、そしてお腹に宿った新しい命を守り続ける

どうかこの日々が、永遠に続いてくれますように………

 

 

 


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