真・恋姫†無双 裏√   作:桐生キラ

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時間軸は、前回のお話の裏側です


再会

 

 

 

 

 

 

「咲ちゃん、買い出しに行って来てくれるかい?」

「ん?何か足りないのか?」

お昼の混雑時を乗り越え、ようやく一息つけた頃、零士が私に尋ねてくる。俊足の悠里を行かさないと言うことは、急ぎではないらしい

「ん。リストはこれに書いてある。急ぎではないし、お客もしばらくは来ないと思うから、ゆっくりして来ていいよ」

手渡された紙の内容を見る。紙に書く割りには大した量じゃない。

………なるほど。最近忙しかったし、あまり休んでいなかったからな。こいつの事だ、気を遣ってくれたんだろう。だからゆっくりしてこいか

「ふん。ではお言葉に甘えて、ゆっくり買い出しに行ってくるよ」

「あぁ。気をつけてね」

確かに疲れてはいたが、それはあいつだってそうだ。なのにあいつは私に余暇をくれた。まったく…土産くらいは買って行ってやるか

 

 

†††††

 

 

 

とりあえず街にでた私は、当てもなくふらふら歩いてみる。思えば、この街もずいぶん賑わったといえる。三年前ここに来た時は、どことなく寂しい雰囲気だったからな

「店主。そこの饅頭、一つくれるか?」

「おぉ、司馬懿さん。今日は休みですかい?」

ここは、私のお気に入りの饅頭屋だ。定期的にここに来ては、こうして店主と話したりしている

「いんや、今は休憩中だ。最近店の方はどうだ?」

「ぼちぼちですね。まぁ一家を食わせてあげれる程度には儲かってますよ」

「そりゃ結構な事だ」

その後も、店主と他愛ない会話を続けて行く。最近の流行りや、奥さんの愚痴、そしてその愚痴が聞こえていた奥さんに鉄拳制裁されるなど、なかなか楽しい時間だった

「さて、そろそろ行くよ。これ勘定な」

「あら、もう行くのかい?また来るんだよ」

私は勘定を渡し、その場を後にする。ちなみに店主は店の中で伸びていた。まぁ、いつものことだな。さて、そろそろ買い出しに行くか

†††††

 

 

 

私は市に到着する。ここ許昌は、洛陽ほどでないにしろ、そこそこいろんな物が入ってくる。様々な地の、様々な行商人がやって来るので、うちのような多種多様な料理を出す店でも、必要な物を揃える事ができる。三年前店を構える際に、零士がわざわざ許昌を選んだのも、これを見越しての事だそうだ。

「これとこれ、後それも頼む」

「まいど!」

私は店の店主に指示し、買い物リストに書かれていたものを揃えていく。よし、買い出しは終了だ。思った以上に早く終わったな。まぁいい。あいつらの土産も見てかないとな。

私は土産を探すべく、街の方へ戻ってきた

 

さて、何にしようか。肉まん…何か違うな。甘味?…私の気分じゃないな。……果物でいいか。桃とか甘くていいだろう。よし、そうしよう。私はこの辺で桃を買うべく、辺りを見回してみる。…あった!あそこで桃が売ってるな。

私は桃を買おうと店の前まで行く。そこで初めて気づく。店の前に、赤髪で、アホ毛が触角のようにみょんみょん動いている女の子の存在。その子がよだれを垂らしながら桃を見ていた。って!あれって…

「恋?」

赤髪の女の子は、あろうことか私の友人だった。呂布、奉先。真名は恋。私の友人である董卓こと月のところの武将だ

「恋、何しているんだ?」

私は問いかけてみる。反応がない。桃に釘付けのようだ。

「この子、あんたの知り合いかい?さっきからずっとこの調子なんだよ。買ってくれるならいいんだけど、金がないと言うから、こっちも困ってんのさ」

店員さんがため息まじりに言ってくる。どうやらそこそこ長い時間、ここにいたようだ。

「恋!」

私はもう一度呼びかける。今度はこちらに気づいたようだ。

「………咲夜?」

恋は小首をかしげる。どうしてここに?と言っているようだった

「忘れたか?私はこの街に住んでるんだ。それより恋こそどうした?こんなところで」

そこで恋は再び意識を桃に向ける

「……桃……」

知り合いなら買ってやれ!という無言の圧力を店員から受ける。はぁ、仕方ない

「恋、私も桃を買うんだ。ついでに買ってやるから、何個いるか言ってくれ」

「…いいの?」

恋は一間置いて、申し訳なさそうにこちらの顔を伺ってくる

「あぁ。さぁ、何個食べるんだ?」

「…ん」

恋は人差し指を立てる。一個って事らしい

「本当に一個でいいのか?」

こいつが大食漢なのは知っている。だから一個なんて、絶対足りるわけないのは目に見えていた。恋なりに、気を遣ったのだろう

「…じゃあ」

今度は両手の指を全て見せる。十個か。相変わらずよく食うな

「十個だな?店員さん!私に桃を三個、この子に十個渡してくれ」

「はは、まいどあり!」

桃を貰った後、恋と一緒に『晋』を目指す。その道中、なぜここに来たのか聞いてみた

「…お仕事?」

恋は小首をかしげて答える。なんで疑問形なんだよ

「一人でか?」

今度は首を横に振る。どうやら随伴者がいるらしい。当然か。こいつ一人だと不安でしかない

「ちんきゅと一緒…でもはぐれた」

ちんきゅ?そんな奴、月のところにいたか?新しく入ったのだろうか

「それで、そいつと離れた恋は、なんで桃を見ていたんだ?」

「お腹空いて…肉まん食べて…お団子食べて…桃食べたかったけど、お金がなかった」

つまり、肉まんと団子を食べて、酸味が欲しくなって桃を買おうとしたら、既に金が尽きてたというわけか。て言うか、どんだけ食ってんだよ

「あむ…んくんく…」

一通り話し終えると、恋は桃にかぶりつく。一口一口は小さいのに、減りが速い。そしてどんどん頬が膨らんでいく

「はうっ!」

もきゅもきゅと食べ続ける恋の姿を見ていると、突然胸を何かに突かれたかのような衝撃がくる

か、可愛すぎる…!

「……こくん。…どうかした?」

恋に見惚れていた私は、突然恋に話しかけられびくりとする。やめろ!そんな潤んだ瞳で見つめないでくれ!惚れてしまう!

「な、なんでもない!…それより、月や詠は元気か?」

私はたまらなくなり、話題を変える。不自然過ぎるだろうが、恋はそんな事気にしないはずだ

「…月も、詠も、霞も、華雄も、みんな元気」

「そっか。よかったよ」

どうやら元気らしい。しばらく会っていなかったからな。また近い内に会いに行きたいな

私と恋は店に着く。恋もしばらくは、店でゆっくり桃を食べるそうだ

 

†††††

 

 

「おかえり咲ちゃん。…おや?後ろの子は恋ちゃんじゃないか。久しぶりだね」

 

私と恋は『晋』に帰ってきた。零士は恋を見つけるなり、話しかけてきた

「さっき桃を買う時に偶然会ってな。しばらく置いてやってくれ。それとこれ、お前と悠里に土産だ。後で食べるなり、調理するなりしてくれ」

 

私は買ってきた桃を手渡す。零士は少し困ったように笑っていた

「はは、よかったのに。でもありがとうね。恋ちゃんも、ゆっくりしてていいよ」

「…ん」

恋はコクリと頷き、そして目の前の桃に集中し始める。あぁ、またあんなに頬をパンパンにして…

「あの子は相変わらず、小動物みたいに食べるんだね」

零士も、ほんわかした表情で呟く。気づけば、お茶しにきた周りのお客さんも、恋を見てほんわかしていた。さすが恋、食事をしているだけで周りを癒すとは。そこでもう一つ気づく。いつも明るいあの子がいない

「零士、悠里はどうした?」

いの一番に飛びついて来そうな悠里がいなかった。通りで静かな訳だ

「おっとそうだった。悠里ちゃんなら、ちょっと出かけてるよ。僕もちょっと、料理考えたいから裏にいるね。何かあったら呼んでね」

そういって零士は奥に引っ込んだ。悠里は出かけていたのか。すれ違ったかな

その後、私は業務に戻る。と言っても、特にやることはなく、注文を受けては提供するだけだった。

「そう言えば、黄巾党三万人をお前一人で倒したって話本当なのか?」

私は恋に問いかけてみる。まだ、黄巾党が活発に動いている頃、たった一人の武人に黄巾党の三万人が壊滅状態になったという噂があった。その武人の名は呂布。それを聞いたとき、恋ならやりかねないとは思ったが、さすがに信じきってはいなかった

「……本気は、出した」

恋がぼそりと言う。明確な答えを得た訳じゃないが、恋が本気を出したとなると、あながち間違いじゃないかもしれないな

「呂布どのー!!探しましたぞー!!」

突然扉が開かれ、小さい影が入ってきた。それはまっすぐ恋に向かっていった

「…ちんきゅ」

こいつが恋の言っていたちんきゅか?ずいぶんと小さい子だな

「お前が恋の随伴者か?」

私が小さいのに話しかけると、小さいのは私を睨みつけた

「なぜお前のような者が、呂布殿の真名を知っているのですか?」

「なぜもなにも、恋は私の友人だが?」

「なんですとー!?本当なのですか呂布殿!」

「…ほんと」

「そ、そんな…ねねですらまだだというのに…」

ちんきゅは膝から崩れ落ちた。恋もずいぶん慕われていれているんだな。

「お前、月や詠の部下か?」

「むむ、月や詠の真名まで…お前、何者なのです?」

「私はこの店の従業員の司馬懿だ。月や詠、恋とは旧知の仲だ」

「なんと、そうだったのですか。ねねは陳宮と言います。少し前に呂布殿に拾われ、それ以来呂布殿付きの軍師をやっているのです!」

へぇ、こんななりで軍師か。ってことは、そこそこ頭はいい訳だ。

「ここには仕事か?」

「はいなのです。ここ最近の許昌の発展は、目を見張るものがあるのです。なので視察にやってきました」

「なるほどな。それで街を見てて、恋とはぐれたのか。…ん?待ってくれ。なんで天水の人間がわざわざ許昌に?確かに月のところは官軍だったが」

「それはまだ詳しいことは聞いていないのですが、月はどうも天水から洛陽に移動のようなのです。それで洛陽に近いこの街を見にきたのです!」

「へぇ、出世したのか。よかったじゃないか」

自分で言っておきながら、出世という言葉に違和感を感じた。なにか妙な胸騒ぎがしてならなかった

「呂布殿!そろそろ行きますぞ!司馬懿殿、世話になりましたぞ」

「…ん。咲夜、ありがとう」

「ああ、今度はうちの料理を食べにきてくれ」

「ん。零士の料理、好き。必ずくる」

しばらくして、恋たちは帰っていった。それと入れ替わるように、零士が裏から戻ってくる

「あれ?恋ちゃん、帰っちゃったのかい?」

「ああ、今しがたな」

その後、悠里が女性と一緒にメンマを持って帰ってくる。女性の名は趙雲。なにやら零士にメンマ料理を頼み、わざわざ買いにいっていたそうだ。そして出されたメンマ料理を気に入り、星という真名を教えてくれた。

そしてその晩

 

 

†††††

 

 

 

今日の営業も終わり、悠里と風呂に入った後、私は零士に今日の事を話す。三万人対恋の事、恋が周りを癒していた事、そして

「そう言えば、詳しい事はわからないが、どうやら月が洛陽に移るらしい」

なんとなく、ポツリとこぼしてみる。

こいつの事だ、へー凄いね、なんて返ってくると思っていた。だが、そんなものは簡単に裏切られ、零士は雰囲気を変えていた

「そうか。…咲夜、もしかしたらマズイ事が起きるかもしれない」

零士は真面目な表情でそう答えた。

そして

その零士の予想は、当たってしまうことになる

 

 

 




次回から反董卓連合編です

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