反董卓連合編其一
恋や星と会って約一ヶ月が経とうとする頃、大陸には激震が走っていた
時の帝である霊帝の崩御、あと目争い、何進の暗殺
そして何進の後に入れ替わるように上洛した月達の勢力
大陸は再び揺れ動いていた……
†††††
「たしか董卓さんって、お二人のご友人でしたよね?どんな人何ですか?」
人が引き始め、とくにやることもなくなった時に、悠里が尋ねてきた
「月か…一言で言えば、とても優しい子だな。家族を大切にする。普段は気弱そうなのに、時々しっかりしていて、なかなか責任感も強いな」
「へぇ…いつ頃知り合ったんですか?」
「そうだな。あれは確か…」
私は月との事を思い出す。
初めて出会ったのは五年前、私と零士が出会い、約二ヶ月が経とうとしていた頃だ
あの時の私は、零士と武術の訓練をしつつ、大陸中を渡り歩いていた。当時の私はあまり体力がなくてな。初日なんか歩いていただけで息が切れていたよ。それでも二ヶ月で、だいぶマシになったがな。まぁそんなある日、もうすぐ天水に着くといったところで、事件が起きたんだ。
†††††
五年前
「零士、街が見えてきたぞ」
「ようやくだねー」
私はまだ距離があるも、しっかりとその姿を見せた街を指さしつつ言った。ずっと外で寝ていたからな、ひさしぶりに寝台で寝たい
「街についたらどうする?」
「まずは寝床の確保だね。その後は日銭を稼げるとこを探す」
………ちょっと待て
「金ないのか?」
「あはは、何とかなるさ」
「はぁ…」
まったくこいつは…慣れてきたとは言え適当すぎる。呆れていると一台の馬車が物々しく走っているのが見えた。すると零士が表情を変える
「あれは…まずいな。恐らく人攫いだ」
「はぁ?どうしてそんなこと」
「理由は二つ。一つ目は、一瞬だけど小さな女の子が縛られているのが見えたこと。二つ目は、馬車を引いている人間の気が商人のそれじゃない。あれは人殺しの気配だ」
そんなこと、あの距離の、それも一瞬でわかるのか。普段ボケっと抜けてるくせして。………って!!
「おい、早く行って助けないと!」
なに呑気にしてるんだよこいつは!
「わかってるさ」
そう言うと、零士の手から一組の弓と矢が現れた。まさか
「おい零士、結構距離あるが大丈夫なのか?」
私たちと馬車の距離は結構あった。弓で届くような距離じゃないはずだ
「問題ないよ。僕が援護するから咲夜はとりあえず走って救出に行ってくれるかい?」
「わかった!」
返事を言い終わる前に私は走り出していた。こいつが私の事を『咲夜』と呼ぶ時は信じていい時だ。間違いなくこいつは矢を当てる。なら私はその後の仕事をこなすだけだ
「フッ!」
矢が放たれ、それは見事に騎手を撃ち抜いた。異変に気づいた悪党の仲間が馬車から降りるも、全員その場で射殺されていった。全員出てきたのか。間抜けな奴らだ。一人くらい中にいなきゃだめだろう。こちらとしては好都合だがな。私は急いで馬車へ駆け寄り中を確認する。中には確かに女の子がいた
「お前、大丈夫か?」
白い服を着た少女は酷く怯え震えているものの、怪我らしい怪我は見当たらなかった
「あの、あなたは…」
「あぁ、私は司馬懿。旅のもので偶然この馬車を見つけてな。変わった雰囲気だったから駆け寄ったが、何があったんだ?」
「あの、ありがとうございます。街を歩いてたら、その、知らない男に連れ去られて、それで、う、ふぇぇぇーん」
「お、おい。泣くなよ。もう大丈夫だから、な?」
「す、すみません、でも、うぇぇーん」
とっさの事でどうしていいのかわからず、とりあえず抱きしめてみた。怖かったんだろうな。泣き止むまでは側にいてやるか
「咲ちゃん、大丈夫かい?」
すると零士がこちらにやってきた。呼び名が『咲ちゃん』に戻ってるって事は、脅威はなくなったようだ
「あぁ、お前のいう通り、中に女の子がいた」
「そっか。どっちも無事で何よりだよ」
しばらくすると女の子も泣き止み、落ち着きを取り戻していた
「やぁ君、大丈夫かい?僕は東零士。咲ちゃん、司馬懿ちゃんと一緒に旅をしているものだよ」
先に口を開いたのは零士だった
「はい、だいぶ落ち着きました。助けて頂き、ありがとうございます。私は、董卓と言います」
「董卓!?」
零士は小声だったが、なにか驚いているような感じだった。こいつは確か、私の名を聞いた時も驚いていた気がしたな。なにかあるのか?まぁいい、とりあえず先にこの子を町に返さないとな
「よろしく、董卓さん。災難だったな。私達は天水に向かうところだし、よければ家まで送るぞ。零士もそれでいいな?」
「あ、あぁ、もちろんだよ」
「いいんですか?」
「いいと言っているんだ。人の好意には甘えておけ」
「は、はい!」
†††††
現在
「っとまぁ、これが私と月の出会いだな。その後は月の屋敷に招待されて、一ヶ月程滞在していたよ。その間もいろいろあったぞ。みんなが零士の料理食べて絶賛したり、零士が軍部の連中と訓練してボコボコにしたり」
「ヘェ~…って東おじさん半端ないですね」
「あはは。あの時はみんな若かったからね。今やったら、勝てるかわからないな」
そう言えば、あの時私も一緒に訓練して、恋や霞、華雄と一緒にボコボコにやられたな。まぁこれは言わなくていいか
「そっかぁ。そんな人なら、今の洛陽をもうちょっと住みやすくしてくれますかねー。あそこ酷いですからねー」
悠里の言うとおりだ。月や詠なら、洛陽をかつての都に戻せるかもしれない。だが、零士は何やら不信感があったようだ。あいつの辿った歴史では、董卓は暴政を敷き、己の欲望のみを満たす生活をしていた。それに対し各所の諸侯が立ち上がり、反董卓連合を結成。そして董卓を討ち滅ぼしたらしい。その知識があったからだろう。五年前、初めて董卓の名を聞いたとき驚いていたのは。あの心優しい少女が暴政を敷くわけない。実際、天水の治政はかなり安定している。民からの支持率も高いほうだ。それなのに、何故そんな歴史を辿るんだ…
†††††
月たちが洛陽入りして数日、私と零士は洛陽の情報を逐一集めていた。まだ公に発表があったわけではないが、十常侍を筆頭に、重税や賄賂に手を出していたもの粛清したらしい。そしてその後の治政も、暴政どころか洛陽を立て直す作業が行われ、幾分か住みやすくなったと聞いた。これを知った零士はこんなことを呟いていた
「歴史は勝者によって描かれる…か…。この言葉をこれほど実感したことはないな」
「どういうことだ?」
「僕のいた世界が1800年後の世界ってのは言ったね。そこで得られるこの時代の歴史や情報は、全て書物によっての物なんだ。だから確かめようがない。それが事実かどうか」
そりゃそうだ。今このとき、何があったか詳しくわかるやつは、今を生きている人間だけだ。そんな未来の人間が知れるわけがない。いたらそいつは化け物だ
「歴史は、常に勝者に焦点を当てられていることが多い。その割には、勝者にとって得にならない情報はほとんど乗ることはない。必ずあるはずなんだ。後ろめたいことの一つや二つ。しかしない。なぜか。勝者がそれを隠した、もしくは敗者になすりつけたかになる」
「しかし、中には真実を伝えようとする者もいるだろう?」
「そういう人間はことごとく消される。もしくは、伝えることはできても、その情報を潰され、やがて伝わることもなくなっていく。そうして真実は闇に溶け込むんだ」
「もし、反董卓連合が結成されたら、その連合側に董卓を陥れようとする者がいるということか」
「今後暴政の噂が流れたら、その陥れようとしている奴が実際暴政を行った犯人だろうね」
街を良くしようと頑張っているのに、いつのまにか民を虐げる悪党にか。そんなこと、なければいいんだが…
†††††
とある軍師視点
クッ、途中まで上手くいっていたのに…
僕と月が上洛しまずしたことは、十常侍や無能な文官の粛清だった
この粛清に力を貸してくれたのは劉協様だった。彼女もまた、この大陸を立て直したかったのだろう
結果、十常侍は全て弾圧することができ、洛陽の立て直しも順調に進んでいた
それなのに…!!
「おい詠!こっちの準備は済んだで!手筈通り、うちと華雄で汜水関の防衛に回ればええんやな?」
「頼むわ!」
「詠!こっちも準備できたのです!ねねと恋殿で虎牢関の防衛に行くのです!」
「ねね、お願いね!」
「任せるのです!詠はどうにかして、月と劉協様を助けるのですぞ!」
「せやで詠!ほんで勝って、またみんなで酒飲もうや!」
「そうね。それじゃあ二人ともお願いね!必ず生きて帰ってくるのよ!」
「任せとき!」「おーなのです!」
月
必ず、必ず助けるからね!
だからどうか無事でいて!!