真・恋姫†無双 裏√   作:桐生キラ

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反董卓連合編其二

 

 

 

 

 

暴君董卓が、何進、劉弁を暗殺し、十常侍や多数の文官も一斉に粛清

そして劉協を傀儡とし、洛陽で暴政を敷いている

そんな噂が大陸中に広がっていた

それに対し、名門袁家が各地の諸侯に檄文を送る

逆賊董卓を討ち、洛陽の民を救う

反董卓連合の結成だった

†††††

私と零士はバイクに乗り走っている。

洛陽に向けて、真実を確かめるために

今回の件について、私と零士は違和感を覚えていた

暴政の噂は本当に突然流れた。

それなのに、それ以前の、月たちが洛陽を立て直しているという噂は浸透していなかった。各地の商人に話を聞いても、そんな噂は聞かないという答えが多かった。普通はそういった良い情報はすぐ流れるものなのに、誰かが作為的に情報を潰していたとしか思えない

そして今回の暴政の噂。これは逆にすぐ流れた。それまではそんな話、一切聞こえてこなかった。というより、ここしばらく、洛陽についての詳細な情報を得ることができなかった。そしてこれだ。これもまた、何者かが洛陽についての情報に規制をいれていたかのようだった

 

 

極めつけは今回の連合結成。明らかに時期が早すぎる。洛陽の暴政の噂の直後には既に組まれつつあった。発起人は袁紹。だが、袁紹の勢力が最近洛陽に来たという話は聞いていない

全てに違和感があった

 

何か、思っても見ないことが起きている

 

そんな気がしてならなかった

「咲夜。一つだけ聞いていいかい?」

バイクを飛ばしていると、零士が問いかけてくる。

そうそう。今回、悠里は来ていない。悠里には黙って、こっそり出てきた。今回はさすがに危ない気がしたから

「なんだ?」

私は内心焦っていた。月は、みんなは無事なのだろうか。そんな事ばかりを考えてしまっていた

「もしだよ。もし、本当に暴政の噂が真実だったら、咲夜はどうする?」

思っても見なかった事を聞かれ、私はバイクを減速し、やがて止める。それに気づいた零士もまたバイクを止めた

「何を言っている?」

私は問いかける。私が言っておきながら、この言葉は私にも言える事だった

「わかっているはずだよね?月ちゃんが暴政をしている可能性が、ゼロじゃない事を」

あぁ。わかっているさ。零士の言うとおりだ。心の片隅にあった、考えたくない可能性。

あり得ない、あって欲しくない。だが…

「もしその場合…友人として私が引導を渡す…」

可能性は捨てきれない。だからせめて、私が殺す。間違った道に進んでしまったのを正すのが友人の務めだ

「だけどな零士」

「ん?」

「私は月を信じてる。そんな根も葉もない噂より、私は私がよく知る友人を信じたい!」

今回のこの乱は、確実に何かあるはずだ。だから、ここまで仕向けた黒幕を、私が殺してやる

数刻、私たちはバイクを走らせる。誰もいないはずの地をただひたすら。もうすっかり夜になってしまったな。私たちがとった道は、洛陽への直進コースではなく、時間の掛かる獣道の多いコースだ。まっすぐ行けばすぐ着く距離だが、恐らく最短距離は戦場の可能性が高い。そんな危ない所、通る気になれないので、あえて迂回した。結果、予想は的中。時間はかかっているが、私たちが走っている道は警戒がざるだった

はずだったが…

ヒュンヒュン!

「「!!?」」

突如矢が飛んでくる。私たちはすぐさまこれを避け、バイクから降りて森の中に隠れる。今は夜だ。私たちは黒い服を着ているし、そうそう見つかる事はないはずだが

「警備なんていないと思って、大胆に動き過ぎたかな」

「いや、相手も相当目が良いみたいだな。普通、この暗さであんな正確に矢を放てると思えない」

さて、不味いぞ。向こうは恐らく私たちが見えている。チッ。今回はとことん後手に回されるな

「零士、そっちで何人確認してる?」

私たちはできるだけ小声で話す。これで耳までよけりゃ、なかなかの化け物だな

「15…いや20か。思ったより少ない。分隊か、あるいは少数精鋭か…」

ヒュンッ

「うお!」

カキンッ

私はすんでのところで飛んできた矢を弾き落とす。危なかった…だが

「あれが大将か?捉えたぞ」

私は矢の軌道、その先に感じた殺気と気を感じ、相手を捉える。私も目の良さに関しちゃ、自信アリだぞ!

「零士!私がやる。援護してくれ」

「了解。殺すなよ。聞きたいことがあるからな」

「そのつもりだ」

私は木から離れ、一気に距離を詰める。その瞬間、多数の矢が来るが、これを零士が前に出て全て叩き落す。一瞬生まれる隙、この瞬間にさらに距離を詰める

いた!あれだな

私はナイフを構える。相手も私に気づき、手にした弓で殴りかかってくる。

ハッ!接近戦は苦手か?遅いぞ!

「フンッ!」

私は相手の弓を解体する。敵はそれに驚き、一瞬膠着する。私はその瞬間を見逃さず、相手を掴み、そして組伏した

「ふぅ…おっと、抵抗するなよ。聞かなきゃいけないことがあるからな」

「クッ…貴様、どこの者だ?」

あぁ?この男、どこかで…

「そっちは終わったかい?」

零士がゆっくりとこちらに向かってくる。ずいぶん余裕だなと思い、辺りを見てみると、そこには20人ほど人間が転がっていた

「まさか全員倒したのか?」

「まぁね。でも殺してないよ。見たところ董卓軍みたいだし」

私は若干呆れ、ため息を漏らす。相変わらず容赦のない奴だ

「さて、そこの人は…あれ?君どこかで………あぁ思い出した。君、5年前に月ちゃんのとこにいた張済さんだよね」

「な、なぜ私の名を……な!?あ、東殿!?」

張済、張済………あぁ、5年前、零士にボコボコにされた軍人の一人にそんなのがいたなぁ

「咲ちゃん、離してあげよう。これはある意味ツイてた」

そういう零士の顔には、笑みが張り付いていた

 

 

 

†††††

 

 

「さて、張済さん。今洛陽で何が起きてるんだい?」

私たちを襲った襲撃者は、董卓軍の張済だった。五年前、月のところに居た時に一緒に訓練した人物のうちの一人だ

「は!我々は中央からの要請で、軍事補強ということで上洛しました。しかし、上洛当時の洛陽は酷いものでした…。重税、暴行、賄賂、腐り切っていました。しかもそれを、帝のご子息である劉弁様、劉協様の意思に反した、十常侍や奴らに与した文官によるものでした。それを見かねた董卓様、賈詡様は、劉協様の御協力もあり、十常侍や文官の粛清に成功しました。その後は、我々が代わり洛陽の立て直しに取り掛かり、順調に治安も良くなりつつありました」

そこまでは、私たちが得た情報にも合う。月は暴政を行っていなかったんだな…本当によかった

「そこまでは僕達の調べた通りだね。問題はその後か。ある時期を境に、洛陽の情報が一切入らなくなった。そして流れた何進、劉弁の暗殺。何があったんだ?」

「何進大将軍に関しては、我々が上洛する以前に既に殺害されていました。我々はその後釜という形で上洛しましたから。無論、我々は無実です。賈詡様の推測では、何進大将軍は用済みとなり、十常侍に暗殺されたのだろうとのことでした」

「まぁ、十中八九そうだろう」

「はい。問題は劉弁様の件です。我々が上洛して一ヶ月が経とうとする頃、ある事件が起きました。それが劉弁様の暗殺です」

「って事は、劉弁殺害の噂自体は真実なのか。犯人は特定したのか?」

「はい。最悪の形で判明しました…」

「最悪の形?」

私が聞くと張済さんは苦々しい顔になった

「犯人は、弾圧したと思われていた十常侍の生き残り、張譲と段珪でした」

「粛清に失敗していたのか?」

「恐らく、粛清部隊の中に、奴らの息のかかった者がいたのでしょう。その者らが偽りの報告をし、張譲と段珪は死んだ事になった。そして劉弁様を殺した」

「なるほどな。だが、それならすぐに奴らを殺しに行けば済む話だろ。なぜこんな事態になっているんだ」

「私が言いたかった最悪の形…董卓様と劉協様を人質に取られたのです…」

「なに!?」

月が人質?………なるほど、見えてきたぞ、今回の事件

「我々が劉弁様暗殺の報を聞き、取り調べているところに、張譲と段珪が董卓様と劉協様を人質に取り現れました。そして奴らは、董卓様の命が惜しくば命令に従えといい、今に至るというわけです」

思った通りだった。詠は月を溺愛している。その月を囚われたんだ。従うしかない。洛陽についての情報操作も、恐らくは張譲と段珪の仕業か。そしてその二人の内どちらかが、袁紹の下へ行き、暴政があったと吹き込んだ。そんなところか。だが、まだわからない。目的は一体なんだ?何故月たちを嵌めて、戦争なんか起こした?それも情報操作をしていたという事は、最初から月たちを嵌める為になる。いったいなんなんだ…

「洛陽では、賈詡様が董卓様を捜索中です。しかし、監視も居ますし、連合の脅威もあり、順調とは言えません…東殿、司馬懿殿、差し違えなければ、我が主、董卓様の救出に手を貸してくだされませんか!?」

そう言った張済さんは頭を下げた。張済さんの手は震えていた。主を奪われ、恥辱にまみれ、自分で救出に行きたいにも行けず、私たちに頼む。彼の手の震えが、その悔しさを物語っていた

「なるほど。だいたいわかった。これはますます、洛陽に行かないといけなくなったね」

零士はこちらに向き微笑んだ

「あぁ。大切な友人が囚われたとあっては、引かない訳にはいかない」

「では!」

「あぁ。その張譲と段珪ってやつ、私が殺して月を助けだす!」

「!!…うっ、くっ、感謝します!」

張済さんは、涙を流していた。ふふ、あんな月でも、ちゃんと太守なんだな。

こんなにも慕われているなんて。この人の為にも、必ず助け出さないとな

 

†††††

 

 

 

その後、張済さんの誘導で洛陽に向かう。さすがに深夜ということもあり、何度か休憩を挟みつつ向かった。その道中…

 

「さて、どうしたものかな」

「………この戦争の事か?」

零士は無言で頷く。今回の戦は、暴君を討つ為に結成された正義の連合による正義の戦。世評も、月が暴君であると認識され、連合軍を支持している。つまりこの戦は、暴君を討たない限り終わりはない。戦争の終結には、董卓という贄が必要だった

「実際の黒幕は、張譲と段珪だ。だが、証拠がない。いや、あるにはあるか。劉協という証人が立証してくれたらもしかしたら」

「うん。でも確率は低いね。結局、劉協が何を言ったところで、董卓に脅されて言わされていると思われるだけだろう」

「そうなるよなぁ」

私はもう一つ、案を思いつく。だがこれも、運の要素が強い

「なぁ、張済さん」

 

私は先頭を行軍していた張済さんに話しかける。張済さんは歩む速度を緩めるも、止まることはなかった。張済さんも、だいぶ焦っているな

「なんでしょう?」

「今の連合軍に、月の顔を知っている人間はいるのか?」

「どうでしょう…賈詡様は董卓様の事をひたむきに隠そうとしていましたが…実際に賈詡様に聞かなければなんとも」

「そうか、ありがとう」

「ははぁ、なるほどね。いい策かも知れないけど、少しばかり運頼みな感じだね」

「あの、何の話でしょうか?」

 

張済さんの表情は疑問で満ちている様子だった

「この戦を、どうやって終わらせるかだ」

「勝てば良いのでは?」

「それじゃあダメだ。仮に今回勝てたとしても、月の風評はさらに悪くなるし、今後も命を狙われる。この戦争が起きた時点で、あるいみ月に救いはないんだ。月が死ぬまで、戦は終わらない」

「そんな!」

「落ち着いてくれ張済さん。僕たちはそうならない為に、今考えているんだ」

「むぅ…申し訳ありません」

 

張済さんは少しシュンとなった。そんな張済さんに、私は説明し始める

「一つ案があるんだが、その案がなかなか運任せなんだ。前提条件として、連合軍側に月の顔を知る者が一人もいないこと。もしいなければ、私たちが助けた後、どこかに逃がし、董卓の影武者として、屍を一つ用意する。董卓軍の誰かが董卓を殺した事にすれば、今後命を狙われる事もないはずだ」

「なるほど。確かにそれならば…しかしなかなか厳しい条件ですな」

「まぁな。だが、月を無事に助け出すには、この策が一番なんだ」

「とりあえず、詠ちゃんとも話し合ってみようか。恐らく連合側もまだ、汜水関あたりだろう。まだ時間はあるはずだ」

零士の言うとおりだ。先の事も重要だが、まずは月の救出が最優先事項だ。助けた後考えればいい

その後も私たちは洛陽を目指す。いざ救出って時に力が出なきゃ意味がないってことで、一度長時間の仮眠を取った。そして起きる頃、辺りはすっかり明るくなり、陽が差していた。そして…

「いよいよだな」

「ああ。気を引き締めよう」

私たちは洛陽に着いた

月を助け出し、元凶をこの手で討つ

私の友人を傷つけた罪、その命をもって償わせてやる

 

 

 

†††††

 

同時刻   汜水関

北郷一刀視点

この連合には不可解な点がいくつかあった

俺たちは、洛陽で暴政があったなんて噂は聞いていなかった。それを聞いたのは、袁紹から檄文が届いてからだった。

そして、実際に洛陽の情報を得ようとするも、一切何も入ってこない。あるのは、暴政があったと言う言葉だけ

桃香や愛紗は、虐げられている人を見過ごせない。助けるべきだと言った。それに対し俺、朱里、雛里、そして最近加入した星は疑問を持った。なにか、うまく乗せられている気がしてならなかった。しかし、本当に暴政がある可能性も捨てきれない。なので俺たちは、真実を見極め為にも、この連合に参加する事を決意した

連合には既に幾つかの勢力が合流していた。

曹操、孫策、袁術、公孫賛、馬超など、名のある諸侯が集結していたこの時もまた、おかしな違和感を覚えていた。結成が早すぎないか?

その後の軍議で、袁紹を総大将と定める。そして俺たちの勢力は、この連合に一番最後に合流したと言う理由で、汜水関での先陣を請け負う事になってしまった。うちには優秀な将はいるが、まだまだ弱卒。それを見かねた公孫賛、そして孫策が協力を申し出てくれた。孫策は、汜水関の将の一人、華雄と因縁があるらしく、曰く「私が華雄を挑発すれば、簡単に出てくるんじゃない」との事。

結論を言ってしまえば、それは面白いほど上手くハマる。華雄は激情し突出して、恐らくそれをカバーするために張遼も釣れた。そしてこれを撃退。華雄、張遼の両武将を取り逃がすも、難攻不落と謳われた砦の一つである汜水関は、わずか半日で堕ちた

 


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