また、一歩を踏み出す。
幾度も砕けた左足で、揺らぎなく。
ゴールドシップは走り去るファインドフィートの背を見送り──腹の底から湧き出る苛立ちを、理性の力で強引に捻じ伏せた。
実態より尚小さく見える程に細身で、白く、どうにも儚く頼りない背中。
そこに
曰く、家族に会いに行くという彼女。
けれどもそのくせに何故か、その割には穏やかさとは無縁の様子の彼女。
親元から離れて久しいだろう少女の帰郷というには些か不穏にすぎる。
遠ざかり、ついには見えなくなった背の幻像を、細まった双眸の紫で見つめる。
ゴールドシップの知りうる限りでは非常に珍しい──どころか、初めて見るタイプの少女だった。
普段であれば持ち前の活力で振り回してしまう所ではある、が。
非常に残念ながら、それを有効的に実行する為の
細い顎先に指を添え、うぅんと唸った。
常日頃からやれ問題児だの、やれ癖ウマ娘だの、随分とやたらめったら散々な物言いをされている彼女であれども、最低限の弁えるべきポイントは弁えているのだ。
つまり、その最低限のポイントを正確に見極めることが可能な観察力と、遵守すべき一線を決して踏み越えない稀有なバランス感覚を保有している証左でもある。
──そうでありながら、二の足を踏む。
彼女のトレーナーが知れば、驚きのあまり天変地異を警戒してしまうかもしれない。
……あるいは、逆に納得するかもしれないが。
「つってもなぁ……」
うぅんと、もう一度唸った。
白い尾っぽを気怠げに垂らし、仄かな懊悩を空気に溶かす。
さて、さて。今回の
彼女の気質を知る者の大半は預かり知らぬ、驚くほど聡明な思考回路で熟慮を凝らした。
……が、中々冴えた一手は湧き出やしない。 堂々巡りの苦悩だった。
それは結局、今回の遭遇の仕掛け人──チームメイトであるトウカイテイオーの声が掛かるまで途切れなかった。
「──で、どうだった?」
「ん~……。
んぁ〜〜……分からん!」
「……そっかぁ」
背後に立つトウカイテイオーへ、混迷も一周回って晴れやかな声で返事を打ち返す。
問いかけの意味──つまり、"どうだった"と口にしただけの文章の、曖昧な主語の委細を問い詰める必要はない。
今回のファインドフィートとの遭遇という、そもそもの発端──それが、トウカイテイオーからゴールドシップへの依頼による行動だったからだ。
依頼の内容は単純である。
"ファインドフィートからそれとなく、悩んでいそうな情報を抜き出してほしい"。
ここでのミソは"聞き出してほしい" ではなく、" 抜き出してほしい" という点だろう。
言論として明確な理由を、
その仮面の裏側に潜む事情を、
それが今回の主目的であり、トウカイテイオーがゴールドシップの手腕に望む結果だった。
特に交友関係の深い人物では、どうあっても話し辛い事は多くなる。
故にこそ、程々の顔見知りであり、なおかつ繊細な線引が上手いゴールドシップに託した。
……けれどもそのような無理難題、はなから成功率なんぞ低いに決まっている。
そして結局、やはりというべきか……非常に残念ながら、目的の達成は成されなかった。
それはどうしようもなく、仕方のない話である。
依頼人であるトウカイテイオーでさえ納得しているのだから疑う余地もなく、仕方のない話なのだ。
「……ところでさ、フィートの用事は何って言ってた?」
「家族に会いに行くってよ」
「あぁ、なるほど……」
用向きは純朴なものだった。
けれども、納得の裏で思う。
その"家族に会いに行く"と告げた人物がファインドフィートでなければ。
そして、相手が
「その割にはなんつーか……こう、シケた面構えだったけどな。
購入2日後のたい焼きよりもシケてやがるぜ~」
「……」
「なぁ、知ってっか?
たい焼きには養殖モノと天然モノの2つがあるんだぜ?
養殖モノはデケェ鉄板を二枚用意してな……両方の金型に生地を流し込んで、仕上げの時に二枚を合体させて──」
「そっかぁ」
つい昨日、シンボリルドルフから複雑な事情を聞いてしまったばかりだ。
それ故にどうしても──両手のひらから溢れてしまう程の罪悪感が滲み出す。
交通事故で、両親を失った少女の口から聞かされたと思うと、どうにも。
深く、暗く、インクが滲むよりもなお色濃い後味の悪さが、ひょっこりと顔を覗かせてしまうのだ。
「……けど、まだ
材料が足りてないんだ……」
しかし、どうやって推理の"材料"を獲得するのか。
どのように組み合わせ、真相を探り当てるのか。
正直な所、明確なビジョンが存在しているわけでもない。
当然ながらだからといって諦めるつもりなど微塵もないが──やはり、迷っている現状は否定できなかった。
苛立たしさが喉の奥にへばり付いて、中々静まってくれない。
これを無力感と即座に断定できてしまえる程の経験こそあれども、だからといってトウカイテイオーは
だから"誰が悪い"という話ではなく。
それに対して責任が発生する訳でもない。
ただ、世の中には正攻法では打つ手のない困難が存在しているだけなのだ。
だから、"誰かが悪い"という話ではない。 きっと、それだけは偽りのない真実の筈だった。
「……ま、それはさておき。
──そして、違えのない真実がそれしか無いというのなら、多少の力押しが必要である事も間違いない。
問題に直面した時、トウカイテイオーのように正攻法を突き進むだけが正解ではないのだ。
まったく別の迂回路を探したり、新しい選択肢を造り上げる方法だって存在する。
ゴールドシップは、後者を特に得意とする人種であった。
正道、何するものぞ。
多少強引だろうとも、正解までの近道を最高速度でぶち抜いてしまえば良い──などと、胸を張って語れてしまう。
破天荒娘の異名は伊達では無いのだ。
そんな彼女が懐から取り出したのは一般的なスマートフォン。
それに加えて握りこぶしとほぼ同じ大きさの長方形の機器が接続され、側面のLEDライトが緑色に点灯している。
トレセン学園の制服のどこに、一見して悟られもせずに収納できるスペースがあるのか。 堪えきれぬ疑問が湧いてしまう程には大振りな鉄の箱だ。
「……なにその、ゴツイ機械……」
「受信機」
「え、なんの!?」
「そりゃーおめぇ、仕込んだ盗聴器のヤツに決まってんだろ。DHA足りてるか?」
「一体いつの間に……」
「フィートのリュックに
なおも言い募るトウカイテイオーを適当に往なしつつ、細やかに首を振る。
まずは左を見る。人影はない。
次いで右を見る。人影はない。
前方を見る。トウカイテイオーがいる。
後方を見る。三女神の像がある。ゴールドシップ達を海の石像が見つめ返していた。
つまり今の彼女たちを観察している者は誰もいない。
もっとも、行動そのものを見られたところで何があるというわけでもないのだが。
二人並んでイヤホンを使用しているだけの姿から盗聴行為を即座に連想して見破るなんぞ、そうありえては堪らないが──可能性としては皆無という訳でもない。
例えば、トウカイテイオーの同室の少女、マヤノトップガンであれば、持ち前の勘の良さで見破るかもしれない。
例えば、機械技術に明るい、データの信奉者であるエアシャカールやアグネスタキオンといった面々ならそういった知識を保有していても不思議ではないだろう。
万が一、億が一。
いくら極小であろうとも、一という可能性は確かに存在している。
故に、警戒そのものはきっと正しいのだ。
……もっとも、この場に居る少女がゴールドシップという時点でその警戒も不要となるのだが。
彼女を見た者の反応は大半が彼女の
"ああ、また何かやってる"。"巻き込まれたくないから離れておこう"。"
彼女はそれほどに極まったレベルで
「よし、問題ねぇな」
「問題、無いのかなぁ……?」
そして、当然ながらトウカイテイオーにも彼女を糾弾するつもりはない。
なにせ他の誰でもないトウカイテイオーが協力を依頼したのだ。
ゴールドシップが想像以上に協力的だったのだから、感謝の念しか存在しない。
「よし、イヤホンだ」
「……けど、なんかこう……」
ウマ娘用のイヤホンを手渡されたトウカイテイオーも、本当に、何を口にすべきか迷ってしまった。
本当に、本当に。
"盗聴そのものは犯罪行為ではないから"などと理論武装を図ろうにも、あくまでも純粋で善良な性根を持つ彼女には限界がある。
限界はあったが、それはそれ。
……時には、些細なことには目を瞑るべき時もある。
世の中はそうして回っていくのだから、間違いではないのだ。
「……。
……ううん、今更だった。
じゃあお願いねゴルシ!」
「うわぁ……殊勝なテイオーって違和感しかねえな」
「なんで~!?」
そうこう言い合っている内にも準備を進めるゴールドシップの白い手は止まっていない。
機器の側面から突起するツマミをぐるぐると回し、電波の調整を丁寧に行っている様子だった。
……ただし、実際のところ仕込んだ盗聴器は衛星通信を行うものである。
そのため、よくドラマや映画にある"お約束"の周波数の調整などは不要だった。
あくまでも今回必要なのは盗聴器と衛星間の通信環境だ。
通信さえ確立出来たのなら、盗聴器が音声を勝手に拾って受信機を経由し、ゴールドシップの所有スマートフォンを通過して、イヤホンの口から明確な情報として採取できる。
ウマ娘の感覚器官を潜り抜けてバレずに仕込めるほどに小型で、そのように高性能な通信機器を何故彼女が所有しているのか──という疑問はあれど、そこは今更の話だ。
なぜなら、信頼に足る実績があるのだから。
「……ん、聞こえてきたな。 テイオー、目を閉じろ」
「うんそうだね、口を閉じるよ……」
──がたんごとん、がたんごとん。
沈黙に準じた彼女らの耳朶を最初に叩いたのは、電車が奏でる運行音だった。
がたんごとん、繰り返し、一定のリズムで跳ねていた。
仕込んだマイクは余程性能がいいらしいと、トウカイテイオーは思わず感嘆の声を上げてしまった。
リュックは膝の上に置いているのか、ファインドフィートの吐息の痕跡さえも微かに回収している。ノイズは皆無に等しい。
「移動中、なのかな。
アナウンスでも流れてくれたら行き先も判別付きそうだけど……」
「生憎GPSだの位置特定機能だのは付いてねぇからな。
……てか勢いで仕込んだは良いけどよ、こうまでして聞かなきゃいけないコトとかあんのか?」
「むしろ何も考えずに出来るんだ……」
広場の隅に身を寄せ合ってこそこそ二人で言葉をかわす。
時折幾人かのウマ娘が通り過ぎるが──二人組の片割れがゴールドシップと知れば一切の疑問なくそのまま通過して行った。
「──けど、そうだね……まずはなんでも良いんだ。
あの子の事を一つでも多く知りたい。
……それに最近は、特に独り言が多いみたいだから」
「ほぉん、そういうもんか」
それからもぽつぽつと断続的に二人の背後を人影が通り過ぎていく。
ぽつぽつと、淡々と。
通過した人影の数が二桁に到達し、日が中天に座した頃。
がたんごとん、と響く金属の音に混じり、僅かな異音が混入した。
それは、小さく軽い靴音だった。
つい最近まで自分達の足元から響いていたモノと同じそれが、ファインドフィートの直ぐ側から鳴っていた。
『ん……?』
『す、すみませんうちの娘が……!
こら、お姉さんの尻尾触らないの!』
『わ、さらさら~。 お姉ちゃんの尻尾手触りいいね! さすが三冠ウマ娘! あとサインください!』
『ちょ、ちょっと止めなさい……ほら、お姉さん困ってるでしょ!』
『いえ、大丈夫ですよ。
わたしは気にしていませんから』
「おぉ、人気だね~。
確かにフィートの尻尾綺麗だし、子供が気に入るのも無理はないかも」
「ゴルシちゃんの尻尾も負けてないんだが?」
「はいはい、綺麗だね」
穏やかだった。
何事もなく、無垢な時間が過ぎていく。
盗聴器越しに聞こえてくるのはファインドフィートと子供と、その親らしき女性の歓談ばかり。
勿論周囲に配慮したささやき声ではあれど、マイクは過不足無くしっかりと音声を届けてくれていた。
「……移動長いね。
フィートの家、何処なんだろ」
「さっき聞こえた駅名から予測した感じだと……ま、そこそこ遠そうだな、そこそこ」
途中で親子が降りて、別れの挨拶をかわした後も電車の音は鳴り止まなさい。
がたんごとん、がたんごとんと、淡々と変化なく響き続ける。
がたんごとん、がたんごとん。
聞き手であるトウカイテイオーも僅かながら眠気を覚えずには居られないほど、代わり映えがない。
──それから、如何程の時間が経過したのか。
広場の隅に鎮座し続けるトウカイテイオー達の元へエアグルーヴが襲来したり、会長であるシンボリルドルフが仲裁に来たりと複数のイベントを乗り越える事が出来るだけの時間であることは間違いなかった。
『ん……と、あぁ……降りないと』
「……やっとかぁ~」
「おうよ、結構長かったな。
ルービックキューブの全面が255回も揃っちまったぜ」
電車を降り、ホームを移動し、改札を通り抜ける。
靴音の質や反響具合、微かな雑踏の残滓。
それらの漂う雰囲気から行動経路を読み取り、細々とため息をついた。
ひとりぼっちの行軍の気配からは──流石に、"材料"となるものは一切汲み取ることは出来ない。
『──、──』
「お……?」
一滴の違和感である
こつこつ、こつこつ。響く靴音。
蹄鉄が仕込まれている故に硬質なそれに混ざって、ザリザリと無粋な雑音が己の存在を主張している。
ザリザリ、ザリザリと、不快感を煽って。
「……変だな。ノイズが多い」
「え、故障とか……?」
「分かんねぇけど多分そうだ。
くっそー、ゴルシちゃんの整備スキルを掻い潜るとはなぁ」
悔しがった所で鼓膜を引っ掻くノイズは変わらない。
……が、その隙間を縫い、どうにかこうにかファインドフィート由来の音を回収する。
機会越しの彼女は駅の外に出たようで、足音として反響するのは駅内のタイルを蹴る甲高いモノではなく──アスファルトを削る時の、仄かに深い靴音に変化していた。
……それから、一呼吸と半。
否、重ねてもう二呼吸だ。
徐々に徐々に、歩行のペースが早くなる。
蹴り飛ばす右と左の蹄鉄の音が入れ替わり、その間隔が少しずつ狭くなる。
少なくとも、長距離を踏破できるだけの速度で保たれている事は察せられた。
──そして、走行時間が続けば続くほど重なるノイズも強まっていく。
まるで、ファインドフィートが目的地に近づけば近付くほどに阻害されているようだ、と。
今日に至るまで真相を掴み損ねているトウカイテイオーにとっては……それは決して快いものではなく、半ば被害妄想地味た想像を掻き立てられてしまう。
しかしそんなの仕方が無いじゃあないか、と臍を噛んだ。
何でもいい、ほんの一欠片でもヒントが欲しい。
ただそれだけなのに、何故、こんなにも上手くいかないのか。
そうしてうなじを疼かせる焦燥も──嵐の如きノイズが、いっそ無慈悲に掻き消す。
イヤホンの向こうにある疾走する靴音も、少女の吐息も、ひゅうひゅうと風を切る音さえも、尽くが呑み込まれていって。
ついには、ざぁざぁという土砂降りの雨模様に染まってしまった。
「……ここまで、かなぁ」
「仕方ねえな、アタシとしてもかなり冴えた考えだと思ってたんだが……アテが外れちまった」
「ううん……それでもありがと。
ボクだけじゃこんなの出来なかったし」
「ま、次こそはもっと良い作品を──っと、ちょっとまて」
「え、どうし──」
──ふと、ノイズが途切れ始める。
ザリザリと流れる嵐の雑音がなりを潜め、繰り返される情報の回復と損失。
音の乱れが遮断され、音の連続性が復旧し、また乱雑に切り落とされ、反響する壊れかけた不協和音。
回復。破損。復調。失調。
思わず、固唾を飲んで沈黙を守るトウカイテイオーの耳に──幽かな、少女の声音が届き始めた。
ノイズの塗れた声であれど、たしかに情報として意味を解せる言葉として。
『────。 ──、──―。
──ぁれ、どこに行ったのですか。
普段なら、もう──に居るはずなのに』
誰に向けた言葉なのか。
特定できるキーワードでも含まれていれば判明したのだろう。
が、残念ながらそう都合良く事は運ばない。
故にトウカイテイオーが汲み取れたのは、声に籠もった感情の質感のみだ。
それは戸惑いではなく、疑念でもない。怯懦に近く、怒りとは最も程遠い。
ただ、ただ、純粋無垢に染みる、無色の嘆きだった。
『……違う、違──、違う。居ないわけない。一緒にいる。
もし──だとしても、もし──いたとしても、ずっと一緒にいるはずなんです』
紡がれるそれは断続し、自己暗示のように一方通行だった。
何度も何度も、見えもしない誰かを望む呼び掛けが虚しく響くばかりだ。
その意味の裏を求め、言葉の意味を脳髄が咀嚼し──。
トウカイテイオーが疑問を抱くよりも先に。
『ぁあ』
ぽつり、と。
心底からの安堵で湿ったささやきが。
ひとりきりの筈の、ファインドフィートの口腔から滑り落ちていた。
『ああ──なんだ。
ずっとそこに、わたしの──に、そばに居てくれたのですね』
"姉さん"。
──ぶつり。
そこを終点として音声が途絶えた。
ノイズが消滅した。環境音も何も聞こえない。
蹄鉄の音も風の声も何もかも、一切合切が。
……つまり、盗聴器の完全な沈黙を意味する。
けれど──トウカイテイオーは、そのような些事を気にするどころではなかった。
脳内に満ちる疑問が彼女の沈黙を許さない。
唐突に、都合よく、彼女の口から齎された情報。
それはどう受け取っても、しこりよりも大きな疑念が残るモノだった。
「……ちょっと待って、待ってよ……。
ファインドフィートの家族構成はトウカイテイオーも知っていた。
あまり褒められた手段ではないが──間違いなく、その情報の確実性は担保されている。
戸籍上には母と父。
そして子が一人、ファインドフィート自身との三人家族構成である。
何の変哲もない構成だ。 両親が共に鬼籍に入っている以外は、という注釈が必要なのだが。
……だとするなら、姉に相当する知り合いだろうか。
用済みとなったイヤホンを耳から抜き取り、思慮に耽る。
「……ううん、それにしても不自然だ」
ただ、その事実を肯定するには疑問が残るのだ。
まずひとつ。
ファインドフィートの靴音から判断するに、それなり以上の速度が出ている筈だった。
そしてそれは、たった
……そう、
つまり、在るのは一人分の靴音だけの筈なのだ。
もしかするとノイズの影響でたまたま聞き取れていないだけなのかもしれないが──真相は不明だ。
そして、ふたつ。
そばに居る、併走しているらしい『姉』という存在。
それは、一体誰だ?
肉親という可能性は非常に低い。隠し子とでも言われてしまえばそれまでだ。
……ひとまずは捨て置く。
では肉親的な意味ではなく、概念的な意味ではどうか。
十分に仲が良ければ……あるいは、『姉』と慕うほどになるかもしれない。
しかし、普段から。ずっと一緒にいる、となれば事情が変わる。
まず、そうと表すならこのトレセン学園にも在籍している人物に違いないだろう。
何故ならファインドフィートの日常の殆どは学業かトレーニングが占める。
それら以外ではミホノブルボンとトウカイテイオー等の友人達と共に過ごす程度で、それが全てに等しい。
……そうと理解した上で思案する。
果たして、『姉』に該当する人物はトレセン学園に存在するのか。
あいにくとトウカイテイオーには見当がつかなかった。
概念的にも、物理的にも。
『姉』という人物は、何処に入り込む余地があったのか。
いったい、何処に存在出来たのだろうか。
諦めないことは美しい。
不屈の心は輝かしい。
そして、彼女はそれを体現した。
その走る後ろ姿が多くの人々の目を惹き、魅了し、歴史を彩る一欠片となった。
だからこそある意味では、ファインドフィートの目指す先でもあるのだ。
何度砕けても。何度挫けても。
何度でもまた、立ち上がれるように──。