【本編完結】心臓継承ウマ娘   作:豚ゴリラ

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5話

"ファインドフィートちゃんはかわいいわね……"

 

"わかる~"

 

遥かな上の世界で女神様が二柱、やさしげに微笑んでいます。

 

視線の先には『家族愛』の結実たるウマ娘。

不撓不屈の(絶対に折れない)精神で夢を継いだ、やさしい子です。

 

"応援しないといけないわね……。

……この子にはどんな『加護』が良いのかしら"

 

"迷いますよね~!"

 

"ええ……!

けれどね、だからこそ導き甲斐があるってものよ!"

 

"その通りです!さあ、『王冠』も一緒にうちわを振りましょう!さあ!"

 

ふりふり、ふりふり。

女神様達はずっと応援していますよ。"しあわせ"になって欲しいですからね!

 

 


 

 

 

 7月初頭。

 

 一週間を終えた週末の放課後──夕暮れに染まる空。

 数多くのウマ娘が勉学から解放され、各々トレーニングに勤しむ時間帯である。

 

 もちろん皆が皆トレーニング漬けという訳ではない。

 一切休まずに筋繊維を傷付ければ回復が追いつく筈が無いからだ。それは俗にオーバートレーニング症候群と呼ばれるものである。

 その上繊細な精神バランスを崩す要因にも成ってしまうのだから、適切な休養は非常に重要なもの。

 

 何よりも彼女等だって年頃の少女だ。

 だから放課後は仲の良い友人達と身を寄せ合い、憩いの時を過ごすというのも大切な事である。

 

「と、いうわけで~」

 

 そんなトウカイテイオーの声が響いたのはおなじみのカフェテリア──

 

 ──では、なく。

 

 ミホノブルボンがマスターと呼ぶトレーナー名義で用意された一室である。

 基本的に担当ウマ娘に甘いマスターは、珍しく自身から頼み事をして来た彼女の為にこの場を拵えてくれた。

 その上、利用用途も「後輩のためのお祝いをしたい」なんていじらしいもの。

 そんな風に言われてしまえば断れる筈もない。当然、元々断る気は無かったが。

 

「それでは〜、このワガハイが音頭をとろうぞよ〜」

 

()()()()()()トウカイテイオーの声に呼応して、ミホノブルボンもマグカップを掲げた。中身は『BCAA(サプリメント)配合紅茶』。メジロマックイーン協賛の品である。

 それに合わせたファインドフィートも仕方なさそうに──本当に仕方なさそうに、右手のはちみーを突き上げた。

 

「よし!開宴だー!

 フィート、デビューおめでと〜!」

 

「おめでとうございます、フィートさん」

 

「……ありがとうございます」

 

 カツンとカップが打ち合わされ、黄金と黄金と茶色の液体がとぷりと揺れた。

 ファインドフィートは無表情のままはちみーを啜る。"じゅこじゅこじゅこじゅこ"、ゴキゲンな音である。

 

「まっ、あんまり心配はしてなかったけどね!

 ボクほどじゃないけどセンスあるし!」

 

「日々の肉体情報を測定、演算した結果、フィートさんの勝率は92%だと予想していました。

 つまり、信じていたということです」

 

「……そうですか」

 

「あっ、照れてる~!」

 

「照れてませんが」

 

「ふ~ん……?」

 

 トウカイテイオーの視線の先で揺れる白の挙動は"ぶんぶん"であった。ファインドフィートはそれに気付いているのかいないのか──。

 

 ──ほっこりとした心境のまま、再度はちみーを啜る。舌でゆっくり味わえば先程よりも甘い気がした。

 

「しかし、ブルボン先輩のトレーナー……崎川トレーナーでしたか。

 あの人には手間を取らせてしまいましたね……」

 

「あ~、"後は若者同士仲良くしていなさい"って出て行っちゃったね。

 折角なんだし、交ざっちゃえばいいのに」

 

「マスターはやる事があると仰っていました。

 むしろ"丁度良かった"との事です」

 

「はあ、そうなんですか……?」

 

 何が丁度良かったのか──ミホノブルボンも理由は知らない。

 つい昨日会話をした限りでは何かの用事があるという話も無かった……はずである。たぶん。きっと。

 

(……。

 …………25時間前のログを再生。確認します)

 

 

 

 ──昨日の同座標。このトレーナー室で、ミホノブルボンと彼女の専属トレーナーが机を挟んでソファーに座っていた。

 トレーナーの名前は崎川。長い黒髪をうなじで纏めた凛々しい女性。"キャリアウーマン"とでも形容すべきだろうか。

 20代半ばという若さでありながらこの中央トレーナーライセンスを取得し、初めて担当したミホノブルボンを二冠ウマ娘まで導いた秀才。

 

 つまりは、ここトレセン学園が誇る至宝の一つである。

 

 この時のミホノブルボンは、崎川トレーナーに対してこのトレーナー室の借用を依頼(お願い)していた。

 とはいえこれに交渉などと云った要素は介在せず──崎川トレーナーは基本的にミホノブルボンに甘く、理由も理由なのであっさりと頷く。これに関してはトレーナー職の(サガ)かもしれない。

 

 ──そこで、崎川トレーナーがそう言えばと口を開いた。

 首をかしげるミホノブルボンに若干の笑顔をこらえて。

 

『ねえ、ブルボン。

 ファインドフィートってどんな子なの?』

 

『……どんな子、とは?』

 

『ああ、ごめんなさい。

 彼女と直接話をしたわけじゃ無いんだけど……噂を聞く限りブルボンみたいな子らしいから、ちょ~っと気になって』

 

『なるほど……』

 

『これまでにあったことを教えてほしいな』

 

 つまりはアピールタイムですね──ミホノブルボンはそう解釈した。

 

 発展途上の対人機能を限界まで駆使し、世話のかかる己の後輩の事を語る。

 ピコピコと主張する耳が彼女の意気込みを物語っていた。

 

 曰く、人見知り。

 曰く、冷淡。

 曰く、トレーニングガチ勢。

 曰く、なつくと無防備になる。

 曰く、耳と尻尾に感情が出る。

 

『……なるほど、ね』

 

 ミホノブルボンの頭頂部を眺めながら、崎川トレーナーはしみじみと呟いた。

 

 崎川トレーナーが想起したのは実家の柴犬──"ポチ"の事。目の前の耳とポチの耳を重ね合わせ、思いを馳せた。

 

 "ポチ"。彼女はとんでもなく純粋な子であった。

 おやつ消失マジックをすると暫く『……?』という顔で茫然自失とし、くるくると身の回りを捜索する。

 それでも見つからなければ崎川トレーナーを見つめる。

 とても行儀がよく、非常に従順で天然な子。アホとも言う。

 

 ……彼女はやはり、ミホノブルボンとまったく瓜二つかもしれない。無意識のままミホノブルボンの頭を撫でくりまわし、大いに頷いた。

 

 ──ミホノブルボンとしてはマスターが嬉しそうならばそれでいい。

 なのでそのまま説明を続行した。"そういうところだよ"とはトウカイテイオーの弁である。

 

『確かに、フィートさんは人見知りです。

 初対面の時もそうでしたが、まずは距離を置くことから始めるようです。

 対人機能は平均的なウマ娘と比較すると42%ものメソッドが欠如しています』

 

『うんうん』

 

『ですが、一度テリトリーに踏み込み、しばらくは嫌がられない距離感を維持すると──相手に"慣れて"、少しずつコミュニケーションを取ってくれるようになるのです』

 

『そっかー』

 

 ふと、ポチの弟としてやってきた"ハナコ"の事を思い出す。

 

 彼は白い毛並みの柴犬だった。

 たしか──最初のころは本当にツれない対応で、すごく悲しかった思い出がある。

 当時小学生だった崎川はとても寂しくて寂しくて、むしろ逆にじゃれつきかかるぐらいの対応で絡みに行ったものだ。すると彼は、凄く仕方なさそうに……正しくは呆れたように相手をしてくれた。

 

 ……これではどちらが犬だか分からないな。

 今更ながらに申し訳なくなった。ごめんよハナコ。

 

『トレーニングには驚く程に熱心です。

 来る日も来る日も丹念に──立ち上がれなくなるまでトレーニングを積んでいます。

 特に最近では歩行補助具を用意しなければならない程です』

 

『なるほど、ね……。

 たしかに、所々でブルボンに似てるわね』

 

 つまり両方とも柴犬だった。

 

 崎川トレーナーは実家の犬小屋を想いながら大きく頷く。

 柴犬は特にツンデレとデレデレの個体差が激しい犬種である──経験談を基にした持論だ。

 

 ファインドフィートはというと……その人見知りでクールな対応はオーソドックスな柴犬に近いだろう。

 人見知りで、馴れ合うまで時間が掛かり、警戒心が強い。

 つまりハナコだ。ファインドフィートはハナコだった。

 

『くっ……私も彼女をスカウトしたかったわ……!

 

 ──いえ、当然ブルボンが嫌という話じゃないの!

 ただね、このトレーナー業に癒やしを増やしたかったのよ……!!』

 

『……?』

 

『あっポチ……んんっ!んーっ!!

 ……ごめんなさいね、ついストレスが』

 

『……コーヒーを淹れましょう。

 マスターの好みは解析済みですのでご安心ください』

 

 ────。

 ──。

 

 

 ──湯気の立ち上るコーヒーを一息分飲み込み、代わりに湿った呼気を吐き出した。

 

 同時に襲いかかる気の緩みと共に、カチャリと音を立てたのは白磁のカップ。久々の出番でご機嫌そうに輝いている。

 

 ……これはミホノブルボンと商店街へおでかけした際に購入したものだったか。白を基調とし、所々に金の装飾をなされた上品な一品。

 指でくるくると回せば、味や嗅覚だけでなく手触りと視覚を以て楽しませてくれた。

 

『これ、とても美味しいわね……キリマンジャロかしら?』

 

『いいえ、これは"コナ"と呼ばれるハワイ島原産のコーヒー豆になります。

 世界3大コーヒーのひとつで、世界中のコーヒー総生産量の0.1%以下しかありません。

 特徴的な酸味故に"酸味の女王"とも呼ばれ親しまれています』

 

『あ、あら。そうなのね……』

 

 "マンハッタンカフェさんに教えていただきました"と語り、大きく胸を張った。

 彼女の成長にほっこりと和みながら啜るコーヒ──―それは尚更、とても美味しいものである。

 

 ひとしきり風味と深みを味わい、湯気に湿らせた唇を引き締めた。

 

『……ねぇ、ブルボン。

 もう一つだけ聞いていいかな?』

 

『はい、マスター』

 

『トレーニングの後……辛そうな顔をしていたりとか、悩んでいたりとか……そんな事無かった?』

 

『……私が記録している限り、そのような事はありません』

 

『そう』

 

 ふと、瞳に憂慮の昏さが籠もった。

 人差し指を顎に引っ掛け、どこか遠くを見つめているよう。ミホノブルボンは彼女の邪魔をしないよう、微動だにせず口を閉ざした。

 

 ──それから数秒。あるいは数分か。

 

 そこでひとしきり思考の整理を終えたらしい。まだ半分ほど残っているコーヒーの酸味を以て意識を現実に定着させ、唇をぺろりと舐める。

 

『……ファインドフィートの専属は"葛城トレーナー"、だったよね?』

 

『はい、その通りです』

 

『そうよねぇ。

()()()()()()()()()、か……』

 

 ──()()、とは。一体何を指し示すモノだったのだろうか。

 もしかするとあれがヒントだったのか。

 

 ログの再生を終えたサイボーグはほんの僅かに思慮を深めた。

 ……とはいえ今はファインドフィートのお祝い中。もう一度手元のカップを口元に運び、疑念ごと呑み干す。

 

BCAA(サプリメント)配合紅茶』のベースはダージリン。ブレンドに適した紅茶としても高名である。

 そこにメーカーの努力もあるのだろう、殊更舌を苛む苦味も無くするりと喉を通り抜けた。

 "彼女の行末(ゆくすえ)もこれぐらいスムーズに進めばよいのですが"と、声音にならない程にか細い残響で語る。

 

 ──まあ、なんにせよ問題は無いはずだ。

 このトレセン学園にいる時点で、あらゆる人材の倫理観が"最低限"担保されているからだ。

 間違いなく悪影響を及ぼすことなど無いはず。

 

 故に今考えるべきは──ファインドフィートのお祝いだけである。

 手元のカップをもう一度呷る。やはり苦味はなかった。

 

「でね!エアグルーヴったらひどいんだよ!

 ボクがすっご~い謝ったのに、はちみーを取り上げるんだから!」

 

「……やはり、女帝は恐ろしい存在ですね……」

 

「フィートも気を付けてね!」

 

「ログを確認。

 ……フィートさんは授業態度に難ありだという記録がありました。"もしも"に備えて講師の方の話を真面目に聞くことを推奨します」

 

「もしかしたら初手で説教されちゃうかもね~」

 

「なんと……!」

 

 "それはともかくとしても、"ぽけ~"っと虚空を眺める癖をどうにかしたほうが良いのではないでしょうか?"とはミホノブルボンの弁。

 自分自身の挙動(賢さGっぽい顔)を棚上げにして、ファインドフィートに愛のムチを贈りつける。

 ……もはや愛の無知ではなかろうか?ファインドフィートは訝しんだ。

 

 "つまり、こういう(賢さGっぽい)顔です"、"普段のブルボン先輩の顔では?こういうの(賢さGっぽい)です"、"それはフィートさんの顔です。ログにもそう記録されています"、"メガンテ(自爆魔法)ですか?"──と、交わされるのは見苦しい──あるいは、珍しく活発なじゃれ合いだった。

 

 それを第三者の視点で眺めるのはトウカイテイオー。

 これが多頭飼いの実情かぁと眺めるさまは、動物園のベンチで(くつろ)ぐ観光客のソレであった。

 

「じゅこここ……」

 

 ──ああ。今日もはちみーがおいしい。

 窓の外で吹く涼やかな風のように、澄んだ気持ちで笑顔を零す。

 

「私の『賢さ』ステータスはランク形式で測定した場合、Dランクに相当します。

つまり、賢いです」

 

「わたしも賢いのですが。すっごく賢いのですが」

 

「本当に賢い人はそんな事言わないんじゃないの?」

 

 ああ、平和だ。

 

 

 

 □

 

 

 

 

 日が落ち、月と入れ替わり、また日が昇った土曜日の朝。

 今日のファインドフィートは予定上完全な休養日となっていた。先日に痛めつけた筋繊維の回復が終わっていないので、明日になるまでトレーニングは厳禁だ。

 

 しかしそれ故に暇になってしまった。

 だから珍しく──本当に珍しく、学園内の散策に勤しみ始めたのである。

 

 他にできることが無い訳では無い。

 ファインドフィートの個人的な趣味といえば、甘いものを食べるかシンボリルドルフの洒落を楽しむか──あとはロボットアニメを見るぐらいのもの。

 

 しかし甘いものを食べようにも今日は許可されていない日だし、シンボリルドルフダジャレ集は最新版まで見終えている。

 ロボットアニメに関しては──ミホノブルボンがうっかりテレビを直接触って(破壊して)しまった。つまり、不可能。

 

 心情を汲み取った耳がほんのちょっぴり横へ伏せられる。青い耳飾りがカチャカチャと、所在なさげに揺れた。

 

 ──だから仕方なく、学園の内部をテクテクと散歩していた。

 

 ファインドフィートが入学しておよそ三ヶ月。

 教室、トレーニング、寮、はちみー以外での外出は"初めて"だ。

 

 元々の気性として『姉』とは違い活発的とは言えないのがファインドフィート。それは今も変わっていなかったが──こうして風に吹かれるのは、意外と悪い気分ではない。

 

 さらさらと揺れる前髪がこそばゆくはある。だがそれさえも、不思議と心地よかった。

 

「…………おや」

 

 ふと、足を止める。青ざめた視線はあらぬ方向へ向けられていた。

 綺麗に清掃されている通路端。

 

 そこに転がっていた"異物"が無機質な瞳を惹いて止まなかったのだ。

 好奇心を刺激されたファインドフィートは視線の先へと進路を変更し、足を進めた。突発的な予定変更も散歩の醍醐味である。

 

 てくてく、てくてく。

 ──遠目には細部が見えなかった"それ"も、近付くにつれて詳細な容貌を顕にしていった。

 

「これは……!」

 

 "木の棒"である。

 

 ガサガサとした茶色の表皮と、所々で節くれ立った物体。

()()()()の太さの持ち手があり、程よく歪曲しながらも()()()()にまっすぐ伸びた木の枝。

 そして長さは70cm程度とやや長い。これはファインドフィートの尻尾と同程度の長さであった。

 

「──これは稀に道端に落ちているという、()()()()()()()()()()()……!!」

 

 ──なんかいい感じの木の棒。なんかいい感じの石。なんかいい感じの葉っぱ。

 それら小学生の三種の神器の一角がファインドフィートの目の前にあった。

 

 おずおずと手に取り、ギュッと握りしめる。

 握り心地もそこはかとなくよい感じで、天下一品のツルギを手に入れた気分だった。

 思いがけない出会いに過去最大級に尻尾が振るわれる。ぶんぶんである。

 心なしか無機質な目も輝きを帯びており、気分はさしずめ聖剣を手に入れたアーサー王と云ったところだろうか。

 

「……よし、こいつの名前はバルムンクにしましょう」

 

 天に掲げる。

 ピンと立つ木の棒は過大に過ぎる名前を授けられ、無駄に堂々と存在を主張していた。賢さG。

 

「いや、そうはならないだろう……」

 

「──!?」

 

 ──とっさに振り返る。

 数メートル後方で見覚えのあるウマ娘が額を押さえながら苦笑していた。

 

 黒い短髪と、大人びた容姿。

 アイシャドウが特徴的な彼女の名は──基本的にボッチであるファインドフィートでさえも知っていた。

 

「エアグルーヴ副会長……!」

 

「……ああ、おはよう。

 別にとって食おうという訳じゃないんだ。そう警戒するな」

 

「………ハイ」

 

 先程までの元気はどこへやら。

 へなへなと萎びる尻尾に比例するように、バルムンクもカサカサに枯れ果ててしまったようである。無論元から枯れ枝だが。

 

「……副会長は何故こちらに?」

 

「折角のいい天気だからな、花壇の見回り中だ」

 

 エアグルーヴは右手に携えたじょうろをとぷりと揺らす。

 透けて見える日光の揺らめきからして、中身の水はまだまだたっぷり入っているようだった。

 

 左手の紙袋には──おそらく手入れ用の品が入っているのだろうか。

 ファインドフィートにはよく分からない分野だが、パンパンに膨れた紙袋はエアグルーヴの情熱をそのまま表している。

 

(それにしても──)

 

 ファインドフィートが事前に想像していたよりは──随分と穏やかで、大人びた少女であった。

 トウカイテイオーから()()()聞いていた話の内容からして修羅のようなウマ娘だと想像していたのに。

 

 脳内で好き勝手に妄想し、恐怖の対象として扱っていた事を素直に申し訳なく思う。

 ファインドフィートの口から"自発的に"謝罪の言葉を吐き出すには、()()()()()()()()レベルが足りないけれど。

 

 ──ちなみに、直前までのエアグルーヴは説教モードだった。

 ファインドフィートが棒切れを嬉しそうに握っている姿を見て、"水をさすのも可愛そうだな"と毒気を抜かれただけである。

 つまり、説教はまたの機会に持ち越しになっただけ。

 

「それで、お前は何を?」

 

「……?」

 

「……いや、散策中というのは分かる。

 しかしその棒は何なのだ?」

 

「なんかいい感じの棒です。先程ここで拾いました」

 

「ああ、なるほど……?

 

 ……いや待て、どういう事だ。

 何故それを拾った?何を以てして"いい感じ"なんだ……?」

 

「このあたりが……こう、こんなので、こんな感じなのがいい感じの棒です」

 

「……。

 ……そうか。そうか……」

 

 早々に思考を破棄した。

 

 真夏の少年のような趣向の少女に呆れの視線を放る。

 エアグルーヴにとってはよく理解できない世界の話だが──まあ、楽しそうに揺れる尻尾からしてリラックスしているらしい。ならばそれでいいだろうと納得しておく。

 

「そうです。

 ここに来てからは初めての散策でしたが、やはり良いものですね。

 道端や公園の中、何処にでも出会いとはあるものです。この相棒のように」

 

「なるほど。

 まあ確かに……"出会い"という意味では同意しよう」

 

 事実、そういった出会いを経て人生経験を積んでいくことも珍しくない。

 それこそ優れたトレーナーであればその中から育成のヒントを見つけ出すとも言う。その重要度は推して知るべしだ。

 

 ならばこの出会いもよい物だったのだろうか。

 ぐいぐい来ないタイプのウマ娘なのできっとそうだ。不思議と口を開きやすい気もする。

 それに、エアグルーヴ(花に詳しい人物)に聞きたいこともあったので都合が良かった。

 

「……副会長。

 副会長は、お花に詳しいのですよね?」

 

「ん?

 ああ、その通りだ」

 

「……でしたら一つ、お聞きしたいことがあります」

 

 心の中のミホノブルボンが"自分から話し掛けられてえらいですね"と胸を張った。

 この後方姉面先輩は一体何者なのだろうか。素直に恐怖である。

 

「あの……」

 

「ああ」

 

「……その、とあるヒトに感謝を伝えるために……。

 花を、贈りたいと思っているのです。

 ……何が良いでしょう」

 

 色々と言葉足らずな"お願い"ではあるが、元来面倒見が良い女帝だ。

 左上に寄せられた瞳が思慮の海に沈んでいく。

 緊張のあまり、ファインドフィートの毛並み(尻尾)がうまだっち。返答を待つ時間で居心地が悪くなるのはコミュ障の宿命である。

 

「……ふむ。

 ご母堂が相手なら赤いカーネーションが一般的だが……その口ぶりから察するに、違う相手のようだな」

 

「……はい。双子の姉妹へ。

 ホープフルステークスの後に、渡そうかと」

 

「ならピンクのバラやガーベラあたりが有名所だろう。

 ハズレということがまず無い」

 

 ピンクのバラ、ガーベラ。花言葉はどちらとも"感謝"を表す。

 プレゼントとして不動の人気を有する花束界のトップフラワーだ。

 

「……あとは、そうだな。

 誕生日はいつだ?」

 

「11月22日です」

 

「であれば………"アングレカム"も良いかもしれない。

 誕生花でもあるし、プレゼントとしても人気がある」

 

「……なるほど」

 

「ああ、少し待て。外観を見せてやる」

 

 一度じょうろを地面に置き、懐からスマートフォンを取り出す。

 ファインドフィートが申し訳無さそうに(無表情のまま)頭を下げると、気にするなと肩を竦めた。

 

 これがエアグルーヴ──圧倒的な先輩力の持ち主だった。

 入学式の時に睨まれていたことだったりトウカイテイオーの噂話だったりで、勝手な想像で苦手意識を抱いていたことを素直に恥ずかしく思う。

 

「ほら、これだ。花言葉は……このページだな」

 

 ずずいと顔に寄せられた液晶に白い花が写っていた。

 静謐な雰囲気の花びらで、ささやかな美しさが健気に主張していた。

 11月から4月にかけて咲くらしい。

 

 花言葉は──。

 

「……なるほど、ありがとうございます。

 とても……とても助かりました」

 

 ぺこりとお辞儀を一つ。

 

 "普段からこのぐらい素直であれば良いものを"──エアグルーヴのため息には正当性しか無い。

 ファインドフィートとてそれ自体は()()理解している。改めようとは思っていない。

 

 トウカイテイオーが見れば"そういうところなんだよね~"と呆れ返るだろうか。しかしこれも仕方のないことなのだ。……彼女にとっては、だが。

 

「まあ、役に立ったのなら良い。

 ……だがな。恩に思うのなら授業態度を正してくれ」

 

「……………………。

 ……善処します。多分、きっと……」

 

 ちらりと虚空を泳いだ目線に、どう信頼を置けば良いのか。

 ため息がもう一つ、夏の空に溶けていった。

 

 

 

 

 

 

 




ファインドフィート
『弟』。最近デビューした新進気鋭のウマ娘。
少年心を忘れていない。

バルムンク
持ち帰った。しかしいつの間にかどこかに消えてた。

エアグルーヴ
先輩力強者。
実はパーフェクトコミュニケーション判定だった女帝。

崎川トレーナー
若き天才。ミホノブルボンの専属トレーナー。
ミホノブルボンを猫可愛がりしてるキャリアウーマン。
実はファインドフィートも狙ってた。
犬派。

ポチとハナコ
子供が生まれたら、犬を飼いなさい。
子供が赤ん坊の時は、子供の良き守り手となるでしょう。
子供が幼い時は、子供の良き遊び相手となるでしょう。
子供が少年期の時は、子供の良き理解者となるでしょう。
そして子供が青年になった時、犬は自らの死をもって子供に命の尊さを教えるでしょう。


アングレカムの花言葉
"祈り"。
あるいは、"いつまでもあなたと一緒"。

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