転生したメイドですが、大切なお嬢様の様子がちょっとおかしい   作:春川レイ

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ひとりぼっちの2人

 

 

「レベッカ、今日はどうしたの?キッチンに来るのが遅かったみたいだけど……」

 

キャリーに話しかけられて、レベッカは顔をひきつらせながら声を出した。

 

「あ、ちょっと寝坊しちゃって……」

 

誤魔化すように笑って、朝食のトレイを手に取った。

 

「それじゃ、私、これを運んできますね!」

 

早口でそう言いながら、逃げるようにキッチンを飛び出す。

 

キャリーが不思議そうな顔でそれを見送った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「お、お嬢様、お食事をお持ちしました」

 

扉横のテーブルにウェンディの朝食を起き、ノックしながら声をかける。そのまま逃げようと思ったのに、すぐにウェンディの声が聞こえた。

 

「――はいって」

 

レベッカの顔が強ばった。そして、諦めたように小さく息を吐き、扉を開けた。

 

「失礼します」

 

部屋の中では、ウェンディがベッドの上に座り、こちらを見ていた。

 

「おはよう、ベッカ」

 

その声が少し固くて、思わず目をそらしそうになる。

 

「……おはよう、ございます」

 

挨拶を返し、レベッカはそのまま深く頭を下げた。

 

「あの、お嬢様、昨夜は申し訳ありません、でした」

 

「……」

 

「……図々しくも、お嬢様のベッドで、眠ってしまい、本当に申し訳ありま――」

 

「それはいいの」

 

ウェンディがレベッカの言葉を遮るように声を出す。レベッカは戸惑いながら顔を上げた。

 

「お、怒っていらっしゃらないんですか……?」

 

「うん。わたくしがおきたとき、ベッカがとなりにいなかったのは、ちょっとざんねんだった」

 

「そ、そうですか」

 

ウェンディの言葉にどう答えればいいのか分からず、再び頭を下げて口を開いた。

 

「あの、本当に申し訳ありませんでした。二度とこのようなことはしないよう気を付けますので……」

 

「……いいわよ、しても」

 

「はい?」

 

ウェンディの言葉の意味が分からず、思わず頭を上げた。困惑しながら、声を出す。

 

「えーと、……え?」

 

「ベッカとぎゅってしたら、あったかいし、きもちいいから。だから、またいっしょにねても、よくてよ」

 

「……え?」

 

「それに、ね」

 

ウェンディがベッドから降りて、レベッカの方へ近づいてきた。悪戯っぽい笑みを浮かべて、レベッカのエプロンを握る。そして楽しそうな表情を浮かべ、口を開いた。

 

「ベッカのねがお、とても、かわいかった」

 

「……」

 

言葉に詰まって、なぜか顔が熱くなるのを感じた。ウェンディは今度は真剣な顔でレベッカを見上げ、言葉を重ねた。

 

「でも、わたくしいがいには、みせてはダメよ」

 

「……はい」

 

思わずそう答えると、ウェンディは満足そうに笑った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その日の昼間、庭で洗濯物を干しながら、ウェンディに言われたことを繰り返し思い出していた。

 

『とても、かわいかった』

 

微笑みながら言われた言葉が脳裏で響く。ウェンディにかわいいと言われた時、なんだかフワフワして、くすぐったくなるような、不思議な感覚がした。

 

でも、もう絶対にお嬢様の部屋で寝ないように気をつけよう、と考えながら、洗濯物を干し終わり、大きくため息をつく。次はキッチンの仕事だ。

 

屋敷へと戻り、まっすぐキッチンへ向かう。その途中で、顔見知りの数人のメイドとすれ違った。普段通り、軽く頭を下げる。

 

「お疲れ様です」

 

レベッカがそう挨拶をすると、メイド達はあからさまにレベッカを無視し、足早にどこかへと行ってしまった。レベッカはその様子に戸惑ってそちらへ視線を向ける。メイド達は何かひそひそと話していた。

 

なんだか、とても嫌な雰囲気だった。

 

「それ、嫉妬ね」

 

キッチンで、キャリーにその事を話すと、即座に簡潔な答えが返ってきて驚く。

 

「嫉妬?」

 

「レベッカ、最近クリストファー様と仲良くなったでしょ?メイド達はそれが気に入らないのよ」

 

その言葉に驚いて口を開く。

 

「クリストファー様とはちょっとお話して、お嬢様と3人で食事しただけですよ!」

 

「だから、それが羨ましいんじゃないの?クリストファー様って、使用人にすごく人気があるけど……専属の執事以外は、あまり人を寄せ付けないらしいし。気軽に話せるあなたが妬ましいのよ」

 

「えぇ…?何ですか、それ…?」

 

呆然と呟くと、キャリーが顔をしかめながら言葉を続けた。

 

「気を付けてね、レベッカ。嫌がらせとかされるかもしれないから」

 

「い、嫌がらせをされるんですか!?」

 

「分からないけど……、クリストファー様に本気で惚れてる子達ならやりかねないかも……」

 

その言葉に、思わず頭を抱えて呻いた。

 

「クリストファー様とは本当に何でもないのに……」

 

キャリーも困ったように首をかしげた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

夜、呼び鈴がなったため、レベッカは素早くミルクの準備をしてウェンディの部屋へと向かった。

 

「失礼いたします」

 

ウェンディはベッドの上に座り、静かにレベッカを待っていた。

 

「ベッカ、ミルク」

 

「はい。少々お待ちくださいね」

 

いつも通り、ホットミルクの準備をする。ミルクを温め、蜂蜜の瓶の蓋を開けるレベッカの姿を見つめながら、ウェンディは首をかしげた。

 

「ベッカ、きょう、げんきない?」

 

「えっ」

 

ウェンディの言葉に思わずミルクを入れる手が止まりそうになった。

 

「お嬢様、どうしてそう思うんですか?」

 

「うぅーん、なんとなく……なんか、くらいようなきがしたから……」

 

その答えに苦笑し、出来上がったホットミルクをウェンディに差し出しながら答えた。

 

「何でもありませんよ。気にしないでください」

 

あなたのお兄様が原因です、とは口が裂けても言えない。ウェンディはホットミルクを飲みながらも、まだこちらを心配そうに見つめてきた。

 

「だいじょうぶ?」

 

「はい」

 

安心させるように笑顔を作ると、ウェンディがホッとしたような顔をする。その顔を見つめながら、レベッカは口を開いた。

 

「お嬢様、それでは、私はこれで――」

 

「まって」

 

部屋から出ていこうとしたその時、ウェンディが声をあげた。ベッドをポンポンと軽く叩き、上目遣いをする。

 

「ベッカ、いっしょに、ねよ」

 

その言葉にレベッカの全身が固まった。すぐに首を横に振る。

 

「――いえ、それは……」

 

「ベッカといっしょがいい」

 

「……ム、ムリです。本当に」

 

困惑して、声が震える。こんなワガママは初めてだ。

 

「……あんな図々しいこと、もう二度とできませんよ」

 

「わたくしが、いいといっているのよ」

 

その言葉に、またブンブンと首を横に振った。

 

ウェンディはムッとしたように口を尖らせたが、やがて諦めたように大きくため息をついた。

 

「じゃあ、もうすこしだけ、ここにいて」

 

その言葉に少し考えて、ゆっくりと頷いた。

 

「かしこまりました」

 

ウェンディは頬を緩ませ、再びベッドを軽く叩いた。

 

「ここ、すわって」

 

「はい」

 

言われた通りに座ると、ウェンディは嬉しそうな様子ですぐにレベッカの膝に頭を乗せてきた。その行動に驚きながらも苦笑し、ウェンディの額を優しく撫でる。ウェンディは心地よさそうに瞳を閉じた。

 

「ベッカに、なでられるの、すき」

 

「そうなんですか?」

 

「うん。はじめて、あったときも、わたくしをこうやってなでてくれた、でしょう?」

 

ウェンディは瞳を開けて、レベッカをまっすぐに見つめた。

 

「あのとき、すごく、あんしんした」

 

そして、華のように笑った。

 

「ありがとう」

 

「……恐れ入ります」

 

レベッカが笑い返すと、ウェンディは再びゆっくりと目を閉じて、声を出した。

 

「ごめんね、おれいをいうのが、おそくなって」

 

「はい?」

 

「あのひ、たおれていたわたくしを、たすけてくれて、ありがとう。ずっと、おれいを、いいたかったの」

 

「お礼、ですか?」

 

「うん。でも、どういえばいいのかわからなくて……」

 

レベッカはウェンディの額を撫で続けながら、初めて出会った時の事を思い出し、少し笑った。

 

「あの時はびっくりしました。部屋で倒れていらっしゃったので……私も必死でしたね」

 

ウェンディはウトウトとしながらまた口を開いた。

 

「ベッカは、どうしてそんなにやさしいの?」

 

「はい?」

 

「みんな、わたくしをこわがるわ。ぜったいに、はなしかけてこないし、ちかづこうともしないの。ベッカは、どうしてわたくしにやさしくしてくれるの?のろいが、こわくないの?」

 

その問いかけに、レベッカはしばらく無言になる。そして、考えるようにしながら、口を開いた。

 

「そりゃあ、初めは怖かったですよ……でも、不安に思っても仕方ないですし、……まあ、なるようになるかな、と」

 

「なにそれ……」

 

「それに、放っておけなかったんですよ。お嬢様を」

 

レベッカは笑いながら言葉を重ねた。

 

「私も、昔はひとりぼっちだったんです。そんな時、たった1人だけ支えてくれた人がいたんですよ。その人がいてくれたから、つらい時も悲しい時も、前に進むことができました。……あの時の自分とお嬢様がなんだか、似ているような気がして……ですから、お嬢様を放っておけなかったんだと思います」

 

ウェンディの手を軽く握った。

 

「ひとりぼっちは、寂しいから……お嬢様に寄り添って、守ってあげたい、と思ったんです。それだけ、ですよ」

 

「……」

 

ウェンディは目を閉じたまま何も言わなかった。もう眠ったのかな、とレベッカが思ったその時、ようやく小さな唇が開いた。

 

「ベッカって、ほんとう、のんき……」

 

「えっ?何ですか、急に」

 

「……んふふ」

 

ウェンディが薄く瞳を開けて、小さく笑った。

 

「ねえ、おうたをうたって」

 

「……ご存知ですよね?私の歌は――」

 

「ベッカのおんちなおうたを、ききたいの。おねがい」

 

ウェンディの言葉に苦笑した。そして、小さな声でゆっくりと子守唄を歌う。ウェンディが笑いながら、目を閉じる。

 

夜がひっそりと深くなっていく。

 

ふとレベッカは、幸せだな、と思った。

 

 

 

 

 

 

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