転生したメイドですが、大切なお嬢様の様子がちょっとおかしい   作:春川レイ

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レベッカ視点に戻ります。










嫌がらせ

 

 

 

 

事の発端は、メイド達の態度の変化だった。

 

「おはようございます」

 

朝、キッチンで顔見知りのメイドへ挨拶をするも、そのメイドは顔を思い切り背け、何も言わずにどこかへと行ってしまった。

 

「……」

 

その態度に困惑しながらも、仕事の準備を始める。その後、他の年若い使用人達へも何度か話しかけたが、全員から返事はなかった。見事な無視だ。

 

「――やっぱりクリストファー様の件ですよねー」

 

「まあ、そうでしょうね」

 

洗濯室でため息をつくレベッカに、キャリーは肩をすくめた。

 

「レベッカ、大丈夫?」

 

「はい。気にしてません」

 

「メイド長に言っておきましょうか?」

 

「うーん、……いえ、大丈夫です。そのうち、元通りになりますよ」

 

楽観的な事を言うレベッカに対して、キャリーは心配そうな表情のまま言葉を続けた。

 

「あのね、でも、ペネロープには気を付けた方がいいかも……」

 

「え?誰です?」

 

聞き覚えのない名前に首をかしげると、キャリーがヒソヒソと教えてくれた。

 

「メイド達のリーダー的な子よ。親の代からこの屋敷で働いててね……クリストファー様の専属メイドの一人だったの」

 

「あ、専属メイドがいらっしゃったんですね」

 

「そりゃあ、伯爵のご子息だからね。学園に入るまでは、何人かの専属メイドがいたのよ。まあ、執事がほとんど仕事をしていたけどね」

 

その言葉に仏頂面の執事、リードの顔を思い出した。

 

「ペネロープは昔から、クリストファー様大好きというか、熱烈なファンというか、……本気で恋しちゃってるというか……とにかく、過激派なのよ」

 

「過激派……」

 

「そう。まあ、ペネロープはメイドだけど、元は没落した貴族の家の娘だから……クリストファー様のことを本気で狙ってるんじゃないかな……クリストファー様からは全く相手にされてないけど」

 

「難儀ですねー」

 

「とにかく、本当に気をつけてね。無視くらいなら可愛いもんだけど……いじめられたらすぐに言って」

 

「あはは、大丈夫ですよ」

 

キャリーの忠告にレベッカは笑って答える。キャリーはまだ不安そうな表情をしていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

夜、ウェンディの部屋にて、レベッカは困ったような顔で立ち尽くしていた。目の前では、ウェンディが怒ったような顔で仁王立ちをしている。

 

レベッカは顔に手を当てて、軽く首をかしげて口を開いた。

 

「お嬢様、ミルクも召し上がったようですし……本当にそろそろおやすみになってください」

 

「いやっ」

 

ウェンディが細い腕を組みながら、言い放つ。

 

「ベッカといっしょに、ねるの!」

 

その言葉に思わず頭を抱えた。

 

最近、ウェンディは子どもらしいワガママを言うようになった。レベッカ限定ではあるが。それは喜ばしい事だし、可愛いワガママなら叶えてあげたい、と思う。しかし、

 

「お嬢様のベッドで私が寝るわけにはいかないんですよ……」

 

一緒にベッドで寝たい、というウェンディのワガママは、流石に聞き入れるわけにはいかない。

 

レベッカの困惑をよそに、ウェンディは頑なに一緒に寝る、と言い張った。

 

「このあいだは、ここでねたじゃない!」

 

ウェンディが自分のベッドを指差す。痛いところを突かれて、レベッカは目をそらした。

 

確かに、ミルクを入れるためにこの部屋に入った際、あまりの疲れから、気を失うようにここで眠ってしまったことがある。一度だけならまだしも、ここ数日は睡魔に負けて、3回ほどウェンディのベッドで寝てしまった。流石にメイドとして、これはまずい。

 

「お嬢様……これがバレたら私がメイド長に怒られます」

 

レベッカが小さくそう言うと、ウェンディは腕を組んだまま唇を尖らせた。

 

「わたくしが、いいといってるのよ!」

 

「いけません。メイドが主人と一緒に寝るなんて、……とんでもありません」

 

レベッカがキッパリとそう言うと、ウェンディが頬を膨らませた。その顔が可愛くて笑いそうになったが、頑張って堪える。レベッカはゆっくりとしゃがみこみ、ウェンディと視線を合わせた。

 

「なぜ、そんなに私と寝たいのですか?」

 

その問いかけに、ウェンディが拗ねたように答えた。

 

「いっしょだとあんしんする……」

 

「安心、ですか」

 

「ん。ベッカのにおい、すき。はちみつの、におい。ぎゅってするの、だいすき」

 

「うーん……」

 

「あと、ついでにベッカのおむねもやわらかくてすき。ふわふわ」

 

「……」

 

思わず真顔になり、無言で自分の胸に視線を向ける。すぐに顔を上げて、苦笑しながら口を開いた。

 

「では、こうしましょう」

 

「うん?」

 

「お嬢様がしたいとき、いつでもぎゅってします」

 

「……いつでも?」

 

「はい。それで許していただけませんか?」

 

その提案に、ウェンディが一瞬迷ったように目を泳がせ、すぐに上目遣いでレベッカを見つめてきた。

 

「ほんとうに、いつでも?」

 

「はい。いつでも、どんな時でも」

 

レベッカが笑いながらそう言うと、ウェンディがパッと顔を輝かせた。

 

「ほんとうね?いつでも、ぎゅってしてくれるのね?わたくしがのぞめば、どんなときでも?」

 

「はい」

 

「じゃあ、いますぐにして!」

 

ウェンディがそう言って期待するようにレベッカを見てきた。レベッカは少し驚きながらも、すぐに微笑む。そして、すぐに目の前のウェンディの小さな身体に腕を回した。

 

包み込むように、優しくウェンディを抱き締める。ウェンディの腕も、すぐにレベッカの背中へと回った。二人で体温を分け合うように抱き合う。ウェンディからは、花のような香りがした。ウェンディの甘い香りを感じながら、レベッカは口を開く。

 

「これで眠れますか?」

 

「まだ。ぜんっぜん、たりない」

 

レベッカの胸の中で、ウェンディがモゴモゴと声を出す。レベッカは笑いながら、ウェンディの背中を安心させるように軽く撫でた。

 

そのままウェンディが満足するまで、二人は暗い部屋で静かに抱き合った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「これ、やっておいて」

 

「はい?」

 

廊下にて、突然大量の洗濯物を押し付けられて、レベッカは目を見開いた。押し付けてきたメイドに、レベッカは戸惑いながらも口を開く。

 

「私、あの、掃除があるのですが……」

 

「私にだって他の仕事があるのよ。あなたはお嬢様の世話をするとか言って、どうせ怠けてるんでしょ?とにかく、やっておいて。夕方までに」

 

絶対に夕方までには終わらないと思いますが、と言いかけたが、レベッカが口を開く前にメイドはその場から立ち去っていった。

 

「うーん……」

 

最近、このように仕事を大量に押し付けられる事が増えてきた。毎日のように、一人では絶対に出来ない量の仕事を指示される。

 

たくさんの洗濯物を抱えながら、物思いに耽っていると、少し離れた場所で数人のメイドが、レベッカを見てクスクスと笑っていた。

 

「……」

 

それをチラリと見るが、何も言わずにレベッカは洗濯室へと足早に向かう。メイド達の横を通り過ぎようとしたその時、メイドの一人が足を突き出してきた。

 

「……」

 

無言でヒラリと軽く飛び上がり、その足を避ける。

 

「ああ、申し訳ありません」

 

レベッカはペコリと頭を軽く下げると、何事もなかったかのように平然と洗濯室へ足を進めた。一瞬だけ振り返ると、足を引っ掛けようとした赤毛のメイドが悔しそうな顔をしているのが見えた。

 

「お見事」

 

声をかけられて、そちらへと顔を向けると、キャリーが笑っていた。

 

「ペネロープ、あなたを転ばせようとしたのね。まったく、あの子ったら」

 

「あ、今の赤毛の方が、例のクリストファー様好き好きメイドさんですか?」

 

「せいかーい」

 

キャリーが苦笑しながら、洗濯物を半分持ってくれた。

 

「あ、すみません……」

 

「いいのいいの。二人でやればすぐ終わるわよ。さあ、行きましょ」

 

キャリーに感謝しながら、レベッカは洗濯室へと急いだ。キャリーも一緒に歩きながら口を開く。

 

「嫌がらせ、やっぱり始まったのね」

 

「あはは、標的にされちゃいました」

 

レベッカはわざと明るく声を出した。

 

「あの方々も、健気というか純粋というか、……頑張ってますねー」

 

「レベッカ、やっぱりメイド長に言った方がいいと思う」

 

キャリーは真剣な顔をして言葉を重ねた。

 

「何をするか分からないわよ、あの人達。手遅れにならないうちに、対策をするべきだわ」

 

「……うーん」

 

レベッカは少し考え、すぐに首を横に振った。

 

「とりあえず、もう少し様子を見ます……そのうち、飽きるかもしれませんし」

 

「でも……」

 

「何かあったら、すぐに相談しますから」

 

レベッカがそう言って笑うと、キャリーは不安そうな顔をしながら深いため息をついた。

 

「なんだかなぁ……本当にあなたが心配だわ」

 

レベッカはそんなキャリーを見返し、ふとあることに気づいて口を開いた。

 

「それよりも、キャリーさんの方は大丈夫ですか?私と一緒にいたら、立場が悪くなるのでは?」

 

その問いかけに、キャリーは少し怒ったような顔をした。

 

「そんなこと気にしないの。元ルームメイトでしょ。――私に出来ることがあれば、協力するから」

 

キャリーのその言葉に深く感謝して、レベッカは頭を下げた。

 

「……ありがとうございます。キャリーさんも困ったことがあったら、すぐに言ってくださいね」

 

「私なら大丈夫」

 

キャリーがそう答えた時、ちょうど洗濯室へと到着した。

 

「私、洗剤を持ってきます」

 

レベッカはそう言いながら、洗剤を探しに向かう。その後ろ姿を見つめながら、キャリーが小さく囁いた。

 

「……でも、相談はしておくべきよね」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その後、期待に反して、メイド達は嫌がらせに飽きることはなく、レベッカへの当たりは日に日に強くなってきた。

 

赤毛のメイド、ペネロープとその数人の仲間達が中心となり、レベッカに嫌がらせをしてくる。無視や仕事の押し付けはもちろん、レベッカにだけ業務上の連絡が回ってこなかったり、他のメイドのミスをレベッカのせいにされたりもした。

 

「うーん、どうしようかなあ……」

 

押し付けられた庭の掃除をしながら、レベッカは呟く。最近はペネロープに指示されたのか、キャリーとメイド長以外のほとんどの使用人達は、レベッカの存在を無視するように振る舞っていた。レベッカが話しかけても、誰も応えない。みんな、気まずそうな顔でレベッカから目をそらすのだ。

 

そんな状況になっても、レベッカは特に焦っていなかった。思ったよりも害は出ていないからだ。なんだかんだで、レベッカは仕事ができたし、時にはキャリーが助けてくれるので、忙しくはあったが、メイドの業務はきちんとこなせていた。それに、元々キャリー以外のメイドや使用人とはほとんど話さなかったので、無視もそんなにつらくはない。

 

キャリーはメイド長に相談するべきだと主張していたが、レベッカはいまいち踏ん切りがつかなかった。

 

もう少し様子を見てからでもいいかもしれない。別にそんなに困っているわけではないし。それに、ただでさえ人手が少ないため、毎日忙しく働いているメイド長に頼るのは、なんだか申し訳ない。

 

「……うん。もうちょっと、様子を見よう」

 

レベッカはそう心に決め、庭掃除を終えると、屋敷へと戻った。

 

廊下を歩きながら考える。今日はお嬢様から借りた本を返さなければ。それで、お嬢様の好きなお茶を用意して、二人でたくさん本の感想を言い合おう。

 

ウェンディの笑顔を思い浮かべながら、レベッカは廊下を歩み進める。

 

メイド達の嫌がらせの事は、もう既に頭から離れていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

メイド達の嫌がらせは続いたが、特に大きな事件が起きることはなく、2ヶ月が過ぎる。ウェンディが待ち焦がれた日がやってきた。クリストファーの一時帰省だ。

 

「おにいさま!」

 

試験休暇で屋敷に帰ってきたクリストファーは、笑顔でウェンディを抱き締めた。

 

「ウェンディ、2ヶ月ぶりだね」

 

「とっても、あいたかったわ!」

 

あふれるような笑顔で言葉を交わす兄妹を見つめながら、レベッカも無意識のうちに微笑んでいた。部屋の扉の横では、執事のリードがいつも通り無表情で立っている。

 

「なんにち、ここにいられる?」

 

「5日間だよ。二人でゆっくりと過ごそう」

 

「うん!」

 

ウェンディが嬉しそうに笑って大きく頷く。そして、クリストファーは今度はレベッカに顔を向けた。

 

「レベッカも、久しぶり」

 

「はい、ご無沙汰しております」

 

ゆっくりとクリストファーに一礼する。クリストファーはウェンディを抱き上げながら、レベッカに問いかけてきた。

 

「何かあった?元気がないみたいだけど」

 

その問いかけに、レベッカは穏やかに微笑んだ。

 

「いいえ」

 

首を横に振り、そしてすぐにまた口を開く。

 

「クリストファー様、ウェンディ様、お茶を用意いたしますね」

 

そう言いながら、茶葉やお菓子の用意を始める。

 

クリストファーとリードがそっと目配せしたが、レベッカはそれに気づかなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「レベッカ!」

 

クリストファーが帰ってきた日の午後、廊下で窓を拭いていると、名前を呼ばれてた。振り向くと、クリストファーがにこやかに笑って近づいてきた。

 

「クリストファー様、どうされました?」

 

てっきり、ウェンディの部屋で仲良く過ごしていると思っていた。レベッカが戸惑っていると、ゆっくりとこちらへ近づいてきたクリストファーは、突然レベッカの手を取った。思わず肩がビクリと震える。そんなレベッカの様子に構わず、クリストファーは笑顔を消すと、レベッカの手を握りながら真剣な顔で口を開いた。

 

「……今夜、夕食でもどうかな?」

 

その真剣な表情にポカンとする。

 

なんだか、変な誘われ方だな、と思った。こんなに真剣な顔のクリストファーを見るのは初めてだ。

 

「えーと、……食事、ですか」

 

「うん。街でいいレストランを予約しているんだ。どうだろうか?」

 

レベッカは困ったように首をかしげた。

 

「……仕事が」

 

「メイド長には僕から伝えておくよ。どうか、僕と一緒に食事をしてくれないかな?」

 

クリストファーの誘いに、迷いながらも断る理由が見つからず、レベッカはゆっくりと頷いた。

 

「……承知しました」

 

その答えにクリストファーがニッコリと笑う。

 

「それじゃあ、今夜、部屋で待っててくれ。迎えに行くからね」

 

そして、レベッカの手を離すと、楽しそうに立ち去っていった。レベッカは困惑しながらその後ろ姿を見つめる。

 

少し離れた場所から、メイド達がレベッカを鋭い視線で睨んでいたが、困惑していたレベッカは気づかなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

クリストファーが予約したというレストランは、小さかったが、落ち着いていて、静かな雰囲気の店だった。

 

「……」

 

「……」

 

レベッカは戸惑いながら隣に視線を向ける。レベッカの隣には、なぜか仏頂面のリードが座っていた。その顔は何を考えているのか分からない。

 

レベッカの正面に座ったクリストファーが楽しそうに口を開く。

 

「いやあ、外食なんて久しぶりだよ。ここの店の料理は何でも美味しいんだ。レベッカ、好きなものを頼んでね。リードも」

 

「……はあ」

 

曖昧にそう答えながらも、レベッカはまた隣に視線を送った。クリストファーと二人きりの食事がよかった、なんて言う気はさらさらないが、まさかリードも同じ席で食事をするとは思わなかった。3人での食事とは、なんだか不思議な感じだ。そして、気のせいか、リードはこの店に入ってきた時から非常に不機嫌そうだった。

 

「あのー、リードさん……?」

 

「はい?」

 

思い切ってリードに話しかけると、明らかに怒ったような声でリードが答えたため、レベッカはビクッとする。反対にクリストファーは笑いながら口を開いた。

 

「リード、そんな怖い顔をするな」

 

「……坊っちゃん。私は今夜先約があったのですが」

 

「うん、知ってる」

 

「……」

 

「今度、きちんと埋め合わせをするよ。とにかく、今夜は3人で楽しもう」

 

「……」

 

リードは何かを言おうとして口を開いたが、結局何も言わず、代わりに大きなため息をついた。

 

やがて、注文した食事が運ばれてきた。レベッカは少しだけ目を輝かせる。本当に美味しそうな料理だ。早速ナイフとフォークを手に、温かい料理を口にする。クリストファーの言った通り、絶品だった。

 

「レベッカ、こうやって、ゆっくり話すのは初めてだね。最近の調子はどうかな?ウェンディとは仲良くしてる?」

 

「あ……はい、そうですね……」

 

食事を楽しみながら、クリストファーと少しずつ会話を交わした。クリストファーと話しながら、この人会話が上手だな、とレベッカはぼんやりと思った。こちらの話を穏やかで柔らかい表情を崩さずに聞き出し、話が途切れないように盛り上げてくれる。なんとなく会話を交わしていると、安心感が芽生るのだ。これはモテるのも分かるな、とこっそり思った。

 

一方、レベッカの隣にいるリードは言葉少なく、何度もため息をつきながら食事をしていた。

 

伯爵子息と執事とメイドの奇妙な晩餐会は、その後も穏やかに続いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

クリストファーは5日間の休暇中、レベッカの顔を見かけたら何度も話しかけてきた。なんだかよく話しかけられるな、と思いつつも、穏やかな表情で事務的に会話を交わす。

 

時々、レベッカがクリストファーと話していると、ペネロープや他のメイド達が睨んでいるのは分かっていたが、クリストファーを無視するわけにもいかないので、気にしないようにした。

 

そして、5日間の試験休暇が終了し、クリストファーはウェンディとの別れを惜しみながらも、再び学園へと戻っていった。

 

「――あれ?」

 

クリストファーを見送り、仕事のためにキッチンへと向かっていたその時、廊下の向こうから歩いてきた人物を見て目を見開く。

 

「リ、リードさん?」

 

歩いてきたのは、クリストファーの専属執事、リードだった。

 

「あ、あれ?なんで、まだここにいらっしゃるんですか?」

 

てっきりクリストファーと共に学園へ向かったと思っていた。リードはレベッカの問いかけに、軽く肩をすくめた。

 

「こちらで、少し仕事が残っていまして」

 

「そ、そうなんですか……」

 

「その仕事が終わったら、すぐに坊っちゃんの元へと向かいます」

 

「え、えーと、何かお手伝いしましょうか?」

 

その言葉に、珍しくリードが少しだけ笑った。

 

「いいえ。あなたは、あなたの仕事を、最後までこなしてください」

 

「は、はい……」

 

レベッカが困惑しながら頷くと、リードも頷き、すぐにどこかへと立ち去った。

 

レベッカはその後ろ姿を首をかしげながら、静かに見送った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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