転生したメイドですが、大切なお嬢様の様子がちょっとおかしい   作:春川レイ

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リースエラゴの物語

 

 

 

 

鏡の向こう側に広がっていたのは、真っ白な世界だった。《アイリーディア》を握りしめながら、レベッカは周囲を見回す。目が痛いほど白くて、何も見えない。

 

ゆっくりと足を踏み出す。下の方で確かに硬い感触があるのに、床は見えなかった。まるで空間に浮いているような不思議な感覚に息を呑む。

 

「ここは……なんだろう……?」

 

勢いに乗って飛び込んできたが、もしかして自分は取り返しのつかないことをしてしまったのではないか。

 

レベッカは今更ながら自分の行動を後悔した。

 

後ろを振り返る。もはや、自分がどこからここへ来たのか分からない。

 

「うう……」

 

呻きながら、再び一歩踏み出す。

 

次の瞬間、足元にある硬い感触が消えた。

 

「ひゃっ」

 

悲鳴をあげるのと同時に、浮遊感を感じた。そのまま、レベッカの身体は一気に落ちていく。

 

「……っ」

 

あまりにも突然すぎて、声も出ない。

 

ザブンと水の音が聞こえた。

 

どうやら下には水が広がっていたらしく、レベッカの身体はそのまま一瞬にして水の中へと沈んだ。落ちた衝撃で、瞳を強く閉じる。

 

その時、レベッカの手の中で、《アイリーディア》の水色の石が再びチカチカと光った。

 

次の瞬間、声が聞こえた。

 

 

 

“--お願い”

 

 

 

先程の声とは明らかに違う声だった。透き通ったように、美しい女性の声。

 

「……っ?」

 

驚いて水の中で目を開ける。

 

周囲は真っ暗だった。レベッカがどうすればいいか分からず、とにかく身体を動かそうとしたその時、目の前に、フワリと何かが光った。

 

「……?」

 

混乱して、瞬きを繰り返す。暗闇の中、目の前の光は徐々に大きくなっていき、やがて映像のように広がっていく。水の中だというのに、その映像のような物はなぜかはっきりと見えて、レベッカは戸惑った。

 

そこに映し出されたのは、ベッドに横たわる女性の姿だった。左の頬に大きな傷跡がある、かなり高齢の女性だ。何かを抱き締めるようにして、瞳を閉じている。レベッカは目を凝らしてそれを見つめた。そして、女性が何を抱き締めているのか認識して、驚きで目を見開いた。それは間違いなく、《アイリーディア》だった。細い剣を胸に抱いた女性は、静かに目を開いた。その瞳は、白く濁っている。何も見えていないらしい。

 

「……?」

 

レベッカが水の中で首をかしげた時、女性がゆっくりと口を開いた。

 

 

 

“私の魂と魔力の全てを、剣に捧げましょう。そうすることで、この剣は完成する。……この剣を使えば、きっと彼女を助けてあげられる”

 

 

 

その言葉の意味が理解できず、レベッカは眉をひそめた。女性は優しく剣を撫でながら言葉を重ねた。

 

 

 

“……問題は、私が死んだ後、誰がこの剣を持って、彼女を助けるかということ……。この剣は、魔力の強い人間しか扱えない……この剣を使える人を、剣自身が選び、導いてくれる。きっと、長い時間がかかるかもしれない。……だけど、もうその方法しかないの”

 

 

 

女性はゆっくりと瞳を閉じる。その瞳からゆっくりと涙が流れた。そのまま、剣の鍔の部分へと手を添え、言葉を続けた。

 

 

 

“だから、どうかお願い……彼女を助けて。きっと、ずっと彼女は私を待ってる”

 

 

 

その声が頭の中で響いたその時、身体が浮かび上がるのを感じた。一気に視界が明るくなっていく。

 

「プハっ」

 

水からようやく顔を出すことができて、レベッカは息を吐き出した。少し離れたところに、地面が見えたため、必死に水の中を進んでいく。

 

「はぁ、はぁ……うぅ」

 

荒い息遣いをさせながら、ようやく水から這い上がった。ゆっくりと深呼吸をしながら、辺りを見渡す。後ろには少し大きな水たまりのような池がある。どうやら自分はそこに落ちていたらしい。そして、目の前には、たくさんの樹木が生い茂る森が広がっていた。奇妙なことに、鮮やかな緑の葉が光っているのに、草木の匂いは全くしない。上を見ると、水色の世界が広がっている。明るいのに、雲も太陽も見えなかった。その非現実的な光景に、レベッカは目を丸くする。

 

生き物の気配は全くない。鳥の声も、木葉を揺らす風の音も何も聞こえない。不思議な場所だ。

 

ここは、どこなんだろう。

 

ふと、昼間に出会ったアメリアの言葉を思い出した。

 

 

 

--どこかに、神様の寝室に繋がる入り口があるそうですよ

 

 

 

「……まさか、ここって」

 

神様の寝室?と、レベッカが小さく呟いたその時だった。

 

 

 

『--会いたい』

 

 

 

レベッカは、ハッと顔を上げた。同時に、《アイリーディア》の石が再び光る。

 

弾かれたようにレベッカは立ち上がり、声の方へと駆け出した。身体が重くて怠い。だが、どうしてもそちらへと行かなければならないような気がする。

 

声は、はっきりと耳に届いた。きっとこの近くに、声の主はいるはずだ。

 

 

 

 

 

『会いたい』

 

 

 

 

 

樹木の間を駆け抜ける。その手の中で、《アイリーディア》は光り続けた。それと同時に、レベッカの脳内でも、声が響いた。

 

 

 

“どうか、お願い……助けてあげて”

 

 

 

その声に眉をひそめたその時、何かが視界に入ってきた。慌てて足を止める。そして、それを見上げて、レベッカはポカンと口を開けた。

 

「これ、は--」

 

言葉がそれしか出てこない。

 

それは、巨大な竜の石像だった。周囲の樹木よりもずっと大きいその石像は、精巧な造りをしており、今にも動き出しそうだ。背中の翼を広げてはいるが、その瞳は閉じられている。灰色の巨大な尻尾が地面に付いている。その尻尾の先を囲うように、奇妙な赤い輪のような物が着いていた。それだけが鈍く光っている。

 

この石像は、一体なんだろう?レベッカが呆然としながらそう考えたその時だった。

 

突然、竜の瞳が開いた。

 

レベッカが驚く前に、ゆっくりと石像が動き出した。ズズズ、と重い石が動くような音が響く。レベッカは悲鳴もあげられずにその場で固まった。石像は少しずつ動きながら、その恐ろしい顔を近づけてきた。気がつくと、レベッカの目の前に、石像の大きな瞳が見えた。まるで深い深い海のような青色の瞳だ。それを見たレベッカは思わず呟いた。

 

「--なんて、綺麗な瞳……」

 

その声に、石像の瞳が一瞬揺らぐ。レベッカは自分の体の力が抜けるのを感じた。崩れるようにその場に座り込むのと同時に、声が響いた。

 

『--そなた、何者だ?』

 

石像がレベッカを真っ直ぐに見つめていた。その声は、紛れもなくミルバーサ島に到着してからずっとレベッカを呼んでいた声だった。

 

レベッカがポカンと口を開ける。それに構わず、石像が言葉を続けた。

 

『なぜ、ここに人間がいる?ここに、人間は入ってこれないはずだ』

 

レベッカはその言葉に答えようとして口をパクパクと開閉させたが、声は出なかった。

 

そんなレベッカを見つめながら、石像は少し首をかしげた。

 

『--ん?ちょっと待て。そなたから、我が友の気配がする。なぜだ?おかしい。……そなた、本当に何者だ?』

 

不思議そうな声が耳に届く。レベッカはようやく声を出した。

 

「わ、私をずっと呼んでいたのは、あなたですか?」

 

石像は不審げな瞳でこちらを見つめ、声を出した。

 

『--小さき人間よ。お前を呼んだ覚えはない。私が呼んでいたのは、我が友だけだ』

 

レベッカはその言葉に首をかしげた。

 

「で、でも、私、ずっと、あなたの声が聞こえていましたよ?」

 

石像はレベッカの言葉に何も答えず、無言で鋭い視線を向けてきた。その恐ろしい視線に逃げ出しそうになるのを我慢しながら、レベッカは言葉を重ねた。

 

「あ、あの……あなたは、神様、ですか?」

 

『神?』

 

石像はレベッカの言葉にやや戸惑ったような様子を見せた。そのまま言葉を重ねる。

 

『--私はそのような存在ではない。まあ確かに、かつて、そのように呼ばれた事はあるが……あとは怪物やら魔物やら……そなたと同じ生物ではないという事は確かだ』

 

石像はレベッカからゆっくりと顔を背けた。

 

『--私は、人あらざる者……そなたとは異なる時を生きる者。名を、リースエラゴという』

 

石像はどこか誇らしげにそう名乗った。レベッカはポカンとその姿を見つめる。そして、恐る恐る口を開いた。

 

「こ、ここは、どこですか?」

 

その問いかけに、リースエラゴと名乗った石像は少し迷ったように瞳を揺らし、答えた。

 

『--私の住み処だ……ここはそなたが生きる世界とは異なった場所。--時間や空間が歪んだ世界であり、時間流が乱れる場所でもある。説明するとややこしいが……そうだな……簡単に言えば異次元の空間だ』

 

その答えにレベッカは唇を引きつらせた。なぜ鏡の中がこんなところに繋がっているのだろう、と考えていると、再び声をかけられた。

 

『小さき人の子よ、もう一度聞く。そなたは、何者だ?なぜ、ここへ来た?』

 

石像が再び視線を鋭くさせる。レベッカは慌てて言葉を返した。

 

「わ、私にも分かりませんよ!ミルバーサ島に来てから、あなたの声が何度も聞こえてきて……」

 

『なぜ私の声が聞こえた?私の声はあちらの世界には届かないはずだ』

 

「そんな事言われても……」

 

言葉を続けようとしたレベッカは、ハッとして顔を、《アイリーディア》に向けた。

 

「そ、そうだ!これ!」

 

《アイリーディア》をリースエラゴへと向けた。

 

「この剣の、この変な石が、あなたの声に反応するように光っているんです!もしかして、これが関係してますか!?」

 

剣を目にした石像は、驚いたように体を動かした。

 

『--これは』

 

ゆっくりと石の顔を、《アイリーディア》へと近づける。しげしげとそれを見つめ、声を出した。

 

『……間違い、ない。この剣から、気配がする』

 

その声が、なぜか泣いているような気がした。

 

『我が友、セツナの気配がする』

 

リースエラゴは視線を縫い付けられたように、《アイリーディア》を見つめ続けた。その姿に戸惑いながら、レベッカはオズオズと声をかけた。

 

「……セツナさんとは、誰ですか?」

 

その問いかけに、リースエラゴはゆっくりと剣から目を離し、レベッカへと視線を向けてきた。

 

『たった一人の、……私の友だ』

 

「--その人の気配が、なぜこの剣に?」

 

『……分からない』

 

レベッカの問いかけに、石像は考えこむような顔をしながら、再び声を出した。

 

『……その剣は、どこで手に入れた?』

 

「……えーと、ちょっとしたきっかけで、知人から、もらったというか……」

 

ローレンの事をどう説明すればいいか分からず、レベッカは言葉を濁した。

 

リースエラゴが再び胡散臭いと言わんばかりの視線をレベッカに向けてくる。

 

レベッカはその視線に怯みそうになったが、なんとか踏みとどまり、身を乗り出した。

 

「教えてください。さっきから、もうワケが分からないんです。あなたは、何者ですか?セツナさんという方は誰なんですか?」

 

石像は、困惑したような様子でしばらく黙っていた。

 

考え込むように、何度もレベッカと剣を見比べる。そして、ようやくポツリポツリと話し始めた。

 

『私は、悠久の時を生きるもの。古き時代、まだ人間の世界が渾然としていた時代よりも、ずっと前から生きている存在だ。

 

遥か昔、かつての私は人間の世界で生きていた。ある国の森の中……人間が入ってこない、深い森の中で静かに暮らしていた。

 

このような姿をした私を、その時代の人間達は多いに怖れていた。その頃の私は、わけあって人間と関わるのを避けていた。人間達に恐れられても、別に構わなかった。こちらが何もしなければ、彼らも関わってはこない。私は森の中で静かに暮らすことができた。一人の暮らしは孤独だったが……穏やかで、自由で、気ままで、心安らかに過ごすことが出来た。

 

そんな私の静かな暮らしに、突然その人間は飛び込んできた。

 

その女は、セツナと名乗った。

 

近くの大きな村からやって来た、魔術師の女だった。

 

セツナは、おかしな奴だった。感情豊かで、快活で、無邪気で、よく笑う変な人間……いつも、馬鹿みたい明るくて、……それに、……それに私の事を怖がらなかった。

 

私と初めて会った時、セツナはとても驚いた顔はしていたが、決して逃げなかったな。興味深そうにどんどんこちらへ近づいてくるものだから、逆にこちらが驚いた。

 

セツナは深い森の中にある私の住み処を、頻繁に訪ねてきた。何度も何度もここに来るなと私は言ったが、それでもセツナは何度も訪ねてきた。

 

そのうち、私もセツナが来ることに慣れて……結局、受け入れるようになってしまった。

 

セツナと過ごすのは、とても不思議な感じだった。セツナは、いつもおしゃべりでうるさくて……でも、よく笑っていた。私と過ごせるのが楽しいと言って笑っていた……そんな事を言うのはセツナくらいだ。ああ、……本当に、変な女だったな』

 

懐かしそうな声を出すリースエラゴをレベッカは無言で見つめた。昔のことを語るリースエラゴの瞳に、何かとても温かい光が宿っているのがレベッカにも分かった。

 

『セツナはよく笑っていたが……時々泣いていた。自分の事を、役立たずな人間だと嘆いていた。

 

私にはよく分からないが、セツナは魔術師として村で働いていて……所属している群れのような団体があるらしくて……そこで仕事がうまくできず、悩んでいた。他の人間に“能無し”やら“穀潰し”と蔑まされ、馬鹿にされていたらしい。

 

確かに、セツナは魔法や魔術が下手だった。

 

だが、……私は、セツナは偉大な力を秘めていた、と思う。セツナから感じられる魔力の気配はとても大きなものだった。恐らくその力を使いこなせず、暴走させていたのだろう。

 

泣いているセツナを私は何度も慰めた。大丈夫だ、お前ならきっといつか大きな力を発揮できる、と言うとセツナは安心したように笑ってくれた。

 

セツナが笑うと、私もうれしくて、幸せだった。……本当に。

 

ある時、たくさんの人間が私の住み処へとやって来た。人間達は、私を捕らえた。私を人喰いの化け物だと言って。

 

誓って言うが、私は人を喰ったことはない。

 

ただ、私が存在するだけで、人間達は不安だったのだろう。その不安を取り除くために、私を駆逐しようとしたんだ。

 

私を捕らえた人間達の中には、泣きそうな顔で震えているセツナもいた。

 

後から分かったことだが、セツナが所属していたという団体の目的は、……私を殺すことだった。

 

セツナは、初めから私の事を探るために、ここに来ていたんだ。

 

セツナよりも上の地位にいる人間達から命令されたらしい。他の人間と比べて仕事が出来ないのだから、人喰い竜の元へ行き、どんな生き物か探ってこい、と。役立たずでもそれくらいなら出来るだろう、と言われ、セツナは断れなかったらしい。だからこそ、何度も私の住み処に来ていたんだ。

 

それを知っても、私は怒る気にはなれなかった。残念だとは思ったが。

 

捕らえられた私は、多くの人間の前で見せしめに殺されることになった。逃げようと思えば、逃げられたかもしれない。けれど、私は動かなかった。このままその人間達に、殺されようと思った。私は、セツナに裏切られた事で、無気力になっていた。

 

もう生きるのに疲れたんだ』

 

リースエラゴが言葉を切る。しばらく沈黙が続いた。

 

レベッカはおずおずと声をかけた。

 

「あの、でも……助かったんですよね?」

 

レベッカの言葉にリースエラゴはしばらく答えなかった。何度か瞬きをした後、ようやく言葉を発した。

 

『--セツナのおかげだ。ギリギリの所で、セツナは私を助け、逃がしてくれた。

 

何度も私に謝っていたな。ごめんなさい、と。裏切ってしまってごめんなさい、と。泣きながら、謝っていた。

 

捕らえた私を逃がす事は、重罪になるはずだ。そんな事をすれば、セツナも多くの人間に追われる身となる。殺されるかもしれない。だからやめろ、とそう言ったが、セツナは首を横に振って笑った。構わない、と言って。

 

あなたは友達だから助けたい、と。逃げて、そして生きてほしい、とセツナは言った。

 

その言葉が嬉しくて、本当に嬉しくて、私はようやく動いた。セツナと共に人間達を振り切って、逃げ出した。だが、逃げる寸前、魔力の強い呪術師によってこの魔法具を付けられてしまった』

 

リースエラゴが自分の尻尾に視線を向ける。その尻尾の先で、赤い輪が光っていた。

 

「それは……?」

 

レベッカの言葉が続く前に、リースエラゴが答えた。

 

『……呪術の込められた魔法具の一種だ。これのせいで、私の魔力はどんどん弱くなっていった。セツナはどうにかしてこれを外そうと努力してくれたが……あまりにも強力な呪いが込められているせいで、外れなかった』

 

呪い、という言葉にレベッカの手がピクリと動いた。それに気づかない様子で、リースエラゴは言葉を続けた。

 

『セツナと私がなんとかこの輪を外そうとしているうちに、人間達の追手が迫ってきた。彼らの執拗な追跡に、危険を感じたセツナが、私をこの世界に逃がしてくれたんだ……この世界に繋がる入り口を作ってくれた。異次元の空間に行きさえすれば、人間達は追ってはこれない。セツナは私をこの空間に逃がすと、入り口を閉じた。あちらから入ってこれないようにする。絶対に人間は入ってこれないようにするから、そこで待っているようにと言った。

 

私は一緒に行こうと言ったが、セツナは拒否した。自分はここに残り、私の呪いを解く方法を見つけるから、と。何度も説得したが、セツナは結局頷かなかった』

 

リースエラゴは何かを思い出すように瞳を閉じる。そうして、ゆっくりと言葉を続けた。

 

『最後に叫んでいた。“待ってて”と。“必ず、あなたを救ってみせるから。絶対に諦めない。だから、待ってて”と』

 

レベッカはリースエラゴの声を聞きながら、チラリと手の中にある細い剣を見た。

 

『この世界に逃げてから、この魔法具の呪いはどんどん進行した……いつの間にか私の身体は石に覆われ、ほとんど動けなくなった。昔は魔法を使うことも出来たが、今ではもう呪いのせいで全く出来ない……こうして、声を出すのが精一杯だ』

 

リースエラゴの声は、寂しさと悲しみに満ちていた。ゆっくりと瞳を閉じて、言葉を重ねた。

 

『--もはや、私の身体は呪いによってボロボロだ。それでも、私は待っている。ここでずっと待っている。ずっと、ずっと、たった一人の友を待っている』

 

リースエラゴはそう言って、口を閉じてしまった。レベッカはそんな石像を無言で見つめる。そして、そのまま再び、《アイリーディア》へと視線を向け、ゆっくりと強く握りしめた。

 

そんなレベッカに応えるように、《アイリーディア》の石は再び光を放った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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