転生したメイドですが、大切なお嬢様の様子がちょっとおかしい   作:春川レイ

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過去からの声

 

 

パーティーから1ヶ月後、怒涛の日々も終わり、静かな日常が戻ってきた。

 

「レベッカさん、何かいいことでもありましたか?」

 

昼食を取っている時、セイディーに声をかけられた。

 

「え?なんで?」

 

「なんだか、とても表情が明るいので……」

 

その答えに、レベッカは笑った。

 

「とてもお世話になった人が、もうすぐ仕事に復帰するのよ」

 

午前中、仕事をしている時にリードに話しかけられた。キャリーがもうすぐメイドの仕事に正式に復帰するらしい。出産してからかなり忙しかったようだが、ようやく生活が整ってきたようだ。

 

「それはよかったですね」

 

「うん。とても楽しみだわ」

 

レベッカはそう答えながら食事を続けた。

 

その日の午後、レベッカが廊下の掃除をしている時、後ろから声をかけられた。

 

「あっ、ベッカ!!」

 

振り向くと、パタパタとウェンディが駆け寄ってくるのが見えた。そのままレベッカに勢いよく抱きついてくる。

 

「わっ、お嬢様、どうされました?」

 

「えへへ」

 

珍しく上機嫌なウェンディの様子に、レベッカは首をかしげる。ウェンディはレベッカから身体を離すと、耳元で囁いた。

 

「あのねあのね、とっても素敵なお知らせがあるの」

 

「素敵な……?」

 

「うんっ!」

 

「何ですか?」

 

「ええっとね……私ね--」

 

何か言いかけたウェンディは、途中でハッと口をつぐんだ。

 

「やっぱり後で教えてあげるっ」

 

「ええ……?何ですか、それ。気になりますよ……」

 

「んふふふ。今日の夜、お兄様と私の部屋で食事をするの。ベッカも来てちょうだい」

 

「えっ、食事、ですか……」

 

「お兄様には話してあるから。夕食の時に、教えてあげるわ」

 

ウェンディはそのまま軽く触れるようにレベッカの頬にキスをした。

 

レベッカが驚く前に、ウェンディは身体を離す。

 

「今夜はごちそうよ。期待してて。それじゃあ、後でね!」

 

そのままウェンディは楽しそうに踊るような足取りで立ち去ってしまった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

夕方、レベッカは庭掃除を頼まれた。1人で広大な庭にでて、箒を動かす。

 

「お嬢様、どうしたのかな……?」

 

先ほどのウェンディの様子が気になり、レベッカは呟く。

 

とても楽しそうな笑顔だった。ウェンディがあのように笑うのはとても珍しい。

 

何かとてもいいことがあったのだろうか、と想像しながら、掃除を終わらせる。夕食の席で話してくれるだろう。

 

ウェンディの輝くような笑顔を思い浮かべながら、屋敷の中へ戻ろうとしたその時だった。

 

 

 

突然衝撃を感じた。次に鋭い痛み。

 

 

 

「あっ--」

 

思わず声をあげるが、その口を何かで塞がれる。

 

何が起きたのか分からない。

 

ぐらりと視界が揺れた。周囲の景色が回転する。

 

目の前に誰かが立っている。見知らぬ小柄な人物だ。

 

--誰?

 

疑問を抱く前に、レベッカの意識は闇に包まれた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

それから数分後、ウェンディはレベッカを探していた。約束した夕食の時間までまだ余裕はあるが、早く会いたかったからだ。

 

他の使用人にレベッカの居場所を尋ねる。庭で掃除をしているらしい、と聞いて足早に庭へと向かった。

 

早く自分だけのメイドに会いたくて、高鳴る心臓と共に、足を動かす。

 

今日はとても嬉しい事が起きた。知っているのは兄だけだ。でも夕食の席でレベッカに話すつもりだった。

 

話したら、絶対にレベッカは喜んでくれるだろう。そして、きっとその後には優しく抱き締めてくれる。

 

ウェンディは、それを想像して、1人で笑った。

 

パタパタと廊下を走る。メイド長に見つかったら怒られるだろう。でも構わない。今日は何か言われても、関係ない。記念すべき日なのだから。

 

ようやく庭に出る。もう空には少しだけ夕闇が見えていた。レベッカの姿を探して、庭を進む。

 

「ベッカ?どこー?迎えに来たのよ」

 

大きな声で呼びかけながら、庭を見回す。どこにもレベッカはいない。いつもなら、ウェンディが呼んだらすぐに返事が返ってくるのに。ふと、庭の真ん中の地面に目を留めて、ウェンディは眉をひそめた。そこには、ポツンと箒が転がっていた。だけど、近くにメイドの姿は見えない。

 

箒の方へと駆け寄り、辺りを見渡す。

 

「……ベッカ?」

 

もう一度、名前を呼ぶ。

 

ウェンディの声に、答える者はいなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◆◆◆

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

初めに感じたのは、痛みだった。意識が浮上するとともに、何か変な音が脳内で響く。

 

「……うぅ」

 

全身がおかしい。意識は戻っているのに、動かない。早く行かなくちゃ、お嬢様が待っているのに……。夕食が……ごちそう……、

 

--あれ?

 

ハッとレベッカは顔を上げた。そして、呆然とする。

 

見知らぬ場所に、レベッカは横たわっていた。何の家具も装飾品もない殺風景な部屋だった。近くに1つだけ、窓がある。少し離れた所に扉があるのが見えた。

 

「えっ、ええっ……ここは……?」

 

なんでこんなところにいるんだろう。自分は庭で掃除をしていたはずだ。

 

そうだ、とレベッカはようやく思い出した。掃除が終わって屋敷に戻る時に、誰かに殴られたような気がした。

 

だけど、一体誰に--?

 

混乱しながらも、レベッカは部屋から出るために、扉へと近づいた。部屋から出たらここがどこなのか分かるかもしれない。しかし、

 

「あ、あれ?」

 

鍵がかけられているのか、扉は全然動かなかった。

 

しばらく格闘していたが、全く開く気配がないため、仕方なく諦める。次に、窓へと向かったが、そちらも鍵がかかっているのか開かなかった。外を見てみるが、夜のため景色はほとんど見えない。ただ、ここが1階ではないという事は高さで分かった。暗闇の中、外には樹木だけが数本見える。

 

「……ん?」

 

何か違和感を感じ、レベッカは首に触れる。

 

「……え?何これ……?」

 

いつの間にか、変な首輪のような物を着けていた。何だろう、これは……?

 

その時、ギイッと扉が開く音が聞こえた。レベッカは振り向き、呆然と口を開けた。

 

「ようやく起きたのね、このノロマ」

 

その声に、レベッカは肩を揺らす。

 

入ってきたのは、露出の多い紫色のドレスを着た女性だった。気の強そうな赤みがかった茶色の瞳に、やはり明るい茶色の巻き髪。レベッカを真っ直ぐに見つめ、女性はニヤリと笑った。

 

「相変わらず、貧相な顔をしていること」

 

その声に、冷たい汗が流れるのを感じた。

 

「--久しぶりね、キャロル」

 

昔の名前を呼ばれて、レベッカは口を開いた。

 

「……ジュリエットお姉様」

 

情けないことに、恐ろしさで声が震えていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

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