転生したメイドですが、大切なお嬢様の様子がちょっとおかしい   作:春川レイ

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旅の準備

 

 

まずは腹ごしらえをしよう、ということになり、レベッカとリースエラゴは、道を歩いていて発見した小さなレストランへと入った。

お昼を過ぎて、もはや夕方に近い時間だったが、意外にも席は半分ほど埋まっている。迎えてくれた店員に案内されて、2人は小さなテーブルの前に腰を下ろした。

「ええと……」

お腹は空いているができれば重いものは避けたいな、と考えながらレベッカは品書きを手にする。それに構わず、リースエラゴは近くにいた店員を呼ぶと、品書きを示しながら口を開いた。

「ここに書いてある料理を全部くれ」

「はあっ!?」

レベッカがギョッとする。店員も驚いたような顔をしたがすぐに頭を下げてキッチンへと戻った。

「リ、リーシー!全部って、私、そんなに食べられませんよ!!」

レベッカが動揺しながら声をかけるが、リースエラゴは欠伸をしながら答えた。

「問題ない。私が食べる」

その言葉に偽りはなかった。

料理がテーブルに並べられると、リースエラゴはそれを吸い込むように凄まじい勢いで食べていく。レベッカはもちろん、周囲の客と店員達も呆然としながら食事が消えていく姿を眺めた。

「どうした?レベッカ。食べないのか?」

そう言われてレベッカは慌ててスプーンを手に取った。たくさんの料理の中からスープやパンを選び、それを口にする。すぐに口元が綻んだ。

「おいしい……」

レベッカが少しずつ食べていく姿を見て、リースエラゴは小さく笑い、食事を続けた。

「そういえば、リーシーって人間の食べ物を食べるんですね」

レベッカが食べながら小声で問いかけると、リースエラゴは大きな肉の塊を飲み込んでから言葉を返した。

「ああ。食べるのは結構好きだ。別に食べなくても死なないし、生きていけるけどな。基本は何でも食べられるぞ。その気になれば、その辺の“気”を食べることもできるし」

「そ、そうですか……」

よく分からなかったレベッカは曖昧に言葉を返した。

やがて、全ての料理を食べ終えたリースエラゴとレベッカはそれぞれ食後の飲み物を注文した。

「……それで?お前はどこへ行きたいんだ?」

「ええと……」

レベッカが目指しているのはもちろんコードウェル家、ウェンディのいる場所だ。そう言おうとしたレベッカは、あることに気づいてハッとした。

「……そうだ」

「ん?どうした?」

リースエラゴが不思議そうにレベッカを見てくる。その視線を無視してレベッカは腕を組んで考え込んだ。

コードウェル家に戻ってもウェンディはいないかもしれない。何故なら、ウェンディは既に17歳。その年齢ならば魔法学園に入学して、学生寮に入っている可能性が高い。

「うーん……」

魔法学園を目指すべきなのだろうか。だが、突然ウェンディを訪ねたとしても、部外者である自分が学園に入ることはできないかもしれない。そもそも、ウェンディはこんな姿になった自分を受け入れてくれるのだろうか──

考えれば考えるほど、頭が痛くなってきた。レベッカは暗い気持ちを振り払うように、ジュースを一気に飲み干す。そして、リースエラゴに向かって口を開いた。

「──取りあえずは、コードウェル家へ」

まずはそこへ戻ろうと決意して、レベッカは先程の地図を広げた。

「ここの港に行って、船に乗ります。それでこの街に行って、それから馬車に乗ります……」

地図を見ながら、レベッカの説明を聞いたリースエラゴは苦い顔をした。

「かなり遠いじゃないか」

「そうなんですよね……」

「うーん……ということは目的地に着くまで……4日……いや5日というところか?」

改めてそう言われると、本当に遠い。レベッカはため息をつきながら地図を折り畳んだ。

「あっ」

レベッカは突然声を出すと、リースエラゴに向かって身を乗り出した。

「そういえば、あなた、元の姿は翼がありましたよね?飛べないんですか?」

リースエラゴの背中に付いている大きな翼を思い出しながらそう尋ねると、リースエラゴは顔をしかめた。

「できることはできるが……気が進まない。あの姿はかなり大きいし、目立つから、人間に見つかるとかなりややこしいことになるぞ」

「うっ」

「こんな街中であの姿に戻ったらこの地の人間達に迷惑をかけそうだしな」

「うっ、う~っ」

レベッカはテーブルに突っ伏した。

そんなレベッカの頭をリースエラゴは軽く撫でた。

「元気を出せ。少しずつ進んでいこう」

「……はい」

 

 

 

 

 

 

レストランから出ると、レベッカはリースエラゴの腕の中でパタパタと足を動かした。

「リーシー、もう歩けるからっ!」

「ん?そうか」

リースエラゴがレベッカを地面に降ろす。レベッカは地面で少し足踏みをして、リースエラゴに声をかけた。

「それじゃあ、早速出発しましょう!港へはどうやって……」

「ちょっと待て」

今にも走り出そうとするレベッカの首根っこをリースエラゴが捕らえた。

「今日はやめよう」

「えっ、えっ?なんでですか!?」

少しでも早く帰りたいのに、とレベッカがムッとして言い返すと、リースエラゴが呆れたような声を出した。

「お前なあ、よく見てみろ。もう夕方だぞ」

「へ?」

レベッカが上を見上げると、リースエラゴの言う通り空は夕闇に染まりつつあった。

「本当だ……」

「夜に進むのは危険だ。今日のところは宿を取って、休もう」

「……はい」

レベッカが肩を落として素直に頷くと、リースエラゴはレベッカの背中を軽く叩いた。

「そんなに落ち込むな。そうだ、これから服を買いに行こう」

「服?」

「ああ。お前も私も、服は今着ているものしか持っていないからな。それに旅に出るならいろいろと必要な物があるし、これから買いに行くぞ」

その言葉に、レベッカは戸惑いながらもコクリと頷いた。

近くの衣服店に入ると、店員らしき女性が頭を下げて出迎えてくれた。

「いらっしゃいませ」

リースエラゴは店員に向かってレベッカの身体を押し出した。

「今から旅行に行くんだ。この子に合う服を選んで欲しい。あと私の服も適当に。金はいくらでも払う」

リースエラゴの言葉に店員は嬉しそうに顔を綻ばせて、

「承知しました」

と再び頭を下げた。

それからたっぷりと時間をかけてレベッカの服選びは進んでいった。店員によって、レベッカは何度も服を試着させられてうんざりした。その姿を、リースエラゴは最初黙って眺めていたが、途中から店員と共に、ああでもないこうでもないと口を出し始め、たくさんの衣服を購入することになった。最終的に、リースエラゴは絶対に必要ないと思われる子ども用のパーティードレスまで購入しようとしたため、レベッカは必死に止めなければならなかった。

「何をしているんですか!まったく……」

「いいじゃないか、せっかく似合うのだから」

「あんなにかわいい服、着る機会なんてあるわけないでしょ!!」

レベッカとリースエラゴが言い争っているのを、店員は微笑ましそうに見つめながら声をかけてきた。

「優しいお母様ですこと。娘さんと仲がよろしいんですね」

その言葉に、レベッカとリースエラゴは揃ってくわっと目を見開いた。そして、店員の方へ顔を向けると、

「違います!!」

「親子ではない!!」

と、同時に大声で言い返した。

店員が驚いて、不思議そうにレベッカとリースエラゴを交互に見てくる。レベッカはハッとして、慌てて言葉を重ねた。

「あ、ええと、親子じゃなくて……そう、姉!姉なんです!!ちょっと年の離れた!!ね、お姉ちゃん!!」

レベッカが“お姉ちゃん”という言葉を強調してリースエラゴの方を見る。リースエラゴは困惑しながらも、慌てて頷いた。

「そ、そうだ!そうだったな!我が妹よ!!お前は、この私の妹だ!」

そう言い切った瞬間、リースエラゴは

「……っ」

なぜか動揺したように瞳を揺らし、小さく息を呑んだ。レベッカはその様子を見て、不思議そうに首をかしげた。

一方、店員は納得したように頷き、微笑んだ。

「そうだったんですか。姉妹でご旅行なんですね」

「え、ええ。そうなんです。あはは」

レベッカは誤魔化すように笑った。

そんなレベッカをリースエラゴはぼんやりと見つめる。そして、

「……妹」

思い詰めたように小さく呟く。しかし、レベッカと店員の耳には届いていなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

服以外にも必要な物を購入し、宿を取る頃にはもう夜も遅くなっていた。

「宿が空いててよかったですね」

「ああ、そうだな」

レベッカはリースエラゴと共に宿の一室に入ると、ベッドに飛び込んだ。

「あぁ、疲れた……」

「もう寝るか?」

「ん~、もう少し起きてます……」

レベッカはモゾモゾとしながら、部屋の窓から街の景色へと視線を向けた。

「小さいけどいい街ですね、ここ……。みんなとてもいい人だったし……」

夜の闇の中で、小さな光がキラキラと輝いている。綺麗な夜景だ。いつか今度はお嬢様と一緒にここに来たいな、と思いながら、夜の街並みを眺めていると、リースエラゴが声をかけてきた。

「──レベッカ」

「うん?」

レベッカがそちらに顔を向けると、リースエラゴが難しい顔をしてレベッカをまっすぐに見つめていた。

「……なあに?リーシー」

リースエラゴは一瞬口を開き、すぐに閉じた。そのまま無言でレベッカを見つめてくる。

「リーシー?どうしたの?」

レベッカが不思議そうに声をかけると、ようやくリースエラゴは再び口を開いた。

 

 

「お前の身体に関して、もう一つ言っておかなければならない事がある──」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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