巨人の村の娘は人間   作:UMI0123

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過去と空想

 魚人族同士の肉弾戦によって建物が倒壊している居住区では百獣海賊団の兵士たちが干からびて倒れていた。ただ干からびるだけではなく百獣海賊団の兵士が漏れなく老いていた。

 

「どのくらい兵士を連れてきたのか知らないが、私相手には雑魚は居ないも同然……いや回復出来るから得ですらあるな」

 

「てめェら!!こんな女に殺られて百獣海賊団の看板に泥を塗るつもりか!!!」

 

 獣型になっているジャックは老いて干からびている百獣海賊団の兵士たちの死体を踏み潰していた。

 それは誰よりも百獣海賊団は力が全てという心情を持ちカイドウや大看板の二人に任された仕事を自分の部下が失敗した苛立ちを抑えきれなかったからだ。

 死体を踏み潰した時の振動は周りに被害を与えてただでさえ崩れ気味であった建物は完全に跡形もなく崩れ落ちていた。

 

「あまり暴れないでくれ……再興が大変になるんだ」

 

「勝つ前から再興のことを考えてるなんてめでたい頭をしてやがる!!このまま生きてられると思ってんのか!!?」

 

 百獣海賊団相手に言葉を通用しないことは知っているマーリンは“嵐脚”をジャックへと放った。マーリンが放った“嵐脚”は悪魔の実の能力によって強化された攻撃だ。ジャックの硬い皮膚と流れる武装色の覇気を突破してダメージを与えられる攻撃だ。

 それはジャックも分かっているので悪魔の実の能力で伸びた鼻にだけ武装色の覇気を集中させて“嵐脚”を相殺した。

 しかしマーリンの飛び道具にジャックは物理で受けたので一瞬の隙がジャックに生まれた。

 

「“血爪(けっそう)”」

 

「――踏み潰してやる!!」

 

 ジャックの隙を突くようにマーリンは獣型になることで伸びた爪に武装色の覇気を流し、更に自身の血を纏ってマンモスの姿をしたジャックの脇腹を切り裂いた。

 しかし古代種の力を持つジャックはその程度では痛みを感じることは無かった。

 攻撃は相手にダメージを与える行為だが、相手に隙を晒す行為でもある。その隙をジャックは上から踏み潰そうと脚を振り上げてマーリンへと振り落とした。

 

「ウ……だけどクイーンより軽いな。“刺傘”」

 

 マーリンは差していた傘を閉じると覇気を流して振り下ろされる脚へと突き刺した。

 ジャックの全体重が掛かった脚は普通の人間だったら一瞬で潰される程の重さを持っているのだが、マーリンには通じなかった。マーリンはジャックよりも覇気も重量も上回っているクイーンの全体重を掛けた攻撃を弾き返した実績がある。そんなマーリンがジャックの攻撃に耐えられない訳ないのだ。

 

「……やっぱりクイーンの兄御みたく出来ねェか。おれは自分の戦い方でやらせてもらうぞ!!」

 

「……そんな事情私には関係ないな。ここで死んでもらうぞ。“飛ぶ指銃・赫弾”

 

 六式の一つである指銃を応用した“飛ぶ指銃”。“飛ぶ指銃”自体ではジャックの覇気どころか皮膚すら突破出来ない攻撃だが、マーリンの武装色の覇気と能力によって操った血を載せることでジャックの皮膚と覇気を突破する攻撃となる。

 ジャックは獣型と人型の良いとこ取りを出来る人獣型に姿を変えた。その姿となったジャックは自分が持つ武器である二刀のショーテルを抜いて“飛ぶ指銃”を打ち消した。このショーテルは名工によって造られた物ではなくワノ国の武器工場で造られた刀なので普通はマーリンの飛ぶ指銃を受けたら折れるのだがジャックが覇気を纏わせることによってショーテルが折れることは無かった。

 

「飛び道具如きでおれを止められる訳ねェだろォ!!!」

 

「本当に獣なんだな。突っ込むしか能がない獣なんて敵ではないな」

 

 マーリンが放った“飛ぶ指銃”をショーテルで搔き消したジャックはマーリンへと突っ込んだ。流石のマーリンでも巨漢の男であるジャックがスピードに乗った状態の突進はかなりのダメージになることが予想出来るので空へと飛び立った。

 地上では最強クラスの力を発揮するマンモスの力を持つジャックでも空を自由に飛び回れるマーリン相手には関係がなかった。

 

「最初からこうしておけば良かったな……まあ日差しが強いのが難点だが」

 

「……マンモスってのはなァ!こうやって狩りもするんだよ!!!」

 

 渾身の突進を避けられたジャックは空に居るマーリンを見上げていた。マーリンに攻撃を与える手段がないと思われたジャックだったが少し口角を上げると、

 

「“蝶象(ちょうぞう)”!!」

 

 マンモスと魚人の中間の姿になっているジャックはその巨漢には合わない大きさの一対の耳を上下に羽ばたかせた。その大きくはない耳でも勢いよく動かすことによってジャックの巨体を持ち上げていた。

 そのまま勢いに乗ると自分の遥か上に居るマーリンへと追撃を仕掛けた。

 

「ふむ……耳で飛ぶマンモスなど、どの文献にも載ってはいなかったが……」

 

「それならてめェが持つ情報力は敵じゃねェな!!」

 

「文献は私が趣味で読んでるだけだ。考古学は私の専門ではないのでな……他のことなら色々と知ってるぞ。君は”旱魃(かんばつ)のジャック”。“飛び六胞”最強と名高い実力の持ち主で大看板に一番近いって言われてる。そんなお前の過去は魚人として生まれながら、泳ぎが下手だったため虐められていた過去を持つ。虐めの一環で海流へと放り込まれてカイドウの船に拾われた。だから魚人でありながら悪魔の実を喰った……だろ?」

 

「……おれはカイドウさんに拾われた時に魚人としての過去は捨てた。それに虐められたのはおれが弱かったから仕方ねェことだ。……そしてこの国が滅ぼされるのは……弱い奴しか居ないからだ!!

 

 ジャックは二本のショーテルでマーリンに斬りかかった。その刃は武装色の覇気が()()()()おり、この攻撃は固い鱗と膨大な覇気に守られているカイドウだろうとダメージを受けるものだ。

 そんな攻撃を察知したマーリンは日差しを防ぐ傘を閉じて覇気を流した。それだけでは勝てないので自身の血を使って傘の周りを覆ってドリルのように回転させた。

 

「“刺傘・血錐(ちぎり)”」

 

「覇気のレベルが足りてねェんだよ!!もう一段階上の覇気じゃねェとカイドウさんや大看板の兄御たちどころかおれすら突破出来ねェんだよ」

 

 覇気と悪魔の実の力で強化された傘を軽く突破した二本のショーテルはマーリンの体をXの形で斬り裂いた。

 体を大きく斬り裂かれたマーリンは能力が解除されてしまい地面へと落ちていった。体を勢いよく打ち付けたマーリンは完全に意識を失ってしまった。

 

「こいつは幻獣種だから一応回収していくか」

 

『勝者ジャック』

 

「マーリンさんのことは……連れていかせる訳には……いかない」

 

「てめェなんぞアップ相手がお似合いだ」

 

「“錐龍錐釘(きりゅうきりくぎ)”!!」

 

「ウ……てめェはこっち側じゃねェのか!?“八宝水軍”首領(ドン)・チンジャオ!!……裏切ったなら踏み潰してやる」

 

 倒れたマーリンを連れ去ろうとしたジャックを止めようとカンツイがジャックの前に立ち塞がった。しかし創造海賊団の六傑まで登り詰めた実力者のカンツイをアップ相手と一蹴し、人獣型によって伸びた鼻で叩き潰そうとした。

 その鼻を止めたのは鋭く伸びたチンジャオの頭部だった。全盛期のように伸びた頭は全盛期からは劣るもののジャックと同レベルの覇気が纏われていた。

 不意打ちの攻撃に対応しきれなかったジャックは後ろに退いてしまった。不意打ちの攻撃だったため退いたジャックは直ぐに体制を整えて前脚を振り上げチンジャオの頭を踏みつけた。

 

「百獣んとこの小僧程度に私の牙は折れぬわァ!!!」

 

 チンジャオはガープにギャングとしての牙を折られて数年の時が経ち膂力や覇気は全盛期の半分程度まで下がっていた。しかし四皇の最高幹部ですらないジャックに負けることは八宝水軍の元棟梁としてのプライドが許さなかった。その“意志”は力として現れた。

 チンジャオの“意志”は彼の武装色の覇気を底上げし、全盛期の時に近いものを手に入れた。それが一瞬だったとしても同レベル同士の戦いだったのならその一瞬が勝利をもたらすこととなるだろう。

 ジャックはその一瞬によって吹き飛ばされてしまい、抱えていたマーリンを離してしまった。

 

「ひやホホホ……この老骨には厳しい戦いじゃった」

 

「ハァハァ……なに勝手に勝負を終えたつもりでいやがる……おれはその女みたく……この程度で倒れるつもりはねェぞ!!」

 

「……老骨に鞭打ってでも戦うしかないのか」

 

 ジャックはチンジャオの頭によって足の裏を“八衝拳”特有の内部への衝撃に貫かれて、全身に相当なダメージを喰らっていた。しかしそれをものともしないジャックの胆力と“動物(ゾオン)系”悪魔の実特有の回復力とタフさによって直ぐに立ち上がりチンジャオの目の前に立った。

 

「ここからはおれが貰い受ける!!」

 

「下がっておれサイ!!こやつは今のお前には手に余る相手だ!!」

 

 チンジャオがガープに頭を折られ、八宝水軍“棟梁”の地位をサイが受け取ったがその実力は衰えたチンジャオにさえ勝てない未熟者であった。

 そんなサイが四皇の最高幹部候補のジャック相手に挑めば一瞬で勝負は決まり、それどころかサイが生きていられる保証は何処にも無かった。

 

「てめェら雑魚が束になったところでなァ……おれは倒せねェんだよ!!

 

「――っ!小僧が舐めおって」

 

「舐められたままで黙ってられるかァ!!」

 

 まだ若いサイは安い挑発と分かっていながら乗ってしまった。“八衝拳”すら完璧ではないサイの攻撃はジャックの分厚い皮膚と覇気を突破することはもちろん不可能であり、簡単に受け止められてしまった。

 サイの“八衝拳”は未熟であるためチンジャオのように全身への衝撃を与えるどころか分厚い皮膚と覇気によって内部へ届きすらしなかった。

 自身が得意とする足技を構えもせず受け止められたサイは驚き、隙を晒してしまった。サイの攻撃を構えずに受け止めたジャックは自由に動かせる伸びた鼻を使い横に薙ぎ払った。

 

「ウ……!!」

 

 しかしサイに攻撃が当たることは無かった。サイに攻撃が当たる瞬間にチンジャオが攻撃を受け止めたのだ。……受け止めたと言っても脇腹でジャックの重たい攻撃をモロに喰らって閉まっているので骨は折れ、覇気も限界が来てしまった。

 もしここでチンジャオが倒れてしまったら、この場からジャックを解き放ってしまう事となる。

 六傑は総じて限界に達して、三英もマーリンは気絶、レオグロウは国民を守るために環境師団の指揮を採っている。そしてテゾーロは逃がしたペロスペローとクラッカーを捕らえるために港へ向かっているためジャックへの対応は難しいだろう。最高戦力であるディアンヌとキャンドラーもカイドウから受けた攻撃によって満身創痍だった。

 チンジャオがその事実を知っているはずがないのだが、長年ギャングとして培ってきた勘で今倒れては行けないと分かっていたのだった。

 

「……私は……ガープに敗北したジジイだ……じゃが!こんなことで倒れておったら……八宝水軍“元棟梁”として歴代の棟梁達に顔向け出来ぬわ!!!!

 

「……っ!?」

 

 満身創痍のチンジャオだったが残っている力を込めてジャックの鼻を掴み、空へと投げ飛ばした。そして頭に残った覇気を全て込めてジャックの巨体へと突き刺した。

 急なことだったので耳を動かして飛ぶことは出来ず身動きの出来ないまま角のように伸びた頭による攻撃を喰らってしまった。

 

「何度も言ってんだろ!!その程度の攻撃じゃあおれ達百獣は突破出来ねんだよ!!――!?」

 

「ここで退いたら男じゃねェ!!武脚跟(ブジャオゲン)”!!

 

 今までサイはチンジャオが隠居したため譲り受けた“棟梁”という肩書きにあまり自覚を持てなかった。八宝水軍が花ノ国の戦争に参戦した時もチンジャオが横に居たため“棟梁”としての仕事はあまりしてこなかった。

 そんなことからジャックの攻撃を守りもせず脇腹に喰らったのに攻撃によって骨が折れていたのにも関わらず攻撃に転じたチンジャオを見てサイは動けなかった。

 しかしチンジャオの言葉を聴き自分が“棟梁”であるということを自覚した。そんなサイはジャックの額へと蹴りを叩き込んだ。その攻撃は今までの蹴りとは一線を画す威力となった。

 

「ウ!!!」

 

 二人の衝撃を喰らったジャックは少し離れた場所へ落ちていった。チンジャオはこれまでに溜まった疲労から倒れてしまった。サイも限界を超えた威力を持った武脚跟を放った副作用から脚に力が入らず倒れてしまった。

 

「棟梁に戻るか?」

 

「ひやホホホ……一度受け取ったもんを返したら失礼じゃぞ」

 

「……楽しそうなところ悪いが四皇幹部はこの程度では倒れてはくれぬぞ」

 

「そうだ……おれはこの程度の攻撃で……倒れるほどヤワじゃねェ」

 

 声の主は気絶していた筈のマーリンと落ちた方からゆっくりと歩いてくるジャックだった。

 四皇幹部となってくれば新世界の船長クラスが気絶する程の攻撃だったとしても一撃で倒れてくれるほど壁は低くないのだ。

 昼間からカンツイ、マーリン、チンジャオ、サイとの連戦で半日近く戦闘を続けていてもジャックは動物(ゾオン)系……それも古代種ともなってくれば3日程度は余裕で戦闘を続けていられる程のタフさを持っている。

 

「こっから先は私も“獣”だ」

 

「……ハァハァ情報通り……夜が主戦場か」

 

 チンジャオによって稼がれた時間はマーリンに夜をもたらした。マーリンは夜が来たことにより戦闘能力がジャックと同等…―いやそれ以上となった。

 しかしジャックもこの事を知っていたのである程度の対策を持っていた。……それは何としても夜明けまで耐える、根性論だった。

 

「“血子達(チルドレン)”!!」

 

 マーリンが指先から地面へと血を数滴垂らすとその場からマーリンを小さくした分身体が五体産まれた。

 分身体たちはマーリンと同じスピードでジャックへと襲いかかった。分身体たちは阿吽の呼吸で動きジャックのことを翻弄した。

 

「鬱陶しいハエ共が……!!“旱象”!!

 

 ジャックは地面を踏みつけた。地面にはジャックの足跡がつき、ジャックを中心とした巨大なクレーターが出来上がった。その衝撃は自身となって周りに影響を与えた。

 ジャックによって起こされた人工地震は白ひげのものには劣るもののジャックの周辺だけなら同レベルの揺れが起きた。その揺れによってマーリンの分身体たちは攻撃を中断せざるを得なかった。そこにジャックは鼻を横に薙ぎ払って分身体たちを完全に消滅させた。

 

「やはり小手先の技では傷1つ付けられないのか」

 

「……別に効かない訳じゃねェ……覇気は削られるからな」

 

「君も知ってると思うが時間が無いんでね。出来るだけ早く終わらせるさ。“刺傘・血錐”!!

 

 夜になったことで昼間に放った同じ技とは思えないほどに威力が上がっていた。ジャックの覇気を打ち破り、硬い皮膚も突き破って内部へと突き刺さった。

 ジャックは傷から血を流した。その血を傘の周りに纏われているマーリンの血に吸われていった。

 

「ウ……!?(体が重くなりやがったか?)」

 

「老いってもんは思っている以上に辛いものだ」

 

(これがクイーンの兄御が言ってた攻撃か!)

 

 ジャックは血を吸われるのと同時に若さを吸われて若干だが老いが進んでいた。老いが進むことにより体の感覚にズレが生まれた。そのズレ自体は小さなものだったとしても一進一退の戦闘だった場合は大きなズレとなってしまう。

 

「体が追いついて居ないぞ。“刺傘・血錐”!!

 

 創造海賊団のナワバリで戦ったクイーンの時と同じようにジャックの眉間へと傘を突き刺した。武装色の覇気を流しているのは同じだが、前回と違うところは血を纏わせてドリルのように回転させていることによって威力が上がっている。そのため前回より海が遠いのだが、海まで吹き飛ばすことに成功した。

 

『勝者マーリン』

 

「前回みたいなギリギリの勝負ではなかったな。……向こうにはカイドウがいるからな……捕らえに行くのは難しいか……」

 

「……老いは厳しいのぅ」

 

「……首領(ドン)・チンジャオと八宝水軍の現棟梁だな。お前らも主犯格の一人だからな捕らえさせてもらうぞ」

 

 




マーリン→多分今のクイーンには結構劣る実力です。夜になってやっと同等かそれ以外ぐらいです。なので大看板に近い実力を持つジャックにも昼では勝てませんでした。
ジャック→まだ大看板では無いので二つ名が災害ではありません。でも実力なら大看板の二人に迫るものがあります。
チンジャオ→やっぱりロジャー世代の海賊は強いと思うので全盛期レベルなら大看板より若干下のジャック相手ならいい戦いをすると思いました。


 今回で一応六傑杯編は完結しました。この日の戦いは創造海賊団の今後に関わる大きな出来事なので、戦闘以外の話はもう少しありますが……。

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