英雄兵士監禁物語   作:木偶人形

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フラグ処理をミスった英雄の末路


師匠からの監禁

 戦っている。

 俺が槍を振るい巨大な二足の化け物と戦っている。

 二足の化け物は反則的で時間を操作して俺の周りの空間に遅くなる空間や早くなる空間、時が止まる空間やらやりたい放題やってくる。

 視界の端に、一緒に戦う兵士が見える。

 精鋭だと一目で分かるその洗練された動きは時間が操作された空間を見抜き一瞬で化け物に肉薄する。

 振り上げた剣が化け物に当たる直前にその動きが止まる。時間を止められたのだと端から見ていた俺には理解できた。

 時間の止められた兵士の瞳が、いや意識が、確かにこちらを見ていた。

 分かってる。兵士はわざと時間を止められている。

 化け物の意識が兵士に向かっているこの一瞬を作り出すために。

 

 化け物の腕が時間の止められた兵士の体を粉砕した。

 化け物は即座に周囲に意識を向けようとする。

 

 俺は既に槍を放ち終えていた。

 

 

 ▼

 

 

 俺は手枷足枷首枷+αを嵌められて自由を封じられた状態で地下室に監禁を食らっていた。

 

 えっ、なんで? 

 

 俺は確かあの化け物……時狂邪神を討ち果たし故郷へ帰ってきた筈だ。

 ただ足止めを期待されただけの決死隊である俺達が帰ってきた事に国は大盛り上がりだった。

 

 歓喜と絶叫半々で。

 

 どうやら倒した、ということは既に伝わっていたらしい。

 大体100年前に。

 

 そう、100年前である。

 俺の記憶では戦っていたのは大体一ヶ月程度だ。時間感覚が曖昧で交代で戦ってたからかなりあやふやだが大きく外れてはない筈。

 精鋭100人の対時間操作装備を身につけた俺達はその後に控える英雄だけで組まれた本隊が準備を整えるまでの足止め、そして情報収集が主な役割だった。

 

 必ず死ぬと分かっていたので家族に別れを告げて覚悟を決めた俺達は少しずつ王都に進行する時狂邪神に立ちふさがった。

 

 思ったよりやばくて一瞬で二割の兵士が消し飛ばされたり、あっこれ英雄本隊にぶつけたら何も出来ず三割死ぬな、と理解してしまったばかりに俺らは伝令に三人送るだけで全員で足止め度外視で殺しにかかった。

 殺すには数が必要だと確信したからだ。

 それに……三割に俺の愛した師匠が居たのだ。仕方のない事だった。

 

 ちなみに師匠に俺が決死隊に入っていることは秘密にしてあった。

 多分止められるだろうなぁ、とおぼろ気ながらにも確信したからだ。そうなれば決心が揺らいでしまう。

 

 いや、だからなのだろうか。

 今俺がこうして拘束され、監禁されているのは。

 

 何を隠そう俺を監禁したのは師匠である。

 一瞬で意識を刈り取られたから断言は出来ないがおそらくは師匠だ。

 

 俺達決死隊の生き残り総員5人が帰ってきた後、現在の王へと謁見を許された。

 俺達5人は現在の王ガイディストンへと謁見。その際現在の重鎮を一目見る機会があったのだ。

 

 そこに居た。

 師匠が、居た。

 100年前と変わらぬ姿で、そこに立っていた。

 師匠は長命種だった。精人というらしい。

 後に聞かされて初めて知った。

 

 まぁ、それは置いておこう。重要なのはその時の師匠の目だ。

 こう、何というか……敬愛する方へ向ける言葉ではないが……こう、濁って……粘度と熱量が高かった。

 

 初めて見る師匠の一面にびびりながらも謁見は終了。

 独断で足止めから討伐に切り替えるという命令違反だったがそれも邪神討伐の功績で相殺、それどころか相殺しても有り余るということで向こう50年は働かないで済むくらいの権利と金を手に入れたのだ。

 

 そして、その夜。一度実家に戻ろうと支度をしている途中に……という経緯である。

 

 何だ、何がいけなかったのか。

 あれか? 伝令役に私用と理解しつつも師匠への伝言を頼んだのがいけなかったのか? 

 それとも決死隊が邪神と遭遇するくらいのタイミングで届くようになっていた手紙が原因か!? 

 

 しかし、しかしだ……俺は師匠に監禁されるような恨みをかった記憶はない。

 今上げたどれかが琴線に触れたのなら仕方無いが……100年たった今でも蒸し返されるような事ではない、とは思う。

 

 壊れないかなぁ~無理かなぁ~

 腕や足に力を込めて枷を引っ張ってみるがびくともしない。ただの鉄枷くらいなら軋みを上げるくらいはするのだが……この枷は一体何製なのだろうか。

 魔法を使おうにも魔力が拡散されまともに形にならないし……ていうか今更ながら俺上半身裸じゃねぇか道理で肌寒いわ! 

 

 四苦八苦する俺の耳に足音が届く。

 どうやら俺をこの場所に監禁したご本人様……というか師匠のお出ましだ。

 

「久しぶり、いえ先程ぶりですね。ユート……覚えていますか? 私ですよ、メロディアです」

 

 ユートっていうのは俺の名前。

 しかしですね師匠、と声を出そうとしたら出なかった。

 あっ、そっかぁ! 俺今口もふさがれてるんだった! 

 声がでないものは仕方無いのでんー! んー! と唸り声を上げて返事をする。

 鎖をとけー! 解放しろー! というか師匠の名前を忘れるわけ無いでしょ……どうしてそんなことを聞くのか。

 

「そうですね、忘れるわけありません。私もあなたの事をずっと覚えていました。一時足りとも忘れたことはありません」

 

 おぉ……それは、何というか普通に嬉しい。

 師匠には俺の他にも何人か弟子が居たしな、しかも魔法が不出来で槍を持った俺とは違う純粋な魔法使いの弟子が。

 それなのに一弟子に過ぎない俺の事を忘れないで居てくれたのは感動だ。

 俺は拉致監禁の目にあっているのに感動で目が潤むのを感じた。

 

「えぇ、忘れた事はありません。あなたが消え、決死隊として邪神と戦っていると聞かされたあの時も、邪神が消えても決死隊が誰一人として見付からなかったあの時も、一年が経ち国が復興し始めた時も、三年が経ち他の者に笑顔が溢れた時も、十年が経ち他の国へ客将として復興に手を尽くせと命じられた時も、二十年が経ち復興の目処が立ち暇をいただき邪神が消えた周辺で死んだように過ごしていた時も───」

 

 ん? 流れ変わったな。

 涙は引っ込んで何か薄ら寒いものを感じる……まだ冬じゃない筈だが。

 

「───五十年が経ち最後の弟子が死んだ時も、八十年が経ち死んだように生き惰性だけが残ったあの時も……百年が経ち、決死隊が帰ったと聞き、一抹の希望に掛けて国王を脅して無理矢理謁見に参加した時も」

 

 一歩一歩ゆっくりと師匠が近付いてくる。

 背筋に冷たいものを感じるが声も出せず動けない俺は唸り声をあげることしか出来ない。

 えぇ、何があったの……

 さらっと言ってるけど国王様脅したの? マジ? あの厳格で公平な師匠が? 嘘でしょ? 

 俺は全力で全身を蓑虫の様に動かして脱出を図るがカシャンカシャンとむなしく音を立てるだけで無意味な抵抗と終わった。

 

 ししょ──! これ解いてー!! 聞きたいこと山程なんですけど──!! あっ、やっぱ無しそんな光の灯ってない瞳でこっちを見ながら近付いてこないで!? 今まで希にしか見たことの無いくらいの優しい表情も相まって信じられないくらい恐怖を感じる。そして恐怖と共に俺は安心感と虚脱感を……やべぇこれなんか魔法掛けられて……っ! 

 

「気付きますか、あの時のあなたでは気付ける筈の無いのですが」

 

 そりゃあ一ヶ月も何かが間違えたら即死の地獄に身をやつせば色んなものに敏感になりますよ。魔法や魔力の気配が感じ取れなかったら歩くだけで右手と右腕が時間の差異でちぎれ飛ぶような空間だったのだ。

 いやそれよりも誰か来てくれ──っ! 殺され……はしないと思うが何をされるか分からなすぎてそれが逆に怖すぎる! 

 アカイーー! ヤメドォー!! 後の二人は使い物にならなさそうだからいいや。助けてぇぇーー! 

 俺は心の中で頼れる戦友にテレパシーを送る。当然そんな魔法は元から使えもしないので助けは来なかった。

 

「おとなしくしなさい」

 

 師匠が俺の胸に手を当てる。

 小さく、精人故の冷たい手だ。

 そして、そこから何かを流し込まれる。

 魔力? 多分魔力だ、それも俺の体内に存在する魔力に干渉しないように……いや違うわめっちゃ干渉してきてるわヤバイヤバイ意識が飛ぶマズイマズイ! 

 

「やはり属性が変わっている……邪神の影響、異界での長期間の戦闘故?」

 

 えっ属性変わってるの? 

 血液型が変わりました! みたいなレベルの衝撃的事実をほんのり聞かされた俺はしかし全身を縛られた挙げ句魔法まで封印されているのでどうしようもなく全身を駆け巡る魔力に抵抗できずに意識が飛んだ。ぐぇっ!




白目剥いて気絶した……
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