英雄兵士監禁物語   作:木偶人形

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それは知らない

 尊厳は破壊されました。

 

 結論から入ったところで俺は椅子に座ってメロディア様に渡された日記帳に日記を書いている。机も壁の端っこにちょこんと備え付けられている。

 地獄の3分間を乗り切った後に飛んで来た虫と戯れてた俺にメロディア様が渡したのだ。

 何でも自分の体の変化に関する事、気づいたこと、何をしていたかなどを自己申告制で書き留めるらしい。成程、俺も魔法の実力はともかく知識はあるし精霊術に関しては一端なものだと自負している。

 という事でこの部屋から出ない、という事を条件に鎖から解放されることになった。まぁ、手足を縛られてたら文字なんて書けないから当然だろう。

 あと肉体は健康体なので鍛錬に関する許可ももらった。メロディア様は少し考えこんでいたが俺の体を一通り観察した後、何かをひらめいた様な表情をした後許可をくれた。長い木の棒も貰えたので最低限の槍の鍛錬も出来るだろう。部屋の広さ的には……まぁ素振りは無理か。

 精霊術は諸事情によって現在使えない。故に暇つぶしはメロディア様と会話するが訓練することくらいしかなかった。

 という事で一通り筋トレとアカイに教えてもらったユウサンソ運動とかいうのをやっていたんだが、途中で汗ヤバくね? となり一先ずこうして日記を書いているという訳だ。魔法をバレない様に使うか消臭剤か何か持ってきてもらわねば……

 メロディア様は現在食事を取りに行くと言って席を外している。正直自分にそんな手間を掛けさせているのがものすごく心苦しい。排便? それ以上つつかれると心がひび割れるのでNG。

 日記を書くと言っても書くことが無さすぎるので今上げたことを書くに留まっているんだが……こんなものでいいのか? 

 うんうんと悩む俺の耳に扉の開く音が届く。

 

「ただいま戻りました…おとなしくしていましたか?」

 

 メロディア様だ。

 メロディア様がこの部屋に入るときノックする事や声を掛ける事は無い。普通にドアを開けて普通に入ってくる。遠慮とか俺が中で何をしているとか全く考えていない様に思える……

 運動している時は上半身裸になるしその時に入って来られたら普通に気まずい、のだが……一先ず俺はメロディア様を出迎えた。

 お疲れさまですメロディア様、この扉と壁、音と魔力を一切通さない仕組み何ですよね? 原理は分かりませんがそのせいでいつ帰ってくるか予期も出来ませんでしたよ。

 

「そうですね、不測の事態に備える為に素材から魔術刻印までこだわって仕上げていますから……時間は無限に思えるほどにはありましたので」

 

 不測の事態……? メロディア様は部屋を見渡してまた何かを確認している。

 それにしても不測の事態……額面通りに受け取るんだったら俺が暴走する、精霊堕ちする事、か? 

 答えは出せない。まぁ、急いで出す必要もなさそうなので一旦思考を置いておき、メロディア様に話しかける。

 出来ればですね、見苦しいモノを見せてしまう可能性があるのでノックとか声掛けをしていただければ嬉しいんですが……俺はさりげなくノックの重要性を説いた。

 ちらりとメロディア様を窺う。メロディア様はゆったりと歩を進め俺がさっきまで使っていたベッドに腰を掛ける。さっきから、いやずっと? 俺がここに拘束されてからずっとメロディア様が何かを気にしている。俺にはそれが何か分からない。今の俺では手助けも出来ないだろう、原因が俺かもしれないのだから。

 俺に観られている事はメロディア様も分かっているだろう。気づかれないはずも無い。しかしメロディア様はひどく柔らかい笑みを浮かべながらゆったりとベッドに体を横たえる。

 

「見苦しい? あなたの存在も、成す事全て私は愛おしく思っていますよ? 羽虫は消えてますね

 

 むぅ……そう言われてしまえば何も言い返す事が出来な…いやそんな事は無いな。普通に俺の心情的な問題もあるのでここは引いてもらいたいんだが……しかし妙だな? メロディア様は他人が嫌がる事はしない人だったぞ? この百年で変わったのだと言われればそれまでだが……違和感が―――ん? 俺は今、何を考えていた……? 

 あれぇ? 何だっけか……何か最近ボケてきたよなぁ。いや心当たりと言うか原因は分かってるけど……やっぱり理由が無いしなぁ。

 そんな事よりも、確か……そうだドアのノックだ。遠回しにするよりも直接言った方が良いか? そうしよう。

 メロディア様が気を遣ってくれても俺が恥ずかしいのですよ。鍛えてる自負はありますが恥ずかしながら人に見せる、見せれる様な肉体美は備わらなかった様でして。これがベルモンドの奴やアカイの奴なら話は違うんでしょうけどね。

 その上師とはいえ女性、メロディア様の様な美しい女性に見られるのにはやはり心の準備と言うのは必要でして……

 一旦話を止めて、チラリとメロディア様の様子を伺う。変わらず優しい笑みで俺を見詰めてくれているが……これ話聞いてくれてるのかな? 不安になるがリアクションが無いので続けるしかない。

 これまた俺の勝手な事情なのですが、俺女性とお付き合いした事がないんですよ。もう歳も30近いのにおかしいでしょ? 

 恥ずかしいエピソードで同情を誘うテクニックだ。自爆を諸ともしなかったり、覚悟さえ決まれば使えるが弱点を晒していく諸刃の剣……効果の程は、あった。今まで動かなかったメロディア様が初めて身体を起こした……行けるか? ここでちょっとしたジョークを入れて笑いに変える…っ! 

 まぁ、そう言うこともあってですね、まともに女性に触れたのなんて娼館に行った時ぐら、い……? 

 いつの間にか立ち上がっていたメロディア様が、見たこともない優しい笑みで、見たこともないくらい感情の灯らない瞳で俺を覗き込んでいた。

 は、はは……苦笑いしながら顔を反らそうとした俺を両手で確りと固定し逃げられないようにされる。

 視界の端が歪んでいる。それは幻属性の魔力密度が非常に高くなった時に見られる魔法現象だと、混乱し止まった思考の隅で理解する。

 

「………」

 

 ただ無言で感情の灯らないガラス玉の様な透き通る瞳で俺の目を見詰めるメロディア様。俺は逃げることも出来ずただただメロディア様の言葉を待っていたが我慢できず、何とか一言だけ絞り出す。

 め、メロディア、様? 

 

「…………そうですね、そういうこともあるでしょう。あなたは男で、よく友人達と共に魔物を狩りに行っていました。人間は生命の危機に瀕すると種を残そうとする本能が働き、性欲が高まるらしいですね」

 

 そっ、そうです、ね……

 俺はどうにか言葉を捻り出す事で精一杯だった。唸るような魔力が! 属性は違うが邪神の領域内に近いぐらいの属性値の高まりを感じる……? 

 余計な事を言えば消される……っ!? でもその余計な事が何処に当たるかが分からない。一先ず肉体関連と女性関連、娼館の話は一切口に出さないようにしよう。それ以上に出来ることは……思い付かない。

 だからじっと、じっとメロディア様が何かをするのを待つ。こうして荒ぶる理由は分からないが、訳もなく俺を殺すようなお方ではない。

 どれくらいこうしていただろうか、メロディア様が一度長く瞳を閉じて……開いた時には既に、俺の良く知るメロディア様に戻っていた。

 

「……今はもういいでしょう。すみませんでしたねユート、取り乱しましたよく考えればその上から塗り潰せば問題はありませんね

 

 それは、いいんですけど……

 気にはなるがどうしてそこまで心を乱したのかの理由は聞かない。最悪悪化して今度こそ俺は死ぬだろう。

 メロディア様は一度深呼吸をして、首をかしげた。そして何度かすんすんと鼻で空気を取り込み、俺を見た。

 なんででしょう? 危機を乗りきった筈なのに嫌な予感が止まりませんわ! 

 

「ユート、あなたから少し汗の匂いがしますね……そう言えば身体を拭くものを用意していませんでした。これは私の失態ですね」

 

 そんなことはないと俺は反論する。元はと言えば俺が考え無しに運動を始めたのが原因だ。やるならやると事前に報告し、誰かにタオルか何かを持ってきて貰うようにお願いをすべきだったのだ。

 

「ふふ、そう言う自分に責任を求めるところは変わっていませんね……私の記憶にあるユートのままです」

 

 そりゃあ俺からしたら一ヶ月の話ですからね、大きな転機、刺激になり影響されなかったとは言いませんが根っこはそう簡単に変わりませんよ。

 メロディア様が小さく、花が綻ぶ様に笑い、俺もつられて笑みをこぼす。

 気のせいかもしれない。だが、今ようやく俺達はあの頃に戻れたような気がしていた。

 メロディア様が微笑みながら指先で俺の首筋をなぞりながら口を開く。

 

「そうですね、あなたがいなくなってからの100年。変わってない所の方が多いのですが変わったところもあるんですよ?」

 

 変わったところ? 城下町を少しだけ歩いた限りその様な変化は感じ取れませんでしたが……

 俺は首をかしげる。そう、あんまり変化が起きていない。おそらく壊された町や道路を建て直したり国を立て直したりで発展に使う力が足りてなかったのだろう。変化があまり無かったから俺達は謁見の場、その打ち合わせの時初めて100年の時間が過ぎていたことを知ったのだから。

 

「遠方の国から輸入した技術で作ったテルマエとバルネアという物なのですが……今では大きな町では必ず一つはあるという必需品となっています」

 

 テルマエ? バルネア? 聞いたことがない。遠くの国からか……100年という時間はやはり大きな壁として立ちふさがるようだ。謎知識を多く持つアカイなら何か知っていただろうか。

 

「テルマエは民衆向けで公開されています。その小さいものがバルネアと言い双方身体の汚れを落とし、癒す事に優れています。この場所にも一つ、バルネアがあります」

 

 成る程、そう言うことなら俺はそのバルネアというものに行けば良いのか。

 なら早速向かいたいな、メロディア様に不快な思いはさせたくないし。

 

「えぇ、案内してあげましょう。目隠しをして貰いますが……大丈夫です、道案内から使い方まで全部、教えてあげますからね」

 

 メロディア様の手を煩わすのは忍びないが……これは仕方ないか、メロディア様の代わりに雑用を頼める人材が切に欲しい……

 

 俺は目隠しをされて、メロディア様に連れられるまま、また部屋の外へと歩き出した。




⊂二二二( ^ω^)二⊃ブーン
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