英雄兵士監禁物語   作:木偶人形

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のぼせて沈むの

 湯という人肌の温度よりも少し高く設定された温められた水から湯気が立ち上る。

 火の魔法、それを閉じ込めた魔石を使い水を温めているのだとメロディア様は言っていた。

 成る程、これは素晴らしいものだと感心するしかない。水浴びや濡らした布で身体を拭くことで身体の汚れを落として気分がスッキリするのは周知の事実だがこれは格が違う。

 身体の汚れ事態は湯に入る前に専用の魔法薬を身体に塗り、これまた湯で流す事で綺麗になった。正直なところ俺はこの時点で終わりだと思っていてまさかたっぷりと湯が張った場所に体を沈めるとは夢にも思わなかった。

 体が暖まり清潔を保て、リラックスして休めることができる施設なのだろう。

 本来ならば。

 

「湯の加減はいかがですか? 熱くはありませんか?」

 

 メロディア様の声が直ぐ後ろから聞こえる。

 俺は何とか捻り出した声で丁度良いと伝える。

 

「そうですか、それは良かった。私の様な存在は熱などに疎いですからね、人間に丁度良くなるように調節はしましたが……個人差があるようですから」

 

 そ、そうですか……気遣っていただいたおかげか初めてなのに非常に気持ちよく堪能させて貰っています……

 本当に気持ちよくて体が安らぐのだが心は一切安らいでいない。常に緊張状態ドピークを維持していると言っても過言ではないだろう。

 常に心臓と神経はフル稼働している。

 この場に一緒に居ると言ってもメロディア様はちゃんと衣服を着ている。濡れても良い衣服を……というか魔力で構築した疑似衣だ。だが濡れたら透けるし、こんな密室で湯気がたっている場所に長時間居れば水分を含み肌に張り付く。

 俺はメロディア様を尊敬しているし敬愛している。

 だがメロディア様は美しく愛らしいお姿をしておられ、俺のようなカスな男は本能的にそう言う目で見てしまう可能性が否定できない。

 さっき魔力を浸透させて貰った時も危うかったし俺はもう自分が信用できない。メロディア様を一度そう言う目で見てしまえば……なんと言うか、こう死にたくなる。

 というか、だ。何故にメロディア様にこんな事をやらせているのかという疑問が沸々と湧いてくる。雑用の治療師も一回も見付けていない。影や音すら聞いてない。

 あり得ないことだが、そもそもそんな存在は居ない、という可能性も視野にいれないといけないかもしれない。そうなれば何故? という疑問が更に沸き上がる事になるが……

 俺はそれとなく、探るようにメロディア様に話を持ち掛ける。

 このような広さの洗い場、バルネア……浴場と言いましたか。清掃にも一苦労しそうですね。やはり何人か雇い入れたりしているのでしょうか? 

 

「いえ、そんな事はありませんよ。普段は使いませんし……精霊魔法を一つ使えば清掃も整備も問題ありません」

 

 精霊魔法……? 精霊に掃除させているのか……? 

 いや、そっちの考察は置いておこう。問題はそれらしき人材を雇っている、用意している様子がないことだ。匂わせすらしない。

 一度切り口を変えてみるか……俺の勘が本当に誰も居ないよ! と囁いていくるが俺は信じないぞ。国絡み組織絡みじゃなきゃ俺の原状って普通に拘束監禁状態だし……

 俺は何だかぼぅっとしてきた意識の中でそんな風に思う。

 メロディア様の足音が直ぐ側まで近付き、止まったかと思うとちゃぽん、という水音が直ぐ横から聞こえた。

 驚いて思わず視線を向けると、衣をまくり、素足をさらけ出したメロディア様が足だけを湯に付けていた。

 

「……こうしているとあなたが小さかった頃を思い出しますね、あなたが私の元に来たのは8つの時でしたか。よく汚れて帰ってきたあなたを濡らした布で拭いて綺麗にしたものです」

 

 ガキンチョの時の話は勘弁してください。

 引き取られた先の親切なお姉さんがまさかその時代の最高峰の魔法使いって誰が想像できる? 事前情報無しだぞ? いや知ってても遠慮無く世話されてたか。

 

「私も子供を世話したのは初めてでした……大変でしたが、あの日々は本当に……楽しかった」

 

 メロディア様の、ため息混じりの昔を懐かしむその言葉は……気のせいでなければ俺の想像以上の感情が込められていた様に思う。

 

「だからこそ、あなたが消えたあの日は今もずっと忘れられません」

 

 メロディア様……それは……

 

「聞きません、聞きたくありません。今は、まだ」

 

 弱々しく、震えている。メロディア様の声に俺は何も言えなくなってしまう。俺は有象無象畜生どもには強気に出れるがメロディア様には頭が上がらないんだ。

 それに、こんな弱々しいメロディア様は見たことがない。魔力、魔法については研磨されているかもしれないが……今のメロディア様は非常に繊細で、脆く見えた。

 勘違いでなければ……その精神が、酷く磨耗していて危うく感じる。まるでそう、自殺志願者一歩手前の様な……いや流石に穿ち過ぎか。ただの想像にしても失礼すぎる。

 だが脆く見えたのは確かだ。治療が終わったとしてもしばらくはメロディア様の近くに居ることにしよう。勿論メロディア様が許してくれたらの話、だが。

 この100年で新しく導入された技術も気になる。異国から移入されたのがテルマエ、バルネアだけと言うこともないだろう。新技術、知識は心が踊る。

 残り短い人生だ、何をしても悔いの残らないようにしないとな。

 俺は天井を見上げるように顔を上げる。

 頭が熱せられて深く考えることができない……頭を回しすぎたか? 思えば戦いの後帰ってきてからあんまり休めてなかったような気がする。

 この感じ……覚えがあるんだが何処でだっけか? 熱、熱さ、暑さ……そうだ、火山近くまで行って長時間居た時と似てる……やばくね?

 俺は急いで立ち上がろうとするがふらついた頭では難しくてしりもちをついた。

 

「あら、のぼせてしまいましたか?」

 

 のぼせ、というのがこれなのならばそういうことだろう。熱射病というのに似ているが……メロディア様の態度からして良くあることなのだろうか。

 

「そうですね、体が弱い子や初めて入る子は多いですね。しばらく涼しい場所で水分を取って休むと治ります」

 

 成る程、俺は長時間浸かりすぎたみたいだ。

 早く出て涼む事にしよう。

 ふらついた足取りで大事なところだけは隠しながら出口を目指す。

 

「手伝いましょうか?」

 

 勘弁してください……

 

 俺は意地と気合いで何とか体を拭き上げ、衣服を纏う。手枷足枷がビックリするくらい邪魔だったが何とか着衣に成功。目隠しされながらもどうにか部屋に辿り着くも……そこで力尽きた。メロディア様に申し訳無いが少しだけ時間が欲しいと伝える。

 

「良いのですよ、一度休みましょう」

 

 メロディア様に促されるまま横になる。

 ぼぅっとした意識の中冷たい感触と共に視界が真っ暗になった。火照る身体にひんやりとした感触が心地好い。

 

「そう言って貰えるとこの身体も良いものと思えてしまいますね」

 

 ……? 今の発言に違和感があったがそれを特定できない。意識が段々と闇に沈んでいく。

 優しく頭を撫でられる、気持ちが良い、頭を撫でられたのは何時ぶりだろう……もう俺も良い年だし、当然だがそんな機会は皆無だ。有ってもそれはそれで恐いが。

 ……意識が微睡む。

 

「眠りなさい、食事はその時で良いでしょう」

 

 …………眠い。

 数分か、数秒か、時間の感覚が無くなっていく。

 

「眠りましたか……」

 

 遠く、音だけが聞こえる。

 意識の落ちる瞬間の水の中をふわふわと漂う感覚の中で、垂れ流される様に、音が、じんわりと流れ込む。

 

「私はあなたを愛してる 恨んでる、置いていったことについては許します 赦さない。責任を取ってずっと 永遠に、死ぬまで 死んでも、共に二人 だけ で在り続けましょう」

 

 ──────

 

あなたはもう、私のもの、掴んで、離さない

 

 滲んで、沈んで、落ちた。




よく眠るようになったね。何かあったのかな
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