英雄兵士監禁物語 作:木偶人形
まだ日が高い昼下がり、魔導の塔と呼ばれるこの国の魔法使いが日々研究に勤しむこの施設の最上階。そこに作られたテラスで俺とメロディア様は午後のティータイムを楽しんでいた。
何故そんなところで、と思われるかもしれないがこの魔導の塔の仕組み的に上にいけばいく程に施設が整っており、国に貢献した魔法使いはそこに個室を与えられる。まぁ、研究室だな。武器を持って日々体を鍛える戦士とは違い、魔法使いは文学の分野でもある。勿論フィールドワークとして各地に赴いたり、研究の一環で実験として外で魔物と戦ったりはするが基本はペンと紙を使って理論立てた研究だ。
そこで話は戻るのだが、より上位の魔法使いになれば研究するのにも機材などの都合でスペースが必要になる。時間も掛かり、丸1日……いや何日もそこで過ごすことも頻繁に起きうる。たがらこそ有能で貴重な魔法使いには集中して研究して貰おうと何代も前の王がこの施設を用立てた。最初は不便だったらしいがな? そらそうだ、上に行く程より良い設備を~って施設や何やらがかさ張ってどうやって持ち込めってんだ。そこで最初の賢者様が考え出したのが昇降機っていう自動で上に登る事の出来る乗り物だ。これおかげでクッソ重い実験器具や素材についでに人をいとも簡単に運ぶ事が出来るようになったんだ。正直な感想で言わせて貰うと……この発明が無かったらこの施設早々に廃棄されてたんじゃねぇかな?
とまぁ、そんな施設の最上階は一フロア丸ごと所有物のような扱いになる。ようなっていうか完全にその通り何だけど。
勿論だが俺にそんな力はない。
と、色々くっちゃべって説明文を立て並べてみたが俺が何でこんなところでメロディア様とお茶しているかの説明には一切なってないだろう。
ということで簡単に説明すると……俺は魔法の師匠に呼ばれてこの研究室に伺ったらお茶に誘われたのでご相伴にあずかっている、以上。
何故呼ばれたのかはまだ知らない。俺はお茶菓子として用意されたクッキーにパクついた。ふむ、流石メロディア様何気なしに置かれているクッキーでさえ超うまい。バターの香りがほんのり香りやがる。ここで紅茶を一口……うまい! 俺は正直なところちゃんとした紅茶の楽しみ方を知らないからな、自分がうまいと思う飲み方しかできない。ちゃんとしたお茶会では落第なのだろうが、メロディア様は気にしないからと許してくれている。
おや? 高級な紅茶の香りと味をクッキーと一緒に味わっているとメロディア様が音も立てずに紅茶のカップをカップソーサーに置いた。美しい所作だ、思わず見惚れてしまう。
メロディア様が俺に話を振る、他の弟子はどうしているか、他の派閥と衝突していないか、体の調子は、不眠症はまだ続いているのかなどの他愛のない、他の魔法使いから見れば中身の無いと言われるような会話に花を咲かせる。メロディア様の弟子ではない魔法使いからは時間の無駄だと言われるこの他愛のない会話が俺は好きだった。
話が一段落付き、改めて淹れ直した紅茶で唇を湿らせたメロディア様が。改めて口を開いた。
「ユート」
はい、何でしょう。
「人工精霊の経過を教えて貰えますか?」
えっ? あぁ、はい……少々お待ちを……
俺は首をかしげながら
そこら辺も含めて、レポートには書けなかった俺の個人的な主観も交えてもう一度伝えていく。
しばらく俺の話を目を瞑りながら聞いておられたメロディア様だったが、ある程度説明がひと段落したところで目をゆっくりと開いた。
「一度見せてもらっても?」
構いませんが……何か気になる点でも?
「……いえ、気にする程の事ではありませんよ。ただ一度確認を、と思いまして」
確認…? 気にはなったが別に断る事でもないので俺は体の中の精霊を魔力を特定のパターンで流すことで賦活させる。何故特定のパターンなのかは俺がふとした時間違って精霊を呼び出さない様に精霊に覚えこませた。いわばダイアル式の鍵だな、暗証番号は俺だけが知っている。この方式は様々なものに応用されている今では基本的な魔術だ。
俺の背中……ではなく足元の影から俺の人工精霊であるピアが立ち上がる。そう、立ち上がった…様に見えた。つまりは足、という部品がこの精霊に備わった、模倣し形成した……という事だ。俺は何度か精霊に指示を出したり戦闘に参加させたり実験に付き合って貰ったりしたが姿形を変えろ、何かの真似をしろという命令を出したことは無い。足や腕などと言う四肢は精霊には本来必要のない部位だ、必要に駆られて……という訳でもないのに形作っているという事は……俺が考えるに、精霊に意思らしきものが形成されて行っている……と思う。
メロディア様が席を立ち、じっくりと端から端まで人工精霊ピアを観察していく。
「確認ですが、指示に逆らう、またはためらいを見せるような素振りはありませんでしたね?」
それは勿論であると俺は頷く。俺は自分が弱い事を理解している。棒振りにも手を出しているが前線を張れるような腕前ではないことも。
だからこそ人工精霊という自ら生み出した存在にこそ警戒は怠らない。だからこそ自信を持って俺はその様な素振りは一切ないことを伝えた。
「そうですか……また変化があったのなら直ぐに私に伝える事、いいですね?」
それは勿論そうさせていただきます。俺は頼っても良いと言いむしろそうしないと怒るというメロディア様の言葉に感謝しながら頭を下げる。
メロディア様は俺の返答に一度頷くと凛とした表情のまままた席へ戻り少しだけ冷めた紅茶を啜った。
「この話はこれくらいでいいでしょう。あなたも座りなさい、次の来訪まで時間があるのですが研究に戻るには短い……少しの間、付き合ってくれますね?」
本当にメロディア様はお優しい方だ。レポートで俺の報告を聞いて人工精霊の暴走の可能性を危惧し直接見る為に俺を呼びつけたのだろう。この人工精霊は未だ一般公開していない技術だ、他の魔法使いの目についてしまう場所では呼び出すことは出来ない。
勿論何気ない近況報告などしたかったのも本当だろう。言ってはあれだが……メロディア様は他の弟子達から恐れられている……は言い過ぎだが雲の上の人扱いされているからな。誰かを贔屓する事が出来ないメロディア様は弟子が困っていると薄々感じとれても深く踏み入ることが無い。その弟子が相談する等すれば話は別だが……問題が表面化するまで手出しは出来ない。
しかし気にはかけている様で、時折俺に誰々は大丈夫か、誰々を気にかけてやってくれないかというお願いをされる。俺はメロディア様からのお願いなら是非もないし、メロディア様の心労を少しでも減らせるならと動く。その結果仲良くなったメロディア様の弟子同士で勉強会したり、研究結果を見せて貰ったりしたりで万々歳だ。
俺はメロディア様の誘いに勿論喜んでと返事をし、精霊を戻してまた席に座る。
メロディア様の暇つぶしの任を戴いた俺は、何の話をしようかと考えながら紅茶を飲もうとして手元のカップに視線を落とした。
紅茶の琥珀のような水面に俺の顔が映っている。
カップを持ち上げ、口元へ運び、乾いた口内を湿らせるように一口含む。上品な香りが鼻を突き抜ける。
考えは纏まった、カップをカップソーサーに戻す。
紅茶の琥珀のような水面に俺の顔が映っている。
だがおかしい、髭が生えている……歳をとっている!? 違う、これは…これは
弾かれるように顔を上げる。
そこは既に魔導の塔のテラスではなかった。それどころではない、空が、地面が、世界が様々な光景に切り替わり、固定され、また切り替わっていく。
俺の体は何もかもが止まったかのように動かない。
夢でも見ているのか、幻でも見せられているのか。
何もできず眺めている事しかできないのはまるで時間が止めらているかのようで……
時間が止められた
時間……時
世界の切り替わりが止まった。
何なんだこれは……?
「ユート」
背後から声をかけられる。知った声だ、最近まで隣で聞いていた声。
俺は勢いよく振り向いた。
そこには全身を鎧で固め、抜き身ではないものの剣から手を離さない友の姿……アカイの姿があった。
二つの力が干渉している