英雄兵士監禁物語   作:木偶人形

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ゆめ うつつ2

「ユート、お前の知識が必要だ」

 

 俺は……ここは一体……そうだ、ここは野営地だ。

 あの邪神と戦った時に使った前線拠点。

 

「ありがとう、こっちに来てくれ……中でヤメドが待ってる」

 

 ……? 俺は何も言っていない。それなのに勝手に話が進んでいる、それだけじゃない俺の体も勝手に動いている。

 ここで俺は究極の違和感に気が付いた。

 俺……浮いてる? 

 俺は浮いていた。俺は俺を見下ろしていた。どうして気付かなかった……? ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 分からない、だがただ事じゃないことは分かる。

 俺は俺? の上で固定されて動けないし成り行きを見守るしかない。

 

 俺? はアカイに連れられるままに仮設テントの中に入った。

 中には一人の男が立っている。全身武装しているのは同じだがアカイのそれよりも軽装、軽く作られた鎧を身にまとっている。

 頭部を保護するヘルムは今は脇に抱えられておりその素顔がさらされている。短く切られた坊主頭で強調された鋭い目つきがテントに入って来た俺を射抜いた。

 

「……そいつを呼んだのかアカイ」

 

「仕方ないだろ? 精霊術と魔法の深い知識を持った奴が必要なんだ」

 

「チィ……」

 

「納得しろ。とは言わないけど理解してくれ、アレは本隊とぶつけちゃいけない。最低でも本隊が作戦を練り直す時間が必要なんだ。分かってるだろ? ()()()

 

 この男はヤメド。近衛騎士の勧誘を蹴ってまで巡回騎士をやっていた筋金入りの魔物殺し。巡回騎士は魔物の発生の度に出動し魔物を殺す民の守護者だ。その標的には山賊や犯罪者なども含まれるために人を殺す必要がある為に一定以上の強さと精神のタフさが無ければ潰れてしまう。故に選抜基準は近衛兵並みに厳しいのだが……こいつはその試験を通り抜け十年以上巡回騎士をやり続けている変態だ。

 

「だからと言ってコイツである必要性を俺は感じないがな……何で伝令に回さなかった?」

 

 この男がこうして冷たくあしらうような態度を取るのも半分はやさしさから来ている。半分は計算だ、戦術的に見ても俺はそこまで強く突出していない。伝令部隊に回されたのは後に続く本隊に貢献できる人材だ。魔道具の作成や、知識を持ち、邪神に対応するための情報を正確に伝える事の出来る人材が選ばれた。

 ヤメドが言う通りそれは俺でも出来たことだ。いや、もしかすると……時狂邪神の性質から見るに俺が最も適していたかもしれなかった。

 

「いいや、ここに残るのはユートでなければダメだ」

 

 だが、アカイはそれでも残るのは俺だと言い切った。

 

「邪神の最初の攻撃……属性汚染を含めた()属性魔力の津波。あれを喰らって浄化できるのは何人も居たが、一瞬で何十人と浄化した上で戦闘を続行できるのはユートしかいない。それはユートが裏技を使っているから出来る事で…普通の奴がやれば二回浄化出来れば良い方……だろ?」

 

 今度はアカイの視線が俺を射抜いた。俺は認めた。時狂邪神の放つ属性汚染する魔力の津波はハッキリ言って異常だった。

 最初に会合した時、邪神は腕の一振りで周囲に時の結界を張り巡らせた。それは躱す事の出来ない加速の結界。時間の進みを加速させる結界。

 普通に考えればこれは敵対する俺たちに益を与える行為だった。だが……その変異は最前列に居た一人の兵士から始まった。

 加速する結界に警戒を払いながらも前進するその兵士は、数歩前に出た瞬間に全身が時属性に汚染され暴走する属性精霊に変異した。

 目の前で起きた事態に驚愕しながらも近衛騎士団副隊長の実績から指揮を任されていたアカイは一目で体内の属性を狂わされた事によるものと看破、浄化を支持する。

 だが……

 

「加速の結界がヤバすぎた。まさか動けばその動きに応じて汚染するものだったなんてな」

 

「アレは初見じゃ防げねぇよ……と言うよりも浄化が出来る奴以外が勝手に動いたのが原因じゃねえか」

 

「あれは正しい判断だったよ、最初から全部正しかった。問題があったのは事前情報だ……あれは知らなければどうしようもない。一手目をミスれば全滅確定とかな……ユートが居なきゃ全滅…は流石に無いか。だが残ってるのは10人も居なかったんじゃないか?」

 

 浄化が出来る者は居たが単純に人数が足りなかった。いや、そうじゃないか……浄化は間に合う筈だったが、各自の判断で戦闘態勢を取ろうとしたのが問題だった。だがそれを責めることは出来ない。なぜならば目と鼻の先に居るのだ、さっきまで仲間だった兵士が変異した汚染精霊が。汚染精霊は魔物の分類に入る、無差別に人族を襲う。浄化できる者を守るために肉壁に成ろうとせめて武器を抜いた、その場で足踏みをした、()()()()()使()()()。その程度だった。

 その程度の動作で8人の兵士が汚染精霊と化した。

 

 その瞬間、自分を短縮詠唱で浄化しながら観察に徹していた俺は理解した。

 何が起きたのか理解した。

 そして確信した。

 これは師匠の天敵だ。

 いや、師匠だけじゃない。属性を使う魔法使い全てを殺す存在だ。

 

「普通の汚染じゃなくて侵食する。賦活した属性魔力を貪り時属性へと書き換える……だったか」

 

 俺は両手でふらつきそうになる頭を押さえながら絞り出すような声で肯定した。

 あの空間は加速の結界じゃない。それもあるがあくまでもう一つある効果が主でオマケに過ぎない。

 魔力の津波で周囲の生物を汚染、結界内に存在する全ての生物は……その時点であの邪神の手に落ちたと言っても過言じゃない。

 浄化が出来たのは侵食する速度よりも浄化の方が早かったからだ。無意識に効果を引き上げている。

 だがそんなモノ当然リスクがある。

 消費魔力の肥大化。それも倍程度では済まないだろう。一番やりやすい自分でそうなのだ、他人の浄化など一瞬で干上がる。

 

 だが唯一の救いだったのは最初の波を耐えきれば、浄化すれば普通の汚染程度で済むという事だろう。

 

「普通の汚染なら配給された浄化札と対汚染装備で事足りる。少なくとも一日は問題ない、だったか」

 

 俺がそうだと肯定すると、ヤメドが首を傾げた。

 

「待て、じゃあテメェはどうやって一度に複数浄化した? 普通の浄化じゃ手が回らねぇし魔力が足りねぇって話なら……()()を使っても間に合わねぇ……計算が合わねぇ」

 

 ヤメドの言うアレとは人工精霊の事だろう。確かに純粋に俺が二人になった程度では一度に複数浄化なんて無理だ。

 だが俺は精霊術師。属性と親和性の高い精霊を使役する者……周囲の汚染を引き受けることは簡単に出来る。

 

「それだとテメェが死ぬだろ。答えになってねぇ、テメェは生きてる」

 

 汚染は全て人工精霊に引き受けさせた。

 

「ハァ?」

 

 人工精霊は俺の体に宿っているが別物だ。精霊術の応用で肩代わりさせて、表に出さない様にすることで暴走させない様にしている。

 細かいことは良いだろ? 本題は俺が浄化し続けて問題があるかないかだ。

 

「待てよ、テメェ精霊に自我が—————「ヤメド」っ!?」

 

 俺はアカイに視線を送る。アカイは頷いて俺に続いた。

 

「分かってるだろ? 俺らは決死隊だ、全てはリソースでしかない。それは命を含めてだ」

 

「……チィッ」

 

「話を本筋に戻そう。汚染の対策はユートに一任するしかないが……邪神の作り出した時差空間と表現するべきか、アレはどうすればいい?」

 

 時差空間。俺たちが最も手を焼かされた時狂邪神の奥義。その正体はひたすらに属性濃度を高めた事による極小規模な異界と表現するべきか。

 属性と言うのは濃度を高めると周囲に異常を起こす。火なら常温で発火する、水なら空気が水の様に重くなり息が吸えなくなる。などの様にそれぞれの特色に応じた以上が引き起こされる。

 そして、それを時属性で更に煮詰めて濃くしたのが時差空間。純粋な属性魔力はそれ自体が究極の魔法と言っても過言ではなくなっていく。

 火の魔力は水すら焼いて消えることなく燃え続け、氷は燃え盛る炎でさえ永久に氷付かせる、他には、そうだな……地なら引力を作り出すだろうし……幻なら…………あまりにも精巧な()()と何ら変わりなく、()()()()()()()()()()……のだろう。

 と言っても今上げた例はこれならばこうなると予測されたものに過ぎない。実際には多分違う、俺たちは未だ全ての属性を完全に理解したとは言えないのだから。

 

 世界がまた停止した。

 

 まるで何かを伝えようとしているかのように、世界は俺を置いて動き出す。

 

 周囲の光景が目まぐるしく変わっていく。それと同時に音も聞こえてくる

 

「あなたの名前は?」

 

「ユート」

 

「ユート、私の名前はメロディア・フィニシテンドと言います。これからよろしくお願いしますね?」

 

 俺が初めてメロディア様に会った時の映像が流れてる。数秒停滞していたと思うと水が流れるように過ぎ去っていった。

 

「これは……?」

 

「酔っ払いの喧嘩でなぁ…面倒だが放っておくと道端で凍死するしな。そっちの方が処理が面倒なんで形だけでも拘束して牢にぶち込んでる」

 

「成程な」

 

「頼むからお前は捕まらんでくれよ? 友人を牢にぶち込むのは心が痛む」

 

 笑顔でそう言い切るベルモンドに説得力は無かった。むしろ嬉々として牢にぶち込みそうだよなあいつ。一度たとえ話をしてみたら師匠が悲しそうな顔をするから絶対捕まるようなヘマはしないと誓った覚えがある。

 

 次から次へと在りし日の記憶が再生されている。

 意味がありそうで、やっぱ無さそうな無秩序なシーンの連続は話に聞く走馬灯を思わせる。

 

 それらをぼうっと眺めていると、ザザザとノイズのようなものが世界を一瞬だけ覆い尽くした。

 ノイズが消え去ると、俺は幽体離脱しているなんてことも無く、暗い階段を降っていた。

 

 ……? 降っているにしては視点がおかしいな、揺れが殆ど無いし変な音も聞こえる……何よりも地面から推測される高さが俺の身長と違う。

 こういう距離感は戦闘では重要なので正確に計れるように訓練を施されてある。ていうか鬼畜どもにしごかれた。

 まぁ、だからと言っても動けない俺にはどうする事も出来ないのでただただ事の成り行きを見守っていた。頭の中で何かが起きているような奇妙な感覚がずっと続いているからもう疲れたともいう。

 

 しばらく見守っていると、目の前に開け放たれた扉が見えた。

 

 その扉の奥はそこそこ広く、その中心に誰かが椅子に腰かけているのが見えた。

 

 その誰かはじっとこちらを見ている。

 

 視点はその誰かに近づいていく……それにしても暗いな? こいつが誰か判別が出来ない。知ってる人物か? 

 判別したかったが視点はそれ以上は近づかず、その誰かの周囲を旋回し始める。旋回って言っちゃったけどやっぱこの視点飛んでるよね? 

 俺が困惑しっぱなしだったが目の前の状況は進んでいく。誰かが階段を降りてきた。

 新しく現れた何者かは蝋燭か何かを持っている。だがその姿はローブを被っている為に確認することはかなわなかった。体格的にはずいぶん小柄だが……

 ローブの人はゆっくりとした足取りで誰かに近づいていく。蝋燭に照らされその姿が段々と暴かれ、て……!? 

 そこにはありえない人物が座らされていた。

 ローブの人が美しい声色でその名を呼んだ。まだ若い女の声だ。

 

「アカイ様」

 

 椅子に座らされていた人物はアカイだった。しかもよく見れば両手足をしっかりと縛られている……

 えぇ……何があったの? いや、これ夢か…? 夢だからこんな光景になってるのか……? 

 俺はもう混乱しっぱなしだ、視点も心なしか混乱する俺の心境を表しているのか動きに乱れがある。つーかさっきから頭痛も酷いし思考能力が著しく低下しているのを感じる。

 

 視点がアカイの目の前に移動した。

 俺の視点とアカイ目が合う。コイツ……俺を認識してる? 

 アカイの口が開いた。声は出てない…何だ? 読唇したらいいのか……? 

 

 俺は頭が割れるような頭痛を耐えながらその唇を読むことに集中した。

 何々……? 

『た す け て』……? 

 えぇ……(困惑)

 

 とりあえず何とかしてあげたかったが今の俺は何も出来ないので、すまないが諦めて貰いたい。

 

 謝罪代わりにアカイの周りをぶんぶん飛び回っていると……何か急激に引っ張られる気配がした。

 

戻りなさい

 

 もう頭痛に耐えるのも限界だったので俺はその音無き声に身を任せて意識を闇に閉ざした。

 

 




頼りに行ったら頼られた……
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