霧となった少年は最悪の世代に数えられるようです。   作:地支 辰巳

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展開を悩んでいたら、すごく時間がかかってしまいました。


今日の成長を拾うために

 ミスト海賊団とトレジャー海賊団それぞれの船長と片腕を除いた他の船員たちはお互いに相手の出方を伺っていた。その状態が少し続き、人数が圧倒的に多いトレジャー海賊団の方が痺れを切らしたと思うと、油断が含まれた戦意を持ってミスト海賊団の船へと乗り込んだ。

 自身からは危険な場合を除いて、手を出さないロビンは相手が乗り込んで来たことが分かると、自身のハナハナの能力を使い応戦を始めた。

 

 そんな中、トレジャー海賊団の船に乗って、酒を呷り酔いながらもアデルのことを見ているナオミという女がいた。アデルも未だに乗り込んで来ずに船の上に立っているナオミと視線を合わせていた。

 それはひとえに、アデルとナオミどちらもが相手のことを無意識に警戒しているということに他ならない。そして、悪魔の実を食べてから、修行の量を増やし、一端に戦える様になったアデルはナオミと戦うための臨戦態勢に入った。

 

 ヒュッと空気の切れる音がしてから、小さくドンという音がした。

ナオミの射った矢尻の先が違う矢が、甲板に当たり爆発を起こした音だ。威嚇で射った訳では無く、アデルを狙って射ったものだ。

 直撃すれば、ただでは済まないがアデルは修行の成果と言えるのか避けることに成功していた。そして、反撃として自身のポケットの中に入っている小石を10個ほど手に持ち、ナオミに向かって投げた。

 石の数が錯覚でもなんでも無く20個に増えると、そのすべてがナオミに当たりそうになった。だが、何年も海賊しているナオミにしてみれば小石など当たった所で、大したダメージにはならない。気をつけなければならないのは自身の弓矢が小石に当たって爆発することだと考えたナオミは小石に当たらないようにしながらまた矢を射った。

 

 しかし、その矢は小石の間を縫って射られたもの。アデルにとってみればその軌道は読みやすく、さっきよりも避けやすい。その矢の爆発をアデルは軽々と避けて見せた。

 

「あー……お嬢ちゃんがよー。当たらないじゃねぇーかよ」

 

 あんなにも正確な矢を射りながらも、時々酒瓶を持ってお酒を飲んでいるので、当然のようにナオミは酔っていて、口調も酔っ払いのものとなっていた。

 

「わたしだって、強くなったんだ。がんばってみんなにほめてほしいから」

 

 アデルの言葉を聞いたナオミは面白く無さそうに舌打ちをすると、わざわざ弓使いにしては良い立地だったポジションを捨てて、アデルと対峙するように海賊船に降り立った。

 

「何が褒めてほしいだよ餓鬼がよー。どうさ頑張っても捨てられるんだから、辞めちまえよそんなこと」

 

 アデルはポケットに入れていたナイフを取り出すと、それを増やして、増やした方をナオミに向かって投げつけた。そして、その時のアデルの目はナオミのことを力強く睨んでいるようだった。

 

 アデルはもう7歳。それは一般的に言えば自発的に何かしたい思いや、自身の周りへの疑心や不満を覚えてしまう歳だ。それは、この特異な境遇を辿っているアデルも例外では無く、ルーファスやマグメルに命を助けてもらったというもう朧げな記憶はあれど、二人が自分に何か隠しているのではないかという根拠の無い思いがアデルの中に小さく存在していることに他ならなかった。

 そんな心情のアデルに対してのナオミの捨てられるという言葉は、アデル自身の二人に対する疑念という思いへの罪悪感を意図しなくても増すことになってしまっていた。

 

「わたしはがんばってる。ルー兄やマグー姐。ロビンさんやカリーナとも仲良く出来てる。だから、不満なんて無い」

 

 自身の疑念の思いを嘘だと思えるように、罪悪感を無くそうとするように、ナオミの言葉を否定しようとするように、アデルはがむしゃらになりながらも、己の敵へと立ち向かって行く。

 

 

 また弓を射る音が聞こえる。アデルはまたポケットから小石を取り出し、自分に矢が当たる前に小石を当て、爆発させる。そして、それを繰り返すこと数回、アデルが移動を始めた。アデルの能力の真価は現物と自身の体力が存在している限りは何度だって物を増やせるところにある。それは言い換えるならば、弾がほぼ無限に供給されることでもある。弓兵相手にだ。

 アデルは甲板に置いてあった、いつもマグメルが寛いでいる椅子を増やすと、それをナオミ向かって投げ続ける。もちろん、弓兵一本でここまでやってきたナオミはこの攻撃が自分の矢を無駄に消費させて、弾切れに追い込む狙いがあるということは気づいていた。だが、アデルのこの攻撃に対するナオミの対抗出来る手段は椅子を避けるか、矢で爆発させるしか無い。

 

 

 ナオミの矢は残り一本となっていた。それに対するアデルも傷は負っていなくても、息を切らしているようで体力の限界がそこまで来ているような状態だった。ナオミは弓を構える。自身の特徴でもある酔いが覚めていることも気にしないほどにこの矢に対して集中をする。アデルにはもう椅子を増やせるほどの元気は残っていない、だからこそ決め方をアデルはすることを決める。

 アデルはナオミに向かって走り出す。そして、何も手に持っている様子が見られないからこそ、ナオミは警戒をする。近づいて来たら何をされるか分からない。だからこそ、ナオミは自身が爆発に巻き込まれないこの距離で弓を射る。

 アデルは相手が射ったと思った瞬間、出来るだけ自身の顔を横に逸らした。相手が狙うのは基本頭だとマグメルに習ったからだ。そして、アデルの期待通りナオミは顔を狙って来た。だが、避けていたおかげで、顔に当たりはしなかったが、アデルは何を思ったのか自分から矢の進行線上に手を出した。もちろん、そんなことをすれば、手に反応をして矢は爆発を起こす。

 

 そこでナオミはアデルの狙いに気づく。アデルの能力は物をコピーする能力で、あの矢をコピーして自身に投げるのだと。だから、ナオミはそれを受ける訳にはいかないと、転がりながらも体を伏せた。だが、アデルの能力は現物が存在してこそ能力を発揮する。もう矢を増やすことなど出来ない。最初から全力では無く、能力を最後まで隠して戦いに挑んだ方が良いとマグメルにアデルは習った。それを実践した結果、ナオミに致命的な隙が生まれた。

 わざわざ爆発にまで巻き込まれたのだ。アデルがその隙を逃す訳にはいかない。素早く転がり伏せたナオミの背後に回ると、手に持ったナイフで思いっきり突き刺した。そして、悪運が良いのか、悪いのか、ナオミの刺された場所は致命傷ではあらずとも、疲労の溜まった体が意識を無くすには十分だったようで、ナオミはそのまま意識を手放した。

 

「勝ったよ。わたしやったよ」

 

アデルはルーファスやマグメル、ロビンやカリーナの顔を思い浮かべると、能力の使い過ぎや戦いの疲労により、そのまま眠るように気絶してしまった。

 

 

♠︎ ♠︎ ♠︎

 

 

 辺りに鎖が舞う。決して当たらぬようにそれを避け続けるルーファス。

 

「ジャララララ、どこから鎖が来るか分からねぇよな。このチェーンパーティーいつまで避け続けられるのか見ものだぜ」

 

「僕は貴方との戦いで、新しいことを学びます。だから、今は耐える時なんです」

 

 ルーファスはこれまでの強敵達との戦いで、さまざまなことを学び成長してきた。そして、今回ルーファスはマッド・トレジャーと戦うことで、この何年もの修行で、やっと感覚の掴めてきた見聞色の覇気を完璧に習得しようとしていた。

 今のこの環境はルーファスが見聞色を学ぶのにピッタリな状況だった。何度鎖が自分の体に当たろうとも、鎖の隙間からマッド・トレジャーを狙う隙が少し見えようとも、攻撃に転ずることはせず、避けて避けて避け続けて、見聞色を習得する。それが、今ルーファスが学ぶべきことだ。

 

「ハァ……ハァ……もう少し、もう少しなんだ」

 

「ジャララララ、何がもう少しなんだぁ?てめぇに助けは来ない。つまんない遊びだぜ」

 

 動きが鈍くなっているルーファスに、マッド・トレジャーはとどめとばかりに何重もの速度の上がった鎖が変則的に向かって来た。その攻撃に対して、ルーファスはギリギリまで集中し続ける。

 そして、ルーファスは夢心地な気分になる。まるで、自分以外のすべてがゆっくりになったかのようなそんな感覚。鎖が飛んでくる軌道が分かる。速さが分かる。そして、ルーファスはこれこそが見聞色の覇気だと理解する。

 

「あ?なんで避けれてるんだよ」

 

 マッド・トレジャーの鎖は全てがルーファスによって避けられた。それから、自身が全ての鎖を避けれたと分かったルーファスは小さく口の端を上げる。

 

「僕は見聞色の覇気を習得することが出来た。これで、海の強者へと一歩近づいたんです。そう、簡単にはやられませんよ」

 

「ジャラララ、覇気か……そんなもんもあったな。まだ楽しめそうじゃねぇか」

 

 マッド・トレジャーにとって、覇気とはその程度の認識だった。言葉も知っているし、使うことも出来る。だが、意識的に使ったことなど一度も無い、そんな本人も他の人間も知りもしないが、マッド・トレジャーとは戦いの天才であった。

 ふぅーと思いっきり吸った空気を思いっきり吐き出す。そうすることで、ルーファスは自身の頭と体を攻撃の構えへと切り替えると共に、見聞色の使い方をしっかりと頭に叩き込んだ。

 

「行きます!」

 

鶴の舞(つるのまい)

 

 ルーファスは一気に距離を詰める。その速度はこれまでの戦いとは比にならないもので、マッド・トレジャーの眼前で振られた刀は反射的に避けられなければ首を切られていたほどのものだった。だが、舞は一撃では終わらない、二撃、三撃と自身の体の動きを駆使しつつ、刀を連続で振るっていく。そして、避け切れなくなったのだろう、マッド・トレジャーの体に切り傷がつき始めていた。

 

「どうやら、本当に本気じゃあなかったみてぇだな。なら、俺もやらねぇとな!」

 

 手から出すだけだった鎖が全身に一遍の隙間も無いように巻かれていく。マッド・トレジャーといえども、この技を使うことはそうそう無い。

 その姿を見て、またルーファスはまた小さく笑みを浮かべる。一年前は鉄の体をもつダズ・ボーネスを倒すのにあれだけ苦労したが、果たして、自身は鉄の鎖を纏ったこの男をどれだけ苦労せずに倒せるのだと、そう自身の成長への楽しみとして笑みを浮かべていた。

 




次話でトレジャー海賊団編は終わりですね。
新しい原作キャラとの関わりもあるかなーと予定してます。
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