霧となった少年は最悪の世代に数えられるようです。 作:地支 辰巳
CHRONOSさん誤字報告ありがとうございます!
「ルーファス。泣いて謝っているだけじゃ駄目だ。人間、いつだって責任を取らなきゃいけない」
幼く泣いているルーファスの前には、ルーファスの父親が割れた皿を持っている。だが、その顔は怒っているように見えず何処かルーファスを諭しているような表情をしていた。
「……う、ぐすぅ。……責任?」
「ああ。自分が悪いことをしてしまったなと思ったら謝るのも大事だが、それよりも、それ相応の責任を取ることの方が大事なんだ」
ルーファスは今この胸に感じている罪悪感をどうにかしたかった。だから、父親が提示してくれた責任を取るということを、何度も咀嚼して心の内に溜め込んだ。
「……うん……分かった」
「よし!じゃあ今回の責任は店内の掃除だ。次からは自分で責任を考えような」
「はい!」
これがルーファスという人物がしっかりと形作られた出来事だった。『責任』その言葉を胸にしっかりと刻み込んで。
♠︎ ♠︎ ♠︎
港から中心部へ向かう大通りで周りの建物をいくつも巻き込むような戦闘が行われている。
「アハハ、良いですね。こんなに心が躍る戦いなんて始めてですよ」
サボの鉄パイプでの攻撃やコアラの徒手空拳の攻撃を受けながら、マグメルは笑う。マグメルがこれまで戦ってきた人たちは漏れなく強すぎるか弱すぎる奴らばかりだった。だからこそ、こんな風にちょうど良い実力の人間と戦い合えることに喜びを感じていた。
「サボ君。この子に攻撃が効いている気がしないね」
「ああ。伊達に動物系の幻獣種じゃないな。だが、ここまでのダメージは尋常じゃないはずだ」
サボの見立て通り、マグメルは感情の高ぶりと動物系の耐久性と回復力で互角に戦い合えている状況で、今どれかに限界がくると倒れる状態まできていた。
「なら、とっとと決めます!魚人空手 千枚瓦正拳」
コアラによって放たれた素早い拳は力強くマグメルの横腹に叩き込まれる。
「……うぐぅ。さっきからのそれ。普通のパンチじゃありませんね?でも、もう覚えましたから」
マグメルはこの戦いの中、何度も受け続けたコアラの魚人空手の型を構え始める。その構えはまだまだ粗が多いものだったが、人獣型の体には様になっていた。
「魚人空手 千五百枚瓦正拳」
「嘘!?」
「……でも!鮫肌掌底」
マグメルの正拳はコアラの弾きさえもものともせず、コアラの体を吹き飛ばした。
「人の技を覚えるのは得意なんですよねー。さぁかかって来てくださいよ」
「言われなくても!」
そして、マグメルとサボが再びぶつかろうとしたとき、二人は言いようの無い殺気を感じ取り、とっさにその場から避けた。
すると、さきほどぶつかろうとしようとしていた場所に斬撃が飛んできており、それを刀で受け止めるルーファスが居た。
「人の勝負の邪魔をするのは不粋だと思いますよ。王下七武海ジュラキュール・ミホークさん」
「そうだな」
鷹のような目つき男、世界一の大剣豪ミホークは不適に笑う。それに相対するルーファスは先ほどの斬撃を弾いただけで、結構な体力を使ったのだろう。すでに疲れが見えていた。
「ミホークさんほどの人なら……もしかして」
「ルー。もしかして戦うつもりなんですか?」
「うん。そのつもりだよ」
マグメルも相手が普通の相手なら何も言わないだろう。だが、今回ルーファスが相手しようとしているのは世界一の大剣豪。万が一死ぬこともあるからマグメルはルーファスを止めたかった。それに、今のルーファスはいつもと雰囲気が違い、冷静を欠いて危うい感じがしているとマグメルは感じていた。
「止めても無駄だよマグー。マグーはマグーの戦いに集中して」
「う、わ、分かりました。その代わり後でじっくり理由を聞かせてもらいますから」
この時のルーファスが何を思っていたのか、それは長年一緒にいるマグメルさえも分からなかったが、これまで隠してきた何かが前面に押し出されたようだった。
「それじゃあ、ミホークさん。お手合わせお願いします」
「構わないが、これだ」
そう言ってミホークは持っていた『夜』を納めると、首から下げている小さいナイフを手に取って、ルーファスに向けた。
「まさかそれで戦うっていうんですか?……舐めすぎじゃないですか?」
「おれは果たし合いの時、強き相手にしかこの黒刀は振らない。振らせてみたかったらおれに認めさせてみろ」
先程の斬撃を受け止めただけで実力は申し分ないだろう。だが、ミホークはルーファスという人間に対して、歪さというのを感じ取っていた。それを見極めるため、ミホークはナイフで相手をする。
「いいですよ。やってやりますよ」
「
ルーファスが力いっぱいに振った刀も、ミホークは平然と小さなナイフで受け止める。だが、それにめげずにルーファスはいくつもの技を繰り出す。
「
「啄木鳥溜め 重解放!!!」
ルーファスが力に重きを置いた技をいくつ繰り出しても、ミホークのナイフを砕くことは出来なかった。それどころか、技を出すごとに貰う反撃がその体に軽く無い傷をいくつも負わせていった。
「ここまで技を出してもダメですか。だったら!」
「霧隠れ 雲合霧集」
段々とルーファスの刀の刀身に霧が集まっていく。そして、霧で長さも重さも足された刀がそこに出来上がる。
「鷺!落とし!」
いつかの時よりも高く飛び上がったルーファスはそのまま押しつぶすような勢いで刀を振り落とす。そこには、黒になったりならなかったりした刀身がしっかりと黒く色づいていた。
「……やるようだな」
ミホークのナイフは粉々に砕け散った。それにミホークは驚きは見せずにただ嬉しいそうに口角を少し上げるのだった。
「はぁ、はぁ。どうですか?これで僕は認められましたか?」
「ああ。いいだろう。だが、お前はいったい何を目指して刀を振るう?」
その有無を言わせぬ眼光を受けたルーファスは、誤魔化すことや逃げることの不可能さを悟り、自身の心内を吐くことを決意する。
「僕が刀を振るうのは─────」
★ ★ ★
ルーファスが病院周辺から居なくなってから、数分後。島の中心部にはルッカとシオンが合流していた。二人は他の仲間の誰かと合流しようと臓器売買業者達を倒しながら動き回っていたのだが、目の前の地面がいきなり動きだして大きな穴が出現した。そして、穴の中から革命軍の兵士達と革命軍西軍軍隊長で巨人族のオカマのモーリーが出てきた。
「やーん、行くわよーみんな」
モーリーが号令をすると革命軍の兵士達が気いの入った叫び声を上げ、どんどんと臓器売買業者に対して攻撃を加えに行き、これには付近に居たシオンもルッカも戦いに巻き込まることとなった。しかも、二人とも革命軍とか構わずに攻撃するので、戦いは混戦へと向かって行った。
「やっちゃうわよー!」
混戦になったこの戦場に一石を投じるためか、モーリーが自身の武器である巨大な銛を一気に戦場に向かって振り払った。革命軍の兵士はすでにモーリーがこうすることが分かっていたのか、すぐに反応して避けることが出来たが、臓器売買業者達やシオンとルッカは避けることが叶わなかった。
「
だが、銛がシオンに触れる前にルッカが縄を生み出し銛に括り付けることで、シオンが怪我を負うのを防いでいた。
「俺の妹に大怪我させようとするんじゃねぇよ。クソが」
「フハハハハハ、かっこいいわね」
「
ルッカは撓るような縄を生み出すと、辺りのシオン以外の人間を巻き込みながらモーリーに振るった。しかし、巨人族の体にはその攻撃は威力不足だったようで、かすり傷が少しついただけだった。
「兄さん。私もやります。せっかく兄様に小刀の使い方を教えて貰ったんですから」
シオンは一対の小刀を構える。ルッカにもルーファスにも恥じらない戦いをしようと力いっぱい小刀を握り込んで。
「
内から外へ開くようにモーリーの体を切り付ける。しかし、そこは革命軍の幹部。巨人族の体と武装色の前には怪我一つ負っていなかった。
「こっちの番よー。えーい」
掛け声と動作の重みが全く合っていない銛での攻撃によって大勢が吹き飛ばされたが、今度は攻撃が来ると分かっていたからか、二人は間一髪で避けることに成功していた。
「兄さん!やりましょう!」
シオンはこのままやってもジリ貧だと判断したのだろう。獣型に変身すると、鳥の脚で小刀をしっかり持ちモーリーを切り付ける準備をした。
「絶対に無理するんじゃないぞ」
ルッカはシオンがもしかしたら怪我を負うかもしれないと思ったが、この巨人族を突破するには重い一撃を与えるしか無いなと思い、渋々ながらシオンに合わせることを決めた。
「
「
シオンの空中から急降下した勢いのままの切り付けと、ルッカの長く伸ばし勢いそのままに引っ張った縄はどちらもモーリーに命中し、仰反ることとなったがそれ以上の成果は見られなかった。
「フハハハハ、将来が楽しみになっちゃうわねーもう。でも、今日の所はそろそろおねんねしてもらおうかしら」
モーリーのこれまで以上に早く振るわれた銛によって、二人は避けることも叶わず病院の壁に激突し、気を失うこととなった。
シオンとルッカを撃破したモーリー他革命軍は臓器売買業者を倒しに向かう為、どんどんと島の中心部へと進軍していくのだった。
★ ★ ★
「来い」
ミホークはついに自身の得物である『夜』を抜く。その神々しいほどの黒さには、ルーファスも一歩下がり緊張の余り深呼吸をしたが、そのおかげもあって覚悟を決めたのか、刀をこれまでした事がないような構え方にする。
「行かせてもらいますミホークさん。今の僕が出せる最高の技で」
「霧細工
ルーファスは刀を一度振るった。しかし、その刀身は一度しか振っていないにも関わらず、他の誰から見ても同時に四つ存在しているように見えて、その全てが正面四方向からミホークに迫っていた。
だが、ミホークは四つの刀身すべてを一撃で消し去り、そのままルーファスを切り崩し、血が吹き出るほどの大傷を負わせた。
「見事だな。名前は?」
「エルドリッチ……ルーファスです」
「お前の夢が叶う時、俺もその名を覚えておこう」
ミホークは満足したといえる顔で去って行く。彼がここに来たのは偶然かもしれない。しかし、ある男にとってはその偶然のおかげで、自身の心内を初めて吐露することが出来ていた。
★ ★ ★
革命軍サボとコアラ、マグメルの戦いは熾烈を極めていた。途中、一度ダウンしてしまったコアラも意地で立ち上がり、マグメルに対してバカにならないダメージを与えていた。
「アハハ、まだです。まだですよ。私の体はまだまだ持ちますから」
「剃!」
先程のスピードとは違い、一瞬で最高潮のスピードになったマグメルは、サボの首を握り締め殺そうとしていた。
「世界政府の技を……」
「隠し玉は最後まで残しておきませんと」
だが、ただではやられぬとサボは手を爪の構えへと変えると、マグメルの手首を砕くかの勢いで掴む。
「竜爪拳 竜の鉤爪」
「素晴らしい覚悟ですね。でも、私の方が早いですよ」
マグメルからすればやられても腕一本。それくらいでサボを撃破出来るのならば儲け物だと思い、そのまま力を強めていく。
「サボ君!鮫瓦正拳!」
「面倒です!武装色硬化」
コアラが放った正拳をマグメルは武装色を纏めることで防ぐことに成功したが、これまでのダメージが効いたのだろう血反吐を吐き、膝を崩した。
「そろそろ限界ですか……死ぬ訳にはいかないので退却させてもらいますか……ルー!!!」
マグメルが獣型に戻り退却をしようとしたところ、ルーファスがミホークによってマグメル以上の血を胸から出しながら倒れ込んだ。
「あれだけ言ったのに何でそんな真似するんですか。……これは退却ですね」
マグメルはルーファスを口に咥えると、背中の翼を使い一度ベッジの元へ向かって行った。
ベッジの元には、カリーナとアデルに肩を貸されながら、何とか立っているルッカとシオンが居た。そこにルーファスを加えたマグメルが合流すると、ベッジは目的は果たしたといい、ベッジとミスト海賊団はこの島から退却した。
★ ★ ★
「本当に大丈夫なんですよね?」
「ああ、任せておけ。俺はこの船の船医だからな」
重傷で意識が無いルーファスの前で、ニヤッと笑うミスト海賊団に新しく入った船医ヴィレム。この男を迎え入れミスト海賊団は新しくやっていくこととなる。
ルーファスの夢や目的はすぐに明かすことになると思います。
燕返しのモデルはfateの燕返しです。タグを付けるかどうかはまだ考え中です。