霧となった少年は最悪の世代に数えられるようです。 作:地支 辰巳
ヨグリさん誤字報告ありがとうございます!
身体中が燃えるように熱い、全身がバラバラになっているような感覚もする。それに、まるで宙に浮いているようなそんな感じ。そんな感覚を味わっていた僕が目を開けると、そこは船のベッドの上だった。
「……何で此処に?」
朧げになっている記憶だけれど、かろうじて思い出せたのは僕がミホークさんに負けたということだった。あれだけマグーに死なないようにと言われていたのに、死にかけたからマグー怒っているだろうな。
「ようやくお目覚めか。遅い目覚めだな艦長さんよ」
部屋の中には僕の他に誰かいたようで、その人は見覚えのない人だった。
「ああ。俺の名前か?俺はヴィレム、あんたの所の船医になった者だ。カポネから話は聞いてるだろ?」
段々と思い出してきたぞ。そうか、確かにベッジさんはヴィレムって名前の船医だって言ってたし、あの作戦にも一応連れて来ているとも言っていたと思う。
「……そうですか、ありがとうございます。それで僕はどのくらい寝てたんですか?」
「うんまぁ、一ヶ月ってとこだな」
一ヶ月……思った以上かな。でも、それだけ大きな一撃をヴィレムさんの治療があれど生きることが出来たんだし、その点は嬉しいかな。
「さっそく副艦長に知らせるか?」
「うん。怒られると思うけどね」
ヴィレムさんはきな臭い感じがするけど、部外者を簡単には信頼しないマグーが僕とヴィレムさんを二人っきりにしていることから、信用出来るとは思う。
ヴィレムさんが部屋に戻ってくると、それに続いて、マグーを除いた一味全員がこの部屋に入ってきた。
「兄様~!生きててよかったです!」
「本当にな。よく生きてる」
「でも、ルー兄。傷が残っちゃったね」
アデルに言われて気が付いたけど、自分の胸にはまるで渦巻きのような大きな傷痕が残っていた。これは多分もう消えることは無いと思うけど、ミホークさんと戦えて生き残れたという名誉の傷と思っておこうかな。
「マグメルが怒ってましたからねルーファス。甲板で待っているそうなので、しっーかり話し合って下さいね」
寝ている間に着ていた簡易的な服を脱いで、いつもの空色の長ズボンに七分の灰色のだぼっとしたシャツに着替えてから甲板に出た。
甲板にはカリーナが言っていた通り、マグーが白色のTシャツにチェック柄の短いスカートを履き仁王立ちでこちらを見ていた。
「私が何を言いたいか分かりますよね?」
「うん。もちろん」
「だったら、何であんなことをしたか理由を聞かせて下さい」
……本当はマグーにも誰にも言わずに墓場まで持っていくつもりだった。こんな自分でも歪だと思う思いなんて誰にも知られたくなんてないから。でも、ミホークさんにも話したんだ。もう、言ってもいいんじゃないかな。
「僕の心には二つの夢?目標?いや、そんな綺麗な物じゃない。二つの欲望や野望があるんだ。誰にも言いたく無い、汚くて醜くて自分勝手なそんなやつが」
「いいですよ。聞かせて下さいよ」
船室からみんな出て来て全員が甲板に揃った。……ちょうどいいか。どうせならこの際に知ってもらおう。エルドリッチ・ルーファスという人間を。
「マグーは知っているかもしれないけど、僕の父親はマフィアに直接的に殺され、母親は間接的に殺された。それを思い出すたび、僕は思うんだ。両親の死は僕しか知らない。そんな自分が存在しているかどうかを誰にも覚えられずに亡くなるなんて、僕は寂しくて嫌だ。だから、僕は……多くの人の記憶に残り続けて死にたい」
「そして、僕は責任を取らなければならない。最初は人をこの刀で切るたびに仕方ないって言いながら誤魔化してきたけど、いつ頃からかそれに耐えられなくなっていって、人を殺した責任を取らなきゃって思ったんだ。でも、人を殺した責任は重いから、僕が死ぬぐらいでしか責任を取るしかないんだ」
「だから、僕は人々に知られ続ける死に方で、早く死にたいんだ」
自分の内心を全て告白した。みんな呑み込むのに時間がかかっているのか、誰も口を開かなかった。一味の艦長がこんなのだと分かって、みんな失望してるかな……でも、当然か。言ってしまえば死にたがりだってことなんだし。
「へぇー。だから、鷹の目にあんな無謀に挑んだんですか。……何も分かっていませんねルーは」
「僕が何を分かっていないって言いたいの?」
マグーの姿が一瞬消えたと思うと、僕の目の前にいきなり現れて、武装色を纏った拳で殴ってきた。
「ルーの命一つなんかで今更責任が取れると思っていることですよ!」
「そんなこと……言われなくても分かってるよ!」
「何か無性にイライラします。その凝り固まった考えを変えてやります。私と勝負して下さい」
「……いいよ」
この勝負をすることに意味なんて無いかもしれない。でも、勝負をしなきゃマグーの思いを知って、僕の思いを知ってもらうことなんて出来ないと思うから。
「それじゃあ、始めましょうか」
マグーは銃を二丁構える。それはどちらも同じ銃で、僕が昔誕生日に送って被ってしまったものだった。……わざとそれを選んだのかな?
マグーは容赦なく発砲してくる。その何発も打ってきた弾の軌道を見聞色で察すると、一つ残らず刀で弾いた。
「僕に弾は当たらないし、効かないよ」
「そんなの分かってますよ。ただの牽制ですから」
銃を仕舞い、一気に距離を詰めて来たマグーは両手を黒く染めると、直接殴ってきた。
「刀一本でガードしきれますか!?」
確かにマグーの拳の速度は早く、僕の刀ではそのスピードについていけなくなっていってるけど……僕にだってここから巻き返せるだけの力はある。
「ッ、流石の見聞色ですね。やっぱり私より得意みたいですね」
見聞色の先読みによってマグーの拳が見切れてきた頃に、マグーは殴るのをやめて一度距離を取った。
「私が何を怒っているか分かりますか?」
「……分からないよ」
「なら、いいですよ。教えてあげます。一つ、人々の記憶に残りたいなら、もっと有名になって、世界的な戦いの中で華々しく散るべきなのに、こんな所で鷹の目相手に死のうとしたこと。二つ、自分の命ばかり見て、私たちに目を向けなかったこと」
「そうだね。ミホークさん相手に死んだら、僕は満足し切れなくて死んだかもしれない。でも!……早く責任を果たしたかったんだ!」
「責任を取るのは構いません。だけど、もっと高みを目指しましょうよ。四皇や次代の海賊王と盛大に戦って散るのじゃダメなんですか?それまで、耐えれませんか?私たちの命も使って責任を果たして下さいよ」
マグーはその姿を獣型へと変形させるとその翼で空を飛び、高速化しながら鋼鉄化した翼で攻撃してきた。
「僕の責任なのに、みんなを巻き込むことなんて出来ない。でも、マグー言う通り、もっと有名になってから責任を果たすようにはするよ」
次第に早くなっていくマグーからの攻撃をいなしていく。だけど、これ以上スピードを上げられたら僕の見聞色が追いつかないかもしれない。
「何が巻き込まないですか。私たちと居場所を共有しておいて、今更そんなこと言われても嫌です。ルーが死ぬ時は、私も死ぬ時だと決めているんですから。他のみんなもそうですよ」
「ッ!僕なんかの為に命なんて張らないでくれ!みんなには自分の意志で生きて欲しいんだ……」
僕の言葉を聞いたマグーはこれまでの速度を超える速度になると、僕の肩を掴み、体を甲板に叩きつけた。
「うるさい!自分勝手。誰もルーが命令したからここにいる訳じゃない。自分で居たいからここにいるんです。ルーの事情なんて知ったこっちゃない、私たちの意志なんです。何の為の仲間なんですか!」
マグーは泣いていた。獣型だった身体から戻って人型になっても泣いていた。ほぼ10年一緒にいるけどマグーが泣いているのを見たのは初めてだった。
……ああ、なんか僕まで泣けてきたかも。僕はすでにミスト海賊団の艦長なんだ。みんなの命を背負っているとも同じなんだ。それを分かった上で責任を取らなきゃいけない。もう僕だけが勝手に捨てていいものじゃないんだ。
「……ありがとう。マグーの気持ちよく分かった。責任は取るけど、みんなの命がかかってるんだ。簡単には死なない。これでいいかな?」
「まぁ及第点ですかね。これからのし上がっていく過程で直していけばいいことですから」
僕の答えを聞いたマグーが見せた笑みは、直前まで流れていた涙の雫や跡も相まっていつも以上に美しく、これまでで一番輝いて見えた。
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「若様。同じだった?」
新世界にある島ドレスローザ。そこの宮殿には王下七武海ドンキホーテ・ドフラミンゴと幹部が数名、マグメルの手配書を持ちながら会話をしていた。
「フフフフフ、ああ。こいつで間違えないだろグラディウス?」
「ええ。俺たちが取引をしようとしていた悪魔の実を盗んだ二人の餓鬼の内の一人です」
「んねー、じゃあ悪魔の実を盗んでいったやつが、シュガーの姉ってことか?べへへ、面白い偶然」
「うるさい、黙れ、死ね」
シュガーの辛辣な言葉はいつも以上に低く冷たい言葉だった。流石のトレーボルも空気を察したのか、いつもよりも声を小さくした。
「シュガーやモネから境遇を聞く限り、この国に一度招待してやっても良いと俺は思ってる」
「それは、若。つまりうちのファミリーに迎え入れるってことですか?」
「ああ、そこの船長も纏めてな」
明らかに不満そうな顔をしているシュガーのこともドフラミンゴは分かっていたが一旦は無視していた。そして、そこに別の任務に着いていたモネがドフラミンゴの前に現れた。
「若様。マグメルを入れるのは構いませんが一度あっちの言い分も聞きたいですし、私もシュガーも積極的に入れたいとも思っていません」
「フフフフフ、だろうな。だが、家族は仲良くしねぇとな」
「だったら、わざわざ招待する必要なんて無い。野垂れ死ぬかここに辿り着くかの2択で良い」
「そうだな。その方がお前らの気も少しは晴れるか」
ドフラミンゴはこれからのことを考えて不敵に笑う。モネとシュガーという優秀な家族の姉妹が自分のファミリーに入るかもしれないのだ。これが嬉しくない訳は無い。絶対に彼らが入るだろうと信じて疑うことはなく。
明日、日記形式をあげて原作開始前は終わりです。その次に近々プロフィール集と設定集をあげます。