霧となった少年は最悪の世代に数えられるようです。 作:地支 辰巳
俺の縄とあいつの鉄の触手がぶつかり合う。これだけで俺は精一杯だって言うのにあいつは余裕そうな顔をして、それに合わせて硬質化した鉄を何度も俺やヴィレムにぶつけくる。俺と歳も変わんねぇのに。
「お前みたいな雇われ傭兵が革命軍崩れに協力するなんてどういう風の吹き回しだ?教えてくれてもいいだろ?」
「カカカ、金で雇われたからに決まっとる。わしにとったらどこの組織に雇われようとも構わんからな。あの爺さんの噂も知っとったし、革命軍を辞めた時に雇われてやった」
何が金だ。金で繋がった関係なんて、脆くて直ぐに切れる。そんな信用も信頼も出来ない関係なんて俺は二度とごめんだ。
「まっ、理由にしては上々か。坊ちゃん合わせろよ」
いきなりヴィレムからの振りが来た。だが、合わせろという言葉通り、あいつは移動を繰り返しながらも打ち続けて、翻弄しつつもダメージを与えている。鉄の触手も引きつけてくれているので、俺には今、大技を決めれる。信用できねぇけど、年長者らしく頭の回る人だぜ。
「悪惡縄
速く、重い一撃。純仇よりも段階を上げているので、簡単には止められない。その予想通り、ヴィレムにかかりきりだったあいつの腹に一発くらわせてやった。これで倒せたとは思わないが、シオンが受けた傷ぐらいは返してやった。
「良い一撃じゃな。だが、わしを倒すにはまだ遠いぞ!」
あいつの叫びに呼応するように、角の奥から廊下いっぱいの大きさと広さを持った鉄の塊が移動してきた。あれか。あれがずっと壁を貫通して攻撃してきたんだな。だが、姿を見せたんだったら、攻撃も避けやすいぜ。
「これがただの鉄の塊だと思うんじゃないぞ。わしの本気を見てみろ」
鉄の塊はあいつに覆いかぶさるように集まると、その流動性のある鉄が少しずつ形を成していって、鎧?いや、アーマーのように奴の体を守るものとなった。
「おおきくなってるなこりゃ。どうするよ坊ちゃん」
「さっきと変わんねぇ。ただ吹っ飛ばすだけだ」
鎧を見に纏ったことで、直接的に俺やヴィレムを殴ってきたりしてきたが、そんな痛い程度、今まで味わった数多の痛みに比べれば大したことなどない。
「補充、補充っと。さぁ、ガンガン撃っていくか」
さっきと同じように空中を飛び回ったり、地上を中々のスピードで移動しながらボウガンを放つヴィレム。だが、同じ手は何度も通じないというように容易くヴィレムをその手で捕らえるあいつ。ヴィレムが捕まろうと関係ねぇ。もう少しで俺の縄の準備は万端だからよ。
「いつまでもわしに優勢でいられると思うんじゃないぞ」
「なら、残念だったな。お前は既に罠にかかってるってわけだ」
ヴィレムが言った瞬間、周りに散らばったようになっている縄を一気にあいつに向かって、包み込むように動かして、捕らえる。自身に纏っている鉄を動かして出ようとしたり、鉄を切ろうとしているみたいだが、無駄だ。ヴィレムが嵐脚?ってやつで、妨害している。
「わしだけでは無く、お前も死ぬぞ!?」
「まっ、それくらい必要経費ってやつだ。とっととお縄につくんだな」
縄でしっかりと捉えたあいつを何回も振り回す。こんな重いやつを俺自身振り回せていることに驚きだが、今はそんなことを考えている時じゃねぇ。とっとと倒してシオンと合流しなきゃならないからな。
「苦苦り縄
「わしは……わたしは、こんな場所で」
振り回し疲れかけたので、最後の力を出し切って地面に向かって叩きつける。力を振り絞ったおかげか、地面が砕けて、何層も下まで落ちていった。ヴィレムも一緒に落ちていったみたいだが、勝てたから、そこまで怒りはしないだろう。あー連携は疲れるぜ。特に信用も信頼も出来ねえやつとは。
★ ★ ★
バシュ、バシュというピストルを打つよう音に似ているが、それとは異なる特徴的な音が鳴り響く。そんな音が鳴り響く中心の場所ではマグメルがユーシスと殴り合っていた。その最中、片足で独特なリズムを取ろうとしている様子のユーシスだが、休みなく続けられるマグメルの攻撃に上手く自身の動きが出来なくいた。だが、殴られるたびに能力を発動しているユーシスによって、マグメルは好戦しているのにも関わらず、ダメージを大きく負っていた。
「はぁーー面倒くさい能力です。いいかげん、私も本気出したいんですけど?」
「出せばいいだろ。だが、相打ちには持っていってやる」
「魚人空手 鮫肌掌底!!」
ユーシスの後ろに一瞬のうちに回り込んだマグメルの魚人空手によって、ユーシスは能力を発動する間も無く、怯む事になる。
「油断してるからこうなるんですよ」
「くそ。卑怯な手を使いやがる」
「海賊の世界に卑怯なんてありませんよ。ちゃんと、あのお爺さんに教わって下さい」
マグメルの攻撃によって、床に倒れ込んでしまったユーシスはその身体をマグメルに抑えつけられながら、問答を続けることとなる。
「なんで革命軍を辞めたんですか?中々良い強さの組織だったと思いますけど?」
「……親父が、ドラゴンさんとくまのことで大喧嘩して、辞めちまったから、俺も辞めたんだ。俺は親父に助けられたからな」
後悔は……なさそうですね。それはマグメルがユーシスの答えと表情を見て、感じた感想だった。この質問も意味のないものでは無く、ユーシスがどういう人間でどんな人生を送ってきたかを知り、最短ルートで仲間にする為のものだった。
「へぇー。なら、私達の仲間にもなりましょうよ。楽しいですよ?」
「そんなことする訳ねぇだろ。お前らの船長に勝つのは親父だ!!」
バシャという音と共にユーシスは能力を発動させて、踏みつけていたマグメルを吹っ飛ばす。そして、構えをしなおし、息を吐き、本気の力でマグメルに勝つ準備をする。
「やっと、貴方も本気ですか。なら、良いですよ。私も本気で行きます。私が勝ったら仲間になって下さいね?」
「上等!!!絶対に勝つ」
人獣型になったマグメルはその力を身体中に込める。ユーシスもそれに耐えれるだけの武装色を纏い、これまでとは違う型をとる。
「竜爪拳 竜の息吹き!!」
「サボの技だろ?経験済みだぜ」
マグメルの一撃を受けたユーシスは一瞬仰け反るが、それをものともしないほどの睨みをマグメルにきかせ、そして、笑う。手にはめられた衝撃貝、自身の能力。二つまとめてマグメルに跳ね返る。
「倍以上だ。
今まで以上に大きな音を上げた衝撃波がマグメルの体に伝わり、その体の骨を何本も折っていく。
「自分のあげたダメージとはいえ痛いですね」
お互いに大きくダメージを負ったとはいえ、その体力はまだまだあると相手に悟らせるように相手に向かってお互いに大きく笑う。
★ ★ ★
近くでマグーが戦闘していて、そろそろ終わりそうだというところだけど、僕の方は終わりそうに無い。エンドルフさんの能力に気づけて、なんとか喰らいつけているけれども、刀の技術で負けているから、全然攻撃が拮抗出来ていない。
「霧分身 八苦」
「霧細工 賤ヶ岳」
分身を用意したり、槍を何本も打ち出したりしているのに、どうして当たらないんだ。しかも、最小限の動きで。
「何故攻撃が当たらないと思っているだろう?それはな、湿らせた空気に見聞色を纏わせているからだ。これくらい出来なければ、お前は私に勝てないぞ?」
理屈は分かる。だけど、そのレベルに僕の見聞色がまだ達することが出来てない。でも、だからこそ、僕は貴方とは違うアプローチて貴方を上回ることにします。一発本番だけど、ヒントももらった。僕はやってみせる。
「霧隠れ
いつもの白い霧なんかじゃない。赤く分厚い霧。それが僕とエンドルフさん。近くにいたマグーやユーシスまでもを覆っていく。決して消える事は無さそうなその霧の中では視力は役に立たない。
「む、これは見聞色が」
この霧は見えなくするというよりも、中にいる人々を閉じ込めるような霧だ。そして、この霧はいつもの霧と違い全てに僕の気配が混じっている。そう簡単に僕自身を狙うことは出来ないし、それに……。
「なんで……お前が……ここに」
ユーシスの弱々しい声が静かな霧の中に響く。この霧は僕が何もしなければ、相手の記憶に依存する幻覚を見せることが出来る。この霧に包まれて居る限りその幻覚が途切れる事は無く、よほどの覇気を持っている人間では無いと脱出することは出来ない。
「シメシメの実のことを少し話しただけで、これか。頭の回転といい、末恐ろしいな。だが、それだけで、私を倒せるか?」
「ええ、倒せます。貴方が幻覚で倒せないことぐらい、分かってるつもりですから」
そして、僕はこの幻覚を見せる霧を操作する。多分、これでエンドルフさんからは周りの景色全てが襲ってくる僕で埋もれているはずだ。ここで、決める。
「居合い 雷鳥一閃・改!!!」
武装色を纏わせた黒く俊敏な居合い。僕のこの大技はエンドルフさんに対しても入ったと思わせてくれる一撃で、エンドルフさんが血を吐くと同時に霧も晴れた。
「く、やはりここらが潮時だったか。だが、一矢は向くいよう」
霧が晴れたことで、僕とエンドルフさんの戦いの結末がマグーとユーシスのもとへと晒された。マグーは僕に向かってやりましたねみたいな笑顔を届けてきたが、ユーシスの顔は歪み、空気が揺れた。
「親父ッッッ!!!!!」
声にならない声が上がる。その声には明らかに覇王色の覇気が篭っていた。僕やマグーにはいつまでも覚醒出来ない。いや、才能が無いかもしれない力。それを意識していないとは使えているんだ……少し妬ましいかな。
「叫ぶなユーシス。まだ負けちゃいない。それに、私はお前の親父では無いと何度言ったら分かるんだ」
立ち上がるエンドルフさん。あの傷ではそう簡単に立てないはずなのに。そして、彼はこちらに向けていた剣先を後ろに振り向かせ、そのまま振るった。
「無粋だとは思わんか青キジ。お前にこの場は相応しく無い」
「あらら、邪魔するつもりは無かったんだけどな。だけど、無理はするなよ爺さん。あんたも赤イヌも正義に囚われすぎなのよ」
「それがどうした。目の前に困っている人間がいれば誰であっても助ける。それが正義。それを実行するには私には邪魔者が多く、組織など足枷にしかならないがな」
いつの間にか、僕とマグーからエンドルフさんの間にあった木の床は崩れ去っていて、飛び越えなければ青キジさんとエンドルフさんの元へと行かないようになっていた。
「青キジ。ここは私だけインペルダウンにぶち込むわけにはいかんか」
「そんなことしちゃ。俺が怒られるちゃうんでね。全員捕まえさせてもらうよ」
「全員行け!!ここはエンドルフが殿を務めよう。ユーシス。お前も行け」
「行くわけねぇだろ親父!!!俺をあんなクソみてぇな王国から助けてくれたのは親父だ。ここで親父を置いて逃げたら俺は一生自分を恨む」
ユーシスはエンドルフさんの隣へと立った。そこには絶対的な信頼とお互いに見えないけれど、大きい恩義を感じ取れる。
「仕方ないやつだ。最後ぐらいカッコつけさせてもらいたいものなのにな」
エンドルフさんは僕の方を向くと、軽くアイコンタクトをして、頷く。僕もそれに返すように頷く。ここで彼が何を思って僕の方を向いたかは本当の所は推し量ることは出来ない。でも、僕はあの人に逃されるべくして、逃されたのだということだけは分かる。
「あらら、俺が悪者みたいじゃない」
「間違っていない。私が正義の味方なのだから」
戦い始めるエンドルフさんとユーシスと青キジさん。青キジさんは海軍の大将だ。今、ここで構っていてはアデルを助ける為の時間が少しずつ無くなってしまう。
「マグー。ここは引くよ」
「ええ。そろそろ海図を見つけている頃でしょうから。大将とやるのはまた後日ですかね」
「霧隠れ 五里霧中」
霧がこの海軍の基地を包み込む。霧によって四人を見つけると、船へと退却する。いよいよ、アデルを迎えに行く。随分と時間がかかってしまったけれど、アデルなら大丈夫。僕とマグーの最初の仲間なんだから。
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海軍基地及び世界政府の直轄組織の建物の破壊。あらゆる戦争への間接的な関与。主にそれらの大罪の主犯として元革命軍参謀エンドルフをインペルダウンLEVEL6に収監。
エンドルフの右腕で元革命軍である、元ブリテンディッシュ王国の王子のフレデリック・ユーシスを革命軍及びエンドルフの犯罪への加担としてインペルダウンLEVEL5に収監。
傭兵として様々な組織に加担し、残虐の限りを尽くしていたシャルバードをその危険性と目的が不明瞭な点からインペルダウンLEVEL4に収監。
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後一話と日記形式でデッドエンド編は終了です!