霧となった少年は最悪の世代に数えられるようです。   作:地支 辰巳

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多分、この章は全6話になる予定


ジュウリンレクイエム

 

 ルーファス達ミスト海賊団の船が空に浮かび、空に浮いている島にバラバラになってはぐれてしまってから一日。

 ルッカとシオンは偶々同じ島に落ち、行動を共にしていた。このように2人で船以外でいるのは久しぶりだったので、こんな事態にも関わらず、2人は内心この時間に喜びを感じていた。

 

「本当に気持ちが悪い生物ばかりで、嫌になりそうです」

 

「シオンはそういうのだけは苦手だからな。倒せるんだから、良しとしようぜ」

 

 いつもよりも心無しか優しげな雰囲気を漂わせるルッカとよく見る生物とは全く違う生物に何度も襲われ、嫌悪感が漏れ出ているシオン。いつもと真逆な思いを持っている二人は何体も歪な生物を倒して疲れたのか、座り込んで休んでいた。

 

「他のみんなは大丈夫ですかね?」

 

「全員図太い連中だから大丈夫だろ。今は俺たちが無事でいれることだけを考えようぜ」

 

 リアリスト気質なルッカの言葉を受けたシオンは辺りの普通とは違う生物を見つめ、こんな生物にみんなが負ける訳が無いと確信し直し、不安と心配がほとんど無くなった。

 そんな長い時間一緒にいて、相性も良い2人は数十分休憩すると、他の仲間を探しに動き出す。しかし、昨日来たばかりで何の土地勘も無く、手がかりも無い2人にとっては探すだけで、ひたすらに歩き回ることは目に見えていたので、シオンの能力で空から探す為に飛ぼうとしたのだが、突然、木々が折れる音と共に何かが来た。

 

「よぉ。てめぇら、殺してやるよ」

 

 二刀の刀を持っていきなり現れたのは、昨日、ルーファスと戦ったエレカと名乗る金獅子のシキの娘だった。

 

「シオン!」

 

「はい、兄さん」

 

 昨日見ていただけで、エレカの戦闘狂的な性格と出会い頭早々に出た危ない言葉から、戦闘は避けられないと悟った二人は能力を見せることを躊躇わず、戦う構えを取る。自身の船の艦長とほとんど互角だった人間に勝てないとは思いつつ。

 

「縄と鳥、良い能力持ってるじゃねぇか。だが、能力があると言って俺に勝てると思うんじゃねぇこったな」

 

「貴方を生かしておいたら、兄様に危害が加わる。ここで差し違えてでも」

 

「シオンを殺させない為に、俺は全力でお前を妨害する」

 

「ハッ、死ぬ気でやらなきゃもたねぇぞおい!!あ……お前ら何故鳥が飛ぶと思う?」

 

 また思い出したかのようにルーファスにしたのと同じ問答をするエレカ。2人ともそこにどんな意図があるのか分からないなりにも、シオンはそれがルーティンのような物だと考え、ルッカは意味の無いものだと考える。

 

「自分の居場所を探す為です」

 

「以下同文だ」

 

「シハハハハ、分からなくはねぇがな。48点だ。さぁ、勝負といこうじゃねぇか!!!」

 

 ルッカとシオンにとって、エレカは強敵であり、勝てる確率はほとんど無い。しかし、それでも勝てると思って死ぬ気で戦う。そんな2人の心意気を感じてエレカは笑う。

 

 

★ ★ ★

 

 

 シオンとルッカ、エレカの戦いが起こる数十分前の別の浮かぶ島。秋の風が吹き、心地良い気温となっているこの島にはアデルとカリーナが飛ばされていた。

 

「はぁー戦力的に不安しかないじゃないですか」

 

「大丈夫だって、私たちってミスト海賊団の古参だよ?心配無いよ」

 

 自他共に認めるとおり、2人はミスト海賊団の中でも弱い方である。それを自覚しているが故に2人は普段からバランスを取る為に、戦艦に最も詳しかったり、頭を回して作戦を考えたり、航海術の真似事をしていた。なので、今の戦闘を得意としない2人の状況は非常に不味かった。

 

「早くみんなを見つけましょうよ。まだ、こんなちょっと強い動物しか出てきてないからいいですけど、あのヤバい女が来たら死にますよ?」

 

「確かに。じゃあ、見つけにいこっか。ルー兄かマグー姐が見つかれば安心だよね」

 

 2人は仲間を探しに進み始める。しかし、2人が居た島は狭く、他の浮いている島とはほどほどの距離離れていたので、飛ぶ降りる以外に渡るすべは無い。

 

「こんな時にマグメルかシオンがいれば良かったんですけどね……」

 

「飛ぶしかないよね?何処に飛ぶ?」

 

 大小様々な島が浮いている中、どれに飛ぶかを迷う2人。飛行能力を持たない2人にとっては島選びをミスってしまったら、死ぬことすらありえる。そんな事情もあり、躊躇っていた2人だったが、そこそこ近くにある島で大きな音がした。

 

「なんか、ヤバい音した気がするんですけど?」

 

「一気に木が倒れたから鳴ったみたい。そこに行く?」

 

 アデルの提案にカリーナの表情は非常に悪くなったのだが、他に行くところも無く、仲間がいる可能性が他の場所よりも大きいので、2人は行くことを決意する。

 

「ふっ、ふうー。よし、覚悟出来た。飛ぶよカリーナ」

 

「一応、私の方が年上なんですけどねー」

 

 空に飛んだ2人。嫌々ながらも飛んだ2人は結構大きな距離を飛んで、その島へと着地する。その島で何が起こっているのか知らぬまま。

 

 

★ ★ ★

 

 

 刀と刀が打ち合う音が響き、鞭が空気をしならせるような音が聞こえるこの戦場。そこで戦っている三人の内、2人は体の至る所に傷が出来ていたのだが、1人は無傷で立っていた。

 

「おいおい。死ぬ気で来いって言ったよな?まだまだ俺は本気出してねぇぞ」

 

 エレカは既に満身創痍で挑んでいるシオンとルッカに挑発するように発破をかける。しかし、その発破はシオンとルッカの為と言うよりも、そうでもしないと潰しがいが無いからという方が正しい。

 

「口だけじゃありませんね」

 

「そうだな。通りでルーファスが決めきれない訳だぜ。……シオン。俺が足止めしている内に逃げろ」

 

 死ぬかもしれない恐怖を前に、ルッカはシオンを逃す決断をする。自分が死んでしまって会えなくなるかもしれないが、そんな事よりもシオンに生きて欲しかったから。

 

「嫌です。前回も私は兄さんに逃してもらいました。今回は同じことをされたくないです」

 

 シオンの意思は堅い。いや、それよりも、シオンはエレカの絶対に逃がさないという執着のような何かを感じ取り、逃げれないことを容易く悟ったことの方が大きい。

 

「逃がすわけねぇだろ。ここに全てかけてこいよ」

 

 逃げようとした行動が気に入らなかったのかエレカの猛攻は勢いを増していく。そして、その猛攻に耐えるようにしながら、シオンとルッカはエレカの動きが一瞬止まったところに決死の一撃を放つ。

 

雪加撃ち(せっかうち)

 

「無知縄 苦諦(くたい)

 

「シハハハハ、見え見えなんだよ。獅子演舞刃(ししえんぶじん)

 

 シオンとルッカの一撃をいなすように刀を振るうことで、致命傷にならぬように避け、その勢いごとまた振るい直し2人に致命傷を負わせた。

 致命傷を負った2人は大量に血を出してながら崩れ去るように倒れ込んだ。

 

「……兄……さん」

 

「シオ……ン」

 

 険しい顔をしながら倒れ込んだ2人は辛うじて生きているような状態であり、このまま放っておけば死ぬことは確実だった。

 

「こんなんじゃ満たされねぇじゃねぇかよ。チッ、支配しがいがねぇな。殺すか」

 

 一歩一歩と瀕死の2人へと近づいていく。その足取りはさっさと止めを差したいような言葉とは裏腹にゆっくりとしたものだった。

 

「止まれーー!」

 

 その足取りを止めるように叫ばれた声の方向からはナイフが飛んできていた。そのナイフを最小限の動作で避けたエレカは強烈な睨みをその方向に向ける。

 

「おいおい、ちゃんとバラバラにしておけよジジイ。連戦は加減できねぇぞ、おい!!」

 

 いくつも飛んでくる投擲物を刀で弾きながら、エレカは迫って来た眼帯の少女に刀を振り下ろす。だが、その刀を防ぐように紫髪の少女の仕込み靴が間に入り込む。

 

「シオンとルッカは死なせない!!」

 

「アデルも……ね。あ、ヤバい」

 

 仕込み靴では防ぎきれず、紫髪の少女、カリーナは吹っ飛ばされる。そのカリーナの一旦の無事を一瞬の内に確認すると、アデルはエレカの懐に入り込み、ナイフを突き刺そうとする。その動作を見ずに気配だけで察したエレカはいち早く避けようとしたのだが、その瞬間、体に縄がくくられた。

 

「まだ、そんな元気がありやがったか、死に損ないがよ!」

 

 そのルッカが倒れこみながらも作った隙を大事にするようにアデルのナイフがエレカの首へと刺さる。

 

「さ、刺さ……らない」

 

「ハッ、残念だったな。それくらい二の手として防ぐ手段はもってるに決まってるじゃねぇか」

 

 アデルの刺した部分は黒い武装色の覇気を纏わされていて、ナイフが刺さりきらないほどの練度を持ったものだった。

 

「んじゃあ、反撃するしかねぇよな!!」

 

 リミッターを外したようにエレカの動きは速くなり、本人にも自身の動きが分かっているのかというような、大胆かつ全てに力がかかっている攻撃になす術なく蹂躙されてしまった。

 

「これで仕舞いだな」

 

 もれなく重傷となっていた4人にゆっくとした構えをしながら、大きく構えると、止めの一撃を放とうとする。

 

「おいおい、ちょっと待ってくれよ」

 

 そんな折、ひらりひらりと軽快な歩き姿で現れたのはミスト海賊団の医者のヴィレムだった。彼はエレカにビビること無く、正面切って前に立つ。

 

「次から次へと何なんだてめぇらわよ。俺の生きがいを分断するんじゃねぇ」

 

 キレながらも感情が安定しているように思えるエレカは勤めて冷静に話しをヴィレムに促す。

 

「俺と戦わなくていいのか?なんだったら、相手してやるぜ」

 

「直感で分かる。お前みたいな人間に俺が勝つ意味がねぇ。とっとと要件を言って失せろ」

 

「まぁ、いい。とりあえず、要件を言うぜ?そいつらを俺に引き渡してくれ」

 

「あ?俺に得があることなんだろうな、それ?」

 

 互いにすぐ目の前まで迫りつつ、口だけでは無くプレッシャーを与え合いながら交渉を進めていく。ヴィレムは何処か手慣れた様子で、エレカはプレッシャーを徐々に大きくしながら。

 

「お前がそいつらを殺したら、ルーファスはお前を殺して、自分も死のうとするだろうな。そんなの嫌だろ?」

 

 普通の相手ならば、それほど効果が強くないように思えるこの文言だが、エレカにとっては痛い所を突かれたようで、プレッシャーを抑えこみ、考え込む様子を見せた。

 

「確かにな。いいぜ、こいつらはくれてやるよ。その代わり、何があっても明日、ルーファスの野郎と闘わせろ」

 

「ああ、もちろん」

 

 エレカは刀を納めると、去っていく。それを確認したヴィレムは四人に応急処置を施していく。手を抜くなんてことはしない。ただ、真面目に治療する。意味があったとは言え、途中から戦いを傍観していた自分にも非はあると思いつつ。

 

 

★ ★ ★

 

 

「ジハハハハ。やっぱり、俺の部下にはならねぇよな」

 

「ええ、なりません」

 

 空中に浮いているシキは断れても尚、余裕の笑みを浮かべている。地面の上にいるルーファスはそのシキの言動は観察し、マグメルはいつ仕掛けても良いように心身ともに準備をする。

 

「早くやりません?貴方に勝ったらこっちとしても箔がついてきますから」

 

「エレカと互角レベルの奴らが生意気過ぎるな。だが、部下にするにはそれくらいの方が良いってもんだぜ」

 

「行かしてもらいます。マグー準備は?」

 

「バッチリに決まってるじゃないですか。早く、伝説に挑みましょ」

 

 ルーファスとマグメルは空中にいるシキの方向に走り出す。エレカの蹂躙が終わった頃、ここでも大きな戦いが始まろうとしていた。

 




0世代の中で子どもを育てるのが色んな意味で1番上手なのはシキだと思ってます
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