霧となった少年は最悪の世代に数えられるようです。 作:地支 辰巳
「そう言ってるだろ?軍艦と中将を回してくれ」
「これで何の成果も得られなかったら、お前の責任問題じゃからな、ヴィレム!!」
「いずれにしても、弱ったシキかやられたシキを拝めるだろうさ」
船内で明日の襲撃の準備が進められている中、ヴィレムは一人、外へ出て、そこそこ歩いた場所で海軍大将赤犬と電伝虫で連絡を取っていた。その内容は荒気味の今の世界では少々大き過ぎるだったが、ヴィレムの引かない態度、これから先に控える出来事を思うと、渋々ながらも士気を上げる目的も兼ねて赤犬は了承するのだった。
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「本当にこれ必要なのかよ」
「みんなしてるんだよ?名誉にもルー兄から幹部の地位をもらったんだから、しなきゃ駄目だよ」
「地味に痛かったしよ。阿呆らしいたらありゃしねぇぜ」
「うしし、案外似合ってますよ?うなじになんて、言葉使いに似合わずセクシーですし」
マグメルを除いた女性陣に囲まれているエレカの首元には霧と虎の刺青が彫られていた。それはこれまで刺青を入っていなかった方が違和感に感じるほど、エレカの体にはひどく馴染んでいた。これまでの人生、人と密接に関わることの無かったエレカはそのうなじを何度も確かめるように触れながらも不満を口にする。
「まぁいいがよ、それよりはミスト海賊団第六席突撃隊長っていう肩書きの方が好きだぜ?第六席っていうのが不満だがな」
「番号は船に乗った順、仕方無いと思います。私は三席という数字に満足していますので」
「まっ、幹部の人数が増えれば後輩も出来ますよー六席さん」
「てめぇ、殺されたいようだな。このクソアマがよ!!」
仲間に入る前のような殺気溢れるキレ方では無く、何処か甘さが見えるキレ方にカリーナも冗談めかしながらも逃げる。そこにはこの間には本気の殺し合いをしていたようなものなど一切思えなかった。それはひとえにエレカが他人と向き合って会話をし始めた末の結果なのか、ミスト海賊団の面々が真摯に会話した末なのかは分からない。どうであっても、殺し合った人間とこのように仲良くしていることはイカれている人間の証拠だった。
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「何してんだよ。それ、危ないんだろ?」
「うん。でも、使わずに死んでしまったら、もったないからさ」
場所は変わって、オエステアルマダ号の倉庫。そこで、ルーファスは先日アラバスタから盗んできた豪水を手に取っているところをルッカに見られていた。
「俺は未だに何であんたが自分の夢の為にそこまでするか信じられねぇよ」
「……ルッカは主にシオンの為に戦ってるもんね。僕も自分の戦う理由に色々思う所はあるんだよ?でも、その戦う理由にみんなのことも入ってきていることも確かなんだ。だから、今は自分の夢だけじゃない。ルッカみたいに誰かの為一途っていうのも憧れるんだけどね」
久方ぶりにルーファスは自分の思いを静かに吐露する。そこには清々しいほど真っ直ぐに自分の思いを吐いており、昔に吐いた頃よりもルーファス自身が大人へとなっていることを示しているようだった。
「だったら、その死に癖を直せばいいだろ」
「無理かな。今の僕があるのはこの思いのおかげ、それに、この欲望があるから僕は海賊らしくいられるんだ」
そんなルーファスの思いは全く持って理解出来ないというようにルッカはこの場から離れる。ルーファスの持っている豪水の危険性を知り、それを止めても無駄なことを理解しつつ。
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誰もいない船の甲板。そこに一人、仮想敵に対して攻撃を繰り出している人、マグメルが居た。誰よりも負けず嫌い。そして、誰よりも後悔を引きずる人間のマグメルは一人黙々と修行する。何よりそれは、前回シキに手も足も出なかったことを引きずっていたからであった。
「……私はまだ辿り着けていない。動物系の次なるステージに」
誰から聞いた訳でも無い。しかし、マグメルは分かっていた。自分の悪魔の実には次なるレベルがあること、自分がまだまだそこには達せられていないことを。
「私は、私は副艦長なんです。艦長代理なんです。こんな……体たらくで……どうしたら」
マグメルは一度、意図せずそのステージに踏み入れたことがある。何も無い穏やかだったその日に。その時、マグメルは悪魔の実の全貌を理解した。だが、その時のマグメルにはそれを制御出来なかった。その末、その時の記憶すら無く、ルーファスに海に落とされて何とか元に戻ったと後から聞いていた。
「いえ、私らしくありませんね」
その力を制御出来たら、マグメルはシキに勝てると確信出来ていた。だが、もう一度その状態になって意識を失うのが嫌だった、自分が無くなるのが嫌だった。分かりやすく言うならば、マグメルは恐怖していた、その状態の自分に。
「今の私が出せる私でいきましょう。いつかは辿り着けるんですから」
マグメルは決意する。そんな不確かなものに頼るのは自分らしくない。今回は一人で戦う訳では無い。ルーファスと一緒に戦うのだ。二人が揃ったら、負けるはずは無いと。そう、確信して。
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いよいよ攻め入りの日になった。エレカから教えてもらったシキさんの居る居城に向かって、今いる島から船から大砲を撃ち続けるように水夫の皆さんにお願いする。僕らは僕、マグー、シオンの三人でみんなを運びながら飛んで行き、乗り込む。その後は全く考えていない。なるようになるだろうから。
「いよいよですね。覚悟は出来てますかルー」
「うん。こんな事、あんまり言わないけど、今度は絶対に勝つよ」
「それでこそ、私のルーです。さぁ、始めましょう」
一発目の大砲が打ち出されたと同時に出発する。自分の戦艦から打ち出される砲弾を横目に見つつ、シキの居城へと到着する。砲弾はやっぱり距離があるせいか、打った内の3.4割しか当たっていないようだった。でも、当たった場所は屋根が壊れているようだし、効果は充分にあったのだと思う。
降り立った僕たちはゆっくり、しっかりとした足取りながらも、シキさんがいつもいるらしい中央の部屋に向かう。
「ジハハハハ、やってくれたな」
少し居た見張りを殺しつつもたどり着いたその部屋は和を基調としており、部屋の奥にはシキさん、変なピエロ?ゴリラがいて、そこに行かせまいと何千に者人たちが道を阻んでいた。
「おい、エレカ。俺への裏切りってとっていいってことだよな?」
「シハハハハ、裏切りじゃねぇ、自立だ、自立」
緊迫状態が続く僕たちとシキさん率いる金獅子海賊団。そんな中、開戦の合図をするようにシキさんが手を挙げる。それを受け取った何千もの兵士が一気に押し寄せてくる。
「みんな。絶対に死なないで下さい。僕から言えることはそれだけです」
各々が頷いて、僕たちも敵に対して向かって行く。みんな、僕とマグーをシキさんの元へ行かせるように戦ってくれてる。その苦労に恥じないように早く辿り着かなきゃ。その時、エレカが大きく飛び、道中の敵を無視してシキさんに掛かっていった。
「覚悟しやがれクソジジイ。念のために聞いてやるよ、何故鳥は空を飛ぶと思う?」
「飛ぶことしか脳がねぇから、鳥だ。エレカ、俺は実の娘にも容赦はねぇぞ!」
エレカの二刀の刀とシキさんの足代わりの刀が激突する。その激突は稲妻を散らしながら、建物を壊していく。凄い。こんなことがあるんだ。これが、噂に聞く、覇王色の力なのかな。
「ルー。早めに行かないと、エレカ死にますよ」
「分かってる。マグー乗るよ」
お互い、一度近くにいる敵を薙ぎ倒すと、獣型になったマグーの背中に乗って、シキの元へと辿り着く。みんなには負担をかけてしまう。ごめん。やっぱり一対一だとシキさんには敵わないみたいで、エレカの足がどんどん辿り着いたばかりの僕らの方に近づいて来ていた。
「エレカ、マグー。合わせるよ」
「一々命令するんじゃねぇ!!」
「ごちゃごちゃ言わないで、やりますよ!」
一度離れて、大体横並びになった所で各々が技を構える。三人で技を合わせるなんて初めて。だけど、出来ないはずは無い。僕はそう根拠が無くても確信出来る。
「
「
「
「「「
バラバラに見えるような三人の攻撃だけど、当たった。そう直感出来るほど僕らの攻撃はしっかりとシキさんの体に入っていた。だけど、まだ全然倒すには及んでいない。
「鬱陶しいわ!!」
しっかりと痛みを味わったシキさんはそれを顔に必要以上に出すことは無く、手のひらを床に当たると、僕らの周りだけを床ごと外にほっぽり出した。
「あんまり舐めてるようだから、忠告しておいてやる。テメェらとは年季が違うんだよ」
「獅子威し 御所地巻き」
辺りに降っていて、積もっていた雪が獅子の形へと変わって、僕らを囲むように襲いかかってくる。この間に受けた時よりも数が圧倒的に違う。でも、前回よりも少しは僕らのレベルは上がってる。負ける道理は無い。
「霧細工 備中攻め」
全ての獅子を霧を使って、縛る。こんな使い方はあんまりしないから、長くは持ちそうに無いけれど、二人が攻撃する暇は充分にあるはず。
「手間が省けるぜルーファス!クソジジイ舌噛むんじゃねぇぞ!!!」
「
真っ黒に染まり切ったエレカの腕と刀によって、シキさんは空から落とされる。そこにすかさず人獣型に変身したエレカの一撃が迫る。
「竜爪拳 竜の息吹き!!」
真っ直ぐに受けると、嫌な音を立てながらもまた空に打ち上がる。だけど、この2回の攻撃が当たってだけで、楽観視するほど前回のことが頭に入っていないわけじゃない。
「ジハハハハ、大したもんだ。今の時代のやつにしてはな」
「獅子威し 極上地巻き!!」
僕が押さえていた獅子よりも外側から今よりも倍の数が生成されて、反撃する隙も逃げる隙も無いうちに迫ってくる。そして、僕らに直撃する。ウッ、思ったよりも衝撃が強い。
「……あっけねぇな。結局、こんなもんか」
景色が全部真っ白だ。何があったのかは分かっている。だけど、こんな攻撃でへばる自分が嫌だ。だから、僕は、動く。
「まだです。こんな攻撃でやられると思ったのなら、甘く見過ぎです」
僕の声に反応するように、雪の中からエレカとマグーが出てくる。二人とも見たところはそこまで大きな傷はないみたい。
「僕の覚悟を見せます」
倉庫から取ってきた豪水を取り出し、躊躇なく飲み干す。ハァ、ハァ、身体が燃えるように熱くなる。それに、このまま放っておくと、僕は死ぬだろうな。だから、体を霧にしていって、毒素を逃がす。腕に大きなアザも出来て、煙のように体から霧を出しながら、改めてシキさんを見る。
「柄じゃないですが、第二ラウンドといきましょう」
「ジハハハハ、面白い。その命見届けてやる」
こんな方法、初めてやるから何処まで持つかどうかなんて分からない。だけど、やるからには本気でやる切る。死ぬかもしれないからこそやり切れるんだ。
次回投稿は明後日です。次の話でこの章は終了です。