霧となった少年は最悪の世代に数えられるようです。   作:地支 辰巳

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神時代

 

「ピロピロピロ。おいおい、あいつら三人がかりで本気で勝てると思ってるのか?」

 

「まぁな。そうじゃないと、俺が困るからな」

 

 珍しくボウガン二丁に加えて、後ろに一本のサーベルを背負ったヴィレムはシキの右腕のインディゴと相対する。お互い、戦闘が本業では無い中でも、相手のことを目は離さずにいつでも動けるようにしていた。

 

「海軍崩れのクソガキが俺に勝てると思わんことだな」

 

「ケミカルジャグリング!!」

 

 薬品を投げつけてくるインディゴ。それに焦る事なく、ヴィレムは立体的に動きながらそれを撃ち落としていき、インディゴに近づいていく。

 

「いい動きだ。だが、これ以上避け切れるか?」

 

 連射速度も上がり、ヴィレムを追うようになった弾は的確に当たっていき、爆発を起こす。

 

「ピロピロピロ。言い様だ」

 

「かぁー痛いねぇ。俺は医療班出身なんだがな。こんなのは向いてないだよ。まぁ、今回は本気でやるしかないってことだな」

 

 爆発に巻き込まれ、煤まみれになったにも関わらず、ヴィレムはにやけ顔をし始め、まるで大切でもないように手に持っていたボウガンを床に捨てる。そして、背中に背負っていたサーベルを取り出す。

 

「ピロピロピロ。おいおい、今までは本気じゃなかったのか?どうせ、変わらんだろ」

 

「それは、どうかな」

 

 今までヴィレムが出していた剃の速度を大きく上回る剃の速度でインディゴの懐に入り、サーベルを振るう。咄嗟のことで動きが取れなかったインディゴだが、それでも歴戦の時代を生き残ってきた海賊として、なんとかその場で薬品を爆発させ、サーベルが当たるのを防ぐ。

 

「殺す気か!!」

 

「おいおい、俺の海軍時代の上司は赤犬。やれる男だよ、俺は」

 

「マスジャグリン!!!」

 

 何処か苦し紛れに巨大な薬品を投げつけるインディゴだが、黒くなっている剣身でそれを切り切ったヴィレムはまたも最高速で近づくと、今度こそインディゴを切った。致命的な一撃に加え、体に仕込んでいた薬品が爆発し、勝負は決した。

 

「俺は勝ったんだ。勝ってくれねぇと困るぜルーファスさんよ」

 

 

★ ★ ★

 

 

 数千もの金獅子海賊団をインディゴと戦っていたヴィレムを除いた、アデル、カリーナ、シオン、ルッカの四人で殲滅している中、カリーナは変なゴリラに絡まれていた。そのゴリラは派手で上等な服を着ており、興奮しながらカリーナに近づいていった。

 

「ウホウホ言っちゃって、あたし、ゴリラは好みじゃないのよ」

 

 服を着る知能はあっても、言葉をしゃべる知能の無いスカーレット隊長こと、ゴリラは自身の言葉を使ってカリーナを求婚する。しかし、そんなものはお構い無しにカリーナは自身の武器の一つの薙刀を振るう。

 

「硬すぎでしょ。全然刃が通らないんだけど」

 

 元々戦闘要員では無いカリーナに対して、生物的にも人間よりも優れているゴリラと対戦することが無理があり、カリーナは何重も考えを巡らせる。その間に振るう薙刀も衣服を破く程度だった。

 

「ここからどうしよ、ほんと、無理ゲーよね」

 

 辺りを見渡しながら、他の仲間がかかりっきりなのを確かめると、カリーナは一つの考えを元に行動することを決める。

 走り出すカリーナを追って、なりふり構わず暴れ出すゴリラ。それの影響で同志撃ちが発生しているが、そんなことを気にする事なく一途にカリーナを追う。

 一通り、部屋中を回ったカリーナは元の場所へとまた戻って来る。少し息を切らし、汗を妖美に垂らしながら、後ろに着いてきているゴリラを振り向く。

 

「いいですよ。脱いじゃったり」

 

 言葉通り、いきなりカリーナは服を脱ぐ。まだ上着だけだが、その先をそそらせるような脱ぎ方に本能のままに生きているゴリラは夢中になる。周りが見えぬほどに。

 

「やっちゃって!」

 

 不意にその場を退いたカリーナ。そして、いた場所を長い長い縄が伸び、ゴリラの顔面へと正面切ってぶち当たり、言葉にならないような言葉を上がて、倒れ込む。

 

「ウシシ、お眠んねしててね」

 

 追い討ちするように取り出したヌンチャクを顔面にヒットさせると、カリーナは縄を当ててくれたルッカの元へ赴く。

 

「突然言うなよ。こっちだって、忙しいのによ」

 

「勝つためにはこれしか無かったのよ。仕方ないってことで許して?」

 

 満面の笑みで謝るカリーナにため息を吐きながら適当な返事をしたルッカはまだ残っている敵を倒しに向かう。そこにはカリーナに言われるまで、他の状況に気づかなかった自分に対しての純粋な笑顔に耐えられたかったからだった。

 

 

★ ★ ★

 

 

 豪水を解した霧を異常に出しながら戦うルーファス、人獣型になりながらも殴っているマグー、合わない刀を無理やり使いこなすエレカ。その三人を世紀の大海賊金獅子のシキは高笑いしながらも同時に相手取る。高笑いの通り、余力を残しているシキに対して、三人は体力も尽きており、限界に近づいていた。

 

「獅子威し!!!」

 

「クッ、ハァ、三千枚瓦正拳!!」

 

「ジハハハハ、そろそろだろ。俺に支配されるのもな」

 

 絶対に負けないという目をしている三人。それは青臭さの塊のような思いかもしれない。だが、そんな思いを持たなければ勝てないというのは三人が持つ共通認識だった。

 

「チッ、埒があかねぇな。おい、俺とマグメルで隙を作る。そこで最大の一撃を撃て」

 

「それで行こう。打てる手はどんなでも打たなきゃ」

 

「命令されるのは癪ですけどね!」

 

 宙にかけるエレカとマグメル。シキの側に来たところでお互いに構え、シキを挟み込むようにして、技を放つ。

 

獅子雷鳴刃(ししらいめいざん)!!!」

 

「光風夢!!」

 

 雷を放った一撃と風を纏った一撃。どちらも直前にシキが避け、直撃はしなかったものの擦りはし、シキが避けた先にはルーファスが待機していた。

 

「霧分身 八苦」

 

「鷺落とし 二式(にしき)!!」

 

 攻撃を避けたばかりでこれ以上は避けられないシキに八人の分身から刀が振り落とされる。

 

「舐めるなぁ!!!」

 

 しかし、シキは覇王色を辺り一帯には放つと、その余波で分身を消し去り、本体を割り出す。そして、本体に対して、武装色を纏った拳をお見舞いし、撃ち落とす。

 

「うっ、意識が」

 

「ルー!!!」

 

 すかさず残りの二人も地上に突き落とす。落とされた二人は無事ではあるものの直ぐには動けないほどのダメージを負う。そんな中、先に落とされていたルーファスが叫びながらのたうち回り始める。

 

「アァァァァ、ウッ、ハァ、ハァ、アァ」

 

「どうした、狂いやがったか」

 

 いくら霧で吐き出しているとはいえ、豪水の毒は健在。その吐き出しきれない毒は想像絶する以上の痛みで、過度なダメージによりその痛みを体が、脳が意識してしまった。それはルーファスに死を見させる。だが、死というのは時として人間の存在をよりその場に意識させるもの。ルーファスは自身の力を自覚し、ふいに動きを停止させる。

 

「ルー?だ、大丈夫ですか?」

 

「参ってねぇよな?」

 

「…………」

 

 自然系キリキリの実、その力の本流、解釈、願いをルーファスはその身に感じ、動き出す。

 

「霧隠れ 黄霧四塞(こうむしそく) 国之狭霧神(クニノサギリ)

 

 辺り一帯を包み込むように黄色、いや、金色の霧がルーファスの体から湧き出てる。そして、そのルーファスから所々が欠けながらも巨人のようなものが化身となるように薄いながらも形創られる。

 

「なんだありゃ!?」

 

 シキの驚きも気にする事なく、ルーファスは瞬間移動のようにシキの目の前に現われ、そのまま蹴りをお見舞いする。

 

「何がどうなってんだ。だが、俺は金獅子のシキ。負ける通りはねぇ!!」

 

「獅子威し 御所地巻き!!」

 

 金色の霧に混在するように白銀の獅子が何体も現れる。それらが一斉にルーファスに襲いかかるも、巨人が大きく振り払ったことで、その獅子たちは消え去る。それを見たシキは体勢を立て直そうと空に退こうとするも両隣からエレカとマグメルの攻撃を受け、膝を着く。

 

「行かせるわけねぇだろうがよ!!」

 

「大人しくやられて下さいよ」

 

「お前ら」

 

 そんな状態のシキへと向かって行くルーファス。その気迫はこれまでルーファスが放っていたものとは別もので、シキが昔いた海賊団に居ても思わしく無いとシキに思わせるほどだった。

 

「終わりですシキさん」

 

青鷺火堕ち(あおさぎびお)

 

 瞬間的に霧を纏った剣で切り捨てる。その刃はシキに刺さり、その場で倒れた尽きる。それを確認したルーファスもフラフラとなった後に倒れ切った。そんなルーファスをマグーは丁寧に抱え込み、エレカはシキに近づいていく。

 

「何してるんですか貴方」

 

「ケッ、クソジジイの名前ぐらいは残してやるんだよ」

 

 近づいたエレカはシキの足元に寄ると、その義足である刀を二刀とも引っこ抜いた。無理やりはめたものだが、20年もの歳月つけていたことで、血は一切出なかった。

 

「やっぱ、良い刀じゃねぇか、これ」

 

 そんな自分にあった刀を持って笑みを見せずに居られないエレカをシキの腕が動き、掴んだ。

 

「俺を倒したんだ。お前の責任は重いぞエレカ。ロジャーを超えろ」

 

 シキの力があれば容易く強い悪魔の実を手に入れただろう。だが、シキはエレカに能力者であることをさせずに、刀を持たせた。そこにロジャーへの思いがあったかどうかは本人も何も言わないだろう。

 

「知るかよ。俺は俺の思いで生きんだよ」

 

 今度こそ意識を失ったシキに呼応するように浮いている島の能力は解除されていき、落ちていく。それに気づき始めたミスト海賊団の面々は合流を急ぎ、自分たちの戦艦へと戻る。

 そして、この島には黄金色の霧が残り続けるエリアが出来ていたという。

 

 

★ ★ ★

 

 

 目が覚めたら、さっきまで僕たちが戦っていた島とかが海へ落ちていくところだった。はっきり言って、自分が最後どういう状態にあったのかははっきり意識があった訳じゃない。だけど、やり方は覚えているつもり。それに全員無事なのが、一番嬉しい。

 改めて見回すと、エレカがこの船から持って行った刀よりもいい刀を持っていた。多分だけど、僕の持ってる晴嵐に負けず劣らずの刀ではあると思う。ひと段落ついて、少し落ち着きたかったんだけど、何故か海軍が既に落ちていく島の近くで張っていたから、逃げながら、いよいよの目的地に向かっていった。

 

「いよいよですねルー」

 

「うん。僕たちは大海賊のシキさんに勝った上でシャボンディ諸島に着くんだ。胸を張って超新星の名を貰っても良いと思う」

 

「やっとここまで来たんです。目標は最後まで」

 

「うん。最後まで」

 

 あれから、何日もかけて、いよいよ偉大なる航路の中間地点のシャボンディ諸島に僕たちは足をつけることになる。

 




 次話からはシャボンディ諸島編です。そんなに長くは無いですが、書きたいことがやっと書ける章なので、すごく楽しみです。
 
 ルーファスのあれはまだ原作で詳しく自然系の覚醒設定が出てないですが、今のところ段階的にはキリキリの実の覚醒レベルとして書いてます。


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