霧となった少年は最悪の世代に数えられるようです。 作:地支 辰巳
エレカの奴が人間屋に入っていったんだが、それから間もなくして、中から人が多く焦るようにして駆け出してきた。
「この中で何があったんだ?」
「て、天竜人が殴られたんだよ!!た、大将が来るぞ!!あんたも早く逃げた方が良いぞ」
「おいおい、マジかよ」
エレカの野郎。やったんじゃないだろうな。ああ見えて、理性がある奴だとは思ってたんだがな。大将なんて殴っちまったら、七武海もパーだぞ。俺の努力が無駄になるじゃないか。
中に入った俺の目の前では、エレカのやつと誰か知らないが爺さんとやりあってた。あの爺さん、エレカとやり合ってやがる。ヤバいだろ。だが、そんな事を言ってる間に爺さんの一撃がエレカの鳩尾に入って、エレカは気絶した。
「おい、爺さん。そいつは俺の連れなんだ。返してくれないもんか?」
「そうか、そうか。引き取っておいてくれるとこちらも助かる。親のライバルだった人間に世話されるのをこの子も望まないだろうな」
「あんた、もしかして」
他の人間とは全く違う鋭い眼光、金獅子のシキのライバル海賊ロジャー海賊団。そして、目撃証言が偶にある海賊王の右腕の情報。俺はとんでもない大物を前にしてるんじゃないのか。
「ただのおいぼれさ」
もしこの爺さんが海賊王の片腕シルバーズ・レイリーだろうが、触れるべきじゃないか。まっ、こいつをルーファスの元に届ける方が先だ。変な行動をしなくて助かったぜ、ほんと。しかし、大将か。サカズキさんが来なきゃいいがな。あの人は海賊に容赦無いからな。無難にクザンさんがいいか。
★ ★ ★
「おい、ルーファス。大将が来るぞ」
「そうみたいですね。こっちも進展がありました。見て下さい」
エレカを背負って帰って来たヴィレムに、ルーファスは持っていた号外の紙を見せる。その見せた時のルーファスは嬉しさを隠し切れていない微笑を浮かべていた。
「これは、これは。良いニュースだな。どうする、もう出港するか?」
「え、はい。そう……ですね」
ルーファスとシオンは何かに気づき、そちらの方角を向く。釣られてそちらの方角を見た幹部他、水夫達の前にはもう既に軍艦が来ており、シャボンディ諸島の中心を黄色いレーザーが突き抜けていた。
「来やがったか。あれはボルサリーノ、黄猿だ」
「その光、こっち来てませんか?」
マグメルの指摘通り、その光はシャボンディ諸島の中央のヤルキマングローブを折れた後、こちらに近づいてきて、目の前で光が人型に変わった。
「まだ発表されてないでしょう。あんたらも狙わんと平等じゃないでしょうが」
「光の速さで蹴られたことはあるかい」
その一瞬の内に黄猿の蹴りは最大限の警戒をし、武装色を纏っていたマグメルの腹に当たり、マグメルの体はシャボンディ諸島の中央付近まで吹っ飛ばされる。
「よくも、マグー姐をやったな!!」
「
アデルによって増やされた大砲そのものが黄猿に飛んでいくが、そんな覇気も纏われていない攻撃に黄猿は避けることもしなかった。
「やめろ、アデル!」
「ほどほどにしとくから、安心すると良いよ」
大砲がすり抜けた黄猿の指先からはレーザーが幾多も放たれ。ルーファスとヴィレムを除く全ての幹部の肩や腰に命中する。
「ヴィレム准将。いや、元准将。戦闘丸っていうあっしの部下、知らないかい」
「知らないな。電伝虫で聞いてみたら、どうなんだ?」
「出なくてね。直接探すしかないんじゃないかな」
黄猿は手についた盗聴用の黒電伝虫に話しかけながら、繋がらないと文句を垂れる。ヴィレムはそれが黒電伝虫だと知っていたが、いきなり攻撃を仕掛けてきた黄猿への当てつけとして何も言わなかった。その後、黄猿は光を辿るように島の中心へと向かって行った。
「で、マグメルを追いかけるの?」
「いや、マグーは帰って来るよ。これで誰かが探しに行って帰って来なかった方が危ないから」
ルーファス達は船の上でマグメルが帰って来たら出れるように待つ。各々が黄猿から受けた傷を治療しながら。
その頃、飛ばされたマグメルの前にはまさかりを持った人間と王下七武海のクマそっくりのクマがいた。
「おじきの光が見えて来てみれば、こいつは話題のルーキーじゃねぇか」
「誰ですか貴方?」
「わいは戦桃丸。こいつはPX-1。今は合流を急いでいるんだが、みすみす逃すことはできねぇぞ。やれ、PX-1」
パシフィスタPX-1はマグメルに向かって口からレーザーが放たれる。そこに容赦は無く、機械的なものだが、それをマグメルはギリギリで避ける。
「容赦ないですね。私、今、イライラしてるんで、とっととやらせてもらいます」
躊躇なく人獣型へと変身したマグメルは戦桃丸を無視し、パシフィスタを狙う。そこにはあんまり政府の人間を狙うのは良くないと思い、ロボットぽいやつなら、良いかという考えの元だった。
「武装色硬化 魚人空手 四千枚瓦正拳!!」
「覇気も使えるとは、面倒だな」
パシフィスタの中心へと入った正拳は容易くパシフィスタの体を民家の壁へと埋め込ませた。
「やりすぎじゃねぇか。ほいさ!!」
攻撃直後のマグメルを戦桃丸は両手ではじき、体のバランスを崩させる。
「……覇気がこもってますね。それも私よりも上の」
「そらそうだ。わいはベガバンクのボディーガード。ただのルーキーに負けることは無い」
「腹が立ちますね。その言い方」
獣型に変身したマグメルは狙われると思ってガードの構えを取った戦桃丸を無視し、パシフィスタを狙い、腕の一部を噛み切る。そして、また人獣型に変身する。
「竜爪拳 竜の鉤爪!!」
パシフィスタの肩が潰れると、そのままパシフィスタはダメージ過多により、機能を停止した。
「パシフィスタにどんだけ費用が投入されてるか分かってんのか!!全くよ」
「アハハ、私に挑むからですよ。それじゃあ、私、行きますので」
まだ獣型に変身すると、船に向かって飛んで行った。船のみんなに心配をかけないようにパシフィスタによって受けた少しの傷を隠して、この事は誰にも言わぬようにして。
★ ★ ★
「本当っに痛かったんですけど。大将ってあんな奴ばっかりなんですか?」
「まっ、否定は出来ないな。大将は絶対的な強さがないとなれないからな」
口から唾や血を吐きながらも戻って来たマグーは黄猿さんに対して文句を垂れる。僕なんかが敵わないからこその大将だとは思っているけれど、あんなにも容赦が無いとは僕も思ってなかった。
「マグーも帰って来たことだから、そろそろ出港しようか。ここから、集合場所であるマリージョアはぼちぼち近いから、ゆっくりと行ったらその頃には僕のことが乗った新聞も出てると思うし」
「でも、天竜人ばっかりいるんだろ?面倒臭い」
「そう言わないで下さい兄さん。世界の中心を見るのも悪くないですよ」
「……お前が一番危ないけどな」
久々に時間に追われることも無く、ゆっくりとした出港になった。各々が黄猿さんにつけられた傷があるけれど、何とか戦争開始までには治る程度の傷で良かった。エレカも目が覚めたみたいだけど、起きてからずっとイライラしていた。
「クソが。あのジジイ、シルバーズ・レイリーだったのかよ。クソジジイの言う通りになっちまったじゃねぇかよ。しかも、勝てねぇしよ」
「エレカ」
「ああ?なんだ、ルーファスかよ。今、俺はむしゃくしゃしてんだよ。近づかねぇ方がいいぞ」
起きたエレカが甲板の上で一人、正座をしていたので近づいてみた。むしゃくしゃしていることは見て分かったけれど、エレカとはまだ知り合ったばかり、二人で喋ってみるのも悪くないかもしれない。
「その刀はシキさんの足に刺さってたやつなの?」
「……ああ。桜十と木枯らしって言うんだ。俺に合う刀なんてねぇとは思ってたが、皮肉かなんか知らねぇが、この手によく馴染むんだよ。いい刀だぜ、ほんと」
そんな刀のことを語る時のエレカの表情はまるで死んだ両親の時を思う自分のようにも思えたけれど、エレカにも失礼かと思って、その考えをすぐに捨てる。
「エレカは海賊王の右腕と戦ったんだよね?どんな感じだった?」
「見た目は普通のジジイだ。だが、強さは段違いだった。覇気もクソジジイよりも勝っているかもしんねぇし、はっきり言って化けもんとしか思えねぇ。なんで、こんなこと聞くんだ」
「僕はこれから戦争に行くんだ。海軍と四皇白ひげとの戦争に。いくら、シキさんに勝ったといっても3人がかりで、勝てるかどうか微妙な勝負だった。そんな中で、自分が白ひげさんとの戦争に着いていけるか心配なんだ。場違いかもしれない」
心配しすぎなのかもしれない。弱気になりすぎなのかもしれない。だけど、僕以外の七武海の人はミホークさんやドフラミンゴさんを始めとした凄い人ばかり。僕が萎縮してしまうのも仕方ないと思いたい。
「てめぇ、俺に勝った癖にそんな弱音吐くんじゃねぇぞ。お前に信念ある強さを感じたから、俺は入ることを了承したんだぞ!お前が死ぬにも多少は似合う舞台。心してかかりやがれ」
マグーとは違うタイプで容赦ない人間なエレカ。だけれども、彼女だからこそ、吐ける弱音がある。もちろん、マグーにも他の人たちだからこそ、吐ける弱音がある。でも、僕は今回エレカに相談した自分を褒めたいと思う。
「うん……ありがとう」
★ ★ ★
私は自室で黄猿から受けた傷を癒していた。たかが大将だと思ってましたけど、まさかあそこまで何て思ってもいませんでした。そんな、私の部屋をノックする人間が二人。……この気配はシオンとアデルですか。アデルはともかく、シオンが私の部屋に来るなんて珍しいですね。いつも、ルーの部屋かルッカの部屋にしか居ないのに。
「どうぞ、入ってもいいですよ」
「お邪魔します」
「元気ー?でも、ないか。おはようマグー姐」
雰囲気は似てる癖に性格は真逆な二人が一緒に来るなんて何の用なんですかね。相変わらず胸も私よりも大きいですし。
「それで、何の用で来たんですか?」
「わ、私はシオンに着いてきただけだから、知らない」
「……マグメルさん。インペルダウン行こうとしてますよね?兄様が居ない時ですか?」
「え?」
しまった。否定しようとしたのに顔と声に出た。見聞色が得意だし、三つ目もあるから、バレてるでしょうね。ここから、挽回しても信じてもらえないでしょうし、正直に話しますか。
「ええ、そう思ってますけど、何故わかったんですか?」
「ただの勘が大きいです。マグメルさんはインペルダウンに投獄されたユーシスをひどく気に入っていました。貴方は海賊。欲しいものは絶対に手に入れる人です。後は、苦言を呈すだろう兄様が居ないタイミングが戦争中しか無いと思いましたから」
「えーと、ユーシスって誰なの?」
「……後で説明します」
本を読んでるだけあって、シオンはよく頭が回りますね。シオンはルーのことを心酔してるところがありますから、行くの止められますかね。他にタイミングが無いから、ここしか無いんですけどね。
「だったら、私を止めてみますか?ルーと実力の変わらないこの私を」
「私はマグー姐の味方をするからねシオン。監獄から人を助けるのを悪いことだと思わないし」
「マグメルさんに敵わないことは私だって分かっています。……だったら、分かりました。私も着いて行きます。ですが、それ以上は譲れません」
これ以上、抵抗してルーに報告されるのも面倒です。ルーには事後報告が良いんですよね。変に反対されると罪悪感を感じてしまいますから。ここは乗っておきますか。警備も厳しめらしいですから。
「分かりました。シオンの提案に乗りますよ。アハハ、足、引っ張らないで下さいね?」
「言われなくても」
「もちろん、私も付いてくよー」
まぁ、戦力は多い方がいいですし、何かあったら私が守るから、よしとしますか。
★ ★ ★
ルーファス達が出港してから数日後、またも号外という形でルーファスの電撃七武海就任が報じられた。時を同じくして、マリージョアへと着いたルーファスは現王下七武海と対面していた。
PX-1が倒れてもルフィ達の旅路に影響は無いです