霧となった少年は最悪の世代に数えられるようです。   作:地支 辰巳

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ちょっと駆け足気味


勝てないからこそ出来ることがある

 

 衝撃的な光景だった。白ひげさんが傘下であるはずの海賊の人に胸を一突きされていた。他の人々も衝撃的で予想外な光景だったようで、誰も、目の前のイゾウさんですら、声が出ていなかった。その後にドッと訪れる白ひげ海賊団の人を中心とした叫び声。

 

「バカな息子をそれでも愛そう」

 

 刺した人が白ひげさんが傘下の人を売ったと訴える。しかし、そんな風に自分を刺した人にさえ、白ひげさんは彼を許すように抱きかかえる。本当に心が広いというか、凄すぎる人間だ。同じ人とすら思えないよ。僕はあの人のようにはなることは出来ない。

 

「おれと共に来る者は命を捨ててついて来い!!」

 

 さっきの慈悲のような姿とは打って変わって、鬼神のような気迫が海軍本部中に響き渡る。膝をついてしまうほどの気迫に吐き気がする。ああ、これが四皇なのか。四皇はこんな人ばかりなのか? これからの時代、この人たちを超えることは出来るというビジョンが見えない。

 

 そんな白ひげさんが動き出す。いきなり、巨人族をなぎ倒し、島ごと、海ごと揺らし、そのまま、巨人族の人にとどめをさす一撃を放つ。その余波は処刑台の方へと向かったけれど、三大将によって無傷だった。

 いつの間にか、イゾウさんの姿も何処かに消えていて、海軍本部の広場を守るように包囲壁が作動する。

 

「……海軍もここまでしますか」

 

 海賊を封じ込めるように出される包囲壁。古代巨人族の人の血によって完全では無いみたいだったけれど、それでも海軍有利に進むことには変わりないほどだった。海軍は正義。それは世界の常識だけど、海軍だって勝つためならば、残酷になれるんだ。ドフラミンゴさんが言っていた通り、正義なんてものは勝者にしか当てはまらないかもしれない。

 

 この状態をさらに確固たるものとするべく赤犬さんによって、マグマが海軍本部の湖へと放たれ、白ひげさんの船が破壊される。勝負あったかな、この戦争。

 

「作戦ほぼ順調。これより速やかにポートガス・D・エースの処刑を執行する」

 

 それを分かっているかのように海軍も処刑を実行しようと作戦を早めるけれど、いつまでも負けていられないと示すように古代巨人族の人が動きだし、麦わらのルフィさんも三大将の前へと飛び込んでくる。なんでこんなにも彼は無茶なんだろうか。

 

「臆病で彼のような無謀が出来ない僕も彼のように」

 

 いつまでも今の自分だと自分の夢には届かない。彼のことを見ると、嫌でも自覚してしまう。だからこそ、僕は走る。エースさんの処刑をクロコダイルさんが止めたのを横目に見ながら、広場に新たに出てきた船を使って入って来る白ひげさんの元へ。

 

「霧隠れ 黄霧四塞 国之狭霧神」

 

 黄金色の霧を出して、体力を大幅に減らしていく技を使いながら、広場に入っても大暴れする白ひげさんに挑む。何処まで通用するかなんて分からない。でも、彼を見ていたら、僕だってやらなくちゃいけない気がしたんだ。

 

「白ひげさん。僕の覚悟、見てください!」

 

「若造が。死に急ぐもんじゃねぇぞ」

 

鳧徯破(ふけいは)!」

 

 近距離で放つ、刀の衝撃波。僕が出来る中でも高火力な技だったけれど、そんな攻撃すら白ひげさんの一動作から出される振動の前には消え去る。代わりに来たのは、構えから出される大きな振動。

 

「次の時代にとっておきやがれ。アホンダラが」

 

 その衝撃は僕の体の中心に響き、頭をガンガンさせる。自分の体が何処に吹き飛んでいっているのかも分からない。この生きてるのか死んでいるのか曖昧な感覚。ミホークさんにやられてから、二度目だ。僕は成長出来ているんだろうか。

 

 

★ ★ ★

 

 

「ゼハハハハ。流石、動物系だな。体力が尋常じゃねぇな」

 

「はぁ、はぁ。馬鹿言ってるんじゃありませんよ。私だってもうボロボロですよ」

 

 言葉通り、マグメルの体の至る所から傷が目立ち、血を流していた。しかし、その姿はマグメルの格上と戦ったことから溢れ出る笑顔によって、ある意味でマグメルを輝かせるファッションのようにも見えるものだった。

 

「おれらだって急いでるんだぜ? どうだ、そろそろ仕舞いにしねぇか?」

 

「……そうですね。でも、この一発は届かせてもらいます」

 

 また人獣型になったマグメルは黒ひげの能力を警戒し、背面に回ると両腕を黒ひげを挟み込みように構える。

 

西島(せいとう) 光復(こうふく)!!」

 

 挟み込みような一撃は辺りにある空気などを巻き込みながら、黒ひげの背中を削る。あまりにも予想外なダメージ量に黒ひげは倒れていく。

 

「今です。アデル、シオン!行きますよ」

 

 次の階に行くことを指示し、マグメルは獣型に変身すると黒ひげ海賊団を振り切る為、2人を自身の背中に乗せに行く。それを理解した2人もどちらかと言えば、劣勢気味だった相手に一矢報いるように逃げの技を放つ。

 

「分かりました。良い経験になりました」

 

椋鳥の荒事(むくどりのあらごと)

 

「次に会った時には勝てるかなー」

 

地面の隆起(グラウンドアップ)!!」

 

 それぞれがそれぞれの相手に技を放ち終わった時、ちょうどマグメルにより2人が回収され3人はこれよりの下の地獄。ついにユーシスのいるLevel5へと向かうこととなる。

 

「……追わなくていいのか?」

 

「いてぇがな。ほっといてやろうぜ。おれたちの狙いはあいつらじゃねぇんだ」

 

 黒ひげは野心に溢れ出た笑みをしながら、マグメル達とまた鉢合わないようにゆっくりと下降していく。Level5よりもさらに下、Level6を狙って。

 

 

★ ★ ★

 

 

 Level5への階段で、元看守だと思われる女性を捕まえたマグメルは彼女にユーシスの居場所を聞き、案内をさせる。極寒のLevel5を女性四人が文句を言いながらも歩いていき、着いたのは塔に備え付けられた牢屋。そして、中心で胡座をかいている男。マグメルの目的の人物であるユーシスがいた。

 

「お前か。今更、何のようだよ。敗者の俺を笑いにきたのか?」

 

「そんなことあるわけないじゃないですか。スカウトですよ、スカウト」

 

 楽しそうにクルクル笑うマグメルとは対照的に怒りの様をアピールするように顔を顰めさせるユーシス。頑固なユーシスと我儘な部分を持っているマグメル。二人の意見はこのまま行けば平行線になると思われた。

 

「お前らのせいで、親父はここに捕まったんだ。俺がそんな! お前らなんかの仲間になるわけないだろ!」

 

 ユーシスの荒げられた声。そんな魂の叫びを聞いてもなお、マグメルの心は変わることは無かった。どうすれば、ユーシスを説得出来るか、どうすれば、ユーシスを引き込めるかを思考しながら、会話を続ける。

 

「貴方たちは革命軍を辞めてから海賊の真似事をしてました。そんな多方面に喧嘩売る行為、遅かれ早かれ、壊滅することは必然だったんです。それが、私たちのせいだと言うのは押し付けにもほどありますよ?」

 

「そんなこと、分かんないだろ! お前らの仲間になったところで、俺はこれ以上、もう、何もしたくないんだ」

 

 強気に出ていたユーシスの弱音。エンドルフの為だけに生きて、一緒に居た時間だけが全てになっていたユーシスにとって、これ以上、人生に対して意欲を見つけることが出来ていなかった。

 

「だから、私が使ってやるって言ってるんです。あのエンドルフは自分の命を散らしてでも、貴方も私たちを守ろうとしたんです。それを一緒に戦ったのは貴方です。私たちはその意志を継がなければならないとは思いませんか? その意志が何なのか知る為にも私たちと共に探しましょうよ」

 

 甘く。どこまでも事実ではあるが、真実かどうかは分からない言葉がユーシスの心を蝕んでいく。ユーシスだって、都合良い動機付けだと言うことは分かっているが、エンドルフの意志だって継ぎたいとも思っていた。ユーシスの心が揺れていく。

 

「でも、俺は。あんたたちの、正真正銘の海賊の仲間になる、なんて。俺には」

 

「ああ、もう。うるさいです。さっさと行きましょう」

 

 痺れを切らし、人獣型に変身したマグメルによって床が破壊され、ユーシスは脱出出来るようになる。心身ともにこの地獄でやられたユーシスは一歩一歩少しずつだが、牢の外に出る。

 

「さぁ、貴方がやるべきことを探しにいきましょう。私たちが導いてあげますよ」

 

「……分かった。親父の意思を継ぐ為なら、俺はお前たちにだって魂を売ってやるよ」

 

 その人生の全てを革命に捧げたエンドルフ。彼を監獄といえども、休ませることにしたユーシスは彼の意思を継いでいくために進んで行く。例え、それが一度敵対した人間の仲間にもなろうとも。

 

「さぁ、ゆっくり行きましょうか。あいつらと鉢合うのは嫌なので」

 

 行く当ての無かったプリンス・ベレットと名乗る女性看守と元々の目的であったユーシスを連れて、マグメル達はゆっくりと進んで行く。黒ひげと会わないように。

 しかし、自分たちの船に何かが迫っていることをマグメル達、そして、白ひげの一撃で意識が飛んでいるルーファスには分かりはしなかった。

 

 




圧倒的な四皇との差を味わっていく
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