霧となった少年は最悪の世代に数えられるようです。   作:地支 辰巳

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 今回でマグメルの過去を語りますが、ちょっと分かりにくいです。すみません。


運命が生まれた日

 

 北の海の世界政府加盟国家。その島で3と4という名前の二人が生まれた。母親の緑色ぽい髪色を受け継いだこの二人が後のマグメルとシュガーである。二人には1という名前の十歳離れた兄と2という名前の八歳離れた姉がいた。四人の仲は非常に良好だったが、母親の何処か愛情を感じない接し方から、親子仲は全員が悪かった。

 そんな中、1、2、3、4が住んでいたのは1の父親である男の家で、その男は世界政府加盟国家のこの国で悪どい商売をしている裕福な部類の人間だった。しかし、そんな家に住んでいても2、3、4は母親が1の父親に三人は拾った子どもだと説明していたので、1と母親以外はこの屋敷において世話代わりとしての役割しか受けていなかった。

 子どものことをただ自分が良い暮らしをするための道具としか思っていない母親と違い、1は本気で勉強などをして偉くなって三人を助けたいと思っていた。それは三人にとって母親や母親と自分の血が繋がった1しか愛していない1の父親などよりも二百倍信用出来ていた。

 その悲劇が訪れたのは数年の時が流れてからだった。3、4が七歳になった時、家が燃えた。いや、燃やされた。金貸しをやっている父親を恨んでいる人間によって。

 

「お前は逃げないのか? ここで死ぬのは惜しいぞ」

 

「俺だってあんたの仕事を手伝っていたんだ。妹たちを逃す為だったら残ることぐらいするさ」

 

 1は確実に父親だった人物を殺すために侵入していた犯人から他の姉妹を守る為、一人犠牲になって残っていた。命からがら助け出された三人を既に逃げていた母親の元へ何かを頼るように向かわせるように。

 

「お前も知っていると思うが、あの女は碌な女じゃない。したたかで、今回の事を予期して船も準備するような奴だ。ここで死んだ方が楽かもしれないぞ?」

 

「生きていれば何とかなる。生きてさえいればこの世には出来ることがいっぱいあるんだ!!」

 

 燃え盛る屋敷の中、犯人、父親、1の三人ともが亡くなった。自分たちを守る為に犠牲になった1の死を大泣きしながらも受け入れた三人は母親の元へとボロボロの服のまま辿り着く。

 

「ああ、良かった。これで何とか暮らしていけそうね!」

 

 だが、三人が生き残ったことを知った時の母親の表情は娘達を心配するような母親の顔では全く無く、どちらかと言えば、なけなしで買った宝くじが奇跡的に当たったような欲望に満ちた顔だった。

 その瞬間に三人は改めて理解した。この母親は自分たちを人と見ていないのだと。そして、その島を離れることになるその時まで母親が1について気にした様子も悲しんだ様子もありはしなかった。

 

 

★ ★ ★

 

 

 島を離れた四人が向かったのは2の血のつながった父親が住んでいる島だった。その2の父親は政府無加盟国で暴力と謀略で島の実質的な支配者をしており、傲慢かつ疑り深く1の父親よりも慎重に物事を進める人間だった。

 しかし、その父親は病を患っており、2、3、4に害するような行動をすることは無かったが、興味を持つことすらも全く持つことは無かった。偶に母親を愛するのみで子供に住居を提供する男。

 そんな場所だったので、実の娘である2も含めて3も4もこの家に対して感情は持たなかった。自分達三人以外は信用する必要も信頼する必要も無いと固く誓うように。

 

「いつまでこんな暮らしなの?」

 

「そう悲観的にならないで下さい4。お姉ちゃんに任せましょう」

 

「任せておいて。早くあの女から逃げるの」

 

 母親の元から一刻も早く逃げる。その決意という名の目標を持った三人は一層こんな生活に負けないと必死で生き続ける。例え、どんな手を使っても。

 また数年経ち、3、4が十一歳になった。この生活にも慣れてきた三人は非合法な手段も使いながらお金を集め、逃げ出せる準備を着々と進めていた。ここで暮らしていてはいつまで経っても自分たちの自由は無いと悟っていたから。

 そんな誓いを立てた頃、父親であった男が病で死んでしまった。高齢であったことも含めて予想はされていたことだったが、なにぶん急なことで、隠蔽されたものの、すぐに混乱は広がっていった。

 

「3。こっち来て」

 

「珍しいですね。何の用ですか? 私、仕事あるんですけど」

 

 それをいち早く察した母親はいつもは声なんてかけてこないのに珍しく3に対して声をかける。そんな不信な行動をする母親を警戒しながらも、母性というものに惹かれたのか3は不要ににも近づいていってしまった。

 

「2も4も呼ぶから先に行っていてね。気が向いたらだけど」

 

 子どもにするとは思えないほど首を強く締められ、口に何かの粉末を嗅がされた3は母親のその言葉を聞きながら意識を失っていく。2と4に会いたいためにもがきながら。

 

 

★ ★ ★

 

「ここは? ねぇ……2と4は?」

 

「ここは西の海よ。2と4は置いてきちゃった。呼ぶの面倒くさかったから」

 

 その一言で3は全てを察した。この女は自分の父親に当たる人物の場所に身を寄せる為にここに来たんだと。そして、必要なのは同情を誘う為の血が繋がった子どもが一人いればいい。2と4をこの女はわざと呼ばなかったんだと。

 

「そーなんだ。じゃあ、案内してよ。次のお父さんの元へ」

 

 3は必死で笑顔を作って母親にお願いをする。その内面に隠した悲しさは到底十一歳で抑え込めるものでは無かったが、それを抑え込める彼女は異常だった。そんな3の内面を知ってか、知らずか、母親はいつもと変わらぬ顔をし、マフィアが仕切る島へと船を経由して向かう。

 

「ケッ、お前。久しぶりだな。やっと俺の女になりにきたのか?」

 

「ええ。貴方の子供もいることだから」

 

 新しい父親との顔合わせ。3にとっては血の繋がった初めての父親だったが、3が一目見てクソ野郎と判断する程度にはその男はマフィアらしい性格をしていおり、3を大切にするような男には見えなかった。

 

「こいつが俺の子供か? 半信半疑だが、血のつながりは大事だ。置いといてやるよ」

 

「ありがとうございますお父さん」

 

 自分が生き残る為、今もまだ生きていると信じている姉妹たちに会いに行く為、3は引き攣った笑みを浮かべながらも父親に挨拶する。自分はどんな泥を被ってもでも成し遂げると誓うように。

 

 

★ ★ ★

 

 

 一年が経過し、十二歳になろうとした頃、マグメルは母親を海岸沿いに呼び出した。気怠げで行く気を起こさなかった母親だったものの、プレゼントがあると言うと、渋々ながら了承した。そして、誰も居ない海岸で3はピストルを母親に向ける。

 

「貴方の道具として生まれるくらいなら、産まないで欲しかった!! 2と4は生きてるの?」

 

「はぁ、こんなことだろうと思った。良い暮らしをする為ならどんな手でも使うに越したことないでしょ? あんたたちの名前なんて分かりやすいもので良かったし、あの二人が今何をしてるかなんて知らないわ」

 

 母親が言葉を発するごとに3の心がどんどんと黒く黒く染まっていく。自分では抑えられないように、理性の方が外れるように。自分の人生が分からなくなる。生きている意味が見出せなくなっていく。

 

「私たちの人生ってなんだったの? 三人の分まであなたを殺す」

 

 言い訳の言葉も、謝罪の言葉を話させる間も無く、ピストルから四発の弾丸が発され、母親の体を貫く。この日、3は親殺しという罪を背負った。死体は波に流されて、海に消えていったが、その罪は3の心から消える事なく、重く残っていった。

 

「いつか、見つけますから」

 

 二人に会いに行って置いていってしまった罰を受けようと誓った3は歩く。その足取りは今までよりも何かを背負っているように重かった。そして、数ヶ月後。

 

「いい人居ますかねー」

 

 3の目的である姉妹の捜索とこのマフィアの壊滅。これを一人で出来ると思っているほど3は愚かでは無い。その協力者を得るために3は後が無い人々がいるマフィアが仕切っている牢屋へと来ていた。

 

「この人は違いますねー」

 

 自分の直感を信じ、人を判断していく3。そんな中、ある少年を見つける。黒髪に白のメッシュが入った、ここにいてまでも希望を諦めていない目をしている少年。3は一目で彼に惹かれて、近づいていく。

 

「いいね、君」

 

「その取ってつけたような笑みをしてるのにまだ死んでないその目とか、歳も近いみたいですし……。一緒に来て、いや、一緒に来てください! 話がある感じです!」

 

 3は人生で初めてと言えるほど興奮気味で巻き気味でその少年を誘った。この少年を絶対に物にしたい。それは恋愛感情とは別なものだったが、思いはそのくらい強かった。

 

「えーと、君名前なんていうんですかー?」

 

 部屋を移動した3はその少年へ名を尋ねる。これからどんな風に彼のことを知っていこうかと考えつつ。

 

「僕はエルドリッチ・ルーファスです。呼び方はなんでも大丈夫です。お嬢さんの名前も聞きたいですけど……」

 

 その時、3はすっかり忘れていたことを思い出した。自分にはしっかりとした名前が無いことに。3という母親に付けられた形式的な名前。こんなものは名前と言えども、名前とは言えない。そこで3は大した間も空けること無く、適当に思いついた名前を口にする。

 

「じゃあルーって呼ばせていただきますー。私はマグメルって言います。気軽にマグーとでも呼んで下さい。それと私に敬語は使わないで下さいね」

 

 ここからマグメルは始まった。二人の物語も始まった。十年をも超える二人の物語が。

 

 

★ ★ ★

 

 

「私に失望しましたか? いや、失望して下さいよ。自分の両親2人を実質的に殺し、姉妹を見捨てた私を」

 

 マグーの目は涙目だった。誰かに打ち明けること無く、背負ってきた業をやっと全部誰かに吐けたんだ。泣きたくだってなるかもしれない。エレカの親殺しをあんなにも心配してたのはこれもあったからだったんだ。僕は……気づくことが出来たはずなのに……。マグーに比べて僕はなんて情けないんだろう。自分が勝手に負った責任から逃げるように死のうとするなんて。僕も……今からでも、マグーのようになれるのかな。

 

「失望なんてしない。尊敬すらするよ、マグーのその覚悟に」

 

「アハっ、嬉しいこと言ってくれますね。じゃあ一回しか言いませんから、よく聞いて下さい。 こんな私でもルーの隣でずっと生きても良いですか?」

 

 マグーの顔は照れるようなものでは無く、真剣そのものだった。そして、この言葉は一種の願いのものだと思う。マグーのただ一つの心からの願いだと。マグーが自分のことを全て曝け出し、僕とずっと一緒に居たいと言ってくれたんだ。僕も自分を変わらなくちゃ。

 

「当たり前だよ。僕も変わる。マグーと同じように一生罪を背負って生きるよ。もう死にに行かない。白ひげさんのような生き様、死に様を刻めるように。どうかな? いいかな?」

 

 今のマグーの顔は初めて見る物だった。信じられないようなものを見るようなそんな顔だった。そこまで驚くことなんだろうか。僕が考えかたを変えたぐらいで。

 

「ほ……ほんとにそれで良いんですか? あれだけ死にたがっていたのに」

 

「うん。マグーの隣に立って良いような男になる為だったら、僕はマグーの罪も自分の罪も背負って生き続ける」

 

「こんなことなら、早く言えば良かったですね。でも、今で良かったのかもしれません。モネとシュガーに謝れた今が」

 

 僕とマグーは穏やかに笑い合った。今日は何だか新しい自分になれたようなそんな気分だった。色々あったけれど、ここに来て本当に良かった。

 

「ここにいた! おい、シオンが拐われた!! 早く来いお前ら」

 

 そんな中、取り乱したルッカが乱雑に扉を開けて入ってくる。ルッカのその言葉はまた新しい混乱が起こりそうなそんな予感がした。




 次回から新章です。この章は会話メインでしたが、次の章は戦いメインです。

 やっとルーファスも一海賊団の長として相応しい器になりました。

 
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