霧となった少年は最悪の世代に数えられるようです。 作:地支 辰巳
遅くなってすみません。
始まりのゴングは大きく、そして派手に
「シオンが居なくなったってどういうこと?」
「そのまんまだ。俺とシオンとルッカが居たら、鏡に変なババアが映って、シオンが引き込まれんたんだよ。反射的に鏡は切っちまったけどな」
……何が目的なんだろう。全員集まってもらったけれど、居ないのはシオンだけみたいだし。シオンだけを狙う理由……やっぱり三つ目族だからかな。でも、その為に仮にも王下七武海で闇に通じているドフラミンゴさんが王様のここに鏡の能力とは言え、攻めてくるなんて。
「フフフフ。助けにいくのか?」
「シオンの行方を知ってるのか!? とっとと教えろ!!」
ほとんどの幹部を連れて来たドフラミンゴさんにルッカは激しく詰める。でも、ルッカの気持ちは分かる。自分の家族が居なくなったんだ。こんなにも取り乱すのは仕方ないことだと思う。
「若の前だ。態度っていうものがあるだろ。弁えろ」
「家族は大切なものだからな。教えてやるよ。攫ったのはビッグマムだ。あそこのババアは珍しい種族を手に入れる為なら何でもするからな。攫われるても不思議はねぇ」
ビッグマム。その言葉を聞いた時、僕の全身に冷や汗が流れて気がした。あの白ひげさんと同格と言える大海賊。そんな大物にシオンは捕まったのか。思ったよりも事は重大かもしれない。
「んねー助けに行くの? べへへ」
「決まってんだろ!! 俺は一人でも行くぞルーファス」
「いや、僕も行くよ。相手は四皇だ。残りたい人は残っていい。でも、僕の我儘を言うなら、僕たちの仲間のシオンを助ける為にみんな来て欲しい」
ただただ頭を下げる。僕にだって自分に四皇に匹敵する力があるなら、自分一人だけでも行きたい。でも、僕だってシオンを救いたいんだ。その為にみんなの命もかけさせてほしい。
「当たり前じゃないですか。四皇に挑む大義名分が出来るってもんですよ」
ルッカはもちろんのこと、マグーを始めとしたみんなも行くと言ってくれて、水夫の人達も全員が名乗りを挙げてくれた。みんなに頭を下げなきゃいけなかった情けない僕と一緒にみんなも来てくれるんだ。何としてでもシオンを取り戻さないと。
「ということなので、僕たちは行きます。ドフラミンゴさん、この1年にも満たない期間でしたけど、ありがとうございました。お世話になりました」
「フフフフ、そうだな。多少の情報は融通してやるよ」
そのまま僕たちは出航の準備を整えながら、ドフラミンゴさん達からビッグマム海賊団の情報や良さそうな武器などを貰うことが出来た。色々サポートしてくれてドフラミンゴさんには頭が上がらないな。僕なんかにそこまでしてくれる理由は分からないけれど。本当にありがたい限りだ。そして、僕たちは入念な用意を終え、出発した。
「べへへ、行ったね」
「ドフィ。何であいつらの救出を手助けしたんだ?」
「あの婆さんはシーザーと取引してるからな。シーザーを始末されるわけにはいかないだろ」
★ ★ ★
「意外に早かったね。調子はどうだい?」
ビッグマムの寝室に8女であるブリュレによって連れて来られたシオン。その様子は辺りを非常に警戒しているようだったが、この場所が島の奥であることと、四皇を目の前にしていることから、脱出は諦めていた。
「最悪です。迂闊でした」
「凛々しい子だね。うちのプリンとは似ても似つかないよ」
ビッグマムの隣には三つ目族で35女のプリンがおり、シオンとお互いに目が合うと、初めての同族に二人とも戸惑いの表情を見せ、その特徴的な瞳がよく揺れていた。
「お前には真の開眼をしてもらうよ。それまで帰れるとは思わないことだね」
「ええ……初めから出れるとは思っていませんよ」
ビッグマムと正面切って顔を合わせても態度を変えることは無かったシオンは船員達に連れられると、プリンと同じ部屋に案内された。何故同じ部屋にされたかはプリンもシオンも分からなかったものの、お互いに聞きたいことを聞く。
「他に三つ目の人は?」
「いません。貴方も居ないんですか?」
シオンの質問にただただ頷くプリン。シオンと会ってからのプリンはいつもと違い、家族の誰も見た事が無いような何とも言えない表情だった。何故そんな表情をするか、初対面にも関わらず何故かシオンには分かってしまった。同族と会ってどんな話をすればいいか分からないというその心に。
「……数少ない同族同士、仲良くしませんか?」
「……いいけど、ママから逃れるなんて思わないでね」
数少ない同族と仲良くすると決めた二人はしっかりと握手をする。そこには敵同士であっても種族の絆を一途に感じ、家族とは違う心を抱く二人の三つ目族の姿があった。
★ ★ ★
「あとどれくらいで着くかな?」
「もうすぐでナワバリってとこだな。命がいくつあっても足りないぜ?」
「分かってる。でも、絶対に生きて帰ってくるつもりだから」
ドレスローザで戦いの支度を整えたミスト海賊団はビッグマム海賊団のナワバリへと入ろうとしていた。新世界では入る事自体が自殺行為だと言われている四皇のナワバリへと。
「どこの島に行くんだ? ビッグマムの島はいっぱいあるんだろ?」
「ホールケーキアイランドに行こうと思ってる。他の島を探していても埒が明かないとは思うから」
全く奇襲とは言えないようなスピードででオエステアルマダ号はどんどんと進んでいく。その進路は真っ直ぐにホールケーキアイランドに向かっており、策が無ければ、正面突破になるようなものだった。
「シオン……無事でいてくれよ!」
ルッカの心からの言葉。そんなルッカの心に答えるように船は早く早く進んでいく。途中、途中にナワバリに入ったこの海賊船を潰そうとしたビッグマム海賊団の船員達が襲ってきたが、乗っている敵のレベルが低かったためか、難なく倒していた。
「あれが……ホールケーキアイランド」
「海賊が支配するには随分広い島ですね。こんな広くて何になるんですかね」
ホールケーキアイランドへと接近した各々はその思った以上の大きさに感嘆の声を上げつつも、いよいよということで戦闘準備をする。その中でもルーファスが船頭に立ち、その横にアデルが並び立つ。
「本当に大丈夫?」
「任せてよルー兄。私だってシオンを助けたいから、これくらいはなんて事は無いよー。でも、ちゃんとこの隙を活かしてよ?」
ミスト海賊団の上陸を警戒し、どんどんと増えていき、寄ってくるビッグマム海賊団の者達。その中にはビッグマムの子供達も何人か混ざっており、いよいよ本気で始末をしに来たのは明白だった。
「とっととナワバリに入ったところで倒せば良かったのにねー。もう、遅いんだよね」
アデルは勢いつけてオエステアルマダ号に触れる。そして、自身の能力によって、船が一つ増やされ、またアデルはその増えた船に触れ、また船を増やす。その結果、ホールケーキアイランドの海岸から内陸にかけて巨大な戦艦が2隻降ってくる。
「
そのまま海岸近くまで来ていたビッグマム海賊団の船員を戦艦は押し潰す。その数は並大抵の数にならず、この犠牲の数によってミスト海賊団の勝率は大きく上がっていた。
「はぁー、後は頑張ってねルー兄!」
「分かってる。ありがとうアデル。みんな、助けに行こう」
その隙をしっかりと活かすように疲れ切って倒れたアデルとヴィレムを残した幹部の面々は船から飛び出し、島の中心へと向かっていく。各々が覚悟を決めた顔をしており、生きて帰るという意思がひしひしと感じられるものだった。
「ルーファス。俺はギリギリまでお前から離れないぞ」
「うん。それで構わないよ。他のみんなが導いてくれるから」
道中にもいる雑魚を蹴散らしつながら進んでいく面々。そんな勢いを止めるべく、タマゴ男爵とペコムズを中心として集まった小隊のようなものが立ち塞がる。
「ここから先は行かない方が良いでソワール。ママのご機嫌の為にもボン」
「ガウ! とっとと帰りやがれ」
覇気が無くてめ分かる立ち塞がった者たちの強さ。それを察したユーシスは前に出て、それに続くようにカリーナも前へと出る。二人の後ろ姿からは先に行けと言うことを暗に伝えているようだった。
「俺たちが相手だ。こっちは誘拐された仲間を取り戻しに来てる。動機は充分だ」
「あたしが残るならここしかないよね。本気で戦うしかなさそうだし」
「二人とも頼んだ。生きて会おう」
去っていく面々をユーシス達、タマゴ男爵ともに何もせずに見送る。タマゴ男爵もユーシスのことを強敵だとしっかりと認識しているのか、顔を強張らせて、ユーシスに睨みを効かせる。
「本気で勝てると思っているソワールか? 革命軍の半端者が」
「勝たなきゃいけないからやるんだ。俺はこの海賊団に入った時からそれを誓ってる」
睨み合いを続けた後、遂に双方激突する。
★ ★ ★
ビッグマムのいる部屋。その部屋にはわざわざ呼び出されてきたシャーロットの家が誇る四将星の二人であるシャーロット・スムージーとシャーロット・クラッカーが来ていた。
「ママ。あいつらを倒してこればいいのかい?」
「ああ。お前ら二人が揃えば問題ねぇだろ」
「王下七武海になりての奴程度、臆することも無いだろ」
三人ともミスト海賊団のことを全く持って警戒をしていなかった。そして、シオンの反抗心を決定的に折るために全力を持って潰すことはスムージーとクラッカーにとっては言葉にする必要する必要も無く、分かっていることだった。
★ ★ ★
同時刻。場所は変わり、新世界で建設が開始され始めたばかりの海軍本部。その元帥の間では元帥になったばかりで、クザンとの傷も治り切っていないサカズキが部下からの報告を聞いていた。
「本気で言っちょるんか?」
「は、はい。王下七武海エルドリッチ・ルーファスが四皇ビッグマムと交戦を開始しました」
つい数時間前に後にロッキーポート事件と呼ばれる事件の勃発を聞いたばかりにも関わらず、報告された新しい事件。これには元帥に就任したばかりのサカズキさえ、早々にセンゴクの苦労を実感してしまった。
「援軍出しますか?」
「出すわけ無いじゃろうが。王下七武海とはいえ、あいつら勝手にやったこと、海軍が手助けすることなど無いわ。海賊同士潰しあわせときゃええ」
サカズキの決定を下に伝えるべく、走って出ていく部下。誰も居なくなった部屋でここ最近の疲れを少しでも取るようにサカズキは椅子に背をもたれさせ、葉巻を口に咥える。
「また行くとは馬鹿じゃなヴィレム」
このミスト海賊団によるビッグマム海賊団との交戦。この戦いは後に第一次ホールケーキアイランド襲撃事件と呼ばれることになる。
ビッグマム側もお得意の情報網でミスト海賊団のことはほぼ全て知っていますし、ミスト海賊団の方もドフラミンゴからの情報提供でビッグマム海賊団のことを大体知っています。